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第5回JIEPP日印交流セミナー

「インドとの学術交流・学生交流の促進に向けて(東京大学インド事務所、国際協力機構の活動報告)」

開所10周年を迎えた東京大学インド事務所のこれまでの活動、また活動を通して明らかになった現状と課題について報告します。合わせて、独立行政法人・国際協力機構(JICA)のインド工科大学ハイデラバード校整備事業などインド現地での取組みを紹介します。登壇者らによるパネルディスカッションを実施し、課題やグッドプラクティスについての議論、視聴者との質疑応答を行います。

日程 2023年11月10日(金)
時間 13:00 - 15:00 JST / 9:30 - 11:30 IST
開催方式 Zoom ウェビナー
言語 日本語
参加費 無料
事前登録 必要
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/webinar/register/WN_xZ4PWi2gTsyYdYneYeNrnw
主催 「日印交流プラットフォーム構築プログラム(JIEPP)」
(東京大学研究推進部国際研究推進課)
講演者 斎藤 光範(独立行政法人国際協力機構(JICA)インド事務所長)
加藤 隆宏(東京大学大学院人文社会系研究科准教授・東京大学インド事務所長)
佐々木 一憲(東京大学インド事務所シニアマネージャー)
司会・コメンテーター 古市 由美子(東京大学大学院工学系研究科教授)

講演者

斎藤 光範

斎藤 光範

独立行政法人国際協力機構(JICA)インド事務所長

東京大学法学部卒業後、1995年にJICAの前身機関のひとつである海外経済協力基金(OECF)入社。2001年からケニア事務所に駐在、アフリカ各国のインフラ投資や能力強化に努める。インド関連の業務では1998年から石炭公社への支援に携わり、その後2006年にインド事務所に駐在。4年間の滞在中に円借款「デリー高速輸送システム建設事業フェーズ2」や「ジャイプール上水道整備事業」を担当する。2021年8月より現職。

加藤 隆宏

加藤 隆宏

東京大学大学院人文社会系研究科准教授・東京大学インド事務所長

1973年生まれ。東京大学文学部インド哲学仏教学専修課程卒業、同大学院修士課程修了、博士課程単位取得退学。博士課程在学中の2003年から2005年までインド・プネー大学サンスクリット学高等研究所に留学。2006年から2012年まではドイツ・マルティンルター大学に在籍(Dr.Phil,ドイツ・マルティンルター大学)。マルティンルター大学時代には、独日ダブルディグリープログラム講師として国際交流事業に従事した経験もある。専門はインド哲学、サンスクリット文献学。インド留学時よりサンスクリット写本収集のためにインド各地の図書館や寺院を訪ね歩いている。

佐々木 一憲

佐々木 一憲

東京大学インド事務所シニアマネージャー

コメンテーター

古市 由美子

古市 由美子

東京大学大学院工学系研究科教授

お茶の水女子大学で2002年に修士号、2006年に博士号を取得し、現在、東京大学大学院工学系研究科国際工学教育推進機構国際教育部門の教授である。専門は日本語教育と多文化理解教育で、工学系日本語教室で日本語科目を担当している。主な研究分野は、工学を中心とした日本語教育、理工系話しことばコーパス研究、多文化理解を目指した国際交流である。2017年度よりインド工科大学カンプール校、ボンベイ校で東京大学体験活動プログラムを実施している。

開催報告

2023年11月10日(金)13:00より、第5回日印交流セミナーがzoomウェビナーにて実施されました。当日は大学関係者や官庁・企業関係者等から97名の参加がありました。

加藤隆宏所長(東京大学・インド事務所)による講演では、インド由来の仏教伝来に始まる日本の思想・文化形成、近現代に続く日印の学術交流の長い歴史および複雑な国際情勢の中でも継続的に友好的であった両国の関係について、およびインドからの大学・高校からの積極的な日本の大学への訪問希望があることの説明がありました。また、東京大学では各種事業やコンソーシアムに従事し、日印各大学と連携しながらインドの優秀な学生を呼び込むべく2012年にインド事務所を設置したことの説明がありました。日本はTop10%補正論文数の世界的順位ですでにインドに抜かれていること、インドは若年層の人口が非常に多いものの、教育格差が激しいことに触れ、インドのトップ層にアプローチすることは利益があるが、教育格差に苦しむ人々に手を差し伸べることからインドとの交流を考える必要があるのではないかと提議がありました。また、「NEP 2020」というインドの教育方針転換について、インドにおける他国大学の活動奨励が行われており、交流窓口のリスト化、インド工科大学マドラス校のタンザニアキャンパス設置がすでに実施されているとの説明がありました。

