【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2022「教養学部におけるダイバーシティ&インクルージョン」イベントレポート

(1)イベント概要

ジェンダーやセクシュアリティにおける多様性をメイントピックに、教養学部の教員や学生が座談会を開きました。女子学生だけでなく、少数派の男子学生やノンバイナリー*学生もアクセスできるようなイベントとなりました。
*ノンバイナリーとは、性別二元論に当てはまらない/当てはめない人のことを指します。
※今回はプライバシー保護の観点から、登壇者は本名ではなく呼ばれたい名前を示して登壇しています。

(2)挨拶:教養学部副学部長 D&I担当 清水晶子教授

はじめに、教養学部副学部長・D&I担当の清水晶子教授から、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)についての説明がありました。

教養学部のD&Iとは、様々な特性を持つ教職員や学生が駒場という一つの場所で共に過ごすにあたり、どのような問題があるのか、それをどのように解決するのか考え、実行に移していくための取り組みで、[1]ジェンダー論などのD&I関連の授業、[2]学生支援、[3]KOSS(駒場キャンパスセイファースペース)の3つの柱から成っています。
 

(3)座談会

教員と学生による自己紹介の後、登壇者全員で座談会が開かれました。遠藤先生が進行役となり、参加者からの質問に答える形でトークが進みました。

Q:D&Iや多様性の観点で、東大入学前のイメージと実際との間にギャップはありましたか?

ほうじょう:理科一類では女性の学生が特に少なく、クラスが男女別のグループに分かれてしまった点。女子同士が全員、気が合うとも限らないので、男女間にもう少し交流があると思ったら、結構女子で固まっていて驚いた。

匿名私のクラスも最初は明確に男女に分かれていたが、zoomでクラス会を開き、とにかく色々な人と話すということを実践したところ、男女の間の壁を克服できた。

Q:東大模試を受けた際、50人くらいの会場で女子が自分を含めて2人しかいなくて驚きました。たまたまその模試の校舎に東大を志望する女子が少なかっただけかもしれませんが、みなさんはどうしてこうした差が生まれるとお考えですか?

ひなこ:地方から受験する女子に対し、「東大を受けて落ちるくらいなら地元の大学に行きなさい」「実家から出ないでほしい」という周囲の意識がある。それに対して、男子学生にはあまり抵抗なく「行っておいで」「落ちても浪人していいよ」と親が言ってくれる。

清水先生:確かに、ジェンダー論の瀬地山角先生が以前見せてくださったデータでは、東大の女子学生は圧倒的に現役生が多いようでした。

Q:女子学生のみなさんは、それでもなぜ東大を目指されたのでしょうか?

初音:環境が良く、高校時代から東大を目指す女子学生がたくさんいたので、あまり違和感なくここにきてしまった。

ひなこ:高校生の時に興味分野が全く定まらなかったので、進学選択で自分の興味ある分野を選べるというのがすごく魅力的だった。

遠藤先生:正直なところ、東大は行けるなら行っておこうかなという感じがあった。通える範囲の国立だと、首都圏では東大が最初にくる。他の関東の国立や私立も受けたが、そこに受かっていたら正直通うのが大変だと思っていた。そのあたりには、首都圏に生まれているかどうかなどの問題も関わってくるのだろう。

Q:理一は特に男性が多くてとても均一だという話を結構耳にするが、実態はどうなのか?

ほうじょう:東大以外の大学でも医学部や工学部は男性が偏って多いというイメージはあったので、東大特有の問題とは考えなかった。

内田先生:私は理科一類に入学し、クラス50人で女子4人しかいなかったが、最初から男女間に交流があった。

  

Q:みなさんはジェンダーの面で包括的社会を目指していると思いますが、教養学部において他の側面から包括的社会を目指している方、またはサークルはありますか?

清水先生:教養学部には移民の問題に関わっている教員や、障害に関する哲学を研究している教員などもいる。理系の教員だと、SDGsに関わって、例えばエネルギーの問題を研究している方もいる。

ひかる:自分はクリップ理論を研究している。「クリップ」はもともと、身体障害者に対して侮蔑語として機能していた言葉だが、障害者や障害学研究者の側で、健常者中心主義に対する抵抗のスローガンとして再-意味づけされてきた。その背景には、非異性愛者に対する侮蔑語であった「クィア」が、ジェンダーマイノリティ/セクシュアルマイノリティの側で、シスジェンダー中心主義/異性愛中心主義に対する抵抗のスローガンとして再-意味づけされてきたという歴史がある。クィアとパラレルでありつつインターセクショナルな関係にあるクリップについて、それがいかに「ダイバーシティ」や「インクルージョン」を掲げる社会のもとでも抹消されてきたのかを、差別的なシステムに抵抗する当事者の実践という観点から考えている。

Q:上野千鶴子先生の式辞(2019年)でフェミニズムの問題が提起されたと思いますが、式辞の後に東大内で変わったことはありますか?

清水先生:2019年に入学した代の話を聞くと、ジェンダー・セクシュアリティ・フェミニズムの話をする人が結構いたという感覚があったみたい。私はここ2、3年でD&I問題についてはっきりと発言する学生が増えているとみている。

遠藤先生:上野先生のスピーチ以前に入学した学生はすごく大変だったといっていた。私は苦労した記憶がなかったが、数理研の建物の女子トイレが1階にしかないなど、同じ女子学生でも見えているものが違ったんだなと反省した。施設やそれ以外のところでも改革の必要性が高まっている。

内田先生:理系だと女の子が少ないという話があるが、理系はむしろマイノリティが過ごしやすい空間であると思っている。私自身が女性ボスを務める研究室に多様な学生がきてくれて、ジェンダーの違いをあまり意識することなく、興味に向かって邁進できている。

Q:理系でジェンダー/セクシュアリティ関連の研究をすることはできますか?

遠藤先生:確かに、ジェンダー/セクシュアリティ問題は人文学系の分野というイメージがあるかもしれないが、教養学部の3学科には文理融合の学科があるので可能なのではないか。

内田先生:心理学系ではあると思うが、もしそういう研究をしたいと思う人がいるなら自分で立ち上げたら良いと思う。理系は、特に新しい観点で研究を進めることが重要なので、もしも[やりたいことに当てはまる分野が]ないと思えば、近いことをやっている教員に話を聞いてみるのが良い。

(4)D&I関連の団体の紹介

KOSS(駒場キャンパスセイファースペース)
教養学部の組織で、悩みを抱える学生が先輩たちやダイバーシティーイシューについて研究している大学院生に相談できる場。学術イベントも開かれており、学部学生・院生が知識と実践経験を身につける場にもなっている。

UT-topos
性的マイノリティの居場所系サークル。性的マイノリティ当事者がメインで参加している。

TOPIA
性的マイノリティの支援系サークル。特に学内を中心としてノンバイナリーやトランスジェンダーに関わる施設や制度の問題の改善を求めて活動しており、当事者・非当事者にかかわらず参加している。

(5)レポーターより

男性/女性という枠にとらわれず、ジェンダーマイノリティの方にも気軽に参加してもらえるよう、初の試みとして開かれたこのイベント。あらゆるバックグラウンドの人にとって、面白いイベントになったと思います!