【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2021 女子中高生のための東大工学部紹介「Tech Girl Meetup 2021」イベントレポート

 


 

中高生のみなさん!大学でどんな分野を学びたいか、考えたことはありますか?なんとなく大学に行きたいと考えていても、自分がどんなことを学ぶのかをイメージするのは難しいですよね…。

そこで、今回は東京大学で学生数が多い学部の一つである「工学部」について紹介したいと思います。中高生のみなさんにはあまり馴染みがないかもしれない「工学」という分野ですが、意外にも研究対象は私たちの身近なところに潜んでいるようです…!

7月10日にオンラインで開催された「Tech Girl Meetup 2021」というイベントでは、全国から参加してくれた約230名の女子中高生に向けて、工学部や東大での研究生活についての紹介が行われました。経済学部に所属する筆者も、工学部の魅力を楽しめるイベント内容だったので、文系の方や工学初心者さんでも大丈夫!このレポートでイベントをおさらいし、東大工学部をのぞき見してみましょう♪

2021.07.10
リポート/学生ライター
徳永紗彩(経済学部4年)

1.挨拶(大学院工学系研究科長・工学部長 染谷隆夫先生)

はじめに、大学院工学系研究科長・工学部長の染谷隆夫先生から、工学という学問の特徴についてお話がありました。工学とは、数学や自然科学を基礎としながら、時には人文学や社会科学の知見を使って、人々を幸せにする新しいモノやコトを作り出す学問体系。例えば、私たちの生活に欠かせないスマホを作り出す技術や知識も工学の範囲です。

現代における社会課題は、高齢化、格差や貧困、気候変動による自然災害の大規模化、新型コロナウイルス感染症の長期化など、複雑さや困難さを増しています。社会の様々な問題が同時多発的に発生し、私たちの想像を超えるスピードで状況が変化していく中で、これらの問題を乗り越え、未来を切り拓いていくためには、多様な価値観や専門性を持った仲間が集まり、お互いを尊重しながら協力することが何よりも大切です。

このような時代では、どの分野の職に就くとしても、工学を学んだ人材が広く求められるようになっています。

2.趣旨説明(工学系男女共同参画委員会委員長 石坂香子先生)

続いて、工学系男女共同参画委員会委員長の石坂香子先生が、工学部の魅力を紹介しました。東大では工学部の中に16もの学科があり、様々な分野をカバーしているそうです…!

石坂先生が思う工学部のオススメポイントは、「価値観や産業・社会構造の揺らぎが大きい時代をパワフルに生き抜く基礎体力がつく」ということ。工学は、STEM(科学・技術・工学・数学)の一つ。これらの学問分野を学ぶことにより、本質を見抜く力や柔軟に考える力、データやエビデンスを活用する力を身につけることができるため、社会的にも重要視されてきています。

そして、「幅広い分野や業種で活躍できる」こともオススメポイントの一つ。産業界からも優秀なSTEM女性人材への期待が高まっていて、OGの方は、ロボットなどのものづくりに関わる仕事をはじめ、法曹界や省庁、パイロットなど様々な分野で活躍されているそうです。このように幅広い分野で活躍する人たちと出会えるのも工学部の魅力です。

では、実際に工学部で研究をしている3名の方にお話を伺ってみましょう!

3.講演1「世の中の”困った”を解決する数学」 計数工学科 武田朗子先生

1つ目の講演をするのは、計数工学科教授の武田朗子先生。計数工学科は、「基礎数学を実世界の問題と結びつける力を養成する学科」のこと。「手段」が研究対象だからこそ、その応用分野は多岐に渡っていました…!

武田先生の研究では”数理最適化”という手法を用いて、世の中の「困った」を解決しているそうです。数理最適化とは、目的を達成するための最善の手を見つけること。例えば、みなさんも使ったことがある便利な乗り換え案内アプリ。これには「最も短い時間で目的の駅に行くためには、どの経路を選べば良いのか」という数理最適化の手法が隠れていたのです…!他にもコンピュータ囲碁・将棋の最善手、実はこれも数理最適化の応用例!武田先生の研究結果は、電力需要の予測や糖尿病の診断、資産配分など、本当に多様な分野で応用されているそうです。
  • 工学部[1]

実は高校でも習っている?

