東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

表紙にモノクロの拳の写真

書籍名

プロ野球「熱狂」の経営科学 ファン心理とスポーツビジネス

著者名

水野 誠、三浦 麻子、 稲水 伸行

判型など

252ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2016年8月23日

ISBN コード

978-4-13-040277-4

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

プロ野球「熱狂」の経営科学

英語版ページ指定

英語ページを見る

プロスポーツの試合では、必ずと言っていいほど、熱狂的なファンが集い、声援を送る姿が見られる。オリンピックのように国境を超えて人々を熱狂させるイベントもある。もちろん、スポーツに限らずエンターテイメント・イベントにおいても熱狂的なファンはつきものだ。こうした熱狂現象は、一方で巨大なビジネス機会を生み出しており、経営の現場でも熱狂をいかにマネジメントするのかが現代的な課題となってきている。
 
本書は、こうした熱狂現象とそのマネジメントについて、プロ野球を題材として、マーケティング、経営学、会計学、社会心理学、歴史学など多様な分野の研究者が論じた類を見ない書である。第I部は「価値を見きわめる: マーケティングの視点」と題され、プロ野球ファンに対する質問紙調査の結果が分析される。そこでは、「ブランド・ラブ」という概念を用いて、応援する球団が現実や理想の自己と適合しているほど、その球団へのラブが強くなることなどが示される。第II部は「ファンを獲得する: 心理学の視点」と題され、質問紙調査や実験を通じて、プロ野球ファンの心理メカニズムが深く探求される。例えば、広島ファンを対象とした行動実験によって、自分だけでなく相手もカープTシャツを着ていて広島ファンだとわかる場合には、集団としての一体感が生まれ、互いに助け合う行動につながることが示されていて興味深い。第III部は「球団を運営する: マネジメントの視点」と題され、ファンというよりも選手や球団に焦点を当てた分析が行われている。熱狂的なファンの間で必ずと言っていいほど交わされる議論は、生え抜き主義がいいのか、即戦力採用がいいのか、選手の自主性を重んじたほうがいいのか、と言った球団の選手採用とチーム方針である。第7章では、この議論にコンピューター・シミュレーションで取り組み、団塊の世代 (ある特定の年代だけ所属選手が分厚いこと) を作り出すような方針をとることで、短期的ではあるがファンを熱狂させるほどの強い球団を作れる可能性を示している。
 
実は、本書の執筆に至った経緯も面白い。執筆陣の多くは、年に数回、神宮球場で広島東洋カープを応援する仲間であった。観戦を終えた後の居酒屋で野球談義は、職業柄、研究の視点からの談義となった。それが高じて、お互いの得意分野を生かして研究をしようということになったのである。そこに、阪神ファンの先生方も合流し、本書の執筆となった。かくいう私も年齢=ファン歴という生粋の広島ファンだ。25年ぶりのセリーグ制覇を成し遂げた年に本書は出版されたのだが、著者自ら熱狂の渦中に身を置きながら書いたと言えるかもしれない。そのぶん、勇み足の部分や偏った見方があるかもしれない。しかし、自分が本当に好きなことを仕事にできることほど幸せなことはない。こうした著者らの思いも汲み取りながら、本書を手に取ってもらえれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 経済学研究科・経済学部 准教授 稲水 伸行 / 2017)

本の目次

序章  プロ野球の「熱狂」を科学する (水野 誠・三浦麻子・稲水伸行)
第I部  価値を見きわめる:マーケティングの視点
第1章  プロ野球ファンを解き明かす――データによる「熱狂」のマーケティング・リサーチ(水野 誠)
第2章  人はなぜその球団を応援するのか――「遊び」の理論から見たプロ野球球団への選好 (水野 誠)
第3章  選手とチームへの共感と自己適合性――ブランド・ロイヤルティ戦略 (石田大典)
 
第II部 ファンを獲得する: 心理学の視点
第4章  阪神ファンと広島ファン――熱狂するファンの社会心理学 (三浦麻子・稲増一憲・草川舞子)
第5章  社会的営みとしての球団愛――プロ野球ファンの集団力学 (中西大輔)
 
第III部 球団を運営する: マネジメントの視点
第6章 プロ野球選手のたどる道――統計からみる選手人生 (戸石七生)
第7章  常勝チームはつくれるか?――チーム・デモグラフィー・モデル (稲水伸行・坂平文博)
第8章  日本のプロ野球球団経営の現状――貸借対照表から見える変化 (中村亮介)
あとがき
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています