【Campus Voice】「UTokyo Women⁺ 研究者ネットワークを作ろう!」イベントレポート


2022年2月24日(金)、東京大学男女共同参画室主催で『UTokyo Women⁺ 研究者ネットワークを作ろう!』が開催されました。本イベントは、性別や年齢にかかわらず多くの研究者(大学院学生を含む)の参加を歓迎し、大きな学内研究者ネットワークの実現を目指しています。今年度もオンラインで開催され、活発な議論が行われました。

2023.2.24
リポート/学生ライター
八尾 佳凜(教養学部4年)

当日のスケジュール

14:30 開会挨拶
14:35 鼎談『育児と仕事。完璧じゃなくてもあきらめない。』
14:55 グループディスカッション
15:35 全体会 
15:55 閉会挨拶

開会挨拶(林香里 理事・副学長)

林香里 理事・副学長から開会の挨拶がありました。

今回は性別や年齢にかかわらず多くの研究者の参加を歓迎していますが、特に女性研究者の方々は、キャリア形成や仕事とライフイベントの両立など、不安に思う部分も多いであろうことから、ぜひこのイベントでは参加者同士ざっくばらんな議論をしてもらいたいとのことでした。

鼎談「育児と仕事。完璧じゃなくてもあきらめない。」

松井千尋先生(数理科学研究科 准教授)の経験談を中心に、林理事・副学長、インタビュアーの吉川雅英先生(医学系研究科 教授)も加わり、育児と仕事の両立についてお話しいただきました。育児等のライフイベントを経験し、学内外で研究者として活躍されている三名から見て、育児と仕事をやりくりするコツやハードルはどういった点にあるのでしょうか。
林香里 理事・副学長×松井千尋 数理科学研究科准教授
インタビュアー:吉川雅英 医学系研究科教授

コロナ禍での育児と仕事

吉川先生:まずは、松井先生ご自身の研究内容と、ご家庭の様子についてお聞きします。

松井先生:私の研究分野は数理物理学といって、数学と物理学の中間に位置します。紙と鉛筆を用いて地道に作業するイメージですね。最近は、マクロな現象をミクロなメカニズムから解明する統計力学にも取り組んでいます。

私は2019年と2021年に出産を経験し、現在4歳と2歳の娘がいます。夫は同じ分野の研究者です。コロナ禍で保育園が使えなかった時期は、夫と協力して授業の準備や研究をしていました。コロナの影響で海外での学会はなかったのですが、子どもの面倒を見ながら自宅で授業や研究を行うのは本当に大変でしたね。育児と仕事の両立に関しては、私の場合、近い分野のパートナーがいたことと、お互いに時間に融通が利いたという点が大きいかもしれません。

吉川先生:なるほど。近頃は徐々に対面活動が再開されていますが、出張して学会に出席する際はどうされているのですか。

松井先生:私の研究分野では、食事会などを兼ねたカジュアルな会話を通じて新たなアイデアが生まれるので、対面の学会はやはり重要です。出張の際は、子どもの面倒を母に見てもらうこともあります。学会にある託児所はまだ利用したことがありませんが、科研費から費用を支出できると聞いています。

キャリアアップについて

吉川先生:2008年に一ヶ月フランスに行ったことが転機になったとのことですが、どういう経緯で渡仏されたのですか。

松井先生:学生のとき、他大学の研究者との共同研究に行き詰まっていたという事情があります。私の研究分野の場合、日本でその分野を牽引している少数の人々に研究者として認められることが重要ですが、上手くいかず悩んでいました。しかし、海外に行ったことで、自分が狭い環境に囚われていたことに気づきました。日本でうまくいかなくなったら分野を変えても良いし、海外に出ても良いと思えたんですね。それがきっかけで、アカデミアの道に進むことを決意しました。博士課程への進学については、親からも「やりたいことをやれば良い」と背中を押してもらえました。

そこから、2012年に所属部局の変更を決意しました。研究内容自体には変更がなかったのですが、他の側面から数理モデルを扱っている場所に行きたいと思ったんです。これを機に、物事を見る側面が増えましたね。

