東京大学創立130周年記念式典

                          
                    東京大学創立130周年記念式典 東京大学学友会副会長祝辞


 祝辞
 この度、東京大学が創立130周年を迎えましたこと、心よりお祝い申し上げます。
 諸先輩が多数ご出席のところ、東京大学で学んだ一員として、また東京大学学友会の副会長として祝辞を述べる機会を頂き光栄に存ずる次第であります。

 東京大学の学部卒業生数は明治10年(1877年)の創設から累計で約25万人の規模となり、また専攻分野は法学、医学、工学、文学、理学、農学、経済学、教養、教育学、薬学と大きな拡がりを見せております。このような状況の下、東京大学は100有余年にわたりわが国の発展に少なからぬ貢献をしてきたものと認識しております。
 21世紀に入り、わが国は少子高齢化、資源・エネルギー、地球環境問題等の直面する課題を克服し、科学技術創造立国として国際的な競争力を確保することが急務となっております。
 本年6月に我が国の長期戦略指針として閣議決定された「イノベーション25」においても、イノベーションを先導する「知」の源泉としての大学に改革が求められております。

具体的には、
・ 研究と教育両面にわたる国際競争力の強化
・ 文系、理系の区分にとらわれない教育による幅広い知見や経験の習得
・ 意欲と能力の高い学生を選抜するための大学入試の改善
・ 世界に開かれた大学づくり
・ 「学び直し」のニーズに対応した生涯学習システムの構築
といった内容が示されています。

 東京大学を卒業以来、産業界に身をおく立場からは、大学は新しい知を創出し、同時に将来の日本を担う人材を育てて社会に送り出し、産業界は大学の生み出した知をビジネスとして実用化に結びつけ、そのための人材を受け入れるという役割があると考えております。
 ところで、産業界で必要な人材は、技術の深さを追求してイノベーションを創り出す人材と、広い視野をもってビジネスを創り出す人材に大別できると思います。産学連携という観点では、大学と企業の研究者が相互に乗り入れる形で研究を行うことにより技術の深さを追求できます。また、視野を広げるための学際的な研究という意味では、文理融合型の共同研究ということが考えられます。私どもでもこのような視点から東京大学の多様な人材とのコラボレーションを通じた研究開発に取組んでいるところであります。

 さて、電気工学科の卒業生としては、近年の若い人の理工系離れを深刻に受け止めています。文部科学省のデータによれば、国立大学の工学部への志願者数は平成13年度の約105,000人から直近の平成19年度には84,000人へと20%減少し、入学者数も約26,000人から25,000人へと4%減少しております。
 企業の立場からは、学生にとって魅力のある強い産業を確立し、「ものづくり」が生きがいになるような社会観を作り上げていくことが責務であると考えております。
 また企業で求められることは、多様化かつ複雑化する知を融合して価値を産み出すことであります。そういう意味から、大学と産業界と共同で作成した教育プログラムに基づく産業界の講師による実戦的な講義を学部の学生を対象に設定したり、修士課程の学生に対しては大学における産学連携セミナーや企業内連携ラボにおける共同研究に参加する場を整備することも、将来産業界で活躍できる人材の育成につながるものと考えおります。

 このような産学連携を効果的に進める意味においても、各学部・学科の同窓会による交流に加えて東京大学学友会のホットラインやホームカミングデイでの共催イベント等を活用頂き、卒業生と在校生の時代を超えた幅広い人的ネットワークが構築されることを期待しております。
 本日は130年という長きにわたる東京大学の歴史を祝うと同時に、この集まりがこれからの東京大学への期待を大いに語り合える場となることを祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。



                                                         平成19年11月10日
                                                        東京大学学友会 副会長 佐々木 元