【Campus Voice】東京大学柏キャンパス一般公開2022同時開催イベント「未来をのぞこう!」イベントレポート

 
今回は東京大学柏キャンパス一般公開に合わせて、大学院新領域創成科学研究科・物性研究所・大気海洋研究所が主催した女子中高生向けのイベント、「未来をのぞこう!」に学生スタッフとして参加しました。

2022.10.23
リポート/学生ライター
酒井 秀翔(大学院教育学研究科 修士課程1年)

「未来をのぞこう!」とは?

「未来をのぞこう!」は、リアルで最先端な理系の現場を、本学在学中の学生や、卒業・修了した先輩との交流を通して体験し、女子中高生の皆様の理系進路選択を応援するイベントです。
今年も、Zoomを活用した遠隔方式で開催されました。
 

1. 先輩によるパネルトーク

最初に、物性研究所長の森初果教授より挨拶があった後、異なる立場にある3名の先輩による講演が行われました。
 

 

1-1. 大学院理学系研究科 博士課程2年 辻川夕貴さん

辻川さんは、幼少期から理科に関心を持ち、両親も理系で留学経験があったため、理系科目に親近感を持っていました。中学3年生の頃、超伝導に関する研究を大学の先生と行う機会に恵まれ、そこで量子力学を学習することについてアドバイスを受けたことがきっかけとなり、物理学科に進学しました。

大学入学後は、周囲の学生との協同や教員への質問等を経て、苦労しながらも充実した大学生活を過ごしました。本学大学院に進学してからは、現在に至るまで、辻川さんご自身の研究を中心とした生活を送っています。具体的には、全国各地に所在する研究施設において1~2週間の出張実験を実施したり、学会発表を行ったり、合間にデータ解析や自身の研究室で実験を行う等、多忙ながらも充実した日々を過ごしています。
 



最後に総括として、辻川さんご自身の経験も踏まえながら、辛いことであっても、続けていけば何か「わかる」瞬間があるため、粘り強く勉強や研究を続けていくべき、という助言がありました。さらに、物理学に限らず、進路選択においては、自分自身に対してどのような「新しい風」を入れたいか、を意識して行動するのがいいのではないか、というお言葉もいただきました。

1-2. AGC株式会社 乗富貴子さん

乗富さんは幼少期から動物や恐竜に強い関心を抱いていたところ、映画の中で活躍する科学者に感銘を受け「自身も科学者になろう」と、理系進路を選択されました。

乗富さんは2022年まで大学院新領域創成科学研究科に在学して博士号を取得した後、AGC株式会社に研究職として就職しました。乗富さんは「サイエンス」に興味を持っていたこと、自身の性格、大学で基礎研究に従事した経験を踏まえて製品開発を通じて社会に貢献したいと考えたことから、研究職での企業就職に至りました。実際にお仕事では、研究活動を通じて培った問題解決能力や専門性、体力等が大いに役に立っているとのことです。
 

最後に、参加者に対して今後の生活にあたっては「自分自身をよく理解すること」が重要である、という助言がありました。というのも、自分自身をよく理解することが結果として「自分を一番大切にすること」につながるため、選んだ未来に対して後悔なく、とのことでした。

1-3. 東京大学大気海洋研究所 教授 原田尚美先生

原田先生は、名古屋大学で博士号を取得した後、現在の文部科学省技官や国立研究開発法人海洋研究開発機構での勤務を経て、2022年に大気海洋研究所へ移籍されました。お仕事は海洋学の研究で、その中でも北極海などの極域や太平洋亜寒帯域における環境の変化と海洋生物の応答に関する研究をしているとのことです。

原田先生は中高生時代、もともとは理科が苦手科目でした。しかし、高校2年生の時に有機化学の面白さに気づき、教育実習に来た大学生から「地球科学」という学問の存在を教わり、科学の面白さに目覚めました。その後大学の地球科学科へ進学し、当時の指導教員から南極やフィールドワークの魅力を教わり、それらに憧憬を持ち、大学院へ進学されました。

大学院では、当初は研究の過酷さから自分に博士号が取得できるのかと自信を失い、就職も考えていました。しかし、修了直前に初めて参加した太平洋赤道域の航海というフィールドワークに感動し、博士課程への進学を決めました。博士課程では、国立極地研究所の南極地域観測隊に参加し、フィールドワークでの失敗も経験したものの、改めてその楽しさに魅せられ、研究者の道を選び、現在に至ります。
 

