東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙、昔の地図

書籍名

日本近世の秩序形成 村落・都市・身分

著者名

牧原 成征

判型など

402ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年9月28日

ISBN コード

978-4-13-020161-2

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

日本近世の秩序形成

英語版ページ指定

英語ページを見る

日本の近世とは、おおまかに織田信長・豊臣秀吉の頃から幕末までの3世紀近くを指し、戦国時代までの中世や、幕末・明治以降の近代とは異なる時代だとされている。武家の統一政権が、各地の大名・領主・武士を統合して「平和」を実現し、その下で、人々の社会は、百姓を中心とする村々と、町人によって構成される町方 (都市) とに大きく分離された。
 
戦国時代までは、領主・武士でありながら、百姓であったり町人であったりする人たちも珍しくなかったが、江戸時代にはそれらは截然と分けられることになった。人びとが武力を含む自力で自分たちの権益を守ってきた時代は終わりを告げ、村や町などの集団が支配を請け負い、それぞれの内部で自治を実現した反面で、それを越えた政治や安全保障は、武士が結集して作った幕府や藩が独占することになった。
 
では、どのようにして、そのような新しく独特な社会が形成されたのだろうか。なぜ日本列島では16世紀の末に、長い中世に終止符が打たれ、新しい時代を迎えたのか。これは日本近世史の根本的な問題であり、これまでもさまざまな解答が試みられてきた。そのなかには多くの創見があって、私たちに歴史を学ぶ醍醐味を教えてくれるが、全体としては未解決のままである。本書序章ではそれをあらためてできるだけ平易に紹介・総括し、問題の所在をあきらかにしている。
 
もちろん実際には、そのような大きな問題にいきなり解答を試みることは難しい。局面を絞って検討を積み重ねる必要がある。本書では第I部で、豊臣秀吉が初めて城主となって、その権力の母体とした近江を素材にして、そこでの土地制度や社会構造を検討している。第II部では、近江とは様相を異にする信州の一村落に密着して、戦国時代以降の土地制度や社会構造の変容を明らかにした。とくに村を支配の単位とする制度が採られたことが、史料の残り方とどのように関わるのかに注目している。
 
そのうえで第III部では、日本列島全体の政治過程や、国際的な政治・経済の動向にも目配りし、織田・豊臣政権がどのような土地・身分政策を編み出しそれをいかに全国に及ぼしたか、を考えた。武士の従者である奉公人に関する政策、都市政策、貨幣流通や財政・貿易構造などをあわせて検討している。
 
本書の特徴は、史料の残り方を重視して、家や個人、村レベルの細部から出発しつつ、日本列島のさまざまな地域性や政治過程、東アジアとの交流までもを視野に収めようとしたところにある。近世という時代の枠組みを、前代からの流れと地域を越えた広がりのなかでダイナミックに考えようとしたとも言える。歴史上の特定の社会がどのような特質をもち、それがどう形づくられたかを、広い視野から見定めることは、今の私たちが生きる世界 / 社会の歴史的な特殊性を見破り、それを生き抜く力を与えてくれると信じている。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 牧原 成征 / 2023)

本の目次

序章 日本近世社会のとらえ方
 
第I部 近江における近世社会の形成
第一章 中・近世移行期をどうとらえるか――江北の土地制度を中心に
第二章 身分と役――兵農分離像の再検討
 補論 日本近世身分論の原点
第三章 地侍たちのゆくえ
 
第II部 信州伊那における近世の到来
第四章 虎岩郷の天正検地と土地制度
第五章 十七世紀の年貢収取と村請制
第六章 「山里」村落の社会構造
第七章 虎岩村と飯田城下町
 
第III部 展望―日本列島における近世の形成
第八章 兵農分離と石高制
第九章 都市の建設と再編
第一〇章 日本の近世化と土地・商業・軍事
 
結語 日本近世における秩序形成

関連情報

書評:
小酒井大悟 評 (『日本歴史』第906号 2023年11月)
https://www.fujisan.co.jp/product/1980/b/2447348/
 
平井上総 評 (『史学雑誌』第132編4号 2023年4月)
http://www.shigakukai.or.jp/journal/index/vol132-2023/

このページを読んだ人は、こんなページも見ています