【Campus Voice】薬学部「研究室を覗いてみよう!」イベントレポート

2022年度理系進路選択支援イベントの一環として、薬学部主催の「研究室を覗いてみよう!」が行われました。本イベントでは、後藤由季子教授と薬学部の卒業生2名による講演会を対面とオンラインのハイブリッド型で開催した後、対面参加者には研究室訪問と学生との談話会を行いました。薬学部というと、薬剤師になることを決めている人が行く場所、というイメージがあるかもしれませんが、実は幅広く学ぶことができ、たくさんの進路がある学部です。そんな薬学部の魅力をお伝えしたいと思います。

2022.11.26
リポート/学生ライター
犬丸 わかな(医学部3年)

わくわく研究ワールド

最初に薬学部の後藤先生から、進路をどう決めたか、現在の研究内容についての講演がありました。
後藤先生はもともと研究者をめざしていたわけではありませんでしたが、理系の知識を持って文系にいったら強みになるのでは、と考え、理学部生物化学科に進学。しかし、一度研究を始めてみると、その魅力にはまっていったそうです。その後、アメリカ留学時にさまざまな女性のリーダーに出会いました。彼女たちが家庭も大事にしながら仕事をしていたことから、自身も同じように研究を続けられるかもしれないと勇気をもらったとのこと。女性だからという固定観念ゆえに自分の可能性を閉じてしまうのは非常にもったいないと強調していました。
 

後藤先生の研究内容

細胞の増殖因子を受け取ったあとに、どのような経路で核に伝わり、細胞増殖が開始するかが分かっていなかったため、「タンパク質のリン酸化が関わっているのでは?」と考えて研究を進めたところ、『MAPキナーゼ』を発見。このMAPK経路は異常に活性化するとがん化を誘導するため、MAPキナーゼをターゲットとしてがんの治療を行うことができます。実際、MAPK経路を阻害するトラメチニブは2013年に抗がん剤としてFDA(アメリカ食品医薬品局)で認可され、結果的に研究成果ががん治療の発展に繋がりました。
 
「個体発生の中で、細胞の運命決定はどう行われるのか?」を調べるため、神経幹細胞の研究に従事。脳発生の勉強のため、シアトルとボストンへの短期留学も経験しました。まだ分かっていない脳の働きの解明を目指して研究しています。

中高生へのメッセージ

挫折を恐れない勇気を持ちましょう。人生は可能性にあふれています。そして、失敗はチャレンジの証なので、学ぶ機会があれば恐れず、どんどんチャレンジしましょう。また、友達は一生ものです。今いる友達を大切にしてください。

視野を広く持って学ぶ~欲張りな進路選択~

次に、2021年度に薬学部薬学科を卒業した曽川マリーさんの講演がありました。曽川さんは新潟県出身。東京大学理科二類に入学後、薬学部薬学科に進学し、現在は特許庁に勤めています。

中高時代の進路選択

中高生の時、曽川さんは「人の役に立つことをしたい」「(東日本大震災を受けて)科学技術は社会のために本当に生かされているのか?」「自分は何に向いているんだろう?」「進路がはっきり決まっていなくて大丈夫だろうか」といったことを考えていたそうです。最終的には、周りとちょっと違うことをしてみたい、理系も文系も興味がある、といった理由から東大受験を決意。東大には進学選択があるため、受験時に学部を決める必要がありません。現時点で進路が決まっていない中高生にとっても魅力的な進学先なのではないでしょうか?

東大時代

駒場では、芸術関係、言語など幅広く勉強することができ、長期休みには体験型プログラムで地方の農学系施設での研修や、東大病院での手術見学などを経験。期待通り、さまざまな教育を受けられたそうです。多種多様な学問に触れる中で、物理・化学・生物すべてが関係し、科学が社会に活かされていることが目に見えやすい点を決め手に、薬学部薬学科への進学を決意しました。


薬学部のカリキュラムでは、有機化学・生物学・医学にまたがる分野で実験をすると同時に、薬局や病院での実務実習も経験できるなど、非常に充実した日々を送れたそうです。薬学部では、薬学の幅広さ、大学の研究とはどういうものなのか、基礎研究の重要性、科学と社会とのつながりなどを深く理解できたとともに、優秀な同級生、先輩・後輩、教授陣に囲まれ、東大は恵まれた研究・教育環境であることを改めて実感。世間的には薬学部は薬剤師になるというイメージが強いですが、他にも様々な進路や活躍の場があったそうです。

