【Campus Voice】「UTokyo Women 研究者ネットワークを作ろう!2021」イベントレポート


2022年2月24日(木)、東京大学男女共同参画室主催で『UTokyo Women 研究者ネットワークを作ろう!』が開催されました。こちらのイベントは、女性研究者のキャリア形成及びネットワーク形成支援を目的に、2014年度から開催されており、教育研究とライフイベントの両立について考える場となっています。今年度も昨年に引き続きオンラインで開催され、活発な議論が行われました。

2022.2.24
リポート/学生ライター
向井小夏(教養学部2年)

当日のスケジュール

13:30 開会挨拶
13:35 対談『キャリア構築とライフイベントとの両立』
13:55 グループディスカッション
14:35 全体会
14:55 閉会挨拶

開会挨拶(林香里 理事・副学長)

林香里 理事・副学長から開会の挨拶をいただきました。東京大学の中心的理念になったダイバーシティ。すぐに現状を変えることは難しくても、このイベントを通して今どこに課題があるのか情報交換を行うことが、改革の第一歩になるだろうとのお話でした。

また、このイベントに対しては、さまざまな悩みや不安を共有し、誰も1人にしないネットワークが形成されることへの期待も寄せられました。

対談「キャリア構築とライフイベントとの両立」

林香里 理事・副学長×秋元文 工学系研究科准教授
インタビュアー:田野井慶太朗 農学生命科学研究科教授

ご自身の人生を振り返って、キャリア構築とライフイベントについて

田野井先生:まずは秋元先生と林先生がどのようにキャリア構築とライフイベントを両立してこられたのか、またどのような悩みを抱えておられたのか、お聞きしたいと思います。

秋元先生:2度の妊娠・出産を経て研究を続けてきました。第二子の産休中に東大の准教授になりました。
初期の悩みとしては、妊娠中は有機溶媒を使う実験ができず、研究が全てストップしてしまったことです。将来が全く見えないと思っていた時期もありました。

今でも悩み続けていることとしては、学会参加を含めた海外経験の少なさ、そして同年代の方と比べて研究が思うようなペースで進んでいないという焦りがあります。女子枠で入ったという思いから来る自信のなさ、出産育児と仕事を両立しようとする上で、同僚と家族に対するダブルの負い目を常に感じていました。ただ、そういった面は年齢とともに克服しつつあるのかなというところです。

林先生:秋元先生のお話をお聞きして、自分が子育てをしていた頃と女性の悩みが何も変わっていないということに激しいショックを感じました。

私も海外出張の時には、自分がいない間の子どもの着替えから食事まで全てを準備し、玄関のドアを開ける時にはヘトヘトだったという経験があります。今となってはそこまでする必要はなかったかもしれないと思いますが、当時はすごく気負っていて、子供を置き去りにすることに負い目を感じていました。同僚に対しても、育児に時間が割かれることへの負い目と、負けたくないという気持ちの両方があって、葛藤を抱えていました。

30年経った今では、そういった負い目や自信のなさは感じる必要がないと思いますし、それを克服してもらうためにも周りがしっかりとサポートしなければならないと思っています。

研究を進める上で工夫していたこと

田野井先生:時間がない中で試行錯誤して研究を進めるのは難しかったと思います。工夫したことなどを教えてください。

秋元先生:効率良く物事を進めるために、自分の長所と短所を洗い出して、優先すべき事項を抽出していました。若手のうちに実験ができない状況で、中期長期的な展開を諦めないためにどうすれば良いかを考えていました。新しい戦略を考えないと、この先やっていくことは不可能でした。

限られたリソースの中で、私は研究の独自性を優先し、自分自身による実験の成功や若手時代の業績数、海外留学と積極的な学会活動は諦めざるを得ませんでした。若手時代は研究テーマの作成と立ち上げに専念し、研究の独自性を追究しました。
 

ただ、子育ては仕事の足枷にしかならないという考え方は違うのかなと思っています。私自身、妊娠出産を機に発生生物学に興味を持ち、新たなプロジェクトをスタートしようとしているところです。同様に、仕事も必ずしも子育てに悪影響を与えるわけではなく、親が勉強する背中を子どもに見せ続けられることは、子育てをする上でも意味のあることなのではないかと思います。

