【開催レポート】「女子高校生のための東京大学説明会―リアル東大生や未来の東大生と交流しよう!―with 五神総長」

男女共同参画室では進学促進部会が中心となり、東大への進学を検討している女子高校生を対象とした説明会を実施しています。2020年度は、「女子高校生のための東京大学説明会―リアル東大生や未来の東大生と交流しよう!―with 五神総長」と題して10月11日に開催しました。

例年と異なるのは、全てオンラインでの開催としたことです。春先から続く新型コロナウイルス感染症の影響から、運営スタッフも含めて全員がリモートでの参加となりました。そのため、高校生がキャンパスに来なくても、東大のリアルをいかに伝えられるかがプログラムのポイントに。当日は五神真総長が女子高校生と直接交流するなど、女子学生支援の本気度を強く発信する構成としました。
 
女子高校生からは定員を上回る応募があり、抽選で合計70名を招待しました。首都圏だけでなく、青森や宮城、広島、佐賀など全国から参加があったのはオンラインならではといえます。彼女たちを迎えるのは、約20人の現役東大生たち。受付を済ませた高校生は10のグループに分かれ、ZOOMのブレイクアウトルームで待つ学生たちとおしゃべりをしながら開会を待ちます。


レポート:たなべやすこ

東大の学びと女子学生をバックアップする仕組みを解説

司会を務めたのは高大接続研究開発センター准教授の植阪友理先生。持ち前の親密さで場を明るく盛り上げます。


<当日のプログラム>



開会あいさつでは、本学のダイバーシティ担当で大学執行役・副学長の松木則夫先生から、女子学生が少ないことの課題に加え、「メディアの影響で東大=変わり者のイメージがあるかもしれませんが、素直でまじめな学生が集まっています。ぜひ東大に来て優れた教育内容に触れ、仲間たちと切磋琢磨してほしいと思います」と、女子を歓迎するメッセージを伝えました。
 
最初のプログラムは、進学促進部会⻑で教育学研究科教授の高橋美保先生による、女子学生の支援制度の解説です。東大と女性の歴史や多くの女性東大出身者が広く活躍していることに始まり、女子学生を対象とした奨学金制度や、住まいの支援制度、キャリア形成支援制度を取り上げ、安心してキャンパスライフを送れるように万全の体制にあることを紹介。同窓会によるバックアップする仕組みについても取り上げました。
 
高橋先生「高校生のみなさんは、人生におけるつぼみの状態です。どのように開花するかは、環境による影響が大きいもの。多彩で深い刺激を受けながら、ぜひ美しい花を咲かせてください」


<高橋先生から女子学生支援の説明>

現役東大生によるキャンパスライフ紹介

続いて現役女子東大生3名による発表です。前期課程と後期課程、そして大学院生と、それぞれの視点から自身の学生生活や、未来の後輩となる女子高校生へのメッセージをプレゼンしました。
 
■理科一類2年 稲田栞里さん
稲田さんは名古屋にある県立高校を卒業後、現役で東大に進学しました。さまざまな分野に関心があったため、進学選択制度に魅力を感じたのが東大をめざす決め手となりました。
 
稲田さん「入学当初は東京近郊の進学校を卒業した人と比べると、同級生や先輩とのネットワークが弱く心細く感じることもありましたが、地方から出てきた人同士で少しずつつながって、今では逆に地元の存在がアイデンティティになっていると感じます。
 
1年の頃は文系学部への転換も視野に入れながらも、生物化学やロボット工学などの研究にも興味が。研究室体験を通じて自身の視野を広げるうち、地球科学のスケール感に魅了され、現時点でいちばんわくわくする、理学部地球惑星環境学科への進学を決めました。
 
駒場キャンパスでは既にある“好き”を究めてもいいし、新たな“好き”を模索することもできる。学びや経験を通じて自身と向き合うのに、すばらしい環境です。みなさんも、ぜひ胸の高鳴りに耳を傾けてみてください。ベストな選択ができることを願っています。」


<稲田さんのプレゼン>



■教養学部学際科学科地理・空間コース4年 武沙佑美さん
武さんが東大進学を意識したのは、高校2年生の頃。学校の課題で東大のWebサイトを調べていたところ、『高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと』というページを見つけ、学びの姿勢に感銘を受けたのがきっかけでした。
 
武さん「書かれているような学び方のできる人になりたいと思い、それまで感じていた受験勉強に対するネガティブな印象が一変しました」
 
文科三類に入学し、3年次には教養学部の学際科学科 地理・空間コースに進学。課外活動では東京大学新聞の記者のほか、他大学のインカレサークルで趣味のバレエも続けています。武さんは自身の充実ぶりから、「巷の高学歴女性に対するネガティブなイメージを理由に東大を敬遠するのはもったいなさ過ぎる」と訴えかけました。さらに東大を知るのに役立つリンク集をつくり、参加者のみなさんにシェアしました。