就職活動

「薬を作るというよりは、もう少し広く社会のために働きたい」「科学技術を社会に生かす」との思いから、曽川さんは[1]社会貢献・やりがい、[2]興味関心や性格に合っていること、[3]これまでの経験をいかしたい、といった優先順位をつけて就職活動へ。その結果、特許審査官という現在の職業にたどりついたそうです。主なお仕事は、化学系の特許出願について、これまでに同じような発明がされたかを調べ、出願人とやりとりすること。日々進展する技術や入庁後から勉強を始めた法律について、知識をアップデートしながら仕事ができ、自分が審査したものが実際に商品化されて技術が活かされていると実感できる点などにやりがいを感じるそうです。直接的に薬学の知識を使っているわけではありませんが、論理的な考え方や計画的な仕事の進め方、わかりやすく人に伝える力と文章力、薬学で幅広く学んできた理系の知識など、大学での学びが活きていることを感じると話していました。

中高生へのメッセージ

進路が決まっている人も、決まっていない人も、視野を広く持って、欲張って学んでください。そしてぜひ自分のやりたいことを追求してください。働き方、学び方は変化していくものなので、『女性には向いていない仕事なのではないか?』などと現状にとらわれて考える必要はありません。まずは今しかできないことを楽しんでください!

薬学部進学の先に広がる世界とは?

次に、薬学部修士課程を修了し、製薬会社のエーザイ株式会社に勤めている和泉沙希さんの講演がありました。

和泉さんの進路選択

和泉さんは福岡県出身。理科二類に入学後、薬学部薬学科に進学し、大学院薬学系研究科(修士課程)を修了。現在はエーザイ株式会社で医薬品開発研究を行っています。もともと医薬系に興味があったものの、具体的に何をしたいのか決めきれなかったこと、いい大学に行きたい、一人暮らししてみたい、という思いや東京に対する憧れがあったことなどから、「東大なら入学後に進路を選択でき、自分の希望が叶う」と考え、東京大学を受験。

入学後は、「在学中に何らかの資格やスキルを身につけたい」「医薬に関わる分野に進みたいが、血や病気を見るのは苦手」といった点を考慮し、薬剤師免許が取れ、製薬会社に就職もできる薬学部を選択しました。

東大ってどんなところ?

同じクラスの友人は皆しっかり「自分」をもっており、とても仲が良く、頭の回転がとても速くてどんな反応が返ってくるのか予想がつかないところを楽しいと感じたそうです。また、教養学部前期課程時代は心理学、映画論、環境問題など文理問わずさまざまな授業を選択でき、刺激的で充実していたとのこと。自分のやりたいことを考えることができ、大変有意義な時間となったそうです。

後期課程で進学した薬学部は、教官の指導力が非常に高く、研究設備がとても充実していたとのこと。研究熱心な学生達と切磋琢磨する中で、研究者に必要な素養を身に付けられたそうです。蛍光プローブの研究を行って成果を上げることができたと同時に、卒業時には薬剤師免許も取ることもできました。

就職について

大学時代に、「実験って面白いな!」「研究するならもっと社会に役立つ研究したいかも?」「ライフイベントで働けなくなるかもしれないから、若いうちに少しでも長く働いておきたい」と考えた和泉さん。先輩のお話から、製薬会社は女性でも働きやすそうだと感じ、就職先として選んだそうです。

中高生へのメッセージ

『なぜ働くのか?』と考えてみたことはありますか? 社業の発展を通じて社会に貢献するため、自己実現のため、生活に必要な金銭を稼ぐためなど、人によって様々な理由があると思います。働くことが人生の目的ではありませんが、人生におけるウェイトは非常に大きいため、楽しみややりがいを見出すことが大事になります。特に、女性が働くということに関しては壁を感じている人もいるかもしれませんが、差別されることなく、男性と対等な仕事を任され平等に働くことができます。

男性と比べると、女性はライフイベントの影響がやや大きいかもしれませんが、みんな日々プロ意識を持って働いています。また、多様性や多様な価値観、働き方が昔に比べ許容されるようになってきているので、安心してください。きっと今の常識は5年後、10年後の常識ではないはず。ですので、常識にとらわれすぎず、自分の頭でしっかり考えてみて。進路に関しても、他の人の意見も参考にするべきですが、最終的な決断は自分で責任をもって下すようにしていただきたいと思います。

研究室訪問

講演会後、4つの小グループに分かれ、2つの研究室を訪問しました。
そのうちの1つ、浦野先生の研究室では、蛍光物質の研究が行なわれています。がん細胞を蛍光物質で光らせることで、がん切除手術を助けることを目的とした、がんのイメージング研究がなされているそうです。研究内容について簡単に紹介してもらった後、中高生のみなさんに蛍光イメージングの簡単なプロセスを実際にご覧いただきました。
 

そのあと、3~4人のグループで修士課程の学生とお話する時間を設けられました。受験について、進学後の勉強量、留学、部活やサークルとの両立についてなど、参加者たちは積極的に質問をしていました。

最後に

東大、そして薬学部の魅力がたくさんつまったイベントで、興味を持ってくれた中高生の方も多いのではないでしょうか。感染症の拡大でここ数年は対面での開催が難しかったのですが、これからはこのように直接東大の中を覗けるイベントが少しずつ再開されていく予定です。ぜひ一度、キャンパスに足を運んでみてください。