東京大学創立130周年記念式典

 

                        東京大学創立130周年記念式典 小宮山総長式辞


  本日、ここに、国内外から多数のご来賓の方々、そして多くの同窓生の皆さまにご列席をいただいておりますことに、心よりお礼を申し上げます。このような形で、東京大学創立130周年記念式典を執り行うことができますことは、誠に光栄であり、ご列席の皆さま方に感謝申し上げます。

 本学は、明治10年(1877年)、我が国の近代の幕開けを告げる最初の高等教育機関として創設されました。爾来、25万人に及ぶ有為な人材を社会に送り出し、学術文化の発展の中核を担ってまいりました。

 さきほど記念講演を行っていただきました、江崎玲於奈先生、大江健三郎先生、小柴昌俊先生は、いずれも本学をご卒業になった方々であります。本学の卒業生によって、このような、日本のみならず世界の学術文化を代表する顔ぶれの講演会が開催できましたことは、本学ならではのことと、誇りに感じているところでございます。
  先生方には厚くお礼を申し上げます。

  さて、明治の初期、我が国は、鎖国体制の中でも藩校や寺子屋などによって培われた豊かな教養の基盤の上に、諸外国の技術や社会システムなど、西欧の知識の移入を大胆に行いました。そして、近代国家としての教育理念の確立と、それを基盤とした学術文化の飛躍的な発展によって、現在の地位を得ました。
 その中で、東京大学も、今や、世界のリーディング・ユニバーシティの一つとなるまでに発展しております。
 これは、130年にわたる本学の長い歴史の中で培われてきた、すぐれた教育研究の蓄積が、広く日本社会に、そして世界に浸透したことの表われと自負いたしております。
 
  とはいえ、そうした伝統に満足するのではなく、本学のあるべき姿は、大学が置かれている、それぞれの時代や社会との関わりの中で、常に問い直していかなければなりません。
 東京大学は、平成16年に行われた国立大学法人化を、明治の草創期、戦後改革の時代に次ぐ、「第三の創業」の機会と捉えました。そして、より自由にして、より責任のある立場で、「続ける自覚」と「変える勇気」を持ち、教育・研究を通して知の頂点を目指しつつ、社会にいっそうの貢献を行うことを目指しています。

 「続ける自覚」とは、学問の自由に基づき、真理の探究と知の創造を求め、世界で最高水準の教育・研究を維持・発展させていくことです。

 「変える勇気」とは、「時代の先頭に立つ勇気」でもあります。教育システムの改革、グローバル化の推進をはじめ、研究環境の整備や組織運営の革新を先頭に立って実行していこうとする時、模倣すべき手本は、どこにもありません。
 それ故、自ら考え、改革・実践していかなければなりません。

 私は、昨年11月に開催されたホームカミングデーにおいて、創立130周年を記念し、「時代の先頭に立つ」東京大学に相応しい事業を、多彩に展開していくと宣言いたしました。
 こうした事業の中から、これまでに実施したいくつかを、ここでご紹介申し上げたいと思います。

 まず、学生が自ら主体となって企画した学生国際交流サミットがございます。世界各国の学生が東京大学を拠点として集い、議論や意見交換などを行いました。学生交流としては、このほか、野球やレガッタなどのスポーツ国際交流も実施いたしました。

 また、各研究科や研究所などの主催による数多くのシンポジウムやフォーラムが、130周年記念事業の旗印の下、本学らしい水準の、また幅広い分野にわたる研究成果を、さまざまな形で社会に発信しております。
 東京大学の学問水準の一端を示した、「学問の扉―東京大学は挑戦する―」の出版もいたしました。

 これらの記念事業は、すでに、当初宣言し、目標とした130という数を、大きく超えております。

 次に、「知のプロムナード」です。
 学生や教員がキャンパスの中でくつろいで学問、そして人生を語りあえる空間を整備すべく、各キャンパスに130のポイントの設置を進めています。その一部は、赤門周辺や工学部中庭、医学部本館前など、本日、皆様方にもお立ち寄りいただき、是非、ご覧いただきたい。

 国際的な活動としましては、日中学長会議、プレジデンツ・カウンシル、東アジア四大学フォーラムなど、本学が重要視している国際会議を、この記念式典に前後して順次開催しております。
 本日の記念式典には、これらの会議の関係者の方々にもご列席いただいており、心よりお礼を申し上げたいと思います。

 また、このたび、イェール大学に日本研究を行うラボラトリーを設置しました。さらには、ラボの開設にあわせて、現地に「NPO法人Friends of Todai」を立ち上げ、米国内における募金などを行う支援活動を開始いたしました。

 創立130周年を機会に、この他にも、様々に、東京大学の未来を見据えた事業を企画・実施してまいる所存です。
 たとえば、留学生寮や外国人研究者用の宿泊施設の拡充、大学での教育に相応しいアクティブ・ラーニングを実践する「理想の教育棟」の建設、学生の奨学金の充実などにも、積極的に取り組んでまいります。

 言うまでもなく、これらの事業を実施していくためには、十分な財源が必要です。私どもは、法人化を機に、「東京大学基金」を創設いたしましたが、この基金から得られる運用益により、本学の学生や教員が教育研究の国際的な競争に勝ち抜ける環境を持続的に提供できるように、育てあげたいと思っております。

 この基金には、すでに国内外の多くの篤志家の方々や同窓生の方々にご賛同をいただいておりますが、引き続き、強力なご支援を賜りますよう、この機会にあらためてお願い申し上げます。

  また、本日は多数の同窓生の皆様にお越しいただいておりますので、この場を借りて「東京大学学友会」の新しい名称について、ご報告申し上げたいと思います。

 「東京大学学友会」は、卒業生の皆様と東京大学の絆を深めるため3年前に創設した同窓会組織ですが、より親しみやすい名称を会員の皆様から広く募集いたしました。ご提案いただいた名称の中から、投票によって、「赤門学友会」という新名称を採用させていただきましたことを、ここでご披露申し上げます。

 本日は、ホームカミングディも合わせて開催しております。
 各部局や本部において、さまざまなイベントが企画されておりますので、卒業生の皆様には、そちらの方にもお立ち寄りいただき、旧交を温めていただければと存じます。

  本日は、多数の方々にご列席を賜り、このように盛大な式典が挙行できますことに、重ねてお礼を申し上げます。
 創立130周年の節目にあたり、東京大学において生み出される「知」が、日本社会に、そして世界の人々にさらなる貢献を行うことができるように、時代の先頭に立って邁進する決意を新たにしたいと思います。
 これからも、東京大学に対しまして変わらぬご支援とご鞭撻を賜りますよう、心からお願いを申し上げまして、式辞といたします。



                                                         平成19年(2007年)11月10日

                                                              東京大学総長 小宮山 宏