求めよ、さらば与えられん。
好奇心を追求して

法学部
根本 かおる
Kaoru NEMOTO

根本 かおる

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~自分の仕事・夢~

 国連広報センターは、国連の活動や課題について、日本の方々に対して日本語で発信することを使命とし、国連と日本にとっての重要な「結び目」の役割を果たします。マスコミと国連機関での経験、そしてこれまでに培ってきた人脈のすべてが総合的に活かせる「オンリー・ワン」の仕事として、とてもやりがいを感じています。講演や学生向けの講義などで人前で話す機会も多く、かつてテレビ局のアナウンサーとして習得したスキルが非常に役立っています。

 また、スポーツや音楽、映画を入り口にして紛争と平和、開発、人権といった課題に目を向ける、新機軸のイベントやキャンペーン、多彩なゲストを招いてのトーク・セッションを行うことも多く、「プロデューサー」的な素質も必要となります。これはテレビの番組づくりや書籍のプロデュースに通じるものがあり、楽しみながら手がけています。様々な分野の第一線で活躍する方々にお目にかかる機会が多いのも、この仕事ならではの喜びです。

 「国連で働く」というテーマが、国連広報センターの発信活動の中でこれほど重みを持つものになるとは思っていませんでした。国連の通常予算における日本の分担率はおよそ11パーセントであるのに対して、日本人職員は望ましい職員数のおよそ3分の1程度の数しかいません。国連はややもすると欧米系中心の組織と思われがちですが、国連の現場となるのは圧倒的に「非欧米圏」の途上国や紛争国の現場です。こうした国々で働いてみて、「目上の人・年長者を敬う」とか「面子を重んじる」など、日本にも通じる価値観があることに驚かされました。そこで日本人の思いやりや中庸の精神にもとづく感性を存分に発揮することができれば、高く評価されるのですから、もっと多くの方々に国連で働くオプションについて知ってもらいたいと考えます。

 国連は意欲ある日本人をより多く採用したいと考え、昨秋6つもの国連機関の人事担当が初めて合同で訪日し、東京で人事説明会を開きました。参加者の熱意と可能性に触発され、国連では日本政府と協力して合同説明会の定例化や地方開催を検討しています。在京の国連機関も、インターンシップという経験を積む場やキャリア・セミナーを積極的に提供しています。より多くの熱意ある日本人に国連を将来のキャリア・プランの一つのステージとして考えてもらいたいと、機会あるごとに。自分の経験談や国連で働くやりがいについて、まるで「伝道師」のように話してまわっています。特に女性にとっては、幹部レベルのポジションの3割が女性ですし、のびのびと能力を発揮することのできる働きやすい職場だと思いますよ。

 伝える・表現する・発信する - これらは、組織に属するか否かに関わらず、いくつになっても、常に関わっていきたいことですね。私にとって、「ライフワーク」とも言えるかもしれません。

~大切にしていること~

 自分を見つめる中で行き着いたのは、「どんな立場であっても、一人ひとりが自分らしく生きられる社会を実現するために、ささやかではあるけれども貢献したい」という気持ちです。まだ日本の労働環境が女性に閉鎖的だった頃に「働く女性」として苦労を経験したり、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)職員として難民支援の最前線でマイノリティーとして排除・排斥されて故郷を追われた難民たちに寄り添って支援したりする中で、こうした視座ができました。

 人生は一直線ではなく、かなり曲がりくねった道でしょう。だからこそ、「転んでもただでは起きない」という、失敗から学んで次に活かすポジティブなスピリットが大切だと思っています。駆け出しだった頃、大きな失敗をして土下座をしたり、始末書を書かされたりする経験もありましたが、「いつかこれを話の種にしてやるぞ」という気持ちをバネに起き上がりました。
あと、第8代国連難民高等弁務官を務めた緒方貞子さんの「熱いハートに、クールな頭」という言葉は大切にしています。紛争や災害による人道援助は、熱い情熱持ちながらも、冷静に一歩二歩先まで見通すことが必要ですから。

後輩たちへ

~後輩たちへ~

 一度社会人を経験してから一念発起してアメリカの大学院に留学した際には、勤めていたテレビ局の幹部と直談判して、留学のための特別休職制度を作ってもらいました。世界のbest and brightestたちが集まって国際関係を共に学ぶ環境はとても刺激的で、この経験なくしては今の私は存在し得ないと思っています。また、大学院在学中にUNHCRの現場の事務所で難民支援活動のインターンシップを経験したいと思った際にも、「UNHCR本部に面倒見のいい日本人職員の方がいらっしゃる」と聞き及び、ファックスと電話でジュネーブのUNHCR本部にコンタクトして直談判の結果、ネパールの難民キャンプのインターンとして関わる機会を得ました。

 つまり、「求めよ、さらば与えられん」。与えられるのを待つのではなく、何事にも自分から積極的に求める姿勢が必要なのだと信じています。若い皆さんには「やってみなはれ」と声を掛けたいですね。

 好奇心に素直になって、いろいろなものを吸収していってください。それを続けていると、後に振り返った時に、あなたの後ろにしっかりとした道筋ができているに違いありません!

プロフィール:
根本 かおる(Kaoru NEMOTO)
国連広報センター所長
(2014/05/30現在)

東京大学法学部卒。テレビ朝日を経て、米国コロンビア大学大学院より国際関係論修士号を得。1996年から2011年末までUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)にて、アジア、アフリカなどで難民支援活動に従事。ジュネーブ本部では政策立案、民間部門からの活動資金調達のコーディネートを担当。WFP(国連世界食糧計画)広報官、国連UNHCR協会事務局長も歴任。フリー・ジャーナリストを経て2013年8月より現職。著書に『日本と出会った難民たち-生き抜くチカラ、支えるチカラ』(英治出版)他。

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