このように社会で使われている数理最適化ですが、実は、高校でも習います!数学の「領域における最大・最小」の問題。これも、「ある条件下での最大値や最小値を求める」という点で数理最適化の基礎的な問題の一つです。受験勉強で接する数学の問題が、一気に実社会との繋がりを持つものとして見えてきますね!
 
  • 工学部[2]

そもそもなぜ計数工学科へ?

武田先生はなぜ理系、そして計数工学科へ進学したのでしょうか。実は高校生の頃は自分の興味が何か分からず、ただ漠然と「数学が役に立ちそう」と感じていたようです。しかし振り返ると、中学生の時に今の研究に繋がる出来事があったそう。

武田先生は中学生の頃、映画好きの母親がビデオテープに録画した映画をよく一緒に観ていました。母親は135分の映画をできるだけ良い画質で容量が120分のビデオテープに録画するために、最後の方で少し画質の落ちる3倍録画に切り替えていました。しかし、切り替えのタイミングを間違えてしまうと映画が最後まで録画されず途中で終わってしまうことも…。切り替えのタイミングを失敗し、結末のわからない映画を見るのを何度も経験した武田先生は、簡単な方程式を立て、いつ3倍録画に切り替えるべきかを母親に教えたところ、とても喜んでもらえたそうです。

このような経験が「使える数学」「問題解決のための数学」という関心へと繋がったのかもしれないと武田先生は言います。

 

4.講演2「建築ってどんなことするの?」 建築学科4年 長野歌穂さん

続いて、東京大学工学部建築学科4年の長野歌穂さんが、建築学科に入った理由や学生生活の魅力を教えてくれました。

建築学科ってどんなところ?

建築学科は、建築に関するさまざまな要素を包括的に勉強する学科。以下の図のように、建築は様々な要素から成り立っています。これらの要素が互いに切り離されることなく、関係しあっている点が興味深いと長野さんは語っていました。
  • 工学部[3]

なぜ建築学科を選んだの?

高校生の頃からぼんやりと建築学科を目指していた長野さん。建築に興味を持ったのは、幼い頃に好きだったシルバニアファミリーがきっかけだそう。小さな世界の中で空間やキャラクター同士の関わりを考えるのが好きで、小学校高学年からは、インテリアに興味を持ち、雑貨屋巡りなどを楽しんでいたそうです。自分の身近な興味や、純粋に「好き」という気持ちから、進みたい道を考えている姿勢が印象的ですね。

建築学科での大学生活ってどんな感じ?

まずは、建築学科で印象的だった授業を3つ紹介してくれました。

1つ目は、さまざまな建物や工事現場を訪れ、その場で教員が専門的な知識を教えてくれる授業。高層ビルの解体工事の現場や日本銀行の本店などを見学でき、貴重な経験となったそうです。
2つ目は、自宅でのコンクリート実習。新型コロナウイルス感染症の影響で、オンライン授業が中心になりましたが、先生が授業方法を工夫し、学生の自宅にキットを送り、各自が家でコンクリートを作るという実習を行ったそうです。
3つ目が、建築学科の特徴ともいえる設計の授業。与えられたテーマ・敷地に合わせて建築を考え、図面や模型を用いて発表するそうです。

授業以外にも建築学科ならではの楽しさが。学科には建築が好きな人が多く、一緒に建築巡りができる友人ができたことが嬉しいと話していました。

工学部の魅力とは?

建築に限らず、社会を支える様々な技術を学ぶことができるのが工学部の魅力だと語る長野さん。もともと建築のほかに福祉の分野にも興味があったため、福祉施設を対象にしているゼミに所属し、障害者施設などの研究を行っているそうです。建築を通して、困っている人の課題を解決できることに魅力を感じると話していました。
 

5.講演3「化学から広がる世界」応用化学専攻修士1年 海老原梨沙さん

続いては、東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻修士1年の海老原梨沙さんの講演です。講演2人目の長野さんは学部生ですが、海老原さんは大学院修士課程の学生。そのため、進路を選んだ理由に加え、研究生活についても詳しく紹介してくれました。

なぜ東京大学に?

高校生までは勉強したいことが明確に決まっていなかったという海老原さん。東大に惹かれたのは、進学選択制度※があり、大学入学後にも選択肢を広げることができると感じたからだそうです。

※進学選択制度とは、大学1,2年生までは教養学部に所属して文理や専門を問わず様々な授業を取ることができ、3年生から各学部に分かれていく制度のこと。実際に筆者の周りにも、学部を選ぶ際、文系から理系、理系から文系に進路を変えている友人もいました。

なぜ応用化学科に?

