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多様な価値観、文化が混ざり合うグローバルキャンパスの実現 |ダイバーシティと東大 05|矢口祐人教授の巻

掲載日:2022年2月15日

このシリーズでは、東京大学のダイバーシティ(多様性)に関する課題や取り組みを、教員たちへのインタヴューを通して紹介していきます。 東京大学は多様な背景をもった人たちが、活き活きと活動できる場の実現を目指します。

2021年12月下旬、矢口祐人先生(左端)とブラジル、アメリカ、フィリピン、中国、英国、日本など世界各国から東大に来た学生たちが本郷キャンパスの三四郎池に集まりました。授業はオンラインで行われていたため、ほとんどの学生にとって初めての顔を合わせでした。

 

情報学環/総合文化研究科教授の矢口祐人先生は、東京大学初の英語で学部学位を取得できるPEAK (Programs in English at Komaba)や海外学生向けの短期有料教育プログラムUTokyo GUC (UTokyo Global Unit Courses)の創設など、東京大学の教育の国際化に長年関わってきました。

東京大学に在籍する留学生は年々増加し、数という意味ではキャンパスのグローバル化は進展してきたと矢口先生は言います。しかし、大学全体としては依然、均質な環境で学んできた日本人男性が圧倒的に多く、さまざまな課題が残されていると指摘します。大学生の時にアメリカの大学に編入し、その後同国で博士号を取得した矢口先生は、キャンパスの国際化は大学の多様性の向上に不可欠だと考えています。


留学生と共に学ぶ

2021年11月時点で東大に在籍する留学生の人数は、4,623人。10年前の3,079人から1,500人以上増加しました。しかし留学生のほとんどは大学院生です。学部の留学生(永住者を含まない)は全体の2.5%ほどにすぎません。その理由のひとつは学部授業の大半が日本語で開講されていることです。短期留学生を含めると比率は上がりますが、それでもまだ学部の留学生数は十分ではないと先生は考えています。また近年の留学生数の上昇は、グローバルモビリティが高まっている中国からの優秀な留学生に支えられていて、他の国からはあまり増加しておらず、減少しているところもあります。「世界に対して、東大そして日本で学ぶ意味をしっかりと伝えていかなくてはいけない」とグローバルキャンパス推進本部副部長を務める矢口先生は話します。

グローバル化した社会で活躍していくためには、様々なバックグラウンドを持つ人々と共に学ぶことが大切だと矢口先生は強調します。「いろんな価値を持つ人たちに自分の意見を丁寧に説明する一方で、相手の考えをしっかりと理解し、新たな発想を共に築き上げていくことが大切です」

そのためにも、「日本で生まれ育った学生には是非いろんなところで国際的な経験を積んでほしい。また、もっと多くの留学生に来てもらって、私たちと交流し、多様なキャンパスを実現する原動力になって欲しいです」


コロナ禍下の留学生

矢口先生写真
矢口祐人教授・グローバルキャンパス推進本部副部長  

これらの既存の課題に加えて、2020年からはコロナ禍に関する問題も生じています。これまでの日本の水際対策としての入国政策により、1月時点で1,000人以上の留学生が東大に在籍しながらも入国できずにいます。

「留学生は一時的な旅行者ではなく、大学コミュニティに不可欠で、大切な存在です。留学生が共にキャンパスで学ぶ環境を一刻も早く回復したいです。世界的にも厳しいこの制限があまり長く続くと、制限が解除されても留学生は以前のような数にならないかもしれません」と矢口先生は将来への影響も懸念します。

すでに日本にいる留学生もコロナ禍で苦しい思いをしています。授業の多くがオンラインで、キャンパスにもあまり行けず、自分のコミュニティと切り離された状態の学生がいます。入国政策がいつ変わるか予想できないため、休みや緊急時に一時帰国することもままなりません。「一人で海外から来た学生は心細いでしょう。そういう学生のことも我々は覚えておかなくてはいけません」

またコロナ禍は海外へ学びに行く学生にも影を落としました。近年は短期留学プログラムなどを充実させることにより、少しずつ留学する日本人学生も増えてきていたそうですが、コロナ禍で渡航が困難になり、留学する学生がガクッと減りました。「今後また、どのように増やしていくのか、というのは大きな課題です」と言います。

 


国際化への取り組み

藤井輝夫総長のもと、東京大学はさらなる国際化を推進していくために2023年に新しい組織を立ち上げる予定だそうです。「すべての東京大学の学生に、より確固としたグローバル教育を提供するために、既存の取り組みをいっそう強化しようと考えています」

例えば、学部入学後の早い時期から海外に行く姿勢を身に付けてもらおうと、2018年に開始した国際力認定制度「Go Global Gateway」の登録者を増やし、短期の海外研修をもっと展開することで長期の留学ができない学生にもグローバル体験を提供します。全学に英語で開講される授業を増やす一方、増加する留学生のために、日本語教育をこれまで以上に力を入れます。そして2021年から始まったUTokyo GUCのような新プログラムも「もっと積極的に拡充していきます」と意気込みを語ります。

理想としては海外で学ぶことが特別ではない、という雰囲気がキャンパスに広がってほしいと矢口先生は考えています。「世界の舞台では「自分は東大生です」というだけでは通じません。ジェンダー、人種、宗教、出身地など、多様な人々がいる環境に身をおき、他者の声に耳を傾け、自分の言葉で語れるようになることが大切です。戸惑ったり、ときには対立したりして嫌な思いをすることもあるかもしれませんが、文化を超えた相互理解と友情を築く喜びとは比べものになりません」と語ります。

東大が進める多様化は国際化と表裏一体で、より良い大学と社会を作っていくために不可欠だと矢口先生は強調します。「グローバルで多様なキャンパスを作ることで、さらに優れた研究と教育が行われる環境整備に貢献したいと思っています」

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