ライフサイエンス研究倫理支援

東京大学動物実験実施マニュアル
はじめに
地球上の生物の生命活動を科学的に理解することは、人類の福祉、環境の保全と再生等の多くの課題の解決に重要である。 動物実験はそのために必要な手段であり、科学研究の一般原則に従い、研究目的・意義が明確で、科学的手法により再現性・普遍性のある結果を要求される。 動物実験は同時に、動物の愛護・福祉への精神的及び実験操作上の具体的配慮が求められる。 すなわち、動物実験に関する理念である3R、Replacement(科学上の利用の目的を達することができる範囲において、 できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用することをいう。)、Reduction(科学上の利用の目的を達することができる範囲において、 できる限りその利用に供される動物の数を少なくすることをいう。) 及びRefinement(科学上の利用に必要な限度において、できる限り動物に苦痛を与えない方法によってしなければならないことをいう。) に配慮して行わなければならない。そして、動物実験を実施する本学の教職員、学生及び関係者の安全の確保と、 本学及び周辺の環境の保全に努めることも忘れてはならない。
近年、社会環境の変化を受けて実験動物及び動物実験に係る法令や指針等が制定あるいは改定された。 本マニュアルの改定にあたってはこれらも踏まえて、研究者が配慮すべき事項を網羅的に記載するように努めた。 今後のさらなる科学の発展や社会の動向に伴い、内容は変更されまた新たな事項も追加されていくであろう。 研究者は動物実験に際して、「科学的観点」のみならず「動物愛護の観点」「安全確保の観点」「環境保全の観点」に常に配慮し、 適正な動物実験の実施に向けて重ねて研鑽することを望む。
第1章 総則
1. 目的
本マニュアルは、東京大学(以下「本学」という。)において教員、職員、学生等が、教育及び研究のために動物実験等を計画し実施する際に、 科学的な観点並びに、動物愛護の観点、安全確保の観点、環境保全の観点から見て適切に行われるよう、 付記に記した法律等及び東京大学動物実験実施規則に基づき、その基本的原則及び具体的な方法を解説するものである。
付記:本マニュアルは、「動物の愛護及び管理に関する法律(改正:平成17年法律第68号)」(資料1)、 「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に推進するための基本的な指針(平成18年環境省告示第140号)」(資料2)、 「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年環境省告示第88号)」(資料3)、 「動物の処分方法に関する指針(平成7年7月総理府告示第40号)」(資料4)及び文部科学省が策定した 「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(平成18年6月)」(資料5)並びに日本学術会議が作成した 「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(平成18年6月)」(資料6)を踏まえている。 また、「遺伝子組換え実験等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)」(資料7)、 「研究開発等に係る遺伝子組換え実験等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等を定める省令(平成16年1月文部科学省・環境省令第1号)」 (資料8)、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)」(資料9)、 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(資料10、11)等の動物実験に係る法律等も踏まえている。(以下「法律等」という。)
2. 適用範囲
本マニュアルは、本学における動物実験等に適用する。
付記:「本学における動物実験等」とは、本学内で行われる全ての動物実験等の他に、 本学教職員が動物実験責任者として本学外で実施する動物実験等も該当する。
3. 定義
本マニュアルにおいて、次の各号に掲げる用語の定義は、法律等を踏まえてそれぞれ以下に定めるとおりとする。
  1. 動物実験等 本学における、動物を教育、試験研究または生物学的製剤の製造の用、その他の科学上の利用に供することをいう。 (実験動物の飼養及び保管も含む。)
  2. 実験動物 動物実験等の利用に供する哺乳類、鳥類及び爬虫類に属する動物をいう。
    付記:産業動物の飼養・保管や畜産における育種改良を目的とする教育または試験研究ならびに生態の観察を行うことを目的とする動物の飼養・保管 (採血や安楽死等の実験処置が含まれる場合を除く。)、または野生動物を対象とした野外調査(標識の装着等の処置が含まれる場合を除く。) は動物実験等に該当しないが、動物実験計画書を提出することができる。
    また、上記以外の動物(魚類、両生類、昆虫類等)を用いる教育または試験研究においても、動物実験計画書を提出することができる。
  3. 施設等 実験動物の飼養・保管または動物実験等を行う、本学内に設置された区域(室・設備・建物)をいう。本学外の施設等は除外する。
    ・「動物処置室」
    動物の実験処置または検査解析のみ(手術、採血、試料採取、観察、行動解析、検査、投薬、治療等)を行う。
    ただし、短期間の一時的保管を含む。
    ・「動物実験・飼育室」 動物実験等を行い、処置が行われた実験動物を飼養・保管する。
    動物の実験処置前の実験動物の飼養・保管及び繁殖も含む。
    ・「動物実験施設」 複数の動物処置室、動物実験・飼育室が同一の責任者の下で運営管理される施設等をいう。
  4. 動物実験計画 動物実験等を行うために事前に立案する計画をいう。
  5. 動物実験実施者 動物実験等を実施する者をいう。
