

第6回JIEPPシンポジウム
「大学・大学院日本留学後のインド高度人材の出口戦略」
2023年4月に世界第一位の人口を持つ国となったインドは、2023年9月のG20の首脳会議の開催地となるほか、質の高い論文数(Top1%補正論文数)で日本を抜いて世界9位を達成※、米GoogleなどのグローバルIT企業の高位役職者へ人材を輩出するなど、様々な分野で大きく飛躍しています。このような発展著しいインドから留学生を日本が受け入れるには、留学生の「出口戦略」、すなわち大学・大学院卒業後の日本での就職に向けた道筋も示す必要があります。
インドの理工系大学新卒者は毎年100万人以上にのぼりますが、日本企業はインド高度人材の獲得に大きく後れを取っているのが現状であり、これが留学を志すインド人学生にとって、留学先の選択肢としての日本の優先度を下げている一因と考えられます。
本シンポジウムでは、インド高度人材のさらなる獲得に向け、大学・企業でどのような取組み・連携が必要なのか、実際に大学生・大学院生のキャリアサポートを行っている大学関係者、インド現地で事業を展開されている日本人経営者、日本で就職したインド人留学生OBOG等を講師として招き、講演、ディスカッションを行います。
※出典:文部科学省科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2022」
日程 | 2024年1月24日 (水) |
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時間 | 13:00 - 15:30 JST / 9:30 - 12:00 IST |
方法 | Zoom ウェビナー |
言語 | 日本語・英語(同時通訳あり) |
料金 | 無料 |
登録 | 開催終了 |
主催 | 「日印交流プラットフォーム構築プログラム(JIEPP)」 (東京大学研究推進部国際研究推進課) |
基調講演者 | 大谷 浩(島根大学 理事・副学長) 繁田 奈歩(インフォブリッジホールディングスグループ 代表) |
発表者 | Aarti DAAS(アールティ・ダース)(島根県松江市) Kiran Kumar GALI(キラン・クマール・ガリ)(天野エンザイム株式会社) Sylvan KOYAGURA(シルバン・コヤグラ)(株式会社日立ハイテク) |
ファシリテーター | 渡邉 聡(東京大学大学院工学系研究科 教授・総長特任補佐) |
司会 | 八木橋 麻美(東京大学研究推進部国際研究推進課長) |
基調講演者

大谷 浩
島根大学 理事・副学長
昭和31年生まれ。
京都大学医学部卒業後、昭和58年に島根大学医学部(旧島根医科大学)に着任。
教育研究評議会評議員、副学長(医学教育・研究担当)、医学部長を歴任した後、
令和3年4月からは理事として、SDGs、研究推進、産学連携、グローバル化推進、地域連携を担当。
令和5年4月からは島根大学グローバル化推進本部国際センター長を兼務。

繁田 奈歩
インフォブリッジホールディングスグループ 代表
2006年INFOBRIDGE HOLDINGS LIMITED設立、Infobridge India Pvt. Ltd.および株式会社インフォブリッジマーケティング&プロモーションズ代表。インド進出及びそれに関わる様々な事業を日本とインド双方で立ち上げており、2019年には食・農スタートアップアクセラレーションを運営する「Gastrotope」のMistletoe Japan合同会社、印GSF社との共同設立、2023年にはプレミアム製品のディストリビューション事業にもインドパートナーとの合弁にて参入。現在インド・デリー在住。
発表者

Aarti DAAS(アールティ・ダース)
島根県松江市
1996年生まれ。2013にインドニューデリーにあるネルー大学日本語学科入学。2015~2016年早稲田大学日本語教育研究センターに留学し2017年に卒業。2018年8月からJETプラグラムに参加、島根県松江市の初のインド国際交流員を務める。

Kiran Kumar GALI(キラン・クマール・ガリ)
天野エンザイム株式会社
Dr. Gali currently working as a senior scientist at Amano Enzymes Inc, which is a global speciality enzyme manufacturer for Food, Pharma, chemical and allied industries. Previously he was associated with Indian Institute of Technology Guwahati (IITG), Gifu University-Japan and Andhra University for his academics and research. Professionally, an experienced bioprocessing faculty with 10+years of higher education industry in Teaching, Training, establishment, and administrative capabilities. A versatile personality having well established Academia, Industry and Research networking capabilities with strong emphasis on Biobased sustainable knowledge groups.

