大学時代に実験のおもしろさを知り、
楽観的に、しなやかに、研究の道を進む

東京大学医科学研究所 准教授
三室 仁美
Hitomi MIMURO

三室 仁美

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~図工が好き、バイオリンを習っていた少女時代~

 私は一人っ子なので、両親に愛情を注がれて育ちました。自分では覚えていませんが、必要なことしかしゃべらない子だったと母からは言われます。幼稚園から小学校5年までバイオリンを習っていました。情操教育に力を入れている幼稚園でバイオリン、ピアノ、バレエ、絵画などを教えていたのがきっかけで、その中からバイオリンを選んで続けていたのですが、引っ越しを機にやめてしまいました。学校の勉強では図工が好きでした。自分の手で何か作るのが楽しかったですね。

~武道にあこがれて弓道部に入部~

 中学、高校は公立校です。部活は、中学はテニス、高校では弓道をやっていました。筋を通しているものへのあこがれがあり、漠然と武道はいいなと思っていました。そんな気持ちの時に見た弓道の映画に影響されて「自分もやりたい」と思い、弓道部のある高校に進学しました。私は背も高くないし筋力もなかったので、めざましい成績をあげたわけではありませんが、弓を引く時間が好きでした。

 大学は理学部を受験しました。当時は生命現象に興味があり、「生きるとか死ぬというのは、どういうことなのか」を考えていたので、そういうことを大学で学びたいと思ったのです。医学部という選択肢もありましたが、医者はサービス業のような面もあるものなのではと思っていたので、自分には向かないと思いました。

~不真面目な女子大生が実験の楽しさを知る~

 1987年に埼玉大学理学部に進学しましたが、1、2年の時は遊んでばかりいる、いいかげんな女子大生でした。授業をさぼってアルバイトをしたり好きな本を読んだりして過ごし、夕方になると友達に会うために学校に行くという生活でした。1、2年の単位が取れたのは友達に恵まれていたおかげです(笑)。

 大学の勉強が面白くなったのは実験が始まってからです。その時は「ヒラタケの溶血性たんぱく質について調べる」という課題が与えられていたのですが、予想以上に実験が面白くて、大学院に行って研究を続けようと決めました。

~修士を出て企業の医薬品研究室、その後東大へ~

 1993年に修士課程を終えて食品メーカーの医薬品研究室に就職しました。母は博士課程に行くことを勧めてくれましたが、大学1年の時に父が亡くなっていたので、これ以上母に負担をかけたくなかったのです。それで、そのまま大学院に残るのではなく、お金を稼ぎながら博士号を取るつもりでした。しかし、なかなか思うようにいかず、仕事をしながら研究できる別の道を探しているときに東大の笹川先生に出会い、1997年に医科学研究所細菌研究分野の技術職員に採用していただきました。

 実は、医科研に来るまでは細菌学については詳しくありませんでした。でも、やり出したら面白くて、それからはずっと細菌の研究をしています。2004年に博士号を取って2005年に助手になり、2011年12月に自分の研究室を持つようになりました。博士号を取るのにはずいぶん時間がかかりましたが、私は人生が思い通りに行かないときには「しょうがない」と楽観的に物事を捉える性格なので、それが幸いして、あまりあせらずにここまで来ました。

 現在は「ピロリ菌や赤痢菌等の細菌が人に感染したときにどんな反応が起こるか」を研究し、その研究基盤を新しい細菌感染症制御法へ結びつけることを目指しています。赤痢菌は昔から研究されている古い菌ですが、まだ解明されていないことがいろいろとあるんですよ。

~結婚、女性を意識せずに研究したい~

 結婚したのは2008年です。別に独身主義者ではなかったのですが、それまでは研究に没頭したくてそちらには目が行かなかったのです。人よりは遅い結婚ですが、私にはちょうどよいタイミングだったのだと思います。相手は食品メーカーに勤めていた頃の同僚で、偶然にも生年月日が一緒なので、誕生日に入籍しました。

 研究者としては、あまり女性であることを意識せずにやって来られたと思います。これは前の世代の女性研究者たちが道を切り開いてくれたおかげだと感謝しています。そうは言っても、「女性だから優遇されている」という目で見られることもあり、悔しい思いをしたこともあります。それでも落ち込まずに気持ちを切り替えてやってこられたのは、ずっと好きなことをやって来たからだと思います。私はともかく実験が好きで、毎日の実験が面白かったので、他のことはあまり気にせずにいられました。

これからの女性には、好きなことを自由にやってほしい

~これからの女性には、好きなことを自由にやってほしい~

 女子高生をはじめ、これからの若い女性には、自分の好きなことをどんどんやってほしいと思います。私は子どもの頃から、これが抜群に優れているという能力はなくて、その場その場で好きなことを一生懸命にやってきました。あまり計画的な人生ではありませんでしたが、好きな研究を続けようという意志を持つことで、自分の進む道を見つけてきました。ですから、女子高生のみなさんもあまり先のことを心配しすぎずに、今興味のあることにチャレンジしてほしいですね。

 これからの人生では、女性が不利なことがまだまだいろいろあるでしょう。それでも、時代はどんどん男女平等に近づきつつあると思います。女性はライフスタイルを変えなくてはならない場面が多いかもしれませんが、上手に気持ちを切り替える強さも持っています。これからの若い女性たちには、女性であることを過剰に意識せずに、しなやかに、自分の好きなことを楽しんでほしいと思っています。

(2012年8月取材)

女子中高生の理系進路選択支援プログラム
※本インタビューは科学技術振興機構(JST)による「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」の支援を受け、作成しています。

プロフィール:
三室 仁美(Hitomi MIMURO)
東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター感染制御系 細菌学分野
准教授

東京都出身。1991年埼玉大学理学部生化学科卒業。1993年埼玉大学大学院理工学研究科博士前期課程(修士課程)生化学専攻修了後、日清製油株式会社(現日清オイリオ株式会社)に入社。1997年東京大学医科学研究所技術職員、2004年博士号(医学)取得。2005年医科学研究所助手、2008年同講師を経て、2011年より現職。

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