私は仕事と子育てを両立しているイメージはなく、限られたリソースの中でやれることを選択し、両者の良いとこ取りをしているような感覚を持っています。大変なことだからこそ挑戦する価値があるのだと思っています。また、同様な境遇の人、同年代の人たちとの繋がりが自分の精神的負担を減らす上で重要だったのかなと思いました。

田野井先生:業績数を諦めて独自性を追究することは、実際にはどのような経過を辿りましたか。

秋元先生:まずこのやり方は、任期が長いポストが与えられたからこそできたことだと思っています。
まだわかりませんが、少しずつしか進んでいかないように思える研究でも、いつかは変曲点を迎えて急進していくというのを信じてやっています。

モチベーションの保ち方

田野井先生:困難な状況も多かったと思います。お二人はどのようにモチベーションを保ってこられたのですか。

秋元先生:仕事を辞めないと体力的にも精神的にも無理だと思ったことは何回かあります。ただ、真剣に辞めるべきか検討していると、やはり続けたいという気持ちが湧いてきて、自分のモチベーションが確認できました。

 

林先生:私も辞めないと無理だと思ったことが何百回もあります。ただ、家でご飯を作ったり、子供を寝かしつけたりする時に、仕事をする自分がいるからこそ子育てする自分があるのだと、仕事をすることを割とポジティブに捉えられました。仕事と子育て、どちらも欠かすことのできない、自分自身を形作るものだと思います。
また、子育てを経験したことで、自分1人で全てをこなせると思っていたのは間違っていたのだと痛感しました。個人の力は小さいのだから、自分1人でなんでも解決しようとせずに、協力してやっていく必要があるということを、身をもって学びました。

グループディスカッション・全体会

ファシリテーター:熊田亜紀子 ポジティブ・アクション推進部会長

1グループ4名前後のブレイクアウトルームに分かれて、以下のようなテーマについてディスカッションが行われました。

・研究活動と育児・介護等の両立について
・時間捻出の方法
・モチベーションの保ち方
・学内外の支援制度の活用術
・キャリア形成全般
・研究者のネットワーク構築
・大学の男女共同参画/ダイバーシティ推進

ブレイクアウトルームでは、実際に妊娠・出産を経験された方、男性の方、学生の方、研究員の方など、幅広い層の方がそれぞれの視点から意見を述べられていました。どのグループでも、悩みや不安に共感の声が上がったり、大学に求めることについて自身の体験を基にお話しされたりと、活発な意見交換が行われていました。
少人数グループでの意見交換の後、各グループで出た意見を全体で共有する全体会が行われました。そこで出た意見をいくつか紹介させていただきます。

「ライフイベントとキャリアの両立で悩む人々の情報共有のネットワークが少ない。」
「子育てと仕事を両立しているのはスーパーウーマンばかりで、自分自身の参考になるようなロールモデルがなかなかいない。」
「子育てに関する施策を作成する際に、子育てが終わった女性がそのチームに参画し、当事者の声が反映されるようにしてほしい。」
「子育てと仕事を両立しようとしている女性に対して、非常勤でも良いので、研究を続ける道を残してほしい。」
「出産・子育てをしようと思うと、任期が1、2年のポストはきつい。着任してすぐに次のポストを考えないといけない。」

大学における制度の問題から日常生活での細かな問題まで、さまざまな意見が出ました。このような情報交換、意見交換の場があることによって、同じようなことで悩んでいる人がいるのだと知り、少しでも気が楽になる、小さな意見を埋もれさせないように大きな声にしていき、現状を変える力になる、というように、物事が少しずつ良い方向へ向かっていくのではないかと思いました。

​閉会挨拶(吉江尚子 男女共同参画室長)

イベントの最後に、吉江尚子 男女共同参画室長から閉会の挨拶をいただきました。
このイベントでの出会いを今日で終わらせずに、今後に繋いでいってほしいとのメッセージを送られました。