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東京大学

第13回 東京大学ホームカミングデイ 13th THE UNIVERSITY OF TOKYO HOMECOMING DAY
東大卒業生の総合サイト
東大アラムナイ/東京大学校友会

「総長と語ろう!“タフ&グローバル”」 総長×卒業生たち 第13回東京大学ホームカミングデイ 特別フォーラム 当日の様子

2014年10月18日に伊藤国際学術研究センターの謝恩ホールにて、特別フォーラムが開催されました。
20代の在学生を含む各世代代表の卒業生とのパネルディスカッションです。
各界で活躍されている方々や総長の発言は、いつもと違った雰囲気で場内を沸かせました。

なるべく早いうちに自分にショックを与えて

大越:
本日は、グローバルというテーマについて、少しでも考えるきっかけと知的刺激になればと思います。では自己紹介を兼ねて一言ずつお願いいたします。
濱田:
東大生の頭のよさを伸ばすにはタフでグローバルであることが必要、という思いをこめて、教育改革を進めてきました。タフでグローバルというのは、簡単に言えば、しつこくくじけずに物事にチャレンジし、自分と違う生き方や価値観に触れることなのかな、と思っています。
園田:
私は以前、情報学環に英語だけで学位がとれるコースを作りましたが、そこでわかったのは、この試みは学部でこそ着手すべきだということでした。今年度、東大がスーパーグローバル大学支援事業に採択され、タフでグローバルな学生を学部のレベルで作る方向に向かっている。いうは易しいが非常に難しくタフな10年間が始まると思います。
友田:
私は昨年体験活動プログラムに参加しました。イギリスに1週間滞在し、経済や科学技術の分野で活躍する方々と現場感のある意見交換ができ、海外で働くイメージももてたと感じます。地球の裏とも簡単に連絡がとれ、行かなければ何もわからない時代ではありませんが、だからこそ現場での肌感覚を大事にすることが必要だと思いました。
松本:
私は、ウェールズの高校で寮生活を送り、その後カナダに留学しました。学校に行けない子どもに教育の場を提供するNGOを立ち上げた後、東大の教育学研究科で勉強し、ガーナのユニセフでインターンとして働きました。卒業後は外資系企業で働きましたが、3.11の震災を機にパキスタンへ。現地で日本のすばらしいものがなぜ世界展開していないのか、との声を聞き、日本と世界をつなげたいという思いで起業しました。「made in Japanからmade with Japan」をスローガンに、日本企業と外国人留学生との橋渡しをする事業をしています。
猪子:
僕は工学部を卒業し、大学院に進んだ後、テクノロジーと想像力で世界を変える会社を立ち上げました。たとえば、魚の絵を描くとそれがすぐ泳ぎだす遊園地など、デジタル技術と創造性を駆使して新しいアートを生み出しています。僕は英語が話せないし、外国人の友人もいないし、外国の文化は「知ったこっちゃない」。それより人類の未来を作ることが重要で、外国のルールを学ぶことよりも、新しいルールを作ることが重要だと思っています。
藤森:
私は東大ではアメフト部で、卒業後に商社に入り、35歳でGEに入社。アメリカで企業人として勝負した後、日本の会社を世界で勝てる企業にと思い、3年前にLIXILに入りました。英語が話せない社員がほとんどの中で学んだのは、なるべく早いうちにショックを与えるのが大事だということ。早い時期に東大生を海外に送り出す「海外体験プロジェクト」を始めたところです。
大越:
私は、アメリカにいたときに一番苦しんだのが英語でした。やはり日本人には言葉の壁というものがありますよね。
藤森:
商社時代、英語力では一番下の部類で、ずいぶん訓練しました。たとえば20~30回同じことを口に出して繰り返すと、そのうち話せることが10倍に増えてくる。自分の言葉で繰り返すと、発音が悪くても話が伝わるようになる。アメリカに行って1年2年毎日やっていました。努力して自分を磨けば言葉の壁は克服できると思います。
濱田:
共感します。ボキャブラリーを増やし、文法を覚えるだけではなく、どうやって伝えるかが大事。間違ってもいいから伝わればいい。狭い意味での言語ではなく、コミュニケーションする総合力が重要だということを学生に感じてほしいですね。

グローバルというと常に英語の話になるのは変

猪子:
20世紀は言葉の世紀でしたが、いまはそうではありません。TwitterとInstagramのユーザー数を比較するとはるかにInstagramのほうが多い。Twitterは言葉、Instagramは写真によるコミュニケーションです。非言語のほうが影響力が強いのに、グローバルというといつも英語の話になるのは変だと思いますね。
大越:
先ほどルールという言葉が出ました。ルールを作る側に回ればいいではないかという話でしたね。
友田:
私は、ルールを作るにはまず既存のルールがどんなものであるかを知らなければいけないと思います。
猪子:
それは絶対に違うと思う。すべてのルールを知ることは不可能で、努力すべきは自分が当たり前だと思う常識を捨てること、ルールや文脈を捨てることです。
濱田:
総長としては学生を援護したいので、ひとこと。学生の立場だと自分が守るべきものは何か、当たり前だと思っているものは何かもわからない。学生はまず外の世界を見て何がルールかをつかむのが最初のステップだと思いますよ。
友田:
援護をありがとうございます。
猪子:
僕は常識を掴む手段としての海外というのも難しいと思っています。たとえば10年前、世界のクラブに行くとロンドンはロンドンの音楽だし、バングラデシュはバングラデシュの音楽でしたが、今は全部一緒です。インターネットのおかげで海外でも体験の概念がだいぶ変わっている気がします。
藤森:
実際に現地に行って感じる匂いや雰囲気と自身が交わる体験は絶対スマホなんかではできません。インターネットで情報は全部集まるが、そこに閉じこもっていてはいけない。

