【Campus Voice】医学系研究科・医学部 男女共同参画委員会主催 「医学系キャリア支援のための交流会<特別回>」

医学や科学の領域で女性として挑戦を続けるということ

東京大学医学系研究科・医学部男女共同参画委員会では、2012年より、若手医師・研究者・学生などのキャリア支援を目的とした「医学系キャリア支援のための交流会」を毎年開催している。これまでは、既にキャリアを確立された方々がご登壇されることが多かったが、2019年10月1日に開催された特別回には、参加者にとって、より世代が近く、米国にてPhysician Scientist としてのキャリアを形成しつつある村上尚加先生にお越しいただいた。医学生を中心に、医師、教員の方々を含めて56名が参加した。
 
プログラム概要
第一部 17:00-17:45 講演 
村上尚加先生
「挑戦を続けるということ; as a woman in medicine and a woman in science」
第二部 17:45-18:25   自由歓談


2019.10.1
レポート/学生ライター 村上 芽生(医学系研究科健康科学・看護学専攻 修士1年)

村上尚加(なおか)先生とは?

村上尚加先生は、東京大学大学院医学系研究科のPhD-MDコースを修了し、平成22年に東京大学医学部医学科を卒業されたのち、日本での2年間の内科研修を経て渡米し、現在はアメリカ ハーバード大学ブリガムウイメンズ病院腎臓内科で働きながら腎臓内科・移植免疫学の研究をしている


キャリア形成に関した交流会ということで、村上先生には女性として男性が大半を占める業界で医師・研究者としてどのようにキャリア形成を行ってきたかについてお話いただいた。そこで村上先生が何度も強調されたのは、キャリア形成のために目標を持つことが必要だということだ。

キャリアを築くためにはビジョンを持つこと

キャリア形成を登山に例えると、そもそもどんな山(ビジョン:将来の見通しや未来像)に登りたいか具体的に考えることが必要だ。村上先生は、医学部在学中~研修中に模索した結果、腎臓は様々な機能を司るにも関わらず、移植以外に効果的な治療法がないと気づき、腎臓移植内科・移植免疫の研究医(参考:研究医養成との関係)になることを志した。移植件数が少ない日本で研究することは難しいと考え、移植が盛んな米国へ飛んだ。
 
しかし、それまで東大・医学部と順調にキャリアを築いていた村上先生にとってさえ、渡米は簡単なことではなかった。日本の医師免許は米国では使用できないため、再度研修を行う必要があったが、受け入れてくれる病院が見つからない。30の病院から受け入れを断られ、諦めかけた時に現在の病院が研修を受け入れてくれたという。輝かしいキャリアを積まれているだけに、先生も苦労されていたことは筆者にとって意外だった。その苦労を惜しまなかったからこそ、活躍されているのかもしれない。
  • 講演中

米国研修医としての生活

米国における研修医(レジデント)の朝は早い。6:30には出勤し、お昼はご飯を食べながら症例検討会、週1回は論文の抄読会(論文を参加者で読み解く会)、帰宅は18時頃になるという。ただ、帰宅時間が日本の医師よりも早いこと、年に4週間は夜勤専従となることから、夜勤専従ではない期間にはプライベートな時間も確保できるそうだ。とはいえ、6:30に出勤して18時頃帰宅というのも、なかなか大変そうである。
 

Equality;男女共同参画に関して

米国内では、人種や性別における機会均等について医学系学会や論文でも取り上げられているという。OECDによると日本の女性医師数は20.4%(34か国中最下位)であり、米国は34.1%でワースト4位である(注1)さらに、功績を残した人を称えた肖像画が大学などに飾られているが、その大半は白人男性であることから、dude wall(dude:男性が他の男性へ呼びかける時によく使われる言葉)と呼ばれ、批判されるなど、米国内でも男女平等が注目されている。ちなみに、最後の参加者による質疑応答の写真に注目していただきたい。背景は日本版dude wallと呼べそうだ。
(注1)
参照:女性医師キャリア支援モデル普及推進事業の成果と今後の取組についてP4「OECD加盟国の女性医師の割合」
(参考文献)
Butkus et al. “Achieving Gender Equity in Physician Compensation and Career Advancement: A position paper of the American College of Physicians” Annals of Internal Medicine, 2018; 168:721,
Iwasaki et al. “Why we need to increase in the immunology research community.” Nature Immunology 2019;20:1085

 
 

最後に

「男女の差は確かにあり、行動生物学的にも男女の違いが示されている。しかし、論理的思考に影響しているわけではない。」村上先生はご自身が大学院在学中に出産・子育てをされていた例を挙げ、「女性としてキャリアを目指す人も、周りのサポートを上手に借りることで自分のキャリアを追求してほしい」、と会場の参加者を激励された。

 
If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.

自分が登りたい山について、必要日数や物品などその山に登るためのプランを具体的に考えるように、キャリア形成のためにも具体的な行動計画を考えることが重要である。アフリカのことわざ「早く行きたければ、ひとりで行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け。」を引用し、参加者が自分のキャリアを改めて考えるきっかけとなる締め括りであった。   

会場からの質問

Q.いつから海外で働くことを視野に入れていましたか?
研究を始める前から興味はありました。実際に研究医になることを志した時、臨床(外来)2割、研究8割と時間的区別がしっかりしていて、自由裁量の部分も多いなどワークライフバランスもとれると分かったことも大きかったです。
 
Q.今後のビジョンは?
実は先日、上司にも10年後何をしたいか聞かれました(笑)自分の研究室を持ちたい、と漠然と考えていたのですが、上司からは研究室の規模など具体的に考えなさい、といわれ今考えているところです。できるだけ長く米国で頑張りたいと思っています。
 
Q.アメリカでの研修医生活、有名な大学での研究をされていますが、何が大変でしたか?
振り返ると様々なことが繋がって、大きなことをしたように感じます。ただ、ここに至るまでには小さな目標を立てて、それを達成するようにしていました。帰国子女ではなかったので、語学は苦労しましたが周りのサポートを借りながら、2-3年してやっと患者さんの言っていることが聞き取れるようになりました。
  • 質問のために集まる参加者の方々。途中、村上先生が見えないほどの人垣ができていた。

第二部の自由歓談時間には村上先生の周りに参加者の大半が集まり、キャリアに関する様々な意見交換がされていた。

おわりに

いかがでしたか。
キャリア形成のためには、自分が何をしたいのか決め、それに向かって具体的に行動していくことが必要という村上先生のアドバイス。現実を生きながら夢を追うことは難しいですが、東京大学という環境を活かし、男女関わらず協力しあうことで、皆さんも夢へ1歩ずつ近づくことができるのではないでしょうか。
今回ご協力いただきました医学系研究科・医学部 男女共同参画委員会のみなさま、村上先生、鉄門だより編集部のみなさま、ありがとうございました。

写真提供:鉄門だより編集部