【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2021 「農学系女子最前線」イベントレポート

 

農学系ポスター

2021年7月10日(土)・11日(日)に「高校生のための東京大学オープンキャンパス2021」がオンラインで開催されました。ここでは7月11日に開催された、農学部OGによる女子中高生向け講演会『農学系女子最前線』の様子をレポートします。


2021.7.11
リポート/学生ライター
南井まり佳(総合文化研究科修士1年)
 

1.ここでしか聞けない ”生”の声

夏休みもあっという間に終わり。
中高生の皆さんは自分の将来について考える時期かもしれません。

東大には興味あるけど、実際のところどうなの?って思うことありませんか。
”生”の情報を得るには、卒業生や現役学生から話を聞くのが一番です。

東京大学では毎年、高校生に向けたオープンキャンパスを開催しています(2020年からはオンラインでの開催となっています)。その企画のひとつとして、東大農学部OG 3名の講演会「農学系女子最前線」が行われ、214名が参加しました。

2.東大農学部ってどんなところ?

どんなところ?

まずは農学部ダイバーシティ推進室室長 田野井教授から農学部についての紹介です。
農学部には約100の研究室があります。
基礎研究はもちろん、食品や化粧品への応用研究、さらに学問領域をまたぐ研究もあります。

100の研究室があります


農学部の学生の男女比は3:1ですが、学部卒業後の進路に男女差はありません。
学部学生の進路
院生の進路

3.農学系OGのあゆみ

続いて、農学系OG の皆さんに自身の進路について語っていただきました。

[1] 追い求めた魚研究を実現 農学生命科学研究科助教 井ノ口 繭さん

井ノ口さん 井ノ口 繭さん(水圏生物科学専攻 博士課程修了)

(1) なぜ東大に進学したか
中学生の時ダイビングを体験し、魚の研究者を志す。一度は他大学に進学するも、東大での魚研究が諦めきれず、再度受験し東大理科二類に合格。
 
(2) 魚の研究
水圏生物科学専攻で、魚がどのように塩分環境に適応しているかを研究。「なぜお刺身は塩辛くないのか」といった身近な疑問から、水産業における課題、さらに地球温暖化や海洋酸性化などの環境問題にまで役立てることができる。
 
(3) 修士課程在学中に結婚、博士課程在学中に出産
学生結婚は大変そうというイメージを持たれるが、意外と在学中に結婚する人はいるし、なんとかなる。学生は学費を払っている立場なので、後ろめたさを感じることなく育児のために休暇を取り、マイペースに子育てと研究を両立させることができた。ハワイで研究者かつ母親として生活した時期も。
 

中高生へのメッセージ
新しいことを始めるにあたって不安になったら、周りの声や常識ではなく、「自分は何がしたいのか」に耳を傾ける時間を作ることが大切だと思います。

[2]銀行に勤めながらアメリカへ留学中 落 香織さん

落さん 落 香織さん(農業・資源経済学専修 学部卒業)

(1) なぜ東大に進学したか
「社会の役に立てる職に就きたい」という軸はあったが、やりたいことが決まっていなかった。だからこそ、進学振り分け制度(現在は進学選択制度)のある東大へ。前期課程(教養学部)で2年間幅広い学問について知った上で学部を選択できることに魅力を感じた。
 
(2) 農学部から日本銀行へ
農学部には農業・資源経済学専修という文理両方の知識を駆使する研究分野があり、ここで社会の仕組みに広く興味を持ち、日本銀行へ就職。フィールドワークの経験や理系の知識が役に立っている。
 
(3) なぜ学び直しているか
英語力・国際的な視点・政策実行についての学びを得るため、ハーバード大学の修士課程に進学。「インドの農村の女学生の就学率を上げるには?」「メキシコの貧困層に効率的にお金を届けるには?」といったテーマについて勉強中。
 

中高生へのメッセージ
今やりたいことが漠然としていても、これから見つけるチャンスはあります。自分の中に軸を持っておくと選択しやすいと思います。

[3]アフリカで開発コンサルタント 城宝 由紀子さん

城宝 由紀子さん 城宝 由紀子さん(生物・環境工学専攻 博士課程修了)

(1) なぜ東大に進学したか
中学でエボラ出血熱に興味を持ち、エボラの研究者を志す。高校では陸上部に所属し日々練習に励んだ。引退後に猛勉強し、後期入試で東大理科II類に合格。
 
(2) 東大からアフリカに行くまで
学部後期課程で生物・環境工学専修に進学し、修士課程でイネの研究をするうちにアフリカへの思いが蘇る。教授の紹介で博士課程からギニアでのイネ研究に加わることに。
 
(3) 開発コンサルタントとして
博士課程の3年間をギニアで過ごした縁で、在ギニア日本国大使館にて専門調査員として勤務。その後日本工営株式会社に就職、開発コンサルタントとして働いている。開発途上国に住む人々の生活水準向上のため、農業技術を伝えるなどの支援を行う。
 

中高生へのメッセージ
希望通りに行かなくても後悔しないために精一杯やることが大切だと思います。やりたいことは熱意を持って周囲に伝えると、人との縁が人生の転機につながることも。

4.卒業生・在学生に聞いてみた!