そして、原田先生からは、ご自身の南極地域観測隊への参加のように、チャンスはある時突然到来するものだからそれを逃さないこと、常に何か挑戦する目標を持ち、その目標に向かう過程を楽しみ続けることが大切というお話がありました。

2. Q&A

講演の後、事前に募集した質問から特に多かったもの3つについて、登壇者の方々を交えた質疑応答がありました。いくつかの質問と回答を紹介します。

2-1. 研究は大変なのでは?

思った通りにいかないことなど、研究には大変な時ももちろんあります。ただ、登壇者の回答で共通していたのは、研究は、自分が真にやりたいことに従事できるので、非常に楽しいということでした。

2-2. 理系の中でも分野・学科等はどのように選ぶべきか?

決め方としては、現在の興味・関心、将来選びたい進路、あるいは現在の学力等、様々な指標が考えられます。分野を選ぶ時期については、今回の登壇者の方々のように、幼少期や小中高時代で決めることも勿論可能ですが、大学に入ってから、あるいは大学院に入ってからも分野を変える機会は豊富にあるので、必ずしも早期に決定する必要はないとのことでした。

2-3. 理系進学・就職のメリット/デメリット

まずメリットとしては、研究対象が人ではなく物のことが多いため、プライベートと仕事との時間のやり繰りがしやすいとのお話がありました。出産や育児などのライフイベントに時間を要する人も多いため、そういった点でも、理系進学・就職は大きな利点がある、とのことでした。また、理系就職では、ジェンダーギャップのない職業に就けることが多いのではないか、というご指摘もありました。

一方、デメリットとしては、勉強や研究に時間がかかるとのことでした。ただそれは裏を返せば、時間を要したなりに、理系ならではの高い専門性を得られるというメリットにもなり得る、とのことです。

3. テーマ別相談会

Q&A終了後は、Zoomのブレイクアウトルーム機能を活用した、テーマ別相談会が開かれました。ここでは、参加者の方々からの質問をリアルタイムで受けながら、学生や教員とのざっくばらんな相談・交流が行われました。ここでは、「[1]理系進学について」のルームで行われた質疑応答の一部を取り上げます。
 

3-1. 現時点で数学が苦手だが、理系進学すると大変か?

全体としては、そこまで心配しなくてもいいのではないか、とのことでした。まず、大学における数学は高校数学と違い、計算を早く解くことだけではなく、数学的な概念の理解が重要です。学科にもよりますが、数学が単なる解析のツールとして要されることも多く、得意ではなくとも使いこなせるようになったという経験も語られました。

3-2. 特定の研究や科目に強い関心があるわけではないが、理系進学後に自身のやりたいことを見つけるのは可能か?

東京大学では、入学後、1年生のうちから、駒場キャンパスで最先端の研究をしている教員の話を聞いたり、研究室に訪問したりするプログラムが充実しているとのことでした。そうしたプログラムも活用しながら、たくさんの教員や研究に触れていけば、高校の時点で特定の分野を選ばなくとも、東大入学後に、自身の関心に合うものを見つけられるのではないか、ということでした。
 

4. 終わりに

以上のように、東京大学の学生・教員や、東大を修了後に社会で活躍している方など、皆様にとっての「ロールモデル」の方々から、実際の経験も踏まえた大変有意義なお話を聞くことができました。

本イベントの表題にもあるように、参加者の皆様の持つ未知の「未来」への思いを馳せることができました。中高生の皆様には、進学をはじめとして、今後様々な選択をする(しなければならない)機会が訪れるものと思います。特に大学では、入試における理系/文系や受験科目の選択をはじめ、入学してからも授業の履修、学科・研究室・ゼミ選び等、主体的な選択を求められる機会が多くあります。現時点で、皆様が未来にどのような選択をされるのかはわかりません。ただ重要なのは、そのような選択一つ一つが、後悔してしまうものにならないことだと思います。

どのような選択においても、少しでも迷いを感じたら、今回のイベントで出会った先輩方の経験や考え方を、少しでも思い出して参考にしていただければと思います。