【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2022「看護学って理系?文系?―リケジョの力を活かす看護科学!―」イベントレポート


新型コロナウイルスが猛威を振るう中、私たちの命と健康を守るために働く医療従事者に憧れや尊敬の念を持つ学生さんも増えてきているのではないでしょうか。この夏、高校生のためのオープンキャンパスの一環として、「看護学って理系?文系?リケジョの力を活かす看護科学!」というテーマでイベントが行われました。

本イベントでは、医学部健康総合科学科看護科学専修の教員・卒業生をお招きして、キャリアや現在の研究内容についてうかがいました。新型コロナウイルスの感染拡大の状況を鑑み、今年度もオンラインでの開催となりました。

2022.8.4
リポート/学生ライター
犬丸わかな(医学部3年)

健康総合科学科 看護学専修の紹介


医学部健康総合科学科には、環境生命科学、公共健康科学、看護科学の3つの専修があり、医療、保健、看護など様々な分野について勉強することができます。その中でも、特に看護科学専修について今回はお話いただきました。

なぜ東京大学で看護なの?

東京大学で看護学を学ぶことの魅力は何なのでしょうか。専門学校や医療系の大学と比較したとき、最大の魅力は東京大学が総合大学であることです。ひとや人々の健康の実現に取り組むには、生命、身体、生活社会、環境など、さまざまな視点で人や集団の健康問題をとらえる知識が必要です。

駒場キャンパスの前期教養課程では、リベラルアーツ教育を受けられ、広い視野と総合的な基礎学力、国際性、開拓者精神をはぐくむことができます。また、後期課程では、3つの専修が提供する講義、演習、実習を通じて多角的に健康について学ぶことができます。様々な分野の学問に触れる機会と専門性を身につける機会、その両方があるのは、東京大学ならではの魅力です。

卒業後の将来は?

東京大学の看護科学専修には、65年の長い歴史があります。臨床現場、研究室、学会、省庁、政界など様々な場所で、数多くの優秀な卒業生が活躍しています。看護師資格や専門知識の需要は高く、様々な働き方があるので、結婚・出産などのライフイベントと仕事を両立することもできます。

Global Nursing Research Centerってどんな場所?


Global Nursing Research Centerは、2017年に設立された異分野を融合した研究施設です。認知機能障害を持つ高齢者のためのコミュニケーションロボットの開発、褥瘡を防いでくれるロボティックマットレスやベッド型マッサージ器の開発、エコーでの膀胱内尿量自動計測、カテーテルの走行の可視化など様々な研究が行われています。どの研究も最新のテクノロジーを応用することで、臨床現場での問題解決に取り組んでいます。また、海外の看護研究者たちを迎え、様々なセミナーを行うなど、グローバルに発信をしています。
 

研究って何をすること?(米澤先生)

米澤先生は、東京大学在学中に看護師と助産師の資格を取られ、卒業後は助産師として臨床現場で働いていました。(助産師とは、妊婦健診、妊娠中の保健指導、分娩介助などを行う国家資格が必要な職業です。) 病院で働く中で、科学的根拠のある説明ができなかったり、先輩によって言うことが違ったりすることに疑念を抱き、大学院への進学を決意。そこから研究をはじめました。

現在、米澤先生は赤ちゃんのスキンケアに関する研究をしています。
赤ちゃんの肌を保湿したほうがいいのかどうかを調べたいとき、みなさんならどの方法が一番良いと考えますか?
 
[1]保湿剤を塗ってみて、塗る前と比べる(介入実験・前後比較)
[2]肌の調子のいい子たちに、保湿剤を塗っていたか聞く。(観察研究)
[3]保湿剤を塗るグループと塗らないグループに分かれてもらって比べる。(介入実験・群間比較)
 
研究には、このように様々な方法がありますが、注意しなければならないのは「バイアス」が生じないことです。たとえば、[2]のような方法を取る場合、肌の調子のいい子は、遺伝など他の要素により肌が強い可能性があり、純粋に保湿の有無が結果の差を生むのかがわかりにくくなってしまいます。この場合でいう「遺伝的要素」のように研究対象の因果関係を不明瞭にする要素をバイアスと呼びます。また、「何を持って肌が強い」と定義し計測するのか、どのようにして被験者の赤ちゃんを集めるのかなど、研究を行う上ではテーマ以外にも考えるべきことがたくさんあります。
 

看護学の研究は、どうしたらいいのか?を知りたい人に向いているそうです。好奇心旺盛な方、人の健康に興味がある方、研究者としての道を検討してみてはどうでしょうか。

体の中を「音」で診ることで広がる未来(三浦先生)

三浦先生は、「いつまでも食事を楽しめるように」というテーマを掲げて、研究しています。エコー、画像処理、AI、 介入アルゴリズムなどの技術を駆使して、誤嚥の防止に取り組んでいます。誤嚥とは、声帯を超えて気管内に食物が侵入してしまうことです。高齢者では、誤嚥から肺炎になることがあり、未然に防ぐことは非常に大切です。

三浦先生は、摂食・嚥下障害のアセスメントに、スクリーニングテストや、画像診断を用いたり、エコーで気管、咽頭内を可視化したり、誤嚥物を見やすくするための画像処理方法を開発するなど、様々な角度から研究を進めてきました。エコーは咽頭内を観察するには不適切と長年考えられてきましたが、三浦先生の研究によって、プローブを当てる部位を工夫すれば可能だということがわかったそうです。

また、AIの機械学習を用いることで、人間が認識できていない誤嚥物を認識できるようにもなってきています。
 

先生方のキャリアについて

池田先生は東京大学理科二類に入学後、ゴルフ部の先輩や、お世話になっていた先生の勧めから看護科学専修に進みました。卒業後は大手メーカーで商品開発やマーケティングに関わり、転職し厚労省で看護技官となったあと、大学院で心理学と看護学を学び、現職に至ります。

米澤先生は、高校時代は文系選択で、東京大学には文科三類で入学しました。もともとは政治学などに関心がありましたが、入学後に様々な授業を通じて関心が医療や教育に移り、後期課程で医学部健康総合科学科に進学しました。卒業後は、前述の通り、助産師として働いたのち、大学院に進み、研究を続けています。

三浦先生は東京大学文科三類に進学後、看護学に関する講義を駒場キャンパスで受講したのがきっかけで、看護学専修に進学されました。卒業後は、医療現場で看護師として働いた後、大学院に進み、研究を続けています。

最後に

先生方はみな、大学進学後に看護の道に進むのを決断したそうですが、文系で受験しても看護学を学べたり、入学後柔軟に進路を変更できたりするのも、進学選択のある東京大学ならではですね。

看護師になりたい、看護の研究をしてみたいという方はもちろんのこと、まだ将来について悩んでいるという高校生のみなさんも、自分の興味のある学部・学科をじっくり選択できるという点で、東京大学は良い選択肢なのではないでしょうか。駒場キャンパスでの授業や経験を通じて、みなさんの追究したい学問がより明確になるかもしれません。なにより、様々な分野を勉強する優秀な仲間たちと切磋琢磨できる、東京大学の環境は素晴らしいです。この環境をさらに、多様で豊かなものにするために、東京大学は女子中高生のみなさんの挑戦をお待ちしています。

このイベントレポートを読んでくださったみなさんと東大のキャンパスで出会えることを願っています。