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お経と仏陀のシルエット、白地にグレースケールの配色

書籍名

仏典とマインドフルネス 負の反応とその対処法

判型など

320ページ、四六判、並製

言語

日本語

発行年月日

2021年6月

ISBN コード

978-4-653-04436-9

出版社

臨川書店

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仏典とマインドフルネス

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本書は仏教学、心理学、脳科学の分野の研究者によって行われた、仏教の瞑想に関する共同研究の成果を分かりやすくまとめたものである。それぞれの分野から書き下ろしてもらっているので、多少、バラバラの感は否めない。しかし、共有の問題関心のもとに進めた、文理融合の研究成果であると自負している。
 
仏教の伝えてきた瞑想、それは身心の観察を意味するものである。その基本はパーリ語でsatipatthanaと表現されるが、やがてサマタとヴィパッサナーという用語で表現されるようになった。その特徴は、私たちの行動に注意を振り向けてしっかりと把握することにある。この観察を続けていると、過去のことを思い出したり、幻覚が現れたりすることがある。この心の負の反応に、どのように対処したらよいのか、仏教学、心理学等からアプローチし、わかりやすく紹介してもらうことを目指した。それとともに、心理学や脳科学の分野から、仏教の伝えるこの観察が、どのように捉えられるのか、現在の研究はどこまで進んでいるのか、という観点も含めて、まとめてもらった。
 
蓑輪、林、余の三つの論文は仏教学からの事例を通して、マイナスの反応にどのようにアプローチするのか紹介するものであり、佐久間の論文は、仏教学、心理学、脳科学の接点がどのようにすれば可能かを論じたものである。次に心理学からの論文は、越川が様々な状況において瞑想がどのような効果をもたらすのか、その実験をわかりやすくまとめている。
 
脳科学の分野からは、熊野と今水が論じている。熊野は瞑想中の雑念を脳波で見えるようにする取り組みを紹介し、今水は、デフォルトモードネットワークという視点から、瞑想を論じる。私たちの脳は静かにリラックスしているときにも働いており、それがデフォルトモードと呼ばれるのだそうだが、この脳内ネットワークと、仏教の瞑想がかかわっているのではないか、というものである。
 
ただ仏教学の視点から見れば、これは仏教の瞑想が目指した世界の半分にしか過ぎない。大事な点は、観と呼ばれる観察であり、メタ認知をすることなのであるが、この時の脳内の活動はどうなっているのか、まだ探求できていない。この観察が自動思考を抑制することは体験的にわかっているのであるが、その作用機序を解明することは、次なる課題である。
 
ちなみに、現在、多くの人が知るところとなったマインドフルネスは、まさにこの観察なのである。その作用機序がわかれば、私たちを裨益すること大になるはずなのだ。とはいえ、第一線の研究者が集まって仏教の瞑想を軸に、一般の方にもわかりやすく論じているところは、今までに無かったものであるので、高く評価されてよいと考えている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 蓑輪 顕量 / 2022)

本の目次

序論 (蓑輪顕量)
 
第1部 仏教学からのアプローチ
  第1章 パーリ仏教に見る身心の観察 (林隆嗣)
  第2章 止観の分類とマイナスの反応への対処法 (蓑輪顕量)
  第3章 中世禅宗における身心の観察 (余新星)

第2部 異分野間の架け橋となるために
  第1章 瞑想修行と計測の可能性 (佐久間秀範)
 
第3部 心理学からのアプローチ
  第1章 鬱・不安が改善しないときーマインドフルネス療法でうまく進まないケースの特徴
      (杉山風輝子・内田太朗・熊野宏明)
  第章 瞑想実践の効果と副作用
      臨床心理学におけるマインドフルネス瞑想 越川房子
      止観実践の順序問題 瞑想初学者が感じる困難さ 阿部哲理
      止観修習の順序問題 初学者にみられる効果みられにくい効果 石川遥至
  第章 マインドフルネスと戒の関係 牟田季純
  第章 注意機能とマインドフルネス瞑想 中島亮一・田中大・今水寛
 
第4部 脳科学からのアプローチ
  第1章 瞑想中の雑念を脳波で可視化するーマインドフルネス療法がうつ・不安を低減するメカニズム
      (髙橋 徹・熊野宏昭)
  第2章 脳のネットワークから見た瞑想状態 (今水寛・浅井智久・弘光健太郎)
 
終章 (蓑輪顕量)
 
後書き / 索引

関連情報

イベント:
NEW  為末大×蓑輪顕量「瞑想とゾーン」 (東京大学駒場キャンパス/オンライン 2022年11月19日)
https://todaibussei.or.jp/openlecture1.html
 
NEW 「仏教の瞑想とマインドフルネス研究 ―― その広がりを中心として」 (駒沢大学駒沢キャンパス/オンライン 2022年11月18日)
https://www.komazawa-u.ac.jp/event/2022/1020-13461.html

「瞑想でたどる仏教~心と身体を観察する~」 (駒沢女子大学 2021年12月8日)
https://www.komajo.ac.jp/uni/jc-research/news/jc-research_21002.html

メディア出演:
[こころの時代]「元プロ陸上選手・為末大さんが語る「瞑想」と競技の共通点 |「体験知」としての瞑想 | 仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年12月27日)
https://www.youtube.com/watch?v=G-2GWBWu_Rw
 
[こころの時代]「インドで始まった仏教の瞑想は中国でどう変化した?| 仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年12月25日)
https://www.youtube.com/watch?v=SEaxnEKu6IU
 
[こころの時代]「インドで多様に花開いた瞑想 | 仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年12月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=1KaLoMg9V0w
 
[こころの時代]「浄土真宗の行 | 信じるとは何か | 仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年9月18日)
https://www.youtube.com/watch?v=ZMVw4kBGMEE
 
[こころの時代]「日蓮宗 行の世界 | 南無妙法蓮華経と瞑想の関係とは | 仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年9月17日)
https://www.youtube.com/watch?v=zZWZM1qRPXc
 
[こころの時代]「臨済宗の瞑想 公案・看話禅とは | 片手の音を聞く | 仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年9月16日)
https://www.youtube.com/watch?v=w_12ZR4qhZA
 
[こころの時代]「仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 日本仏教の特徴とは?| 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年9月15日)
https://www.youtube.com/watch?v=-U2zPaMQsWc
 
[こころの時代]「戒律が深い瞑想のための環境を整える | ブッダの教えを継ぐ人々|瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年5月12日)
https://www.youtube.com/watch?v=ZpThK-b2eVI
 
[こころの時代]「仏教学者・蓑輪顕量×元陸上選手・為末大 | 苦しみの正体とは私たちの心|ブッダが見つけた苦しみから逃れる道 | 瞑想でたどる仏教」 (NHK 2021年4月14日)
https://www.youtube.com/watch?v=tYa0ZEj7jm4

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