  6. 動物実験責任者 動物実験実施者のうち、個々の動物実験計画に係る業務を統括する者をいう。教授、准教授、講師、助教または助手が担当する。
  7. 管理者 部局内の実験動物及び施設等を包括的に管理する者をいう。部局長が担当する。
  8. 施設等責任者 個々の施設等の管理を担当する責任者をいう。動物処置室を管理する「動物処置室責任者」、動物実験・飼育室を管理する 「動物実験・飼育室責任者」及び動物実験施設を管理する「動物実験施設責任者」を定める。教授または准教授が担当する。
  9. 実験動物管理者 施設等責任者を補佐し、実験動物に関する知識及び経験を有する実験動物の管理を担当する者をいう。 特に必要な施設等で任命する。
  10. 飼養者 実験動物の飼養・保管及び繁殖に専従する者をいう。
  11. 従事者等 動物実験責任者、動物実験実施者、施設等責任者、実験動物管理者及び飼養者をいう。
  12. 安全管理上注意を要する動物実験等 当該動物実験等を行った実験動物について、拡散防止措置または物理的封じ込め処置を必要とする動物実験等、 もしくは特に安全確保や環境保全に配慮する必要がある動物実験等をいう。
    ・遺伝子組換え動物、特定動物または特定外来生物を飼養・保管及び利用する動物実験等。
    ・病原微生物または遺伝子組換え微生物を接種する動物実験等、
    もしくはこれら微生物を排出する細胞または組織を接種または移植する動物実験等。
    付記:遺伝子組換え技術等によって得られた核酸や組換え核酸を有する生物を「遺伝子組換え実験等」と定義している。 よって、遺伝子導入や遺伝子組換え微生物の感染を行った培養細胞を動物に接種または移植した場合も、 個体の一部とみなされる(生着している)のであれば、その個体は遺伝子組換え動物に該当する。 ・放射性物質や放射線を用いる動物実験等。
    ・有害化学物質等を用いる動物実験等。
    ・その他物理的、化学的、生物学的に安全管理上注意を要する動物実験等。
第2章 
部局長及び部局動物実験委員会の実施事項 部局長は、当該部局における動物実験等の実施に関して直接責任を負う。そして部局の動物実験等の実施状況を把握し総長に報告する。 部局長は部局動物実験委員会(以下「部局委員会」という。)を設置し委員を任命して、動物実験等に関する事項について諮問する。
付記:部局内規等の制定及び部局委員会の設置がなされていない部局において動物実験等の計画がある場合、 部局長は部局委員会が設置されている他の部局の部局長に審査等を依頼することができる。 また部局委員会は、審議し判断ができない事案を本学の動物実験専門委員会(以下「専門委員会」という。)に審査等を要請することができる。
  1. 部局長は、動物実験等に関する部局内規等の立案、制定、改廃を行う。
  2. 部局長は、当該部局における動物実験等の実施について、実験方法の改善の勧告、動物実験計画の変更、 動物実験等の一時停止命令及び承認の取り消しを行うことができる。
  3. 部局長は、当該部局における動物実験計画について、動物実験責任者に「動物実験計画書(別紙様式1)」 (一部変更する場合は「動物実験変更計画書(別紙様式2-1)」または「動物実験従事者変更計画書(別紙様式2-2)」) を開始前に提出させ、法律等、東京大学動物実験実施規則、本マニュアル及び部局内規等(以下「法律及び規則等」という。)への適合性を、 部局委員会に諮問する。部局委員会は適合するか否かを審議し、部局長に結果を報告する。 必要に応じて部局長に対し、実験方法の改善、実験計画の変更、実験の承認取り消し等の意見を述べることができる。 部局長はその結果に従って承認するか否かを決定し、直ちに動物実験責任者に通知する。 動物実験計画の承認は、部局長の承認をもって総長の承認に代える。 付記:部局に所属する教職員が委託等により学外の機関で実施する動物実験等について、当該動物実験計画が本学の規則等に適合するか 否かの審議を委託先から求められた場合、部局長が部局委員会で審議を行うか否かを決定する。
  4. 部局長は、当該部局における動物実験計画の実施の結果について、動物実験責任者より報告(「動物実験終了報告書(別紙様式3)」)を受ける。 法律及び規則等への適合性について、部局委員会に諮問する。 部局委員会は部局長に対して審査結果を報告し、部局長は必要に応じて動物実験責任者に改善の勧告を行う。
  5. 部局長は、当該部局における施設等を適正に管理保全する。個々の施設等責任者に「施設等設置(変更)申請書(別紙様式4-1)」を提出させ、 法律及び規則等への適合性について、部局委員会に諮問する。部局委員会は調査及び審議を行い、 必要に応じて施設等の設置について助言または意見を述べることができる。部局長は施設等責任者に結果を通知し、必要に応じて改善の勧告を行う。 ただし、安全管理上注意を要する動物実験等を実施する施設等では、部局長はその利用について承認を与えるか否かを決定して、施設等責任者に通知する。 施設等の設置について、国または自治体の承認または許可を必要とする場合、 部局長は動物実験責任者または施設等責任者に定められた申請書類を提出させ、総長が国または自治体に申請する。 承認または許可が得られた後に、部局長は動物実験責任者及び施設等責任者に施設等の利用を開始させる。 施設等を廃止する場合は、施設等責任者に「施設等廃止報告書(別紙様式4-2)」を提出させる。
  6. 部局長は、動物実験等の実施状況及び施設等の利用状況を把握するために、動物実験責任者及び施設等責任者から定期的に報告 (「動物実験実施状況報告書(別紙様式5-1)」または「施設等利用状況報告書(別紙様式5-2)」)を受ける。 部局委員会は部局長からの諮問を受けて、動物実験等の実施状況及び施設等の利用状況の点検と評価を行う。
  7. 部局長は、従事者等に対して動物実験講習会を行う。必要に応じて、その他教育・訓練、講習会、広報活動等を行う。 また、動物実験責任者または施設等責任者から依頼のあった場合、専門家の指導を受けられるよう計らう。 部局委員会は、動物実験講習会等の開催に協力する。
