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白い表紙、空に伸びる光の写真

書籍名

崇高のリミナリティ

著者名

星野 太

判型など

300ページ

言語

日本語

発行年月日

2022年12月24日

ISBN コード

978-4-8459-2035-8

出版社

フィルムアート社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

崇高のリミナリティ

本書は「崇高」という美学の一大テーマをめぐる対談集である。
 
この「崇高 (sublime)」という言葉は、とりわけ「美」や「芸術」をめぐる西洋の思想において、長らく重要な地位におかれてきた。そうした美や芸術をめぐる思想は、18世紀後半から今日にいたるまで、伝統的に「美学 (aesthetics)」という名称で呼ばれてきたものである。本書の目的は、そうした美学の問題圏において、なおかつ言語、倫理、政治の諸問題にも目をむけながら、この「崇高」という概念が今日においていかなる意義を担いうるのかを示すことにある。
 
この本のもくろみは、「崇高とは何か」という問いへの答えを、いわゆる通史的なかたちで示すことにはない。むしろ本書は、およそ2000年あまりにおよぶ概念の歴史を詳細にたどるのではなく、その主要な論点を洗い出し、それを学ぶことが今日においていかなる意味をもちうるのかを、なるべく幅広い視野のもとで示すことに専念している。むろん、「崇高」の一般的定義や歴史的変遷、さらにより細かなトピックについて知るための文献は、本書を読んでいけばおのずと明らかになるはずである。
 
本書は序論、5つの対談、50冊のブックガイドからなる。
 
第I部にあたる序論では、のちの対談への導きとして、あらかじめ「崇高」概念の主要なマトリックスを提示した。序論の前半では、そもそもこの概念が西洋の思想史においていかなる意義を担ってきたのかを概説的に論じ、後半では、20世紀末から今日までの「崇高」論の変貌をめぐるいくつかの主要な見通しを示した。いわばこの序論が、本書の基本テーゼをなす。
 
第II部にあたる5つの対談は、いずれも拙著『崇高の修辞学』(月曜社、2017年) をめぐって、2017年から18年のあいだに行なわれたものである。各対談の内容は、同書の議論をただ敷衍するのではなく、むしろそれを異なる立場から拡張するものとなっている。あえてジャンルごとに分けるなら、それぞれの対談は [1] 現代美術 (池田剛介)、[2] 美学 (岡本源太)、[3] 美術史 (塩津青夏)、[4] 現代詩 (佐藤雄一)、[5] 人文学 (松浦寿輝) の諸問題をめぐってなされている。なおかつ、各対談の内容はかならずしも「崇高」という概念のみに収斂するものではなく、その外部へと開かれた発展的な議論を含んでいる。
 
第III部にあたるブックガイドは、日本語以外のものも含め、今後このテーマについてさらなる探求を試みる読者への誘いとして執筆した。ドイツ語やフランス語をはじめとする異言語の文献については、タイトルから少しでも内容が想像できるように、日本語による仮題も添えた。選書は「崇高」についての理論書や研究書が中心だが、そこにアンソロジーや展覧会カタログなどを加えることで、なるべく現代の「崇高」論の広がりを伝えられるような50冊にした。
 
以上のように、本書は対談とブックガイドを中心とした、いささか珍しいつくりの本である。本書の執筆を導いていたイメージは、自分が学生のころに数多く存在した「ディスクガイド」である。自分が中学生や高校生であったころを振り返ってみると、当時は何につけても「ガイド」が必要な時代だった。マスターピースとされる音楽も、映画も、小説も、今のように手軽に──かつ、ほぼ無尽蔵に──アクセスできるという状況ではまったくなかった。そうした大きな制約があるなかで、ある特定のジャンルに精通した人たちが手がける「ガイド本」の類いは、しばしば実際の作品以上に大きな影響力をもっていた。そして学問についても、それは例外ではなかった。よくよく考えてみると、いまだ門前にいる初学者にとって、ある学知への入口がいきなり原典や研究書であることはまずない。おそらく大半の若者にとって、雑誌などに掲載された──いまならウェブで読めるような──対談やブックガイドこそが、その対象への手引きをしていたはずなのだ。それならば「入門書」があるではないか、と言われるかもしれない。だがそうした入門書を手にとる読者は、すでに当の対象・分野に一定の関心をもっていることが常である。それに対し、より雑多な話題からなる対談やブックガイドは、入門書を手にとる読者とはまた異なる、来たるべき読者をその世界に導き入れるためのもうひとつの入口であるとわたしは思う。
 
その意味で、本書をひとつの「ツールボックス」として活用してもらえれば、著者としてはこれにまさる喜びはない。「崇高」というひとつの概念をめぐる対談やブックガイドが、読者にさまざまな思索のきっかけをもたらすことになれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 星野 太 / 2023)

本の目次

はじめに
 
序論 崇高のリミナリティ
 
崇高をめぐる5つの対話
 
対談1 池田剛介×星野太
それでもなお、レトリックを
 
対談2 岡本源太×星野太
ロゴスとアイステーシス──美と崇高の系譜学
 
対談3 塩津青夏×星野太
美学的崇高 vs. 修辞学的崇高?──崇高における像と言語
 
対談4 佐藤雄一×星野太
超越性、文体、メディウム
 
対談5 松浦寿輝×星野太
酷薄な系譜としての「修辞学的崇高」
 
崇高をめぐる50のブックガイド
1 古典
2 美術
3 研究書
4 文学・批評理論
5 現代思想
 
おわりに

関連情報

書評:
岡本源太 評「新刊紹介 星野太『崇高のリミナリティ』」(表象文化論学会『REPRE』第48号 2023年6月30日)
https://www.repre.org/repre/vol48/books/sole-author/6/

石松佳 評「書類のエロス」 (『現代詩手帖』 2023年4月号)
http://www.shichosha.co.jp/gendaishitecho/item_3013.html
 
相馬巧 評「崇高の修辞学はいかにして起動しえようか?」 (『図書新聞』3585号 2023年4月1日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1703316323916x825266610924244600

関連イベント:
【イベント&オンライン配信(Zoom)】『崇高のリミナリティ』(フィルムアート社) 刊行記念 星野太×宮﨑裕助トークイベント「現代の崇高をめぐって」 (代官山 蔦屋書店 2023年2月10日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/31274-1643320118.html
 
【フェア】『崇高のリミナリティ』(フィルムアート社)刊行記念 星野太選 文庫新書で読む「崇高」 (代官山 蔦屋書店 2023年1月8日~2月12日)
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/humanities/31277-1720270118.html

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