第1136回淡青評論

七徳堂鬼瓦

6名の速やかな任命を求めます

日本学術会議が推薦した会員候補のうち6名の任命が拒否されてから、違法な状態がもう1年以上続いています。任命を拒否された6名の中のお2人だけでなく、学術会議の会長も東京大学の教員であることからすれば、この事件は東京大学における学問の自由への攻撃以外の何ものでもないと思います。

戦前の東京帝国大学も、創立1877年とされる東京大学の歴史に含まれます。戦後設立された教養学部の初代学部長は、言論を攻撃されて東京帝国大学を追われた一人でした。学問の自由が憲法に明記されているのは、このように学問の自律性が損なわれた歴史を踏まえてのことでしょう。

任命拒否の理由を「忖度」すれば、近年よく聞くようになったデュアルユースということばに行きつきます。東京大学は、教育研究のもっとも重要な基本原則の一つとして軍事研究を禁止しています。このことの意味を確認し続けるのは、理系だけの問題ではなく、歴史学と政治学をはじめとする文系も含めた総合大学としての責務だと思います。

東京大学の課題は他にいくつも思いつきます。コロナ禍が続く中でこれからの研究、教育はどうあるべきか。学生の女子比率2割をなかなか超えられないジェンダーギャップをどう解消していくのか。などなど。どれもだいじなことばかりですがその中で、自由な発言の場を生かすことは大学の存在意義そのものに関わることと考えて、この問題について書くことに決めました。

夏休みに読んだ本の中で強く印象に残ったのは「まだこの問題やってるんだ」ということばでした。この違法な状態をいつのまにか既成事実にされてはいけません。学術会議にも改めるべきところがあるという議論もあるようですが、だとしてもその議論を始めるには違法な状態の解消が先決です。その日まで何度でも言い続けます。

6名の速やかな任命を求めます。

斎藤 毅
(数理科学研究科)