  8. 部局長は、動物実験等に携わる従事者等の安全確保と健康管理に配慮する。
  9. 部局長は、動物実験等に係わる環境汚染が発生しないように環境の保全に努める。
  10. 部局長は、動物実験責任者または施設等責任者から異常事態の報告を受けた場合、適切に対処する。
  11. 部局長は、その他適正な動物実験等の実施に必要な事項を行う。
第3章 
従事者等の実施事項 従事者等(動物実験責任者、動物実験実施者、施設等責任者、実験動物管理者及び飼養者)は、法律及び規則等を遵守し、 動物実験等を適正に行わなければならない。「動物実験等の適正な実施」については、動物実験責任者が主体となって担当し、 「施設等の適正な整備管理」については、施設等責任者が担当する。「実験動物の適正な飼養・保管」については、 状況に応じて動物実験責任者もしくは施設等責任者が担当する。

1.動物実験責任者の実施事項
  1. 動物実験責任者は、法律及び規則等に留意して計画を立案し、「動物実験計画書(別紙様式1)」を部局長に提出する。 部局長より計画の変更や取り消しの勧告を受けた場合、実験計画を変更して再提出するか中止する。 また、承認された動物実験計画の変更や実施期間の延長が必要な場合は、直ちに「動物実験変更計画書(別紙様式2-1)」を提出する。 また、動物実験実施者や飼養者のみの変更は「動物実験従事者変更計画書(別紙様式2-2)」を提出する。
    付記:実習等の教育目的で動物実験等を行う場合、担当責任者は動物実験責任者として動物実験計画書を提出しなければならない。
    動物実験計画書の立案から動物実験開始までの概略を示す。 (PDF概略
  2. 動物実験責任者は、部局長が動物実験計画を承認した後に、動物実験等を開始しなければならない。
  3. 動物実験責任者は動物実験等の終了の後、部局長に「動物実験終了報告書(別紙様式3)」を提出しなければならない。 部局長から改善勧告があった場合、実施中の動物実験等や立案中の動物実験計画に反映させなければならない。
  4. 動物実験責任者は、動物実験等の実施状況について、定期的に「動物実験実施状況報告書(別紙様式5-1)」に沿って調査し部局長に提出する。 部局長から改善勧告があった場合、それに従う。
  5. 動物実験責任者は、適正に整備された施設等で動物実験等を実施する。安全管理上注意を要する動物実験等を実施する施設等については、 施設等責任者と協力してあらかじめ必要な申請を行い、承認または許可を得なければならない。
  6. 動物実験責任者は、監督する従事者等に動物実験講習会を受講させなければならない。必要に応じて動物実験等に係るその他の教育・訓練を行う。 付記:当該動物実験計画に、共同研究等によって他の部局または研究機関の研究者が参加する場合、 動物実験責任者は必ず動物実験実施者として計画書に記入して部局長の承認を得るとともに、動物実験講習会を受講させなければならない。
  7. 動物実験責任者は、従事者等が実験動物を適正に飼養・保管し動物実験等に用いるように指導しなければならない。
  8. 動物実験責任者は、従事者等の安全確保及び健康管理に配慮する。また、動物実験等によって環境汚染が発生しないように留意する。
  9. 動物実験責任者は従事者等から異常事態の報告を受けた場合、必要に応じて緊急措置を執るとともに適切に対処する。
  10. 動物実験責任者は、その他適正な動物実験等の実施に必要な事項を行う。
2.動物実験実施者及び飼養者の実施事項
  1. 動物実験実施者及び飼養者は必ず動物実験講習会を受講しなければならない。
  2. 動物実験実施者は、動物実験責任者が申請し部局長が承認した動物実験計画書に従って、動物実験等を行わなければならない。 動物実験等の進行状況等により、計画の変更や中止の必要がある場合、速やかに動物実験責任者に連絡する。
  3. 動物実験実施者及び飼養者は、実験動物を適正に飼養・保管し動物実験等に用いなければならない。
  4. 動物実験実施者及び飼養者は、施設等を常に適正な環境になるように整理整頓や清掃等を行う。
  5. 動物実験実施者及び飼養者は、動物実験等に係わる異常事態を発見した場合、必要に応じて実験を中止し緊急措置を講ずるとともに、 速やかに動物実験責任者、施設等責任者及び関係者に通報しなければならない。
  6. 動物実験実施者及び飼養者は、その他適正な動物実験等の実施に必要な事項を行う。
3.施設等責任者及び実験動物管理者の実施事項
  1. 施設等責任者は施設等を適正に設置しなければならない。施設等について「施設等設置(変更)申請書(別紙様式4-1)」を部局長に提出する。 安全管理上注意を要する動物実験等を行う施設等に該当する場合は、動物実験責任者と協力して必要とする申請を行い、 関係機関及び部局長の許可及び承認を得なければならない。また、施設等で動物実験等を今後実施しない場合は、 「施設等廃止報告書(別紙様式4-2)」を提出する。
  2. 施設等責任者は、施設等の利用状況について、定期的に「施設等利用状況報告書(別紙様式5-2)」に沿って調査し、部局長に提出する。 部局長から改善勧告があった場合、それに従う。
  3. 施設等責任者は、動物実験実施者及び飼養者に対して適正に施設等を利用するように求め、必要に応じて教育訓練を行う。 不適切な利用を行った場合は速やかに動物実験実施者及び動物実験責任者に対して通告し、改善命令、利用の一時停止及び取り消し等を行う。
  4. 施設等責任者は、従事者等から異常事態の報告を受けた場合、必要に応じて緊急措置を執るとともに適切に対処する。
  5. 施設等責任者及び実験動物管理者は、施設等及びその周辺で環境汚染が発生しないように環境の保全に努める。
  6. 施設等責任者及び実験動物管理者は、その他適正な施設等の運営管理に必要な事項を行う。
施設等設置(変更)申請の概略を示す。(PDF概略
