【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2022「農学系女子最前線」イベントレポート

はじめに

「大学受験、どうやって志望校を決めたら良いんだろう?」
「大学って何を学べる場所なんだろう?」
「東大は女子率が低いと聞くけれど、安心して進学できるだろうか?」

こんな風に、進路について迷いの尽きない時は、先輩たちの経験談を聞いてみるのはいかがでしょうか?

2022年8月4日に、東京大学農学部主催のもと「農学女子最前線」というイベントが開かれました。本イベントでは、農学部の女性学生や卒業生たちが登壇し、各々の生活や進路にまつわるお話を繰り広げました。

イベントは下のような3部構成です。
[1]農学部ダイバーシティ推進室から、農学部と東大の女子率についてプレゼンテーション
[2]農学部卒業生3名による、これまでの進路選択についての講演
[3]卒業生3名と現役学生3名によるパネルディスカッション
それぞれの部門で語られた内容を、ぜひ自身の進路選択の一助にしてみてください!

この記事を通じて学べること

・東大で学べる学問分野の一つである、農学とは何か
・先輩達が、どうやって大学/専門分野/就職などの進路を(迷いながら)決断してきたか

農学部ってこんな場所!~東大農学部のご紹介~

まずイベント冒頭に、農学部ダイバーシティ推進室室長、田野井先生から農学部や、東大の女性比率についての説明が行われました。

田野井先生「農学部には10を越える専門分野があり、生命を対象にした多様な学問を学べる環境で、人類の生活向上に資する教育や研究が行われています。最近はバーチャルやメタバースが盛んになってきていますが、リアルな場所でリアルなものに触れられるのが農学部の特徴です。農学はとても面白い学問です。東大に入ったら、ぜひ農学部へ!」

また、学内の女性比率についても説明がありました。
 

田野井先生:「学内全体の女性学生比率は約20%。この割合は、東大を受験する生徒の男女の割合と同一で、受験者の性別における学力差はありません。東京大学は、もっと女性比率を高くしたいと考えています。ぜひ積極的に受験して欲しいです」

そして、農学部を卒業した後の進路についても、説明が加えられました。
 

田野井先生:「農学部を卒業した後は、およそ8割の学生が修士課程に進学します。修士課程修了後は約6割の学生が就職し、残り約4割の学生が博士課程に進学します。これらの割合にも、男女で差はありません。就職先は食品・飲料業界が多いですが、エネルギー、情報、放送、公務員など、多様な道にも進んでいます。農学部で得た知見は、どんな業種にも役立ちます」
 

私たち、このようにして進路を決めました~農学部OG 3名による講演~

続いて、東大農学部の卒業生3名から、これまでの人生の進路選択についての講演がありました。

1.タイムマシンから環境問題の解決へ!? ~都甲 梓(とごう あずさ)さん 産業技術総合研究所~

(1)タイムマシンを作りたくて東大に入学

私は幼少期からドラえもんが大好きで、秘密道具のタイムマシンに興味がありました。中学校の卒業発表では「タイムマシンは実現可能か?」というテーマで発表を行ったほどです。タイムマシンを作れるのは理学部や工学部だろうと考えて、理科一類に入学しました。

(2)卓球部がきっかけで、環境問題に興味を抱く

タイムマシンを作りたくて東大に入ったものの、進学後に私の興味はタイムマシンから環境問題の解決に変化しました。実はその契機は、上京による環境の変化と卓球部の活動の中にありました。
卓球の試合には、個人戦と団体戦があります。私は、個人戦では競り負ける場面でも、団体戦では不思議と勝てることが多かったのです。私は、「自分のため」よりも、「誰かのため」の方が頑張れるという性質が、自身の中にあると気がつきました。
 

以来、「タイムマシンの研究はロマンがあるけれど、誰かのためになるのだろうか?」と疑問を抱き、環境問題を解決するサイエンスのような、誰かのために役立つ科学に興味を持ち始め、農学部に進学しました。

(3)社会に出てから、再び農学部へ戻る

修士課程を修了してからは、社会と通じた研究活動を行いたいと思い、企業に就職しました。しかし仕事を始めてから、大学の研究も社会と接点を持っていること、企業では社会問題を根本的に解決することは難しいことを実感したため、再び大学に戻って研究を行い、博士号を取得しました。今は、産業総合研究所という場所で、環境に優しいプラスチック素材の開発研究を行っています。