Sylvan KOYAGURA(シルバン・コヤグラ)
株式会社日立ハイテク
2021年に東京大学大学院工学系研究科材料工学専攻修士課程修了。2021年より株式会社日立ハイテク(山口県下松市)のプロセス設計部に勤務。ドライエッチングをベースとした同社の半導体製造装置を使用し、顧客の要望を処理する業務を担当。
出身はインドのムンバイで、2018年にチュラロンコン大学のナノ工学科を卒業した。
ファシリテーター

渡邉 聡
東京大学大学院工学系研究科 教授・総長特任補佐
1989年、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。1989年から1994年まで新技術事業団(現・科学技術振興機構)青野原子制御表面プロジェクト、1994年から1997年まで株式会社日立製作所基礎研究所に所属。その後、1997年に東京大学大学院工学系研究科材料学専攻助教授に着任し、2004年に同研究科マテリアル工学専攻教授となる。研究分野は、計算材料物理学、電子状態計算、ナノスケール伝導現象、ナノ材料物性、マテリアルズインフォマティクス。2015年から2018年まで工学部国際事業推進センター長を務め、現在は東京大学総長特別補佐・国際戦略企画室副室長を務める。このほか、e-Journal of Surface Science and Nanotechnology誌の編集長(2009年~2018年)、アジア第一原理電子状態計算ワークショップ国際組織委員(2011年~現在)等を務めている。
フライヤー
開催報告
講演内容
来賓挨拶
林香里東京大学理事・副学長(国際担当)による開会挨拶に続き、来賓として駐日インド大使館のSibi George大使からのビデオメッセージを映写し、文部科学省高等教育局参事官(国際担当)付の武田久仁子専門官にご挨拶をいただきました。
基調講演①
基調講演①では、インフォブリッジホールディングス・グループの繁田奈歩代表が、インド現地での企業経営の見地をもとに、インドと企業・大学間における日印交流の現状について話されました。
講演では、インドの若者が持つ日本への好意的なイメージに反して、日本を留学先に選ぶ学生が少ないことに触れ、その原因を外国人人材に適さない制度、不明瞭なキャリアパス、各種習慣の違い、言葉の壁、低い給与水準にあると分析されました。一方で、日本企業のインド高度人材獲得やインドの大学との共同研究等取組みの好事例があることを紹介されました。また、インドでは家族/社会コミュニティを通じて集団で移住する特徴を挙げられ、インドからの人々の受入に成功した北海道浦河町の事例を紹介されました。
韓国等各国はインドとの連携を強化している中で、日本でも持続的な関係性を築いていくことへの期待を述べられました。合わせて、今でも農村部の子供たちの多くが勉強できる環境になく、デジタルデバイド等格差が拡大している中で、日本ではチャンスに恵まれない若いインドの才能をいかに発掘するか考える必要があるとして、講演を締めくくられました。
基調講演②
基調講演②では、島根大学の大谷浩理事・副学長が、島根大学が取り組んでいるインドの優秀な学生獲得、地域への就業と定着における産官学連携について話されました。
講演では、2013年の経済・文化の日印交流を目指す山陰インド協会設立以降、山陰地方ではインドのケララ州政府と覚書を締結、産官学連携でケララ州にある3大学と島根大学との交換留学、インド人学生への日本語学習プログラム提供、地元企業でのインターンシップ実施等、日印交流に力を入れてきたことを話されました。これらの取組みの結果、インド高度人材がこれまでに12名中海・宍道湖・大山圏域の企業に就職したこと、このうち2名は島根大学への留学生であり短期インターンシップ生より日本文化や環境に触れることができる機会が多く、就業や定住につながったと考えられること、インド国内企業でも使用されているプログラミング言語Rubyの開発者とインド人学生の交流機会を設けたことで、学生におけるRuby学習意欲が向上したこと等の成果を述べられました。
今後の課題として、インド高度人材の生活環境を充実化、インド高度人材の受入に積極的な企業へのヒアリング実施、短期インターンシップから交換留学をメインとしたプログラムへの移行、インド人学生の来日前Ruby学習機会提供、プログラム周知方法の改善を挙げ、講演を締めくくられました。
インド人留学生OBOGによる発表
次に、現在は日本で就業していらっしゃるインド人留学生OBOGの3名が発表を行いました。