第4章 動物実験等の実施 動物実験責任者は動物実験等を実施する際に、研究の意義及び動物実験等を必要とする理由を明確に説明できなければならない。 すなわち動物実験等は、科学的合理性に基づく研究の目的を達成するための必要な限度において、 「動物の愛護及び管理に関する法律」(資料1)に明文化された動物実験等の国際原則である3Rに則って立案され実行されなければならない。 本章で記した動物実験計画の立案と実施にあたっては、必要に応じて専門家(獣医師、医師、薬剤師等)、経験者または部局委員会に助言を求める。

1. 動物実験計画の立案
  1. 動物実験責任者は、研究の目的を達成するために動物実験等に代わる方法がないかを検討した上で、 研究に支障のない範囲でより下等な動物種・生物種を実験動物として選択し、動物実験等の計画・立案に着手しなければならない。
  2. 動物実験責任者は、動物の遺伝学的・微生物学的な品質や実験の方法・処置の工夫等を検討して、使用する動物数ができる限り少なくなるように努める。
  3. 動物実験責任者は、動物実験等の実施期間を適正に設定し、動物実験等を必要以上長期間行わないように努める。 設定した終了日までに動物実験等が終了しない場合、期間を延長することができる。 ただし、最終的な実施期間は最初の動物実験計画書に記入した開始日から最長で5年までとする。
  4. 動物実験責任者は、安全管理上注意を要する動物実験等を計画する際は、事前に必要な申請・許可及び承認が行われていることを確認しなければならない。
    付記:安全管理上注意を要する動物実験等で必要となる主な承認や許可事項を下記に示す。
    ・遺伝子組換え実験を用いる動物実験等及び施設等(資料7及び8)本学の機関承認。
    必要に応じて文部科学大臣への確認申請と承認。
    (本学の「遺伝子組換え実験等の使用等の実施規則」に従うこと)
    ・特定動物(ニホンザル等のサル類、毒ヘビ等)を用いる動物実験等及び施設等
    (資料1及び「動物の愛護及び管理に関する法律施行規則」)飼養について、都道府県の許可。
    ・特定外来生物(カニクイザル、タイワンザル等)を用いる動物実験等及び施設等(資料9)飼養について、
    環境省または農林水産省の許可。
    ・輸入サルを用いる動物実験等及び施設等(資料10)飼養について、厚生労働省または農林水産省の許可。
    ・特定の病原体を用いる動物実験等及び施設等(資料11)保管及び実験について、厚生労働省の許可(予定)
    (研究用微生物の使用については、本学の「研究用微生物安全管理規則」に従うこと)
    ・放射性物質や放射線を用いる動物実験等。利用者に対して、本学の放射線取扱の許可。
    管理区域での使用許可。
    その他の主な承認や許可、届出事項等を下記に示す。
    ・麻薬または覚醒剤に指定される薬物(ケタミン等)を用いる場合、保管と使用する研究者と施設について、
    医療目的等とは別に都道府県の許可。
    ・向精神薬(バルビツール系麻酔薬等)を用いる場合、保管場所と使用場所を部局の担当事務に届出。
    ・野外活動を行う場合、部局の安全衛生管理室に「野外活動安全衛生管理計画書」を届出。
  5. 動物実験責任者は、その他法律及び規則等を遵守して動物実験計画の立案を行う。 付記:本学教職員が、委託や共同研究等により別の機関等で実施する動物実験等に参加する場合は、 当該動物実験計画が法律及び規則等に相反しないことを確認する。
2. 実施上の留意事項
  1. 動物実験実施者は、動物実験計画書に記載された事項に従って実施する。
  2. 従事者等は実験動物を適正な方法で入手し、必要に応じて事前に検疫や馴化等を行う。 動物の疾病の予防や治療等を行う場合、必要に応じて経験等を有する者(獣医師等)の指導下で行う。
  3. 安全管理上注意を要する動物実験等における実験動物を、室外の動物処置室または動物実験・飼育室へ輸送する場合、 従事者等は特に厳重な逃走防止対策を講ずる。
  4. 動物実験・飼育室内において実験動物に実験処置等を行う場合、動物実験実施者は飼育中の他の実験動物への影響をできる限り少なくするように留意する。
  5. 麻酔薬、鎮静薬または鎮痛薬を用いる場合、従事者等は適切な麻酔管理と術中及び術後管理を行う。
  6. 動物の保定は、研究目的を果たすために必要な時間限りとする。また従事者等は動物種に応じて、実験動物を保定器具に馴化させる。
    付記:動物の保定とは、各種の実験処置のために、手あるいは器具を用いて実験動物の正常な動作を局所的にもしくは全身的に制限することをいう。 適切な保定は動物に与える苦痛を著しく軽減し、実験操作を容易にしかつ実験者への危害を防止する。 保定の良否は経験に左右されるので、動物種によって熟練した技術者の協力を求めることが望ましい。
  7. 従事者等は試薬・薬剤、実験機材の利用や保管・管理を適切に行う。
    付記:試薬・薬剤、炭酸ガスや高圧ガス等は、本学が実施する試薬管理システム(UTCRIS)で使用管理することができる。 従事者等は規制対象となる毒物、劇物等の保管使用について関係法令等及び本学の関連規程等を遵守する。 (本学「環境安全指針(平成17年度)」を参照する。)
  8. 従事者等は実験動物の安楽死処置を適切に行う。
  9. 従事者等は動物の死体及び廃棄物を適正に処理する。
  10. 従事者等はいかなる場合も人の安全を最優先し、実施中に事故が起こらないよう最大限注意する。
3. 苦痛の軽減・排除
  1. 動物実験責任者は動物実験等の立案時に、研究の目的が損なわれることのない範囲で、 動物に与える苦痛を最小限にする実験処置とできる限り軽減・排除する措置を選択しなければならない。 動物実験責任者は、その方法を動物実験計画書に具体的に記入し、その妥当性について部局委員会に判断を求める。
    付記:従事者等が動物の苦痛に関する科学的な知識を持つことは必要であるが、正確な苦痛の程度を知ることは容易ではない。 さまざまな動物種への多様な実験処置に対する苦痛の程度を一律に分類・評価することは極めて困難であり、 現在我が国では統一された苦痛の程度を示すガイドラインはない。SCAW (Scientists' Center for Animal Welfare) にある分類(資料12) を基に一部改編した「倫理基準による医学生物学実験処置に関する分類」(補遺1)を、 実験処置における動物の苦痛の程度を判断する上での参考として示す。