<武さんのプレゼン>



■大学院教育学研究科 博士課程1年 内田奈緒さん
首都圏の中高一貫校から文科三類に進学した内田さんは、進学選択で教育学部の教育心理学コースに進み、その後大学院に。今年から博士課程に進みました。
入学した当初は、学びたいことがあまり明確ではなかったという内田さん。前半はテニスサークルに没頭の日々でしたが、認知科学や心理学系の授業を受けるうちに心理学に興味がわき、実践的な領域を扱う教育心理学の道に進むことにしました。教育現場での調査や実験を行う中で、内田さんは「個別学習相談」という小中学生へのカウンセリングを用いた研究に興味を持つように。
 
内田さん「私が中高生だった頃を振り返ると、効率的に勉強できていた一方で、周りから『変わったやり方だね』と言われることがありました。個別学習相談をしながら当時の自分を思い出したり、どうすれば多くの人がうまく学べるようになるのだろうと考えたりするうちに、どんどん研究に夢中になりました」
 
大学院に進学してからは、授業以外にも論文を読んで先行研究を理解したり、調査や実験をしたり、また学会や論文で発表したりなど、学び方が変わってくることを紹介。そしてこれまでを振り返り、将来の夢がすぐに見つからなかったとしても、何気なく疑問に思ったことや関心を持ったことを大切にすることで、道は開けるとアドバイスしました。



<内田さんのプレゼン>


 

後半も活気あふれる内容に

説明会は後半プログラムへ。五神総長のメッセージからスタートしました。高校生に向け、東大に興味を持ってくれたことの感謝と、東大で学ぶことによる経験の広がり、さらにはコロナ禍における学びまで、自身の体験を踏まえて語りました。特に、冒頭では総長から「東大は女子学生を歓迎している」という力強いメッセージが発信されました。
 
■五神総長のスピーチ(一部抜粋)
五神総長「東大の総長として世界のトップレベルの人たちと仕事をする機会に恵まれました。そうした人たちと仕事をする中で、おやっと思うことがあります。それは東大における女性比率の低さです。女子学生の割合現在の2割弱から増やすことを目標に、大学でもいろんな支援を続けていますが、横ばいの状況が続いています。大学運営の中核を担う役員については、私が総長になって以降、女性比率3割を達成しましたが、女子学生の割合については残念ながら改善していません。何より私が深刻に捉えているのは、この状況は世界から見ると、病的で異常なことなのだということです。「何かおかしいんじゃないの?」と、海外の大学からは指摘されるのです。女性にとって魅力的ではない環境では、世界から優秀な若者が来なくなってしまいます。男性にとっても、異常な比率で大学時代を過ごすことは、いいことではありません。女性をはじめとするダイバーシティの問題は、日本全体の課題です。それを変えるには、まず東大が変わっていく必要があります。そのカギを握るのは、今日参加されている高校生のみなさんです。東大は女子学生を歓迎しています。東大への進学を誇りに感じ、未来の東大をつくる仲間になってほしいと思っています。
 
東大には常に最先端でグローバルな教育体系が整っています。私自身、長く東大に身を置いていますが、ワクワクの連続で退屈することなど一度もありませんでした。今の時点では進路に迷いが生じている人もいるかもしれません。でも関心や興味は、きっかけひとつでいつでも変わります。私も物理の研究に身を投じるようになったのは、学生になってから先生方や友達と議論を重ねていく中で自然と定まったものです。ここで大事なことは、自ら扉を叩くことです。大学は高校とは違い、受け身で待っているだけでは通りすぎていってしまいます。何か知りたいことがあったら、先生のところへ押しかけてみてください。きっと喜んで、何時間も議論につき合ってくれるでしょう。
 
そして東大では今回のコロナ禍においても、学びを止めることはありませんでした。4月以降、5000コマ以上の講義をオンラインで実施したのです。Aセメスターからは実習授業も再開しています。手探りではありますが、私たちは学びを全力でサポートし続けています。
 
集まる人たちの能力の高さと元気さが、東大の最大の魅力です。そして感染症の流行はいつか収束するもの。明るい未来に向けて、前向きに進路を見出してもらえればと思います。」


<五神総長から女子高校生にメッセージ>



■高校生と現役東大生とのグループ交流
ここから、参加者の高校生と現役東大生がブレイクアウトルームに分かれ、少人数のグループで自由に交流を深めていきました。高校生からは、学生生活や進路の決め方、高校での過ごし方まで、様々な疑問を東大生に聞いていました。最初は様子を見ていた高校生も、途中から積極的に質問する姿が見られました。チャットが活用されていたのも、オンラインならではの展開でした。
 
