私の研究のモットーは、
「いつも楽しく新しいことをやる!」

大学院情報学環及び生産技術研究所 教授
大島 まり
Marie OSHIMA

大島 まり

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大島 まり

~私のこれまでの歩み~

 私はもともと理科系が好きで、大学進学のときに理学部と工学部で迷いましたが工学部に進みました。モノを作るのが好きだったので、実際にモノができて動くプロセスを見ることができる工学部のほうがおもしろいと思ったのです。筑波大学で基礎工学を学び、東京大学の大学院で原子力工学を学びました。

 大学院の博士課程を前にして、就職するか研究者の道を選ぶかで迷いましたが、もっと研究を続けたいと考えて博士課程進みました。私の中にはずっとマサチューセッツ工科大学(MIT)へのあこがれがあって、そこに留学したいと思ったのも博士課程に進んだ動機のひとつでした。子どもの頃にアポロ11号の月面着陸をテレビで見て、「すごいなあ」と、強烈な印象を受けたんですね。このアポロ計画を成功させたスタッフにはMIT出身のエンジニアが多かったので、「留学するならMIT」だ、とずっと思っていました。希望通り留学しましたが、予想していたよりもずっとハードで、研究者としてとても鍛えられたと思います。私の人生を変えたと言えるってもいい貴重な体験でした。

 その後、研究者の道を歩み始めてから機械工学科に戻り、今は東京大学生産技術研究所で教員として大学院生を教えながら研究と教育を続けています。

~私の研究テーマ~

 私の専門分野はバイオ・マイクロ流体工学です。具体的には、動脈硬化症、脳動脈瘤などの循環器系の病気のもととなる血液の流れを、力学の観点から研究して、病気の原因や進行のメカニズムを解明しようとしています。

 私が大学院で原子力工学を学んだのはエネルギー問題に興味があったからですが、当時指導を受けていた先生が計算力学の分野を立ち上げたことにより、私も流体解析の研究に取り組みはじめました。その後、(流体解析の研究を続けていましたが)生産技術研究所で働き始めてしばらくしたときに、私が所属していた数値解析のグループに、血液の流れと脳動脈瘤の病気との関係を調べてほしいという相談がありました。そのことをきっかけに、脳外科の先生とお話するようになり、現在の研究に興味を持ち、本格的に研究をはじめました。

 体内にある血液の流れを見ることはできません。それをどのような形で研究するか、説明しましょう。研究には医用画像とコンピュータ・シミュレーションが基盤となります。まず、CTやMRIなどの画像とコンピュータ・シミュレーションの数値解析を組み合わせることによって、体の中の血液の流れがどうなっているかをコンピュータ上で計算し、その結果をコンピュータ・グラフィクスで目に見える形にします。その計算の際に使う数値などの「モデル」が正しいかどうかは実験で検証します。このようにして解明されたことを組み合わせて、病気の原因や進行のメカニズムについて考えていきます。

~高校での出張授業で教えていること~

 私は科学技術教育の一環として、高校での出張授業も行っています。高校では、高校生が受けている授業と工業製品や私たちの研究がどのような結びつきになっているかを理解できるようにわかりやすく教えています。

 例えば、「私が研究している『流体』は、物理でいう質量や運動量の保存則が基礎になっているのよ」と説明します。もっと研究の側面に触れようとするときは、私は画像処理をやっていますので、今高校で学んでいる数学が画像処理とどう関わるのかなどを話します。もっと簡単に、微分・積分が私の研究にどのように役立っているのか、などについて話すこともあります。毎日学んでいることが社会の中でどういう成果をあげているか、どのような形となって実用化されているかを理解してもらうことで、学ぶ意欲を持ってほしいと思いますし、学んでいることが実社会に生かされているんだということをイメージしてほしいと思います。

~大学生は基礎の鍛錬を~

 高校生への出張授業は楽しませることに主眼をおいていますが、大学生には、「基礎をきちんとしなさい」と教えています。運動では基礎的なことが大事です。例えばサッカーなら、ドリブルやシュート練習。テニスなら打ち合い。こういう基礎練習のくり返しは退屈ですが重要です。現在は大学院を中心に教えていますが、何をやるのにも大切なのは土台なので、基礎をたたき込むことに力を入れています。

~理系の知識や考え方はみなさんに必要~

 理系、とくに工学系の女子は私の時代も今も少ないですが、もっと増えてほしいと願っています。私には4歳の娘がいますが、できれば理系、工学部に進んでほしいと思っています。もちろん娘の選択に任せますが、工学部は楽しいと思います。物理、工学に興味のある女子高生は、ぜひその興味を伸ばしてください。

 また、理系に進まなくても、理系的な知識や考え方は、今、世界中で求められていると思います。私たちはどの分野においても、他人に自分の考えややりたいことを理解してもらう必要があります。社会人になれば、周りの人を説得して動かすことが必要となります。理系的な論理的思考法を身につけると、現在の状況を的確に把握し、論理的に話を組み立てて説得することに役立ちます。この能力は、長い人生のいろいろな場面で役立つと思います。

 もうひとつ、今の時代は「科学技術リテラシー」というものが必要な時代です。今回の原子力発電所の事故を考えてみても、様々な情報を正しく判断し、選択するための知識や能力の必要性を痛感した方は多いのではないでしょうか。こうした意味でも「科学技術リテラシー」を養い、理系的思考法を持つことは大事だと思います。

~いつも楽しく、新しいことをやっていたい~

 私の研究のモットーは「いつも楽しく、新しいことをやる!」です。私はモノ作りの過程を見るのが好きですし、工学を学んだからには、人の役に立つ仕事をしたいと思っています。その根底には、「楽しい!」という気持ちがあるので、研究も楽しくなくてはだめだと思っています。そして、常に新しいことをやっていたい。研究者として、この二つを心がけています。
(2011年9月取材)

《お知らせ》

 大島まり教授が女子高生にアドバイス!

 ティーンのためのライフデザインマガジンJOL[ジョル]2011NO.08紙面で、受験を控えた女子高生の皆さんの悩みにお答えしています。是非ご覧ください。

女子中高生の理系進路選択支援プログラム
※本インタビューは科学技術振興機構(JST)による「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」の支援を受け、作成しています。

プロフィール:
大島まり(Marie OSHIMA)
東京大学大学院情報学環及び生産技術研究所
教授

1984年筑波大学第3学群基礎工学類卒業。1986年東京大学大学院工学系研究科原子力専攻修士課程修了、1992年同博士課程修了(工学博士)後、東京大学生産技術研究所助手に着任。文部省在外研究員(米国スタンフォード大学)を経て、1998年東京大学生産技術研究所講師、1999年筑波大学・東京大学生産技術研究所併任助教授、2000年東京大学生産技術研究所助教授、2005年同教授。2006年より現職。

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