  2. 動物実験責任者は、たとえ僅かであっても動物に苦痛を与える場合は、科学的に明確な理由がない限り麻酔薬、 鎮静薬または鎮痛薬の使用を検討すべきである。実験処置や手術を行う際に、麻酔薬等を使用することは、 苦痛を軽減・排除する上で最も有効な手段である。
  3. 動物実験責任者は動物種、実験内容及び苦痛の程度を考慮して麻酔・鎮痛方法を選択する。 (補遺2にある「各種動物に対する麻酔の実際」を参照すること。)
  4. 従事者等は麻酔薬等の使用や保定等により、求められる実験動物の苦痛の軽減・排除がなされているかを確認する。
  5. 動物実験責任者は、重度の苦痛を伴う実験処置であっても麻酔薬等を使用することができない場合、 動物実験計画書に科学的な理由を明確に記載しなければならない。
4. 安楽死処置
  1. 動物実験計画に従って動物実験等が終了する場合 (実験動物を終身飼育、譲渡または他の動物実験等に使用する場合は除く)、人道的エンドポイントで終了する場合、 あるいは実験の過程で実験動物に軽減・排除できない激しい苦痛がみられ実験の継続ができないと判断された場合は、 従事者等は実験動物を「速やかに」かつできる限り「苦痛を与えない方法で」致死させなければならない(安楽死処置)。
    付記:人道的エンドポイント(humane endpoint)とは、実験動物を激しい苦痛から解放するために実験を打ち切るタイミング (すなわち安楽死処置を施すタイミング)をいう。動物実験責任者は必要に応じて、 動物実験計画を立案する段階であらかじめ人道的エンドポイントを設定し計画書に記入する。(資料6 第4章 1-6を参照すること。)
  2. 動物実験責任者は、動物種及び実験の目的や内容等を考慮して安楽死の方法を選択する。 一般的には化学的方法(過剰量のバルビツール系麻酔薬、非爆発性吸入麻酔薬等の投与、炭酸ガス等)あるいは物理的方法 (中枢破壊(頚椎脱臼、断頭)、麻酔下での放血・全採血等)による。(補遺3にある「各種動物において許容される安楽死処置」を参照すること。)
  3. 動物実験責任者は、安楽死処置の方法を動物実験計画書に具体的に記入し、妥当性について部局委員会に判断を求める。 安楽死処置を行わず、他の動物実験等に用いるか、譲渡や終身飼育する場合も動物実験計画書に記入する。
  4. 安楽死処置は当該動物種に対する手技を習得した従事者等が行い、実験動物の死を必ず確認する。
第5章 
実験動物の導入と飼養・保管 研究の目的に沿った、優れた品質で良好な状態にある実験動物を導入し、適切な飼育環境や取扱い、健康管理等を行って動物実験等に用いることは、 高い精度と再現性・信頼性のある研究を実現させる上で必須であると同時に、使用する動物数を削減させるためにも不可欠である。 また、実験動物が事故や不注意等で脱走した場合、人の安全を脅かすだけではなく、 生態系の破壊を伴う重大な環境汚染を発生させるおそれがあることも忘れてはならない。

1. 実験動物導入前の留意事項
  1. 従事者等は、実験動物を必ず合法的に入手しなければならない。
    付記:「第4章 1」の付記で示した事項の他に、家畜に該当する実験動物(ブタ、ヒツジ、ヤギ等)を導入する場合は 「家畜伝染病予防法」及び関連省令、イヌを導入する場合は「狂犬病予防法」 (原則として関係自治体への登録と年1回の予防接種が義務づけられている)及び関連法令の適用を受けるため、 動物実験責任者または施設等責任者は必要な手続きを行わなければならない。
  2. 従事者等は、合目的に生産され微生物学的な品質を示す微生物モニタリング成績もしくは感染症検査成績の添付された実験動物を入手することが望ましい。 さらに可能な範囲で遺伝学的に品質管理された実験動物を入手することが望ましい。 (補遺4にある「実験動物の遺伝的及び微生物学的品質」を参照すること。)
  3. 導入予定の実験動物が、微生物統御がなされていない場合、既に実験処置が行われている場合、またはその他留意すべき状態にある場合は、 動物実験責任者と施設等責任者が施設等の構造や衛生状態、動物種、研究の目的等を勘案し対処する。
    付記:病原体に汚染された動物の導入により、周囲の健康な動物に感染症を広げたりあるいは人獣共通感染症を起こしたりすることがあるので、 十分に注意しなければならない。(実験動物による人獣共通感染症の事例は、資料6 第7章を参照すること。)
  4. 従事者等は、実験動物を授受する際にその生理・生態、習性、適正な飼養・保管方法、微生物学的品質、 感染性の疾病等に関する情報の提供・取得に努める。(資料13に情報提供の例を示した。)
  5. 遺伝子組換え動物の譲受等及び譲渡等(輸出も含む)を行う場合、譲渡者が譲受者に対して所定の様式に従って情報提供を行わなければならない。 更に本学では、補遺5「遺伝子組換え実験の譲受等または譲渡等における情報提供」に示すように、所定の手続きを行わなければならない。 他の研究機関や動物検査会社、動物飼育委託会社等すべての場合に必要である。本学の部局内または部局間では原則として必要としない。
  6. 従事者等は、法律や条約等で輸入が禁止された動物種を除き、生きた哺乳類及び鳥類(一部の動物では死体も含む)を外国から輸入する場合は、 「輸入検疫」または「輸入届出」が適用されることに留意する。 主な実験動物(遺伝子組換えマウス・ラット等を含む)では事前に「輸入届出」が必要となる。(補遺6に「動物の輸入届出制度の概略」を示した。)
2. 実験動物の導入時の留意事項
  1. 従事者等は、実験動物の輸送の際、実験動物の健康に配慮するとともに人への危害及び環境の汚染を防止する。
    付記:遺伝子組換え動物の運搬にあたっては、以下のことが定められている。
    ・逃亡しない構造の容器にいれること。(P3Aレベルでは二重に容器にいれること。)
    ・最も外側の容器の見やすいところに「取扱注意」と表示すること。