高校生「上京して一人暮らしをするのは、大変ですか?」
東大生「最初は不安だったけど、寮生活では食事も出るし、住んでいる人同士でつながりができてよかったです。アパートに住んでいる人でも、自炊が苦手な人は学食を活用するなど工夫していますよ」
 
高校生「内部進学をする人が多い高校で、外部受験はほとんどいません。東大に行くのに、どうモチベーションを保てばいいと思いますか」
東大生「なぜ東大に行きたいのかという思いを明確にし、軸ができたら変わって来ました。あとは東大の地方出身者を応援するサークルによるメルマガに登録していました。勉強の仕方や東大の情報が紹介されていて、励みになりましたよ」
 
高校生「将来に向け英語を外部で学ぶなど、高校生のうちにやっておいたほうがいいことはありますか。部活など自分がやりたいこととどうバランスを図ればいいのでしょう?」
東大生「高校生には、高校生でなければできない経験がたくさんあります。英語を勉強したい! と特別な思いがあるなら別だけど、強迫観念からやりたいことを諦めてまでやることはないような気がします。専門的な学びは大学に入ってからも十分できますから」
東大生「やりたいことと、やるべきことでいったら、9:1でやりたいことかな。例えば数学オリンピックに出たいと思ったら、数学を猛勉強するでしょう? やりたいことに目を向けたら、自然とやるべきことにぶつかるものです。あとは苦手をつくらないことかな」
 
高校生の疑問に全力で応じる東大生たち。本音を交えたアドバイスを受け、高校生たちも心強く感じている様子でした。そして五神総長も、ブレイクアウトルームを回って高校生のナマの声に耳を傾けます。途中で総長自らが「東大の入試は難問が出るわけではありません。教科書の内容を、きちんと誰かに説明できるくらいに深く理解できているかがとても大切です。そうした学び方は、東大に進学するに限らず他の場でも役に立つと思いますよ」と、学習のコツをアドバイスする場面も見受けられました。
 

高校生から五神総長への質問

グループ交流を終え、再び全体セッションに戻ったところで質問タイムに。説明会申込時に回答いただいた質問をまとめ、一部に対し五神総長がコメントしました。ここでも総長の熱い想いが溢れる回答となりました。

 
■五神総長のコメント(一部抜粋)
五神総長「東大は、外部からさまざまな相談を持ちかけられます。ほとんどの課題に対し、関連する分野の研究を提供できるだけの広さと奥深さがあります。世の中は大きく変化して、課題はより複雑化しています。その中で新しい問題への解を見出すには、いろいろな引き出しがあることが重要です。研究競争が過熱し、効率化が問われていますが、何より重要な研究の多様さについてはこれからも大切にしていきます。
 
学びは常に進化し続けます。総長になってから歴史学の先生の話を聞く機会がありましたが、高校で歴史の授業で教わった印象とは全く違いました。歴史学は進化し続けている、現代から見る歴史には常に新たな発見があるということを知りました。単に過去の事実をたどっていくという静的な学問というわけではなく、とてもクリエイティブな学問だと気づき、歴史学のその本質をもっと早く知っておけば、物理学者ではなく歴史学者になっていたかもしれないと思いました。
 
高校生のうちは、受験を突破することだけが目標となりがちです。けれども本来は、学びの基礎を身につける時期です。テクニックに走るのではなく、自身の納得のいく勉強の仕方を自分で探しながら身につけてほしいと思います。ひとつ言えるのは、英語の重要性です。高校の時に学んでいた基礎的な構文や文法などは、総長になったいまでも、すごく役立っています。今はインターネットにより、海外の情報をリアルタイムに受け取れる時代です。いろいろなやり方で生の英語を学ぶことができますし、それによって確実に世界が広がります。
 
勉強は能動的な姿勢を失わなければ、いつからでも始められます。学びの道すじは一つとは限りません。ぜひ積極的に自分らしいルートを見つけてください。」
 
五神総長の力強いメッセージで締めくくる形で、全体プログラムは終了。その後、質問のある高校生には個別に対応する形をとり、熱気はそのまま、東大生の親身なアドバイスが続きました。
 

<当日ご紹介した、東京大学をもっと知るための情報>

 ・基本情報は東京大学ホームページ
入学案内 入試関連、入学料、授業料、留学に関すること など
 https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/admissions/index.html
・女子学生支援に関して 東京大学男女共同参画室HP
 https://www.u-tokyo.ac.jp/kyodo-sankaku/ja/index.html
・高校生・受験生が東京大学をもっと知るためのサイト キミの東大
 https://kimino.ct.u-tokyo.ac.jp/


<2019年のオープンキャンパスの様子>




<チャットも活用しながら現役東大生からたくさんのアドバイス>