2012~2016年は職探しの時期でした。学生の頃に大学での研究に行き詰まった経験から、就職活動の際は企業にも応募しましたが、うまくいきませんでした。これは大学に残って頑張れというメッセージだと感じたのですが、大学での就活もなかなかうまくいきませんでした。なんとか助教として採用されたものの、将来に対する不安や悩みを抱えながら過ごしていたことを今も覚えています。その後も右往左往しつつ、2017年に現在の数理科学研究科にて准教授となり、翌年に結婚しました。

今後の研究者のために

吉川先生:今後理系の研究者を増やすためには、何が必要だと思われますか。

松井先生:研究者のみなさんには以下のことをお伝えしたいと思います。誰しも悩む時期はありますし、自分の今置かれた環境ではやりたいことが実現できないという場合もあります。ただ、やりたいことの本質を突き詰めて、自分の思い描いている世界から飛び出せば、それを実現できるかもしれません。

林先生:東大で研究しやすい点や、逆にやりづらい点があれば教えてください。

松井先生:やりづらい点としては、部局のローカルルールが多く煩雑であることが挙げられます。細かいことをもっと簡単に、上層部まで訴えられると良いのですが。

林先生:ローカルルールは、東大創設から現在までの150年間に、男性中心のコミュニティの中で決まってきたという側面もあるのだと思います。わざとではなくても、意思決定の場に入ることができない女性・外国人・性的マイノリティ・障害者など少数派の意見を排除してきたのが現実です。男女共同参画室でも、ローカルルールの方針を可視化していくことが重要だということを話し合っています。

グループディスカッション・全体会

ファシリテーター:浅井幸子 教育学研究科教授

1グループ4名前後のブレイクアウトルームに分かれ、以下のテーマについてディスカッションが行われました。

・仕事や学業とライフイベントのやりくり(育児、介護、妊活等)
・キャリア形成(就活、夫婦別居、将来のライフイベントのタイミングetc.)
・ 学生指導、研究室運営、授業
・周囲の人や部局等、環境に関する悩み
・外部資金の獲得、論文執筆、研究活動
・ライフイベントに対する学内外の各種支援サポート
・大学の男女共同参画推進に関する提案

ブレイクアウトルームでは、妊娠・出産を経験された方、男性の方、海外出身の方など、所属やバックグラウンドは違えど、どのグループでも悩みや不安に共感の声が上がり、活発な意見交換が行われました。
その後、各グループで出た意見を全体で共有する全体会が行われました。そこで出た意見をいくつか紹介させていただきます。

「研究者のネットワーキングの必要性を感じた。男女共同参画室には、全学で行っている取り組みを共有するなど、ネットワークのハブになってほしい。東大は社会を牽引する役割も担っているので、それも念頭において取り組みを進めてほしい」
「論文を書きながら育児を行うことの難しさを痛感した。パートナーの理解も必要だが、制度面での支援も重要だと思う」
「キャリア形成については、特定のコミュニティ内でしか得られない情報もあるため、外国人には言語面以外にも多くの障壁が存在すると感じている」
「所属によってキャリア形成やアカデミック面のサポートにばらつきがあると感じた」

ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、トップの推進力はもちろん重要ですが、こうした場で交わされる悩みや共感の声を掬い上げ、施策にいかすことが必要不可欠です。研究者同士のネットワーキングとニーズの汲み上げという側面を持つ本イベントはその点において非常に貴重であり、今後もこうした取り組みを全学で実施していくべきだと実感しました。

​閉会挨拶(吉江尚子 副学長/男女共同参画室長)

イベントの最後に、吉江尚子 副学長/男女共同参画室長から閉会の挨拶がありました。

男女共同参画室では引き続きホームページなどで情報発信していくほか、今年度からは女性リーダー育成に向けた施策「UTokyo男女⁺協働改革#WeChange」も始動しています。ぜひこうした大学の動向にも注目しつつ、本イベントを機に研究者同士のネットワークを広げてほしいとのことでした。