    (更に「遺伝子組換え動物運搬中」と表示することが望ましい。)
    ・情報提供を行うこと。輸出を行う場合は更に所定の様式を容器に表示すること。
  2. 従事者等は、実験動物の発注要件や外見上の異常等について検収し、動物種及び施設等の状況に応じた方法で検疫及び馴化を行う。
    付記:検疫とは、施設等への感染症の侵入を防ぐために、新しく導入する実験動物について、 健康状態が確認されるまで既存の動物から隔離し症状の観察や必要に応じて微生物学的検査等を行う行為をいう。 馴化とは、新しく導入した実験動物が生理学的、心理学的、栄養学的な面で安定し、動物実験等に使用できる状態にすることをいう。
  3. 従事者等は、実験動物の状況に応じて適切な微生物学的クリーニング (体外受精・胚移植、帝王切開・里子法等)あるいは薬物投与、ワクチン接種等を検討する。
  4. 従事者等は、関連法令により個体識別が必要な実験動物に対して、マイクロチップまたは入れ墨等の処置をしなければならない。
3. 飼養・保管の留意事項
  1. 従事者等は、当該実験動物に固有の生理、生態、習性が発揮され動物実験等の実施に支障がないように、 動物の健康管理と安全確保を行わなければならない。
  2. 従事者等は、実験動物を動物種毎及び微生物学的品質毎に分離した飼育室または専用区域で飼育することが望ましい。 同室の場合、異なる動物種から受ける不安や、異なる動物種間または微生物学的品質の異なる動物間で感染症の伝播が発生するおそれがある。
  3. 従事者等は、実験開始後の健康管理として実験動物を随時観察し異常を早期発見して処置を行うほかに、 マウス、ラット等では定期的な微生物モニタリングを行うことが望ましい。
  4. 従事者等は、動物に異常を発見した場合や実験目的でない感染症が疑われる場合、直ちに動物実験責任者及び動物実験・飼育室責任者に報告する。 必要に応じて他の動物から隔離し速やかに治療を行うか、または実験を中止して安楽死させる。
  5. 従事者等は科学的な理由がない限り、実験動物に対して十分な給水と給餌を行わなければならない。 給水瓶や自動給水装置等は定期的に点検し、適切に機能し清潔に保たれていることを確認する。 また、研究の目的を妨げない範囲で、実験動物の嗜好にあった栄養学的に適正な飼料を提供し、微生物等による汚染がないように保管する。
  6. 従事者等は動物の習性や行動、繁殖や育児、週齢等の状況を勘案して、個々の動物にとって適正な飼育スペースを確保できるように、 飼育器具(ケージや檻、囲い等)内では適正な動物数で飼育を行う。独自に飼育器具を製作する場合は、 床面積及び高さ等を含めて総合的に判断して設計する。(補遺7に「推奨される動物飼育スペース」を示す。)
  7. 飼育器具は洗浄、消毒あるいは滅菌等の作業が容易な構造で、かつそれに耐える材質のものにする。 また脱走を防止する頑丈な構造と強度を持つようにする。
  8. 従事者等は、実験動物が清潔な状態に保たれるように、必要に応じて床敷等を用いその材質や交換頻度に配慮する。
  9. 従事者等は、実験及び作業時以外は実験動物を収容する飼育器具にきちんと網蓋をするか、あるいは扉に鍵をかける。 また、実験や作業の開始時及び終了時に実験動物数を確認する。
  10. 動物実験責任者及び施設等責任者は従事者等の安全が確保されるように配慮する。
第6章 
動物処置室及び動物実験・飼育室 施設等責任者は動物実験責任者と協力して、動物処置室または動物実験・飼育室を適切に整備し管理しなければならない。 従事者等は動物実験等が適切に実施できるように配慮して、動物処置室または動物実験・飼育室を利用すべきである。
  1. 動物処置室及び動物実験・飼育室は、実施する動物実験等に応じた衛生的で安全な実験環境・飼育環境になるように整備する。
  2. 動物実験・飼育室は、整備の行き届いた専用の区域を用意すべきである。一時的に研究室や居室の一部を動物の飼育に充てることは適当でない。
  3. 動物実験・飼育室は、動物実験等の実施に適した温度、湿度、換気、明るさ、照明時間等になるように設定し、 実験動物に過度なストレスがかからないように配慮する。特に易感染性の実験動物(無菌動物やSPF動物等)を飼育する場合は、 微生物統御に必要な飼育設備や空調設備等にも配慮する。(補遺8に「実験動物の飼養・保管において推奨される飼育環境基準値」を示す。)
  4. 動物処置室及び動物実験・飼育室は、排泄物や血液等による汚染に対して清掃や消毒が容易な構造になるようにする。 また、実験動物に由来する騒音・臭気や、排泄物・廃棄物による環境の汚染を防止する対策を講ずる。
  5. 安全管理上注意を要する動物実験等を行う動物処置室または動物実験・飼育室は、 動物種や動物実験等の危険度に応じた封じ込めまたは拡散防止措置が講じられた設備または専用区域を設ける。
  6. 動物処置室及び動物実験・飼育室は、実験動物の脱走あるいは室外からの動物や昆虫等の侵入がないようにする。 脱走及び侵入経路として想定される扉、窓、排水溝、下水口等には、必要に応じて防止するための設備や捕獲器具等 (前室、ねずみ返し、ねずみとり、逃走防止ネット等)を設ける。遺伝子組換えマウス・ラットではねずみ返しの設置が義務づけられている。
  7. 動物処置室及び動物実験・飼育室には、事故の発生等に備えて消火器等の防火器具や救急医薬品の設置を心掛ける。
  8. 動物処置室及び動物実験・飼育室は、許可された従事者等のみが入室ができるようにする。 必要に応じて「関係者以外立入禁止」「遺伝子組換え動物飼育中」等の表示を行う。特に動物実験・飼育室は常時閉鎖し、不在のときは施錠する。
  9. 施設等責任者は、必要に応じて、実験動物の飼養・保管設備及び器材の洗浄や消毒、滅菌等を行う衛生設備を設置する。
  10. 施設等責任者は、その他必要な整備や設備の設置を行う。
第7章 
