【Campus Voice】【30% Club Japan 大学グループ】津田塾大学髙橋学長・東京大学藤井総長対談 「大学が担う変革~女性リーダーのいる風景を拓く~」

 2022 年 12 月 5 日、東京大学にて、30% Club Japan 大学グループの企画として、津田塾大学髙橋裕子学長・ 東京大学藤井輝夫総長の対談がおこなわれました。大学の女性上位職 30%に向けての取り組みについて話し合うことを目的に、『女性学長はどうすれば増えるか』などの著書も出されている津田塾大学の髙橋裕子学長と、就任時に理事の半数以上を女性にした東京大学の藤井輝夫総長、そして大学グループの目標を設定することを念頭に大学ならではの克服方法について対談していただくために、モデレーターとしてデロイトトーマツグループのボード議長の永山晴子氏にお越しいただきました。 


女性活躍推進の意義

永山氏:30% Club Japan Vice Chair の永山晴子です。普段はデロイトトーマツグループのボード議長の仕事をしています。ボード議長というのは組織文化を形成していく後押しをするロールモデルのような存在でもあり、ダイバーシティを推進する組織として自分が選ばれたと認識しています。まずは大学において女性活躍推進について取り組む意義についてお伺いしたいと思います。

髙橋学長:大学は、学生が自分の伸びしろを可能な限り大きくする、社会に出ていく前の最終段階のステージ。学生がどのように自己像を認識して、どんな風景を見ながら自己像を描き直すのかということを考えたとき、キャンパスの中にどれだけ女性のイメージがあるかというのが重要です。様々な大学の会議室で歴代学長の写真が飾られていますが、女性の姿が見えません。  
 女性が活躍する社会にするために大学が本気で取り組むのであれば、女性教員を増やしていく、女性上位職を3割に近づけていく、そして在籍している女性に対して、この場は皆さんを心から歓迎して、女性をエンパワーする空間であります、というメッセージを放つことが必須です。 日本では、本学も含めてそのようなことが十分にできていない。東京大学は女性教員割合を上げていくことはもちろんですが、女性の総長を輩出することも重要です。 

藤井総長:総長就任当初、学長・理事のメンバーは 9名中5名を女性に、結果としてお願いすることになりました。大学は学術で知を生み出すという場であるため、できるだけ多くの視点があり、多様な意見を生かしながら場を生み出していくべき。国際学会での全体セッションの場(基調講演など)で話すのが全部男性だったというときがあり、「これはおかしい」と思いました。女性でも優れた結果を残している人はいるのに、女性の representation が明らかに低い。
 学問で高みに達する上でも、多様な視点で議論することは極めて重要です。特定の人々の意見だけではなく、色々な意見をもとに意思決定できる場をつくることが大事です。昨年 9 月にリリースした本学の新たな基本方針「UTokyo Compass」の中では、「対話から創造へ」、「多様性と包摂性」、「世界の誰もが来たくなる大学」を基本理念に置いています。東大も銅像が男性ばかりで、誰もが来たいと思える場をつくる意味でも、上位職に女性に参画いただくことは重要だと思います。 


自然発生的に女性リーダーは生まれない

髙橋学長:学長たちも女性教員から教育を受けた機会が非常に乏しい。私自身は津田塾大学で取得した単位のおそらく6割か7割くらいの授業は、女性教員が担当していました。様々なライフイベントを経験した多様な世代の女性教員から授業を受けたという経験が、今の自分につながっていると思います。



永山氏:津田塾大学で女性の教授陣が多い風景というのは何か特別な策を設けて描かれたものなのですか?自然発生的にそのような風景になったということですか?



髙橋学長:それは建学の精神だと思います。津田梅子が女性の高等教育機関を作ろうとした時、そもそも女性は帝国大学に入ることだけではなく、旧制高等学校にも入れませんでした。20世紀の半ばまで女性はそのような状況に置かれていました。当時の旧制高等学校や帝国大学で提供されるような高い教育を女性にもアクセス可能にするというのが、本学の建学の精神です。
 また、津田梅子は、日本で学校を作る前に留学先で奨学金制度を創設して帰国しました。自らに続く女性たちの育成を念頭に置いていたのです。つまり、女性リーダーは自然発生的には生まれない。女性リーダーを育成するプログラムを、津田梅子が19世紀から作っていたからこそ、122年の高等教育機関の歴史を紡ぐことができました。
 何も働きかけをしないで女性リーダーの輩出をしようというのは無理な話です。そのような意味では、藤井先生は女性リーダーの「アライ」だと思います。男性ばかりで構成される「パネル」はパネルではなく「マネル」と呼ばれている。パネリストの2~5割を女性にしなければならないと言い、次の代表を女性にすることを推進する、藤井先生のような男性アライの輩出も極めて重要だと思います。東京女子大学の設立にかかわった新渡戸稲造も津田梅子の男性アライでした。女性のアライになることはクール(男性の先進的な姿を示していること)なんだという男性像を東京大学からも示してほしいと思います。

永山氏:東京大学は津田塾大学とは違う「風景」になっていて、そのパイプラインである学生の中の女性比率が低い。それ以外で、東京大学の「風景」を築いている要因はあるのでしょうか? 