海外にいると目覚めのスイッチが入りやすい

松本:
海外でも日本でも感覚が鋭ければ目覚めはあるでしょう。ただ、海外に行くと肌の色も言語も環境も違う中で、よりスイッチが入りやすいと思います。
濱田:
情報が飛び交っているとわかった気になりますね。でも実際にはわかっていないことが多い。たとえば建築専攻の人は実際に海外に行って建物の壁に触って初めてわかることがある。それが大事だと思います。
園田:
日本企業はモノがよければ売れると考える傾向がありますが、実際には言葉がないとわからないという人が結構いる。そこにアプローチするには、やはり語学を磨かなくてはいけない。そこは同時にやらなければいけないところかと思います。
大越:
松本さんは若い頃から海外を歩いているだけに日本と世界との関係を意識したのではないでしょうか。
松本:
日本の会社は、技術力に誇りがあるがゆえに、現地で必要とされないものまで提供したがりますが、世界の人々がそれを求めないなら、そこまでこだわる必要はないと思います。世界で何が必要なのか、今あるものをどのように変えていけばいいのかを考えたほうがいい。
藤森:
私はシャワートイレを欧米の文化に根付かせてトイレ界のジョブズになりたい、と思っています。しかし、機能をそのままアメリカに持って行くと、どのボタンを押していいのかわからないという。確かに日本人は自分のこだわる機能を押しつける傾向にあるかもしれませんね。もう一つ、日本は技術で勝って勝負に負けているという面がある。iPhoneが登場した時も実際に使っているところを見せただけ。日本は技術では勝ってもマーケティングで負けている。
猪子:
それは違います。iPhoneの外側は技術と呼ばないです。たとえばOSを作れる会社が日本にありますか? 日本は技術力がない国です。
藤森:
そういうことではないでしょ。iPhoneもハードの面で言うといろんな国製の部品が詰まってる。ハードで勝負する時代はすでに終わっていて、どうやってデザインやマーケティングで勝負できるか、なんです。
猪子:
日本に技術力があるという前提は間違いだ、と言いたいだけです。
濱田:
言語や論理ではない時代との話でしたが、大学の立場から言うと言語や論理は大事です。それがあってこそのデザインでありマーケティング。そこを間違われると学生が勉強しなくなってしまうんですよ。
藤森:
もし OSを作る会社がアメリカにあるならそこにつくってもらえばいいでしょう。
猪子:
もちろんそれでいいんですが、技術力が高いという前提は素直に捨てた方がいいのでは?
大越:
NHK的に言いますと、お二人には相当共通点があると思って聞いておりましたが、時間も少なくなってまいりました。皆さんから一言ずついただきたいのですが。
友田:
プログラムに参加させてもらったからには、何かしら大学や世界に還元しなければならないという意志はどの学生にもあると思います。でも、実際には学生の身分でできることは少ない。何か筋道が見えているとやりやすいのかもしれませんね。
松本:
海外に行かなければいけないわけではなく、多文化を受け入れる、他のものがあると気づくことが教育では重要です。外国人留学生と触れ合うことも大切。日本人でも、違う出身地の人とか違う学部の人とか、違う人とどれだけ交流する機会をもてるのか、教育の場で作っていただけたらグローバル感覚が身につくのではないかと思います。
藤森:
今後はもっとダイバーシティのある社会になります。女性がもっと活躍する社会、歳をとった経験者や猪子さんや松本さんが同じ立場で活躍できる社会、違う人たちが力を合わせる社会に。そこで大事なのは違いを尊重すること。大学には均一化しがちな面がありますが、違いの大切さはもっと教育すべきですね。
園田:
その通りだと思います。均一的なテストで点をとる子を好む教員には、変わってもらわないといけないでしょう。要は、猪子さんのような学生を元気があっていいと教員が思えるかどうかです。
濱田:
猪子さんのような人を大学が育てようと思っても無理ですね。ダイバーシティという言葉も出ていますが、教育はある程度均一でなければいけない。その中でいろんな可能性をもった芽を育てるということ。たぶん猪子さんも今の仕事に東大で勉強した事が全く役に立っていないとは言わないですよね。
猪子:
テクノロジーの会社なので、物理とか情報とか科学技術の原理はもちろんベースとなっていますよ。
濱田:
よかった(笑)。じつは、私は大学紛争の時代に育ったので、大学がこんなに手をかけるのか、という思いはあります。ですが、今は仕組みを作らなければという思いで懸命に手を入れています。教育改革は成熟までに5年はかかりますが、10年後は仕組みを緩めるのがいいと思います。学生や企業、社会、同窓生が勝手に動かしてほしい。そう思います。教育改革は当面の夢で、もっと大きな夢は教育改革なんていらない状況になることです。その時にもダイバーシティは大事になる。いろんな分野の人や年齢層の人が交じり合い、大きなエネルギーが生まれる。これはまさに同窓会そのものです。
大越:
時刻は12時56分になりました。本来、夜10時にニュースが終わる時に56分で終わるのは間違いですが、余韻を残しつつ、多様性のある対話を反芻しながら、本日の会合を終わります。
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