理系進路選択支援イベント2019「看護学って理系?文系?-リケジョの力を活かす看護科学!-」

ポスター一部
8月7日 東京大学オープンキャンパスに合わせ、東大で看護を学ぶ魅力にフォーカスしたイベントが開催された。昨年の駒場キャンパスに続き、今回は2度目の開催となる。東大に通っている、もしくは研究者の家族がいる人など30名弱が参加した。女子中高生が多く、保護者の姿も見られた。
 
東京大学学部入学者のうち、女子学生はわずか18%である(東京大学平成31年度入学者数)。一方で、就業している92%を女性が占める(平成28年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況)職業が看護師だ。男女の割合が正反対の環境で看護師になることの潜在可能性とは何だろうか。女子学生はもちろん、男子学生にも開かれている看護の魅力について迫る。
 
プログラム概要
13:30~14:40 真田弘美教授 講演「リケジョの力を活かす看護科学」
14:40~15:30 在学生による学科選択理由と受験までの経歴紹介、質疑応答を含む座談会

2019.8.7
レポート/学生ライター 村上 芽生(医学系研究科健康科学・看護学専攻 修士1年)

「リケジョの力を活かす看護科学」

  • 真田先生、ご講演の導入の様子。好きな画家の絵にまつわる裏話を交えて。

真田弘美先生とは?

看護学と理工学を融合させた看護理工学を生み出し、褥瘡(じょくそう。床ずれとも言う)を始めとする創傷予防に寄与している、パワフルでチャーミングな健康総合科学科の教授だ。研究と企業連携を通じて、研究成果を実際の臨床現場で活かせるよう製品開発も行っている。日本全国・世界中からラブコールが多く、各地を飛び回っている。
 

なぜ創傷看護?

真田先生が創傷看護に目覚めた理由は2つある。
一つは、効果的な褥瘡の予防方法がなかったことである。看護師として働き始めたころ、真田先生は患者に褥瘡ができていることを発見した。初めての実物を前に興奮して師長へ報告したものの、「褥瘡は一箇所に圧力がかかってできるもの。看護ケアが不十分な証拠であり、看護の恥である」という指摘を受けた。具体的に看護師としてできる介入方法を調べたが、本に載っている褥瘡予防方法は「2時間おきの体位変換」のみ。皮膚の脆弱な高齢者などに対して、必ず褥瘡を予防できる方法はなかった。
もう一つは、日本の急速な高齢化を受けて、「老いることも悪くない社会」を目指していることだ。日本は平均寿命が長いため、高齢で認知症になる人が多い。認知症になると、自分の痛みを人に伝えることができない場合もある。真田先生は、褥瘡ケアの視点から高齢化に伴う苦痛を取り除こうとしている。

看護×研究×技術=イノベーション

2030年には、医療を受けられないまま痛みや苦しみの中で死を迎える人、いわゆる「看取り難民」が全国で47万人になると予想されている。ドイツで毎年開催されているREHACAREでは、バイク型や電動アシスト付きで腕力不要な車椅子など、デザイン・機能が多様で人々が最後まで自分らしく、自律して生きられるよう支援するデバイスが紹介されている。真田先生は、そのような技術を褥瘡予防に応用し、高齢であっても痛みを感じないで済むような研究・製品開発を行っている。
 
一つ一つの研究や製品開発は、真田先生の「生きる力を看る、そして最期まで護(まも)る」という看護観と、細かな振動が本当に血行を良くするかどうかなど、小さな研究の積み重ねから学問を創造していく熱意によって支えられている。看護師として医療の現場を知っているからこそ、理工学を用いて次世代の標準を作る、つまりイノベーションを起こすことができるのだ。

健康総合科学科 看護学専修とは?

  • 参加者と在学生との座談会の様子。学科紹介にあったように、5人それぞれの背景が理系・文系の双方であることがわかり、在学生同士の仲の良さも伝わってきた。

後半は、学生の司会の下、健康総合科学科 看護学専修の学部在学生による、学科紹介・選択理由、受験についての個々の体験談の発表、そして参加者との座談会であった。今回は、健康総合科学科3年生の5名(女性3名、男性2名)が登壇した。
なぜ東大を目指したか、受験勉強や推薦入試、文系・理系、男性・女性と異なるバックグラウンドから健康総合科学科を志したきっかけなど、現役生の貴重な声を聞くことができた。卒業後の進路は、看護師になる以外にも、大手・ベンチャー企業、省庁へ就職するほか、研究者やアナウンサーになる人など、健康に関して社会で広く活躍する機会があるようだ。
 
イベント終了後、参加者にインタビューを行った。参加前は東大で看護を学ぶことに疑問を抱いていた人もいたが、真田先生の講演や現役生の意見を聞いて、看護学は人に近い社会問題に関わる導入になり得ると知り、興味が湧いたという。保護者の中には、女性でも仕事を続けられる分野なので関心がある、という声もあった。

在学生として取材してみて

筆者は、2019年4月より医学系研究科 健康科学・看護学専攻という、総合健康科学科の大学院版に所属している。今回、自身のフィールドでもある看護学分野を牽引する真田先生のお話を通じて、大学院で行う研究活動は臨床、ひいては患者や社会に還元されるべきものであると改めて感じた。
 
また、患者の体圧を感知するマットが自動で体位変換を行う方が、看護師が実施した場合より患者の痛みを軽減した事例は、私の看護への考え方を変えた。看護とは、人との関係によって成り立つものだと考えていたが、人間だけでは解決できないことを異分野の学問や企業と協力することで改善し、人の健康へイノベーションを起こすことができると感じた。
 
真田先生のように、看護学の可能性を模索し、分野を超えた学問の融合ができるのは、東京大学の恵まれた環境があればこそ。より多くの女子学生が、この環境を利用できるようになることを願っている。