平成19年度学位記授与式答辞

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式辞・告辞集  平成19年度学位記授与式答辞

平成19年度学位記授与式答辞

第一部

平成20年 3月24 日
修了生総代
理学系研究科 博士課程
岡 村 圭 祐

 本日は、諸先生方、教職員の皆様をはじめ、多数の皆様のご臨席の下、このように盛大な学位記授与式を催していただき、修了生一同、心より厚く御礼申し上げます。また、只今は小宮山総長より、ご懇篤なる告辞と激励のお言葉を賜りましたこと、重ねて御礼申し上げます。
 本年度は東京大学が設置されてから130 年目の節目にあたります。大学創立時と比べ、科学技術は飛躍的に進歩し、生活空間は高度に情報化され、社会の様相は大きな変貌を遂げてきました。これに伴い、学問を取り巻く環境も一変しました。以前では考えられなかった新たな学問領域が次々と開拓され、さらに分野の細分化も進み、学問の全体像は遙かにつかみづらくなっています。
 そのような混沌とした中にあって、東京大学は常に時代の先頭に立ち、世界有数の研究・教育機関として、第一線で知の創造と継承を担ってきました。21 世紀COE プログラム、及びグローバルCOE プログラムに、多数採択されていることにも顕著に現れている通り、時代を通して国際的に卓越した研究・教育拠点であり続けています。「知の時代」と呼ばれるこの21 世紀、今後も世界をリードしていく優れた人材を養成・輩出し続けていく中で、東京大学に寄せられる期待や関心は益々高まっていくことでしょう。
 このことは裏を返せば、東京大学に向けられる世間の目が、今後益々厳しさを増していくことでもあります。高度な知識社会にあって社会の構造は複雑化し、学問は、その目的や行き着く先が、非常にわかりづらくなっています。従って我々は、この東京大学で培った学術を次世代へと引き継いでいく使命を果たすと同時に、科学探究の本質に関して、社会の理解と信頼が得られるよう、常に謙虚な態度で自己を見つめ、これまで以上に説明責任を果たしていくことに真摯な努力を傾注していかねばなりません。
 近年、日本の教育・研究機関は、若者の学力低下や理科離れをはじめとした教育問題、また博士号取得者の就職に関するポスドク問題といった、数々の深刻な問題に直面しています。このことは何も教育・研究機関に身を置く者に限った問題ではありません。学問の世界で研究の道を邁進する者、産業界で日本の明日を造っていく者、そうした学術や産業の発展、また産学連携を支えるべく、行政に携わる者、その他実社会で様々に活躍する者皆が、共通の問題意識を持って連携し合うと同時に、各人の立場から社会に対し積極的に働きかけることで、これらの問題の解決に、多角的なアプローチで取り組んでいかねばなりません。
 加えて、視野を世界全体へと拡げてみれば、我々はこの21 世紀、一人一人が無関心では済まされない数多くの重大な困難に直面していることがわかります。我々は東京大学で学んだことに誇りを持ち、ここで蓄えた見識・技術を国際社会へと広く還元していくことで、人類の真の発展のために努力していかねばなりません。その先駆的役割を期待されている今日、この春の日に、このような盛大な式典に送られ、栄誉ある東京大学修了生として、それぞれの活躍の場へと旅立つことは、至上な歓びであると同時に、各人に与えられた課題と責務、課せられた使命の重大さに奮い立つ思いです。
 東京大学創立130 周年記念式典における江崎玲於奈氏の講演において、次のような趣旨の御言葉がありました。「将来は、現在の延長線上にあるのではなく、若い世代の新たな発想により、創られていくものである」。本日、理学・工学・農学・医学・薬学・数理科学そして情報科学の各分野を修め、東京大学を巣立っていく我々修了生一同は、その分野の垣根を越えて連携し合い、若い発想力をもってイノベーションを創出していくことで、緊迫した国際情勢の中、環境問題、エネルギー資源問題、貧困問題をはじめとした、21 世紀の世界的困難に、果敢に立ち向かっていく決意を、今新たにしています。
 最後に、これまで御指導下さいました小宮山総長をはじめとする諸先生方、教職員の皆様、そして温かく見守って下さった御父母の皆様に、重ねて心より御礼申し上げ、その御健康と東京大学のより一層の創造的改革・発展を祈念し、答辞と致します。



第二部

平成20年3月24日
修了生総代
人文社会系研究科 博士課程
李 永晶



  本日は、小宮山総長をはじめ多くの先生方のご臨席を賜り、このように盛大な修了式を催して戴きましたことを感謝し、修了生を代表して心よりお礼を申し上げます。

 新しい春はまた、別れと出会いのときでもあります。私は、数学と物理学を学んで吉林大学を卒業し、日本に行こうと考えたのも10年前の春でした。日本語の専門学校に通った後、東京大学の学士入学試験に合格して、文学部の3年生として社会学を学び始めたのも、人文社会系研究科の大学院生として中国の社会理論の研究に取り組み始めたのも、同じような桜の春でした。理系から文系へと領域を横断して迷いこんできた私を、東京大学という総合大学は暖かく迎え入れ、厳しく指導し、本日の式典へと送り出してくれました。ここに集った修了生がこの大学で過ごした期間は、2年と短かったり10年と長かったり、じつにさまざまだと思います。しかし、錚々たる先生方との出会いや、優れた院生同士が競い合う環境は、まことに得難いものであったと誰もが感じていることでありましょう。

 もちろん私たちは、ここで過去の努力への感傷にひたり、無我夢中だった研究生活の思い出を楽しむばかりでは、贅沢すぎると思います。わたしたちが行ってきた研究の先にはなお、沢山の重い課題が課されているからであります。人間の共生に関わる地球レベルでの環境問題や資源問題、貧富の格差問題など、さまざまな難問が、科学のディシプリンの壁をあざ笑うかのごとく、深刻化しています。今、ここにおいて、現れつつある課題に真剣に対応しない限り、私たちのよりよい明日は保証されないでしょう。
 
 けれども、私はけっして未来を悲観していません。私が母国を離れ、この東京大学での研究生活で学んだことは、学位や学歴を得ることを目的だけに勉強することの「空しさ」と「脆(もろ)さ」でした。そして手にしたのは、知の探求そのものが与えてくれる「自由」と「愉しみ」であり、専門職として社会的な責任を果たす知識人の大切さであります。理科系であるか文科系であるかにかかわりなく、また日本人であるか外国人であるかにかかわりなく、この大学で学んだ、知の探究と応用とに責任をもつ姿勢は、私たちの未来と意味のある人生を切り開いてくれるものだと確信しています。そうした姿勢を貫くことが、私たちを導いてくださった先生方への恩返しにもなると考えています。

 最後に、東京大学の更なる発展を願い、ここにお集まりのすべての皆様方に改めて感謝申し上げまして、答辞とさせていただきます。ありがとうございました。


 

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