平成28年度文化功労者顕彰

平成28年度文化功労者顕彰

辻惟雄名誉教授、岩井克人名誉教授、福山秀敏名誉教授が、文化功労者として顕彰されました。

辻惟雄 大学院人文社会系研究科・文学部 名誉教授

辻惟雄名誉教授
村上隆
「絵難坊」改め,,,「笑!難。。。茫~」
©2010 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

本学名誉教授の辻惟雄先生が文化功労者に顕彰されました。昭和56年4月に東京大学文学部教授として赴任された少し後に研究室助手であった者として、先生のこのたびのご栄誉を心よりお祝い申し上げます。

先生は、本学退職後、国際日本文化研究センター教授に就任され、平成8年3月に辞職するまで美術史学の教育研究に努め、その後は千葉市美術館館長、多摩美術大学学長を歴任、平成28年3月まで〈公財〉秀明文化財団MIHO MUSEUM館長を勤められた。今日まで、世界の美術全般にわたる視野のもと、定説や既成の価値観にとらわれない斬新な発想で、従来注目されていなかった作家やジャンルを再評価してその重要性を指摘し、日本の近世絵画史を新たな視座から書き直し、美術史学の活性化に尽力されている。

著作等は優に300を超え、また「岩佐又兵衛とその周辺」展(神奈川近代美術館、昭和46年)から「生誕300年記念 若冲展」(東京都美術館、平成28年)まで数多くの展覧会を企画・開催し、図録への執筆と合わせて、美術史学の研究成果の普及に大きく貢献された。

主著『奇想の系譜』は、「奇想」という新たな視座から近世絵画史を書き直してベストセラーとなり、取り扱った画家たちに対する社会的な認識までも変えた。同書は英訳(Lineage of Eccentrics: Matabei to Kuniyoshi, Kaikai Kiki Co.ltd., 2012年)され、今も国内外での影響力が増している。

教鞭をとった東北大学と東京大学からは多くの研究者を輩出するとともに、日米大学院会議(JAWS)の創設を主導し、日米欧の日本美術史を専攻する大学院生の研究発表と交流を通じて、海外にも教育研究の場を広げるなど、国内外の研究者育成に貢献されている。

先生の「奇想」は、現代作家の村上隆氏の大作「五百羅漢図」の着想源であり、彼の描く辛辣批評家「絵難坊」改め,,,「笑!難。。。茫~」は先生の似顔絵になった。また、上記の若冲展は短い会期ながら、驚異的な来館者記録をつくった。辻先生の益々のご健勝とご活躍を祈念申し上げます。

   
(大学院人文社会系研究科・文学部 小佐野重利)

岩井克人 大学院経済学研究科・経済学部 名誉教授

岩井克人 名誉教授

岩井克人教授は、永年にわたり、経済学、特に経済理論の分野の研究、教育に努めてきました。その研究の特徴は、学界の多くの理論家をもってしてもその重要性はわかりつつも、困難さゆえにしり込みしてしまうようなテーマについて、長期間にわたって執拗に研究を続け、多くの学者に祝福されるような業績に結びつけた点にあります。

その代表と言えるのが、「不均衡動学の理論」で、マクロ経済理論の研究において、経済を安定した長期均衡の状態にあると捉えるのではなく、均衡への調整過程の連鎖の状態にあるという理論の開発に力を入れ、シュムペーター流の経済モデルの開発に貢献しました。この理論は現実との関係という点では、持続的なインフレーションやデフレーション等の現象の解明の基礎となるものです。また、企業を所有関係とする古典的な企業理論の復権を図り、株式会社の中核に二重の所有関係を見出す新たな株式会社論を展開し、企業の理論についても多大な貢献をしています。貨幣の理論についても、サーチ理論的な枠組みを用いて、貨幣を自己循環論法的に捉えるという新たなアプローチを提唱しました。

岩井教授のこうした深い思考は多くの若手研究者をひきつけ、また、難解な理論を平易にしかも味わいのある文体で解説するという優れた能力で、学界の外にも多くの彼の支持者を集め、こうした範囲まで経済理論を普及させた点においても重要な貢献をしています。

岩井教授はこれらの業績に対して、日経図書文化賞・特賞、サントリー学芸賞、小林秀雄賞等に加えて、2007年春には紫綬褒章の受章に輝いています。その他の活動としては、Journal of Evolutionary Economics, Structural Change and Economic Dynamics等様々な国際誌の編集にも当たりました。また東京大学経済学部内では、経済学部長として国立大学の独立法人化を進める中で、経済学部内に二つのCOEプロジェクトを獲得することにも成功し、基礎的な経済理論の発展、その普及に尽くしたその功績はまことに顕著です。

 
(大学院経済学研究科・経済学部 植田和男)

福山秀敏 物性研究所 名誉教授

福山秀敏 名誉教授

このたび、福山秀敏名誉教授が、物性物理学の分野における多大な功績によって平成28年度の文化功労者に選ばれました。

福山先生は、固体における電子の振る舞い、特に量子効果が顕著に現れる量子輸送現象の理論的研究において幾多の重要な業績を上げられました。代表的な研究として、ホール効果・軌道磁性に関する「福山公式」の定式化とこれを用いたビスマスの巨大反磁性の機構解明、擬1次元有機伝導体における電荷密度波の理論、特に位相ハミルトニアンの方法によるダイナミクスや位相ピン止め現象の研究、アンダーソン局在、特に弱局在領域に対する微視的理論と電子間相互作用やスピン軌道相互作用の効果、および超伝導や強磁性への影響の解明、強磁場下のグラファイトなど2次元電子系に対する電子間クーロン相互作用に起因する電子の結晶化(ウィグナー結晶)と電荷密度波の理論、銅酸化物高温超電導体に対するRVB理論とスピンダイナミクスや擬ギャップ現象の研究、分子性有機伝導体結晶に対する量子多体理論モデルの構築と、BEDT-TTF系物質における強相関効果に起因する多彩な電子秩序状態の理論的予言と解明、などがあり、これらの先駆的な業績に対して、日本IBM科学賞、日本物理学会論文賞、超伝導科学技術賞、紫綬褒章、瑞宝章中綬章、など多くの賞を受賞されています。

福山先生はまた、東京大学在職中には物性研究所長、退職後は東京理科大学副学長、同総合研究機構機構長を歴任され、物性物理学に留まらず、広く日本の物質科学研究を推進するために、研究環境整備や学術行政にも大きな貢献を果たされました。国立大学法人化後の大学共同利用機関の在り方を検討した科学技術・学術審議会専門委員、SPring-8の共用形態を審議した高輝度光科学研究センター選定委員会委員などはその一例で、更に最近は文部科学省の「元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>」の制度設計に関わり、現在も運営統括会議に参加されています。

この度の受賞を心よりお慶び申し上げますとともに、今後のご健勝と益々のご活躍をお祈り致します。

 
(物性研究所 瀧川 仁)
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