高校生のための東京大学オープンキャンパス2020 文学部特別企画 「東大に来て、私は変わった?~文学部の魅力を語る~」イベントレポート


突然ですが、あなたは文学部に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか?
はっきり言ってしまえば、「本を読んでいるだけ」「社会で役に立たない勉強をしているところ」といったイメージがあるのではないでしょうか。実際、筆者も東大の二年生で、文学部に内定しているのですが、そうしたイメージをすぐに否定できるほどの知見はありませんでした。しかし、今回のイベントを通して、イメージとは異なる文学部のさまざまな魅力や可能性が明らかになりました。

2020.9.21
リポート/学生ライター
講元幸祈(教養学部文科三類2年)

「東大に来て、私は変わった?~文学部の魅力を語る~」

  • 新井先生

 イベントは、文学部の新井潤美教授が、三人の文学部の学生に質問を投げかけ、一人ひとりが答えていく形で進む座談会で、文学部生の赤裸々な本音を聞くことができました。全体として、全員がとても生き生きしており、親しみやすく穏やかな雰囲気で進んでいるなという印象を受けました。学部生三名の内訳は、三年生が一人、四年生が二人。そして男子が一人、女子が二人。さらに、お三方はそれぞれ社会心理学・国文学・英文学を専攻しておられます。この簡単なプロフィールからも、お三方は三者三様のバックグラウンドをお持ちであることが分かると思います。おかげでこのイベントでは、本当に多様な声を聞くことができました。これから、そうした声を、ほんの一部ではありますが、ご紹介していきたいと思います。

「東大・そして文学部に入った理由、入るまでの苦労」

 一つ目の質問は、「東大・そして文学部に入った理由、入るまでの苦労」です。東大文学部を選んだ理由としては、高校の恩師に勧められて、過去の文人の後輩になりたくて、東大の建物に惹かれて、優秀な人がたくさん周りにいて自分を高められる環境が魅力的で…といったさまざまなものが挙げられました。最初から文学部に行こうと決めていた人もいれば、高校の時は官僚を目指していたという人、どの学部に行くかはまだ決めていなかったという人もいました。この点に着目して新井先生も、進学選択の制度によって、「大学に入学してから、どの方面に進むかを考える機会が与えられる」という、他の大学には見られない東大のメリットを、改めて実感しておられました。苦労した点については、やはり受験勉強が挙げられました。
 この質問への答えの中では、日常と結びついた社会心理学を学ぶことで日常に新たな視点が加わった、いろんな価値観を学ぶことで自分を成長させてくれる、という文学部の魅力が挙げられました。
  • 質問1

「東大は女性が少なく、マスコミが『東大女子』のイメージを作り上げたりしているが、実際のところはどうなのか」

 二つ目の質問は、「東大は女性が少なく、マスコミが『東大女子』のイメージを作り上げたりしているが、実際のところはどうなのか」というものです。これに対しては男子学生の方から、さまざまなハードルがある中で東大に入学してきた女性にはやはりしっかりとしたビジョンがあって素敵だと思う、結婚観など、ディスカッションで自分にはない視点を提供してもらえるので、文学を学ぶ上で女性の存在は重要だと感じている、という答えがありました。女子学生のお二人は、女子が少なめの環境であっても、自分が『東大女子』だというのを特に意識せずに過ごせるとのお答えでした。性別に関わらず一人の人間として見てもらえる環境が東大にはあるということが分かります。この事実がより広く知れ渡り、女子学生の皆さんが東大に入るハードルが少しでも下がればと願わずにはいられません。
  • 質問2

「文学部に来て自分が変わったなと思うことはあるか」

 三つ目の質問は、「文学部に来て自分が変わったなと思うことはあるか」というものです。文学を勉強されている方々からは、まず、さまざまな本を読み、教授の話を聞くことで、多様な価値観が身につき、一つの物を見るときにも想像力が働き今までにない見方ができるようになった、という答えがありました。新たな見方が得られるという点については、二人以上の視点を使い分けて描けば、同一人物を全く別の人物のように描くこともできる、という文学の特徴が影響しているようでした。また、書く文章の論理構造を意識できるようになり、論理的な考え方ができるようになった、という答えも聞かれました。社会心理学を勉強されている方からは、自分の行動を客観視できるようになった、新たな視点や、自己分析をアカデミックに行う術を身につけられた、という答えがありました。文学部では、論理力や想像力が身につき、他人の理解、多様性の理解を深めることができるということが分かります。これらは、グローバル化していく社会の中で生活していく私たちにとって、とても本質的で、切に必要とされているスキルばかりです。文学部での勉強が社会で役に立たないなどということは全くないのだ、と言い切ってもらえたような気がしました。