ここからは現役の農学部学生2名が加わります。参加者の皆さんにもリアルタイムでアンケートに回答していただきながらお話しします。
・岩切 鮎佳さん(森林科学専攻 博士1年)
・坂田 柚子香さん(獣医学専修 学部6年)
 

[1]受験大学を決めていますか?

———決めている、迷っている、まだ決めていない、それぞれ30%くらい。みなさんはいつ受験大学を決めましたか?
 

井ノ口「中学生の時に魚に興味を持って、高校生の時に東大農学部に行きたいって思っていました」

落「最終的に決めたのは高校3年生の最初の頃でした。やりたいことが決まっていなかったので、東京大学という日本でも有数の環境に身を置いてみようと思いました」

城宝「第一志望は京都大学でしたが、受験科目が似ていたこともあり、東京大学も視野に入れていました」

岩切「高校1年生の時で、生物の勉強がしたいけど具体的に何がしたいっていうのがなかったので、入ってから選べる東大に行きたいと思いました」

坂田「割と高校の最初の頃から獣医学科に行きたいなと思っていて、選択肢が少ない中で高校2~3年生の時に東大にしようと決めました」

→ 早い時期から東大に決めている人もいれば、決めていないからこそ東大を選んだという人もいる

 

[2]どの科目が得意ですか?(複数選択可)

———英語が最多、続いて国語や数学が多く、物理は最少。みなさんの得意科目を教えてください。

井ノ口「生物より物理が好きだったので物理を選択したんですけど。ただ、生物は大学入ってからでも学べます」

落「物理・化学って経済学と似ているところがあって、現象をモデルで表して構造を理解しようという学問。苦手ではありましたが、その考え方が今の仕事に役立っていると思います」

城宝「生物は直接役に立っています。東大は試験科目に国語があるので、数学が苦手な人にとってはメリットかなと思っています。」

岩切「むしろ英語の方が得意だったかなというのはあります。受験が終わると忘れちゃうので、今も思い出しながら勉強しています」

坂田「受験科目の中では生物が活きていますが、必修で基礎からやり直す授業もあるので、学び直すこともあります」

→ 高校の勉強は基礎として、農学部に入ってからどれだけ勉強するかの方が重要

 

[3] 農学部に進学したら、大学院まで進学したいか?学部卒業後に就職したいか?

———学部で卒業が20%、大学院進学が40%、未定が50%くらい。

井ノ口「私の場合は魚の研究がしたかったので、最初から大学院への進学を決めていました」

落「早く実践を積んだ方が自分のやりたいことを実現できると思って、学部で卒業しました。就職して経験を積んでみて初めて自分に足りないところがわかったので、今大学院に進んでいます」

城宝「研究者ではなく開発コンサルタントになるには必ずしも必要ではなかったんですけども、信頼につながるという意味では大学院に進学していて良かったなと実感しています」

岩切「東大って研究を始めるのが学部4年生頃なので、もう少し研究したいなと思い、修士課程に進学すると早い段階で決めてました。さらに博士課程までと決めたのは4年生の研究を始めて楽しいなって思ってからです」

坂田「私は獣医学部なので修士課程まで進むことに選択の余地はなかったんですが、その後は就職を選択しました。研究というよりは早く社会に出たいという思いがあったので」

→ かなり早い段階から大学院への進学を検討している人が農学部には多い

5.参加者の声

農学部と聞いて感じるイメージが大分変わった

まだ進路について迷っているので、ひとつの選択肢として農学部のことを知れて良かった

職業選択の幅広さに驚いた

卒業後のその先は調べてもよくわからなかったので、直接聞けてよかった

求めている環境を見つけることができたので、受験勉強を頑張ろうと思った!

今まで東大って怖い印象があったけど、ちょっと東大も面白そうだなって思えた

物理と生物の選択について広い視野からのアドバイスを聞くことができた

苦手科目も聞けて、少し親近感が湧いた

6.農学部から多様なキャリアパスへ

今回お話ししてくださった方々には「東大農学部」という共通点がありますが、入学までの過程や卒業後の進路は様々でした。
このイベントを通して、農学部は多様なキャリアパスにつながっているということが伝わったのではないでしょうか。
中高生の皆さんにとって、この記事が将来を考えるきっかけやヒントになれば幸いです。


7.関連リンク

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/