島根県松江市のアールティ・ダース氏からは、幼少期に日本のアニメに触れたことから日本に関心を持ち、大学時代に日本語・日本文化を専攻して日本へ留学・就業したご自身の体験を踏まえ、日印は互いに好印象を持っているが、努力して互いのことを学び続けなければ交流は維持されないことを述べられました。日本への留学を志すインド人学生に対しては日本語学習が必須であること、日本人に対しては、新たな人を受け入れるのならば習慣・食生活・宗教等の違いへのオープンマインドを持ち、起こる変化を受け入れねばならないこと、ステレオタイプは理解を遠ざけること、簡単な言葉で相手をくくろうとしないこと、ダイバーシティについて学校や企業で教育すべきだと指摘されました。日本中小企業におけるインド人女性エンジニアの活躍を挙げ、日印相互理解・連携深化は不可能ではないと話されました。
株式会社日立ハイテクのシルバン・コヤグラ氏からは、ナノテクノロジーが発達している国として日本を留学先に選び、研究室でハイレベルなナノエンジニアリングを学ぶことができたと話されました。同時に、多くの日本人は英語を話せないため、留学時代に日本語学習に時間を費やしたが、日本での就職活動ではエントリーシート作成や日本語での面接に苦労し、大学の留学生サポートや日本語クラスが役に立ったと話されました。これらのご経験を踏まえ、日本での就業を目指すインド人学生に対しては、大学のキャリアサポートや奨学金を活用し、指導教授からの推薦状や留学生の先輩のサポートを受けることが大切だと指摘されました。合わせて、日本語を学ぶこと、日本にはベジタリアンメニューが少ないので時には自炊が必要になること、東京以外の地方都市での就業を視野に入れることを指摘されました。最後に、日本人はとてもフレンドリーでインド文化や食に関心を持ってくれると述べられました。
天野エンザイム株式会社のキラン・クマール・ガリ氏からは、インド工科大学グワハティ校と岐阜大学間のシンポジウムを通して日本を知り、JASSOの日印交流研究員制度によって来日され、日本で就業されたご経験を踏まえ、日印交換留学プログラムでは専門分野に基づいた両国の産学連携が有効だと話されました。また、ご自身の就職された天野エンザイム株式会社にグローバルへの挑戦や柔軟な労働環境があったことが自身の日本での社会人生活を快適にしてくれたと話されました。大学を出て企業へ就職することを志す学生に対し、大学と企業では優先度が異なることを理解する必要があること、インド人材を雇用したい日本企業に対し、柔軟さと信用、常識にとらわれない思考が効果的だと述べられました。
ディスカッション
パネルディスカッションでは、モデレータの東京大学大学院工学系研究科教授・総長特任補佐の渡邉聡教授のもと、すべての登壇者が一堂に会し、視聴者との質疑応答、ディスカッションを行いました。
渡邉教授から、各講演・発表を通してインド人材が目的地を選択する際に、その場所の地域性が重要になってくると思うが、島根県における取組みは好事例だとの指摘がありました。大谷理事から、今回の講演で伝えたことが現在の取組みのすべてなので、これを拡大し交流を増やしていく必要があるとの発言がありました。また、インド人留学生には島根県に定住してもらいたく、根気強くよりよい環境整備のために各組織と連携していかなければならないと話されました。
視聴者からダース氏へ、日印では異なるメンタリティを持っているが、日本の受入側・インドの送出側双方が歩み寄るために心に留めておかねばならないことは何だと考えるか、との質問がありました。ダース氏から、地方都市の公共機関で働く立場から、政府等からの補助金の獲得は非常に重要であるとの発言がありました。同時に、コミュニケーションが唯一の解決方法であり、例えば地方都市でインド人材を一人雇用するだけでもサポートは必須だが、どの関係部署を頼ればいいのか、といった基本的な問題に直面すること、一つの機関だけでは解決できない問題も多く、関係機関に開示して取り組み、連携しなければならないことの指摘がありました。
視聴者から大谷理事へ、島根大学では多くのインド人インターンを受け入れているが、島根大学からインドへ学生を留学・インターンのために派遣するプログラムやダブルディグリー制度はあるか、もしくはそのような構想はあるか、との質問がありました。大谷理事から、現在口腔分野での医学系学生の受入や研究者の交流は盛んであるが、日本人学生をインドへ送り出す取組みはまだ十分でないとの回答がありました。また、インド人留学生をさらに受け入れて日印の学生交流を増やし、日本人学生のインドへの関心を高める必要があるとの発言がありました。加えて、将来的には大学院生や研究者をインドのカウンターパートと派遣・受入したいとの話がありました。