「東大生・文学部生であることで、こんな風に思われがちで不都合が生じる、というようなことはあるか」

 四つ目の質問は、「東大生・文学部生であることで、こんな風に思われがちで不都合が生じる、というようなことはあるか」というものです。就職活動で、「文学部」というと「何をやっているのか?」と疑問を投げかけられることが多く、世間一般での文学部のマイナスイメージを実感した経験、他の大学の人と接したときに「東大っぽくない」と褒め言葉として言われ、東大生に対する「変人」というステレオタイプを実感した経験、東大生だと言うと謎解きやクイズが強いと思われてしまうという経験など、東大生・文学部生なら誰でも一度は経験したことがあるであろうことが次々に挙げられ、思わずクスリと笑ってしまいました。お三方のとても親しみやすく、ステレオタイプに当てはまらない姿から、東大生の多様性についての理解も広がって欲しいものです。
  • 質問4

「東大生としてメディアに取り上げられるのは理系の人の方が多いようだが、理系の東大生と交流はあるか」

 五つ目の質問は、四つ目の質問に続く一連の会話から派生して、「東大生としてメディアに取り上げられるのは理系の人の方が多いようだが、理系の東大生と交流はあるか」というものです。お三方とも、サークルなどで理系の東大生とも関わる機会はあるが、文理の壁を特に感じないし、科類に対する入学前のステレオタイプはあまり当てはまらない、というお答えでした。文理の差を感じる瞬間として、理系の人が難しい数学の問題を解いていたり、実験に勤しんでいたりする姿を見たりしたときが挙げられていました。また、答えがはっきりと一つに決まる学問を主にやっている理系の人は、白黒はっきりさせようとしがちで、答えのない問いを考え続けている文系の人とは、時に考え方が違うようです。これらの違いをネガティブなことではなく「そうなんだな、面白いな」と素直に受け取っている姿が印象的で、先ほどの「文学部では多様性の理解が深められる」という話を思い出しました。

「マスコミに出ている東大のイメージについてどう思うか」

 六つ目の質問は、この会話の流れを受けて、「マスコミに出ている東大のイメージについてどう思うか」というものです。そのイメージに立ち向かう人もいるが、マスコミに作られた東大生ブランドをうまく使って注目を浴び、人と仲良くなるきっかけにすることもできるという意見、テレビでは変わった人のみ抽出しているのだと割り切り、一視聴者として楽しんでいるという意見、テレビに出ている卓越した能力を持つ東大生を比較対象として捉え、同じ属性を持つ、つまり東大生である自分には何ができるか?と自分を見つめ直しアイデンティティを確立するきっかけにできるという意見が挙げられました。こうした臨機応変で豊かな意見の数々に、新井先生は「自分を客観視でき、自分中心で何も見えなくなることがない」という文学部が伸ばしてくれる力を見て取っておられました。
  • 質問6

高校生の皆さんへのメッセージ

 最後に、お三方から高校生の皆さんへのメッセージがいただけました。勉強だけでなく部活や学校行事も含め、自分がそのときやれることをきちんとやっていき、自分の努力をきちんと評価することで、自分を信じられるようにすることが大切で、受験での力になるということ。混乱する社会情勢の中だからこそ文学が支えになり、読むだけではなく、自分の言葉で文章を書くことで頭の中をクリアにすることができ、自分の死後も後世に遺していけること。トライアンドエラーを繰り返しながら考え続けて頑張ることが人生における大切な経験となること。高校の時に勉強に限らず何かを「やり切った」という経験がその先もずっと役に立ち続けること。高校生へのメッセージとはいえ、受験勉強を超えた、生涯を通して役に立つ助言ばかりで、大学生の筆者も目の覚める思いでした。
  • メッセージ

最後に

 さて、ここまでイベントの様子をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。冒頭に挙げたイメージとは異なる文学部の姿が、見えてきたのではないでしょうか?文学部は、新井先生のお言葉を借りれば“well-rounded”、つまり全体的な、幅広い視野を持った人材を育ててくれる場所なのです。今回このイベントに参加できなかった人も、このレポートで少しでもイベントの様子が伝わり、文学部っていいかも、東大っていいかも、と思ってもらえたなら幸いです。