実験廃棄物の処理 動物実験等によって排出される実験動物の死体や実験廃棄物の処理は、環境汚染の防止と公衆衛生上の管理に配慮して適正に行わなければならない。 動物実験等で発生する廃棄物は、主に「生物系廃棄物」、「擬似感染性廃棄物」、「感染性廃棄物」として処理される。 ただし、実際の回収時の分類は部局毎に若干異なるので、不明な点は部局の担当事務に確認する。廃棄物は必ず分別して専用の容器・貯蔵庫に回収し、 内容物の飛散や昆虫による汚染等が生じないように厳重に保管する。本学の「動物実験等に係る廃棄物の処置と分類の原則」を補遺9に示す。
第8章 
安全確保と健康管理 動物実験等に限らず、全ての試験研究及び調査研究等を実施する際は、人の安全確保を最優先しなければならない。 動物実験責任者及び施設等責任者は、労働安全衛生上の危険因子に注意するほか、 動物実験等に特有な危険因子を事前に把握して従事者等及び関係者に対して周知するとともに、 負傷事故や疾病等の健康被害にあうことがないように対策を講じなければならない。

1. 動物実験等に係わる危険因子と対策
  1. 病原微生物の危険度に対する評価は、法律等(資料8及び11)及び本学研究用微生物安全管理規則を参照して行う。 危険度に応じた飼育設備、空調設備及び滅菌設備等を設置・整備して、病原微生物の封じ込めを行わなければならない。
    付記:「P2A」または「BSL2」に対応する動物処置室及び動物実験・飼育室は、同じ建物内にオートクレーブ等の滅菌器の設置と、 エアロゾルが発生する場合は安全キャビネットの設置が義務づけられている。 「P3A」または「BSL3」に対応する動物処置室及び動物実験・飼育室は、更に陰圧を保つとともにエアロック、 エアフィルター(HEPAフィルター)の設置と、室内に安全キャビネットとオートクレーブの設置、前室の併設が義務づけられている。 また、室内では専用の作業衣で作業しなければならない。
  2. 化学物質等の危険度に対する評価は、化学物質等に添付される製造安全データシート(MSDS)等を参考に行い、危険度に応じた措置を講ずる。 また、放射性物質を用いる場合は、必ず定められた管理区域で行う。有害な廃棄物の処理については事前に部局の担当者に相談する。
  3. 従事者等は、病原体に自然感染した実験動物からの感染、実験動物の被毛等によるアレルギー、 実験動物(毒ヘビ等の有毒動物、サル類、イヌ等)による咬傷や掻傷等を受けないように注意する。
  4. 従事者等は、オートクレーブやエチレンオキサイドガス滅菌器等を使用する場合、法令に定められた定期点検に加えて、 事故がないように日常の始業時点検等に努める。
  5. 従事者等は、化学物質の噴霧や薫蒸等の方法で室内全体または設備や器具等を消毒・滅菌する場合、ガスマスク・保護眼鏡の着用や換気を行う。
  6. 従事者等は野外調査を行う場合、「野外活動における安全衛生管理・事故防止指針」(本学環境安全本部発行)を携帯して事故の発生防止に努め、 事故発生の際は適正に対処する。
  7. 従事者等は関連法令(労働安全衛生法等)を遵守し、その他の個々の実験で想定される危険因子を把握し対策を講じて、 事故が発生しないように動物実験等を行わなければならない。
2. 健康管理
  1. 従事者等は定期的な健康診断を受診するほかに、有機溶剤、電離放射線、特定化学物質等を取り扱う従事者等は、 労働安全衛生法に基づく特殊健康診断を受診しなければならない。
  2. 病原微生物を取り扱う動物実験等に限らず、実験の過程で健康被害が心配される動物実験等を実施する場合、 従事者等は開始前に血清を保存することが望ましい。事故の発生に気づかず、終了後相当期間を経て健康被害があらわれることがある。
    付記:本学研究用微生物安全管理規則では、レベル3(BSL3)以上の微生物を取り扱う従事者等の血清を保存するように部局長に求めている。 また、ワクチン接種が可能な場合は接種することが望ましいとされている。
  3. 従事者等は自己の健康状態を把握する。健康状態がすぐれず安全の確保に不安がある場合、動物実験等を延期することも検討する。
  4. 従事者等は、動物実験等や実験動物に由来する健康被害が疑われる場合、直ちに動物実験責任者に相談する。
第9章 
異常事態とその対応 動物実験等による「異常な状態・状況」(異常事態)が発生した場合、発見者及び関係者は必要に応じて応急措置をとるとともに、 必ず動物実験責任者または施設等責任者に報告しなければならない。動物実験責任者または施設等責任者は異常事態の状況を把握し、 異常事態の内容に応じて緊急措置を行わなければならない。また、異常事態発生の原因を究明し、再発防止対策を講じなければならない。

1. 動物実験等に係わる異常事態の事例とその対応
  1. 施設、設備、機器の故障等、またそれによる動物のみの被害が発生した場合、発見者は可能な範囲で応急措置を行う。 動物実験責任者または施設等責任者は、関係者と協力して問題を解決する。
  2. 軽度の負傷事故(針刺し、切傷、捻挫等)が発生した場合、負傷者は直ちに適切な手当を受ける。
  3. 重度の負傷事故(打撲、骨折、出血等)が発生した場合、発見者または関係者は動物実験等を中止し負傷者に直ちに応急処置を行うともに、救急通報する。
  4. 実験動物に動物間のみに伝播する感染症が発生した場合、動物実験責任者または施設等責任者は必要に応じて部局委員会または専門家の助言・意見を求め、 速やかに発症動物の隔離、治療、安楽死等の適切な処置を行い、その他の実験動物への感染症の伝播を防止する。 必要に応じて、動物実験等の中止、室内及び機器・設備の消毒・滅菌と部局委員会への報告を行う。
  5. 実験動物に原因不明の重篤な感染症または研究目的ではない人獣共通感染症が発生した場合、 動物実験責任者または施設等責任者は直ちに動物実験等を中止し動物実験・飼育室への立入を制限する。情報を収集して直ちに第一報を部局委員会に行う。 部局委員会は必要に応じて専門家と協力して、動物実験責任者または施設等責任者に対して助言・指導を行う。 動物実験責任者または施設等責任者は動物実験等の中止、動物の隔離・治療または安楽死処置等の対応を行う。 また室内及び機器・設備を必ず消毒・滅菌する。