大学入学後、授業や実験を通じて、化学が楽しい、座学よりも実験の方が向いていると感じたこと、化学は日々の生活と隣り合わせなので、社会貢献に繋がるんじゃないかという考えから応用化学科を選んだそうです。実際に大学で授業を受けたあとで専門的に学ぶ分野を決めることができる進学選択制度のメリットが上手く活かされていますね。

どんなことを研究しているの?

大学3年生から研究室に所属し、「自己組織化」と呼ばれる新しいものづくりを研究しているそうです。海老原さんの研究する自己組織化とは、分子同士を混ぜるだけでひとりでに複雑な分子構造が組み上がる現象のこと。少し難しいですが、構造の部品となる分子の組み合わせ方や、その分子を入れる空間の形状によって、安定する構造が変わります。それぞれの部品が安定さを求めて集まってきたときにできる構造を考えるのが、自己組織化を使ったものづくりだそうです。

例えば、以下の図では、黄色の分子を内部空間の狭い八面体の中に入れると、構造がねじれて、紫色の分子になっています。このように、自己組織化を使うと、分子の構造や性質を変えたり、普通は起こらない化学反応を起こしたりすることができます。
  • 工学部[4]

海老原さんは、自己組織化を活用し、球の中にタンパク質を包接して、タンパク質の構造を解析したり、高温では失活してしまうタンパク質を安定化させたりする研究を行っているそうです。

研究生活ってどんな感じ?

研究は朝の9時から19時までで、実験や測定のほか、発表のための資料作りや発表会などを行っています。研究の合間には学会へ参加したり、スポーツ大会のようなイベントも開催されたりしますが、土日は基本的に休みです。大学院修了後の進路としては、修士を修了して化学メーカーに進む人が多いそうですが、海老原さん自身は、今の研究にやりがいを感じていて博士課程への進学を考えているそうです。

最後に海老原さんからメッセージ
「大学は中高に比べて世界が広がり、やりたいことはなんでもできる環境になります。受験勉強など大変かと思いますが、大学で何がやりたいかを考えて、それをモチベーションにして頑張ってください!」

6.談話会

講演会の後には、ブレイクアウトルームに分かれて、参加してくれた中⾼⽣の質問に教員と学⽣TAが答えました。いくつかの質問と回答をご紹介するのでぜひ参考にしてみてください♪

Q.勉強と息抜きの切り替えは?
切り替えは環境から変えるのがおすすめ!ついつい触ってしまいがちなスマホはカバンの底に入れたり、そもそも勉強する場所に持って行かないようにしたり。また、息抜きするときはきちんと時間を設定してから休むと良いと思います!

Q.文理選択は得意と興味、どちらを優先した?
自分がこれから学ぶものに関して興味を持てることが一番なので、興味を優先して大丈夫です。受験勉強に関していえば、違う分野が得意(文系なのに数学が得意、理系なのに国語が得意)ということは不利にはならず、むしろ有利に働くと思います。

Q.特に興味がある分野が見つかっていないけど大丈夫…?
大丈夫です!私(回答者)も興味がはっきりと決まっていなかったのですが、勉強や授業を通じて面白さを学ぶことができました。勉強したり、その分野に面白さを感じて研究をしている先生の話を聞いたりしていると、後から興味が広がってくるのを感じています。

Q.理系だけど、経済学・社会学にも興味がある。
システム工学・技術経営・機械工学など、モノづくりの効率化などで社会と連携している分野がおすすめです。解析や予測など、理系的な思考で社会をどう形作っていくかを研究していくことができます。

Q.研究活動とサークル活動の両立はできる?
できます!研究活動もサークル活動も忙しさに波があるので、サークルが忙しい時は研究を抑えて、研究が忙しい時はサークルを休むなど、バランスを調整することが両立のコツです。



いかがでしたか?工学部の中でも様々な分野があり、自分の興味にあった分野を選んで研究を進められていることが伝わってきましたね!特に、みなさん研究結果を現実社会の課題解決に活かしていくことを重視している点が印象的でした。このレポートを読んでくれた中高生の皆さんが、工学部に興味を持ち、自分は何に興味があるのかを少し立ち止まって考えてみてくれたら幸いです。

最後まで読んでくださりありがとうございました。