藤井総長:髙橋学長がおっしゃったように、研究者になっていくうえでロールモデルとして見える人の影響は大きいと思います。教授の女性比率がまだ 10%に届かないという状況はあり、そこは変えていく必要がある。そういう意味では女性の上位職を増やしていくのが重要で、大きなポイントであると思っています。先日報道されましたが、今後 6 年間で新たに着任する予定の教授・准教授 1200名のうち約300名を女性にし、女性教員比率を上げていくことを目指しています。

男性だけのパネル、「マネル」禁止

永山氏:女性の理事を増やしたインパクトはあるのでしょうか。

藤井総長:総長を含め体制が変わったので、もちろん大きな変化がありましたし、私も役員間の会議でも活発な議論ができるような場にしたいと思っていました。前の時がよかったか悪かったかということではなく、変化があった。また、役員の中には、 企業でマネジメントをしている方(外部)や、国際機関で長く勤めていた方などもいらっしゃいます。そのような意味でも大学で長くやってきた方とも違う視点が議論に加わっています。

林理事:マネルは役員の間では実質的に禁止になりました。最近の会議では「女性のパネリストがいない」という指摘がちゃんとでてくるようになったと感じます。



藤井総長:色々な学部でイベントをやるときは男性が並びがちなので、そうではなくて女性も入った形のパネルにしてくださいというのは各学部の先生方にお願いしています。 

永山氏:我々も「パネルプロミス」というのを設けていて、パネリストは 4 割男性・4 割女性・2 割は多様性調整枠 というルールをすすめている。今まではユニットのリーダーしか登用してこなかったので、そうなると 4・4・2 にならないのです。もう少し若い層から女性を出そうなど切り口が変わり、パネルを聞く人からも以前より内容が分かる ようになったという評判があります。「マネル禁止」というのはどの組織でも有効ですね。

髙橋学長:学長が主に登壇、あるいは参集する、いわゆる学長会議などもマネルが多かったです。しかも「ダイバーシティ&インクルージョン」というテーマのときにも。いつも勇気を振り絞って「このようなテーマでパネルをするのであれば、女性や外国籍の人も入れてください」と発言しているのですが、男性学長にもぜひお力添えいただきたい。

永山氏:ここで「マネル禁止」の合意を得たということで良いでしょうか。

髙橋学長:そういうことも 30%クラブに加わっているすべての大学にぜひ伝えていただきたい。世界から見ると今の日本の状況は時代錯誤であるので、そのような風景を見たら「日本はいつまでこんなことをしているの?」 と。

藤井総長:その通りだと思う。そのようなことを言うように努めたいと思います。

東大の中で「女性」像を増やす



永山氏
:東京大学が発表した女性教員の採用について「マーケットに人がいない(採用できる人がいない)」という可能性があると思いますが、そのあたりの目算はどうでしょうか。

藤井総長:色々な苦労が起こることは覚悟していたが、むしろ意識してやらないと変わらないことであるとの認識を新たにしています。採用に関してはやってみないと分からないが、これは決めてやるんだということが重要だと思っています。感覚的には有能な方は多くいるので、そのような方に来ていただけるような環境づくりが重要であると思います。

髙橋学長:女性をウェルカムする環境やインフラも重要だと思います。津田塾大学では女性をシンボルとするものや女性の名前が付いた建物などが多いのですが、東京大学では女性のイメージはどこで見られるのでしょう か?また津田塾大学では「赤松良子賞」というような女性の名前を冠した賞がありますが、東京大学ではどうですか?

林理事:東大の中の数少ない女性像としては、医学部付属病院の壁面のレリーフに描かれている看護師らしき女性と(新海竹蔵作「医学の診断、治療、予防」)、安田講堂の舞台の上の壁画に、古典的なギリシャ人のような衣装の優雅な女性が描かれているのを思いつきます(小杉未醒作「湧水」「採果」)。しかし、女性の名前を冠した賞はありませんね。男性の名前を冠した賞はあります(南原繁賞)。

髙橋学長:女性が何かを成し遂げることができる、ということを、賞を通して伝えることができます。女性をウェル カムする、エンパワーする、包摂するという環境でインフラを整えることが重要ではないでしょうか。賞は一例ですが、そのような形で女性を顕彰する、そういう「あゆみ」が重要です。
 女性は高等教育機関に遅れて入ってきました。東北帝国大学が 1913 年に女性学生を受け入れたのに、東京帝国大学は 1946 年まで女性学生を受け入れてきませんでした。33 年も東北大に遅れたのはなぜかという問いを立てて、東京大学のこれまでの歴史を検証していくべきではないでしょうか。
 津田塾大学では女性が困難をどのように乗り越えて今に至るか、ということを学生に語っています。歴史的に見て、様々なハードルを乗り越える時に卒業生がどのようにかかわってきたか。例えば、男女雇用機会均等 法成立にこぎつけたときに、津田塾大学の卒業生の赤松良子や元学長の藤田たきがかかわっていたことなども 積極的に発信しています。
 女性が中心に置かれて語られる環境は、その後の人生ではなかなかないものであり、これは女子大学だからこそできることだと思っています。藤井総長が女性だけのことを語ることは許されないでしょうが、どこかで女子学生を中心に据えて、女性に向けて語りかけるという機会を作ることができれば、それはエンパワーメントになると思う。女性が過ごしやすい環境を作るインフラ作りや、30%クラブに加盟する大学の大学史などで女性をどの ように扱っているのか検証するなど、見直すべきことは多くあると思います。




本対談は、30% Club Japan 大学グループに参加している各大学(*)の学長ら及び 30% Club Japan の他グル ープ関係者など、約30名が視聴し、後半は質疑応答も行われました。最後に、対談から得られた学びも踏まえ、 2023 年度に開催予定の次回の大学グループ本会合では各大学でのプログレスを報告することを確認し、閉会 しました。


※大学グループ参加大学:大阪大学、お茶の水女子大学、慶應義塾大学、昭和女子大学、上智大学、津田塾 大学、東京大学(チェア)、同志社大学、新潟大学(50 音順)



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