佐々木一憲シニアマネージャー(東京大学インド事務所)による講演では、インドのトップ層の学生は欧米企業から引き合いがあるが、大部分の学生は大学に行くにも苦労する経済状況であり、現地学生からもっとも質問されるのは奨学金と英語のみで履修できるコースがあるかであるとの説明がありました。インド人学生の中で日本の大学の知名度は少なく、日本へ留学・就業することは想像がついていないこと、トップ層は欧米へ向かってしまうことから、それより下の層にアプローチすることの意義について触れました。日本留学セミナーをオンラインで行っており、インド各地から視聴できるようにしていること、その他交流イベントに出展していること、インド国内の日本語学習者の意識を留学に向けられないか構想しているとの説明がありました。また、日本と結びつきが強いインドの大学として、岐阜大学とジョイントディグリーを実施しているインド工科大学グワハティ校、国際協力機構(以下、JICA)が協力しているハイデラバード校があると例を挙げました。

斎藤光範所長(JICAインド事務所)による講演では、政府開発援助(ODA)によるインド事業を、ニューデリーに事務所を構えて日印スタッフ約70名で行っているとの説明がありました。また、インドの現況として2023年にG20議長国としてリーダーシップを発揮し、経済成長が著しいが、一方で2億人の貧困層、広がる格差といった社会課題を抱えており、ODAを通して日印双方の発展を目指すとの説明がありました。ODAだけでなく膨大なインフラニーズに対応するために円借款を行っているが、今後は支援から協働関係に向けて人的交流を促進していきたいとの話がありました。JICAのインド工科大学ハイデラバード校設置について、コンソーシアムをもとにキャンパス内の建物建築、交流促進、奨学金設置、MoU締結、ジャパンウィーク開催など包括的に日印交流事業(FRIENDSHIPプロジェクト)を行っており、日印の連携をいずれはハイデラバード校の外に拡大したいと考えているとの説明がありました。

以上の講演を受け、古市由美子教授(東京大学工学系研究科)によるコメントでは、東京大学インド事務所については、設立10周年を迎え、大学へのインド人留学生が3.5倍に増加したこと、現地機関の重要性を認識したとの話がありました。また、インドの外交方針であるNEP 2020に触れ、教育大国を目指すインドの姿勢に驚かされたこと、格差の大きいインド社会においてIT技術がますます重きをなすだろうとのコメントがありました。JICAインド事務所については、人的交流とインド工科大学ハイデラバード校を拠点とした学術交流の広がりに期待するとの話がありました。一方、ハイデラバード校に約300名の日本語履修生がいながら、日本への留学には消極的との話があり、日本から企業や学生がインドへ来訪し相互理解を広げてくれることを願うとのコメントがありました。

講義とコメントを受け、視聴者からは、「日印の相互理解を深めるにはどうすればよいか」との質問があり、加藤所長から日印双方の渡航により互いを知ること、そのような機会を提供する短期体験プログラムが地道ながら重要であるとの回答がありました。佐々木シニアマネージャーからIT技術を活用した広告やセミナーなどは増えているが、実際の行動につながるのは対面活動であり、現地に行って顔を合わせて話を進めることがとても大切であるとの話がありました。斎藤所長から、日本の教育制度や日本そのものはインド国内で好感度が高いもののあまり実態を知られていないので、ブランディングをする、日本と交流することのメリットを伝えることが大切であるとの回答がありました。また、学術・企業にかかわらずジャパン・デスクといった交流の窓口をハイデラバード校に設けることにJICAが取り組んでいるとの話がありました。

「インドの大学への学生派遣を行いたいが資金をどのように集めればよいか」との質問に対し、加藤所長から奨学金が少ないことは課題の一つであり検討が必要との回答がありました。

「インド人学生に魅力的に映る日本の強みは何か」との質問に対し、佐々木シニアマネージャーから、よく現地学生から日本の美点として挙げられるのは安全、他人への思いやりであるとの回答がありました。

「IT人材としてインド人と交流を図りたいが、日印の価値観の違いは何か。接し方では何に気を付けなければならないか」との質問に対し、加藤所長から日本では安全と確実性を重視し100%準備をしてから事に当たるが、インドは変化が速くとにかく始める姿勢であり、これは相互補完的な性質であること、新しい価値の創造のために協力関係を結んでいけるのではないかとの回答がありました。斎藤所長から日印では大幅に価値観が違うが、そこから生まれてくるものはあるとの回答がありました。佐々木シニアマネージャーから今のインドの若者はとてもポジティブで弁が立つが、一方で挫折に弱い性質と感じることがあり、調整が重要だとの回答がありました。