平成27年秋の紫綬褒章受章

平成27年秋の紫綬褒章受章

山下友信名誉教授、西村清彦教授、狩野方伸教授が、平成27年秋の紫綬褒章を受章いたしました。

山下友信 法学政治学研究科・法学部 名誉教授

山下友信名誉教授

大学院法学政治学研究科の山下友信名誉教授が、本年秋の紫綬褒章を受章されました。山下先生は、保険法を中心に、企業組織・企業取引にかかる法規制の全般にわたり、長年にわたって教育、研究に努められ、保険法はもとより、広く商法学の第一人者として、学界および教育界の進歩に貢献されました。

山下先生は、助手論文「普通保険約款論」の公表後、1980年代から比較法的知見を背景に、理論的に緻密であると同時に、複雑化する経済社会の多様な受容に応える柔軟性と先進性を備えた保険法理論の体系化に尽力され、論文集『現代の生命・傷害保険法』、体系書『保険法』をはじめとする諸著作を公表されました。これらの研究は、比較法的知見を生かしつつ、保険法以外の領域の日本法の議論との整合性に配慮する解釈論を展開すると同時に、伝統的学説が当然の前提とするドグマに対する鋭い問題提起を含むものでした。これらの業績によって、わが国の保険法学の研究水準が一挙に引き上げられたことには異論ありません。その幅広い学識により、山下先生は法制審議会商法(保険法)部会長を務められ、平成20年の保険法制定をリードすることにより、わが国の保険法制の現代化に大きく貢献されました。

また会社法の領域においては、企業金融、特に種類株式制度の研究においてすぐれた業績を挙げられ、企業統治に関して、株主代表訴訟制度や役員責任保険制度のあり方について学界の議論をリードされました。証券法・金融法の領域においては、投資勧誘における投資家保護法制に関する基礎的な研究を公表されています。商行為法の領域では、約款論の第一人者として、約款の有効性や不当条項規制に関する解釈論・立法論を数多く公表されています。運送法の領域では、比較法的知見を踏まえた多くの著作に示された学識を背景に、2014年から、法制審議会商法(運送・海商関係)部会長として、運送法・海商法の全面改正作業を主導しておられます。

このように、山下先生の、わが国の商法学の発展並びに立法への貢献はまことに顕著なものです。このたびのご受賞を心よりお祝い申し上げますと共に、先生のご健勝と今後益々のご活躍を祈念いたします。

 
(大学院法学政治学研究科・法学部 藤田友敬)

狩野方伸 医学系研究科・医学部 教授

狩野方伸教授

このたび、狩野方伸教授が秋の紫綬褒章を受章されました。

多様な脳機能の基盤を成す神経回路の機能発達や可塑性、伝達調節の基本原理とその分子機構を解明する多くの業績を挙げられた功績が評価されたものです。

脳では、多数の神経細胞が無数の「シナプス」を介して結合することで複雑な神経回路を形成しており、脳機能の理解のためには、シナプスと神経回路の機能の解明が不可欠です。1970年代以降、脳機能の実現のためには、生後発達期に神経細胞が適切な相手と適切な強さのシナプス結合を作り(神経回路の機能発達)、環境に適応するようにシナプスの強さが柔軟に変化し(神経回路の可塑性)、シナプス伝達が適切に調節されること(神経回路の伝達調節)が必須であることが知られていましたが、これらの基本原理とその基盤となる分子機構はほとんど解明されていませんでした。狩野先生は、一貫してこの神経回路の機能発達、可塑性、伝達調節の生理学と分子機構の解明に取り組まれてきました。神経回路の機能発達では、小脳において出生直後に存在する過剰なシナプス結合が除去され、必要なシナプスが機能的に強められて残り、成熟した神経回路が完成する過程(シナプス刈り込み)を世界に先駆けて明らかにされるとともに、これらに関わるシグナル伝達分子やイオンチャネル、神経伝達物質、分泌因子などを次々に同定されてその分子機構を明らかにされました。神経回路の可塑性では、小脳においてシナプス伝達効率が持続的に弱まる現象として知られている長期抑圧が運動学習の細胞基盤であることを証明されるとともに、キスカル酸感受性のグルタミン酸受容体が長期抑圧に必須であることや、興奮性シナプスだけでなく抑制性シナプスにも可塑性があることなどを発見されました。神経回路の伝達調節では、神経細胞で作られる内因性カンナビノイド(マリファナ類似物質)が、逆行性シナプス伝達調節物質として働いていることを証明され、これが神経系の主要なシナプス伝達調節機構であるという概念を確立されるとともに、その作用の分子機構を解明されました。  これらの成果は、神経回路の機能を解明する端緒を切り開くものであり、現在の神経回路研究の方向性や趨勢にきわめて大きな影響を与えました。狩野先生はこれらの先駆的な業績により、塚原仲晃記念賞、井上学術賞、時実利彦記念賞、上原賞などを受賞されています。この度のご受章を心からお祝い申し上げますとともに、先生の益々のご活躍をお祈り申し上げます。

 
(前大学院医学系研究科・医学部 喜多村和郎)

西村淸彦 経済学研究科・経済学部 教授

西村淸彦教授

西村淸彦教授は経済理論の分野で、国内総生産やインフレ率等の関係を扱う伝統的なマクロ経済学に、厳密なミクロ基礎を与える理論モデルを世界に先駆けて発表し、マクロ経済学とミクロ経済学の接合という新しい研究分野の開拓に大きく貢献されました。また、予測できないような出来事が実際に起こってしまうという、経済に存在する本源的な不確実性が、人々の行動にどのような影響を及ぼすかについて初めて理論的に明らかにするという世界的な研究業績を挙げました。さらに、実証研究では、日本および世界の経済統計を駆使して日本経済の構造問題の解明に尽力されました。特に、バブル崩壊後の金融危機に関する研究では、市場経済の基本的機能が失われたことを明らかにし、この分野での日本経済研究に転換点をもたらしました。

これらの業績は内外で高く評価され、西村教授は、1993年日経・経済図書文化賞、1997年毎日新聞社エコノミスト賞、1998年中原賞、2005年日本不動産学会・学界著作賞、2006年テレコム社会科学本賞など数々の受賞をされています。

西村教授は、内閣府経済社会総合研究所総括政策研究官、日本銀行審議委員、日本銀行副総裁に加え、統計委員会委員長、金融審議会委員、統計審議会委員などの要職を歴任され、経済学の現実の政策決定への応用の面でも大きく貢献されました。さらに2013年10月から本年9月まで東京大学大学院経済学研究科長を務められました。経済学の研究、教育、そしてその社会への普及の各面において西村教授は多大な貢献をされました。

 
(大学院経済学研究科教授 渡辺努)
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