高校生へメッセージ

「好きなものを見つけましょう」とよく言われると思いますが、私は「好きなもの」を堅苦しく捉えず、もっと気軽に「好き」を探せばよいと思います。野球が好きだからといって、プロ野球選手を目指さなくても良いのです。軽い気持ちで自分の好きなものを見つけて、「好き」を集めていけば良いと思います。
 

2.知的好奇心と多様性に出会えた農学部~水池 彩(みずいけ あや)さん 国立感染症研究所~

(1)高校の時に、宇宙物理学の本に出合う

高校時代は国文学や民俗学などの人文学にも興味がありましたが、ある時、東大の教員が書いた宇宙物理学の本に出会い、「宇宙物理学を学びたい!」という思いで東京大学理科一類を目指しました。現役の時は不合格だったのですが、親から一年間の浪人する許可を得られ、無事に合格しました。

(2)入学後は、人の健康を支える農学の道へ

宇宙物理学を志していましたが、入学後に自身や家族の健康について深く考えさせられる機会があり、人間のQOL(Quality of Life、人間の総合的な健康や満足度のこと)を支えることの大切さを実感しました。QOLにおいて大切な要素である食事について興味を持ち始め、食品について研究のできる農学部の生命科学工学専修に進学しました。
農学部では酵母と脂質に関する研究室に入りました。食品とは直接関係しない基礎的なテーマでしたが、いざ研究を始めてみると非常に好奇心を刺激される分野で、博士課程まで研究を続けました。就職についても、好奇心を満たしたい欲求が強かったため、任期付という不安定な立場にはなりますが研究職の仕事を選びました。

(3)農学部で出会った多様性と、今の研究

農学部の良さは、研究対象の多様性と多面性です。まず、対象とする生物が非常に幅広く、古細菌など他の学部ではほとんど扱わない生物を扱う研究室もあります。また研究対象のスケールも、分子、細胞、個体、環境、経済と、とても広域です。そして、基礎研究から応用研究まで、多面的な研究がされています。
 

私は現在、国立感染症研究所で、感染症に関わる研究や業務を行っています。特に、感染される側である宿主細胞の因子について研究していますが、同じ部内ではウイルスや細菌、プリオンタンパク質など、非常に幅広い病原体を研究対象としています。農学部という多様性のある環境で学ぶうちに、常に多様性について意識するようになり、このことが仕事での発想や対応力に大いに役立っていると思います。

高校生へメッセージ

今は受験勉強に集中することが求められると思いますが、勉強以外にも幅広く、高感度に興味のアンテナを張っておくと良いと思います。受験生の間も趣味や好奇心を大事に過ごして欲しいです。
 

3.マーケティングの本質は農学部で学んだ!?~渡辺 さよ子(わたなべ さよこ)さん 資生堂~

(1)獣医になるために東大を受験

私は小さい頃から動物が大好きで、動物と一番親密な関係を築ける獣医になることが私の夢でした。大学受験も、都内にある実家から通えて、獣医学部のある東大を受験しました。

 
ところが、大学1、2年生の時に動物病院を見学し、獣医という仕事の精神的・物理的な大変さを目の当たりにして、自分は獣医に向いていないのでは、と感じるようになりました。そして、獣医学科以外で動物について勉強と研究ができる動物生命システム科学専修への進学を決めました。

(2)寄生虫の逆転の発想

 

農学部に進学してから、寄生虫を研究している教員に出会いました。寄生虫と聞けば存在そのものがネガティブなイメージで、いかに生物から寄生虫を追い出したり殺したりするかについての研究が主流かもしれません。しかしその教員は、寄生虫が寄生していても宿主となる生物が快適に過ごせて、寄生虫をうまく活用して宿主も恩恵を得られるようにすることを目指した研究を行っていました。私はその発想の転換に感動しました。寄生虫について目をキラキラさせながら語る魅力的な教員との出会いがあり、修士課程まで寄生虫感染の検査薬に関する研究を行いました。