視聴者からコヤグラ氏へ、下松市には大都市と比較して娯楽施設が少ないが、どのようにストレスを解消しているのか、どのようなイベントやプログラムがあれば便利だと感じるかとの質問がありました。コヤグラ氏から、平日は夜遅くまで働いているので退勤後は自宅で過ごすが、休日は社内外の友人と球技をして楽しんでいるのと回答がありました。また、希望のイベントについては、調理トラックがショッピングモールまで来てくれれば食べ物を楽しむことができるとの回答がありました。下松市は大きな都市ではないが、山口県の他の都市に移動ができるので住みやすいと考えていること、社外の友人ができればより楽しいと思うことの話がありました。
視聴者からダース氏へ、インド人留学生のリクルートにはどのような方法が効果的かとの質問がありました。ダース氏から、企業であれば学生に対し自社をPRするのもよい方法になると思うが、学生にとっては住環境や日々の暮らしにいくらかかるのかといったネガティブな要素も話す必要があるとの回答がありました。また、留学生はどういったサポートやサービスを受けられるかの理解も必要であるとの指摘がありました。合わせて、そこに行けば何かある、面白くなければいけないとの話がありました。同時に、インド人学生は日本人学生のようにアルバイトしながら勉強する習慣はないので、インド人学生を受け入れる際は彼らがアルバイトする可能性を知らないだろうと想定せねばならないとの指摘がありました。
渡邉教授からダース氏へ、日本で働きたいと考えるようになったきっかけは何かとの質問がありました。ダース氏から、自分の場合は幼少期から日本に行きたいと考えていたとの回答がありました。また、長い間日本で働いてきて、次はどうしようかというのは考えておらず、家族のこと等様々な課題があるが、できれば日本に残りたいと考えているとの話がありました。
渡邉教授からガリ氏とコヤグラ氏へ、日本はより多くの留学生を獲得したいと望んでいるが、大学はどのようなアプローチでサポートを行えばよいのか、例えば日本語能力を要求しない英語のみのプログラムはインド人留学生に魅力的だろうか、との質問がありました。コヤグラ氏から、日本とインドでは大学の専攻分野が異なるので、その違いに焦点を当てるとインド人学生が関心を持つのではないか、との回答がありました。また、インド人学生の関心分野における日本の良いところに焦点を当てて紹介するとよいのではないかとの回答がありました。ガリ氏から、日本の大学へ行くと、機械での自動音声案内がデフォルトで日本語になっていることが多く、そこでインド人学生が関心を失ってしまうと考えられるとの回答がありました。
渡邉教授からダース氏へ、コミュニティ形成が非常に重要だが、留学生が非常に少なかった場合コミュニティの形成は難しくなること、例えば大学をまたいだ留学生コミュニティ形成はどうだろうか、との質問がありました。ダース氏から、地方都市でまさにその事例があり、大学生に限らず入れるインド人のコミュニティがあり、インド人留学生にとって重要な場所となっていること、コミュニティ参加者をインド人大学生のみに制限してしまうと形成が難しくなるが、地域に住むインド人も含めるとローカルコミュニティを形成することができることの話がありました。また、大学・地域を超えてグループを作ることができるはずだとの発言がありました。
渡邉教授から繁田氏へ、大学関係者向けに何かアドバイスや提案があるかとの質問がありました。繁田氏から、インド人学生は話し好きなので、コミュニティが重要であること、彼らの周囲の環境が非常に重要であることの指摘がありました。また、地元企業、IT企業や大学等他の組織との連携が重要で、インド人学生をより誘致したいのであれば、連携をとりそれを継続していくことが大切だとの発言がありました。合わせて、これは民間企業にも当てはまるとの話がありました。大学はよりよい待遇を用意できる企業に学生が取られることを恐れていると感じるが、日本で勉強したいと考える日本のファンを増やすにはどうしたらいいか、どうしたらより多くの人を誘致できるかを重視してほしいとの指摘がありました。
閉会挨拶
最後に、渡邉教授から、各基調講演、発表、ディスカッションを踏まえ、今回のシンポジウムのテーマに掲げたインド人留学生の出口戦略が課題であるが、就職が最終的なゴールではなく、その後のキャリアも重要であり産官学が連携してよい環境を用意する必要があること、学生に限らず日本人の大衆もインドへのより深い理解が求められていること、今後はより多く日本人がインドへ渡航する必要があることが述べられ、会が締めくくられました。