  6. 人に感染のおそれがある事故(人の血液や感染の疑いがある動物の血液等の針刺し事故、 病原微生物に感染した動物等による咬傷や掻傷の事故等)が発生した場合、負傷者は動物実験等を中止して当該部位を洗浄消毒し、 直ちに医師の診察を受け指示に従う。動物実験責任者または施設等責任者は、必要に応じて部局委員会に通報し、負傷者の健康状態に留意する。
  7. 人に実験動物または動物実験等を原因とする感染事故が発生した場合、動物実験責任者または施設等責任者は、直ちに第一報を部局委員会に行う。 また他の従事者等での発症の有無を確認し、必要に応じて医師の診察を受けるように指示する。部局委員会は、必要に応じて専門家と協力して、 動物実験責任者または施設等責任者に対して助言・指導を行う。動物実験責任者または施設等責任者は、飼育室への立入の制限、動物実験等の中止、 動物の隔離・治療または安楽死処置等の対応を行う。
  8. 麻薬・覚醒剤、向精神薬または毒劇物に該当する薬物・薬品が紛失した場合、 動物実験責任者または施設等責任者は情報を収集して直ちに第一報を安全管理衛生室に行う。
  9. 施設等の外へ実験動物が脱走した場合、発見者及び関係者はできる限り回収を行う。また、原因を究明しそれ以上の脱走を確実に防ぐ。 捕獲できなかった実験動物がいる場合、動物実験責任者または施設等責任者はその情報を収集して直ちに第一報を部局委員会に行う。
    付記:遺伝子組換え実験または研究用微生物が関係する場合は、 部局の遺伝子組換え実験等委員会または研究用微生物安全管理委員会にも通報しなければならない。
  10. 施設等への不法侵入が発生した場合、発見者は可能な範囲で侵入者の逃走を食い止め、直ちに守衛やその他関係者、必要に応じて警察に通報する。 動物実験責任者または施設等責任者は、現場を確認して被害状況を調査する。
2. 事故報告書の提出
人の健康被害、環境の汚染及び不法行為等の重大な異常事態が発生した場合、動物実験責任者または施設等責任者は緊急措置を執り、その状況と対応、 原因及び再発防止対策等を事故報告書(「動物実験等の実施上の事故について」(別紙様式6))にまとめて部局長に報告する。 上述の事例では、(7~10)が該当する。(事後の状況によっては、(3)、(5)及び(6)の事例も該当する。)
付記:動物実験責任者または施設等責任者は、発生したヒヤリハット、事故及び災害について、再発防止と発生時の対策措置に生かすために、 「事故・災害報告書」(本学環境安全本部)を作成して部局の安全衛生管理室に提出する。 3. 災害時の対応
  1. 大地震等の自然災害によって施設等に甚大な被害が生じ、部局の災害対策本部が設置された場合、 部局委員会委員長は責任者として部局全体の実験動物に係わる情報の収集と対策を行う。
  2. 委員長は動物実験責任者及び施設等責任者に対して、実験動物に係わる被害状況の把握と可能な応急対応を直ちに行うように指示する。 緊急措置が必要な場合は直ちに部局長及び関係者に通報する。
  3. 動物実験責任者または施設等責任者は、従事者等との緊急連絡体制と防災対策をあらかじめ講じておくように努める。
第10章 
教育訓練等の実施 動物実験責任者及施設等責任者は、従事者等が科学的観点、動物愛護の観点、安全確保及び環境保全の観点から動物実験等を適正に実施できるように、 動物実験講習会を受講させなければならない。必要に応じて、個々の動物実験等の実施に必要な教育・訓練を行う。 部局長は、従事者等が部局または全学対象の動物実験講習会を受講できるように取り計らう。動物実験講習会では、以下の項目について講習を受ける。 ・ 法律及び規則等の遵守に関する事項
・ 動物実験等の実施及び実験動物の取扱いに関する事項
・ 実験動物の飼養保管に関する事項
・ 安全確保及び環境保全に関する事項
・ 施設等の利用に関する事項
・ その他動物実験等に関連する事項
第11章 
自己点検と評価 動物実験責任者及び施設等責任者は、定期的に「動物実験実施状況報告書(別紙様式5-1)」と「施設等利用状況報告書(別紙様式5-2)」を部局長に提出し、 動物実験等の実施状況及び施設等の利用状況を報告する。 部局長は部局内の実施及び利用状況を把握し、動物実験等の透明性の確保とより一層の質の向上を図るために、 部局委員会に対してこれら報告書等に基づいて実施及び利用状況の点検と評価を行うように諮問する。 部局長は、部局委員会からの報告を受けて、必要に応じて動物実験責任者及び施設等責任者に対して改善の勧告を行う。 また部局長は、部局の実施及び利用状況と点検及び評価の結果を総長に報告する。
付記:専門委員会は総長からの諮問を受けて、各部局での動物実験計画及び終了結果並びに施設等の状況、教育訓練の状況、 安全確保及び環境保全の状況等を含めて、総合的な点検と評価を行い、本学における動物実験等の実施について総括して報告する。 総長は、必要に応じて部局長に対して改善の勧告を行うとともに、本学以外の者による検証を実施することに努める。
第12章 
記録等の保存 動物実験責任者または施設等責任者は、実験動物の授受に関する記録、飼養・保管に関する記録、 及びその他実験動物に関する記録を当該実験動物の安楽死処置、自然死あるいは譲渡後3年間保存する。 従事者等は「東京大学の科学研究における行動規範」に従って、動物実験等に関する記録等を適正に管理保管する。
付記:麻薬・覚醒剤、向精神薬に該当する薬物を使用した者は、関連法令により、購入、使用及び使用終了の記録を、 廃棄(残存しない状態)または譲り渡した後2年間は保存しなければならない。 部局長及び部局委員会が係わる動物実験等に関する記録等は、当該部局の担当事務が東京大学行政文書管理規則に従って保存する。
第13章 
その他 従事者等は、総長が本学における動物実験等に関する情報について、個人情報や研究情報の保護等に配慮しつつ、適切と判断された方法で公開を行い、 本学における動物実験等に係る情報の社会的透明性の向上に努めることに留意する。



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