(3)農学部でよかったこと

私は今、資生堂という会社でマーケティングの仕事を行っています。マーケティングとは、世の中の人の「これが欲しい!」という気持ちを作り出す仕事です。例えば新しくマスクを売り出す時に、着用することが義務のように感じられる従来品に対して、「服と合わせてコーディネートできる」「血色を良くみせる」という新しいアイディアを考え出して付与することが、マーケティングの一例です。マーケティングには既存の商品について発想を逆転させることが求められるのですが、この力は、農学部で出会った寄生虫についての発想の転換ととても似ています。農学部での学びが、今の仕事にも繋がっていると感じます。

高校生へメッセージ

進路に迷うことは当然です。ちょっとでも面白いと思ったり、やりたいと感じた事にぜひ足を運んでみて、本当に面白いと思えるのかどうか確認してみると良いと思います。みなさんにも、良い出会いがありますように。

これが農学女子のリアル!~東大OGと現役東大生のパネルディスカッション~

最後に、本多准教授の司会進行のもと、卒業生3名に現役学生3名を加えた6名で、種々のテーマについてのパネルディスカッションが行われました。

まずは、パネリスト6名の簡単なご紹介です。
氏名 所属
 都甲さん   産業総合研究所
 水池さん  国立感染症研究所
 渡辺さん  資生堂
 河野さん  水圏生物科学専攻(修士課程1年)
 村瀬さん  農業・資源経済学専攻(修士課程1年) 
 戸田さん  生物・環境工学専修(学部4年)

東大受験に興味を持ったきっかけは?

都甲さん「私の出身高校は東大を志望する学生が多かったので、学校の先生に勧められて東大受験を考えるようになりました」

渡辺さん「私は獣医になりたかったので、実家から通える場所で、国公立で獣医学部がある大学を自分で調べて東大に出会いました。最初は、学校の先生からは無理だよと言われてしまいました」

村瀬さん「私は、高校時代にやりたいことが見つけられませんでした。前期教養学部で自分がやりたいことを探そうと思って、東大に入りました」

本多先生「東大を志望したきっかけは様々なようですね。本日のイベントを通じて、東大を目指す人が増えることを願っています」

東大に進学したら、自宅から通う?/下宿する?

都甲さん「私は地方出身でしたが、一人暮らしではなく民間の寮に入りました。食事とコインランドリーが付いていて、セキュリティも安心でした」

村瀬さん「私も地方出身で、入学すると同時にアパートで一人暮らしを始めました。自炊をするようになったことが、農学部へ進学するきっかけにもなりました」

河野さん「私は東京出身で、駒場キャンパス時代は自宅から通いましたが、本郷キャンパスに移る時に一人暮らしを始めました」

本多先生「東大の学生は関東出身者が多く、大体2/3が自宅から通い、残り1/3が一人暮らしや寮生活だと思います。東京大学は、キャンパスから遠い所に住む女子学生が一人暮らしをする際に、入学から最大2年間、月3万円の家賃補助を受けることができる女子住まい支援を行っているので、ぜひ調べてみてください」

受験時の得意科目は?そして受験科目は、今の研究/仕事とどう関連している?

水池さん「英語が得意科目で、数学が苦手科目でした。ただ、浪人時の受験結果は、数学の得点が英語を上回るという面白いことが起きました。現在、研究で大きなデータを扱う時にコードを書きますが、プログラミングをはじめ、大学受験レベルの英語や数学が必要になる場面は多いです」

河野さん「英語しか得意科目はありませんでした。英語はどんな分野でも役に立つと思います。日頃から、大学の研究のために英語で書かれた論文をたくさん読んでいます」

戸田さん「数学が得意でした。大学の研究の中で細かなデータを扱うため、数学を通じて数字に慣れていることは有利だと思います」

本多先生「個人的に、どんな分野でも国語力は大切です。理系だからといって国語はやらなくて良いとは考えず、ぜひ頑張って勉強してくださいね」

おわりに

農学女子最前線、いかがでしたか?どの先輩達も、東大に入り、農学と出会い、今の仕事や研究を選ぶまで、決して一本道ではない道筋を経てきたことが、赤裸々に語られていたのではないでしょうか?

本記事が、中高生の皆さんの素敵な進路選択のきっかけになれば幸いです。