【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2020「法学部グループ相談会」イベントレポート



「高校生のためのオープンキャンパス2020第1弾」が、9月21日(月/祝)・9月22日(火)に開催されました。この記事では、法学部が実施した、女子限定グループ相談会の様子をレポートします。

2020.9.21
リポート/学生ライター
法学部4年 望月花妃

イベント概要

・開催日時:2020年9月21日(月/祝) 15:00~16:00
・開催形式:オンライン(Zoom)
・参加者:女子高校生、女子の既卒生、その保護者
・定員:50名(事前登録制)
  • 法文

インタビュー1 ―企画仕掛け人に聞く―

 実施に先駆け、本企画の仕掛け人のお二人にお話を伺いました。
 
 お話を伺った方
・ 沖野眞已教授(研究分野:民法)
・ 宍戸常寿教授(研究分野:憲法・国法学・情報法)
 
— 受験生向けのグループ相談会を実施するにあたり、「女子限定の枠」を設けるに至った経緯をお聞かせください。
 
(沖野教授)女子の受験生が学力以外の理由で「東大に来る」という選択肢を選んでいないという実情を受け、女子高生に特有の事項、保護者の方に関しても特有のご心配を気兼ねなく話すことができるようにと、「女子だけ」の空間を用意するに至りました。
 
— 法学及び東京大学法学部の魅力を教えていただけますでしょうか。
 
(沖野教授)個人の話から始めますと、私が学生だった頃は、女性が民間企業でというのが今よりもさらに大変な時代でしたので「潰しがきく」という理由で法学部を選びました。実際に学んでみて、専門の民法を始め、ルールを組み立てて出来上がっていく論理構造の美しさにまず惹かれました。
 
(宍戸教授)高校生の皆さんは、現代社会や公民の授業で「幸福追求権」とか、「正義」「公正」といった概念を学んだかもしれません。こうした知識に加え、社会の構成員として「実際にどう振る舞うべきか」「どのような社会の制度をどのようにつくっていくべきか」を考えるのが政治学であり、法学です。その意味でやはり、これからの社会をつくっていく若い人にとって、役に立つ学問だと言えると思います。
 
(沖野教授)私も、法的な思考や政治的発想は人と人との間を生きていく上で欠くことのできないものだと考えております。ですから、法学と政治学の二本立てである東京大学法学部で学ぶメリットは大きいと感じていますし、「法学・政治学の知識を養って社会に出る」というルートの良さや意義をお伝えして、選択肢の一つとして考えていただければと思っています。
 
(宍戸教授)ただ、法学という学問の課題として女性やマイノリティの意見や視点が少ない分野であるということがあります。今回の試みもそうですし、今後もこの解消に向けて策を打っていく必要があると考えております。
 
— 企画実施の直前のお気持ちをお伺いしてもよろしいでしょうか。
 
(沖野教授)オンラインも女性限定の枠も初の試みですので、どんな人が来てくださるか楽しみです。コロナ情勢ということで、通常ではない経験・不安を感じておられる方も多いと思いますので、そういった方を励ましたいなと思っております。また、コンピュータリテラシーが低いので乗り切れるかどうか心配だったりもします(笑)。
 
(宍戸教授)我々は、「東大」「東大法学部」は高校生の皆さんにこう見えているだろうという想定のもと企画を用意しています。多くの方に参加していただけるということで、我々が考えているものとのズレを見つけることができて今後に活かせるのではないかという期待がありますね。ドキドキというかワクワクしています。
 
— ありがとうございました。

イベントの様子「東大法学部を志望した動機は?」「東大法学部でしか得られないことって?」

~導入~
 15時、Zoomの画面上に宍戸教授・沖野教授の両名が現れ、ご挨拶と注意事項の説明がありました。その後、早速ブレイクアウトセッション(少人数での座談会)に移行。各ブレイクアウトルームは、双方向的で豊かな交流ができるように、教員・助教1~2名、女子在学生2名、参加者8名程度で構成されていました。
 法学部のゼミを通じた呼びかけで集まった女子在学生は、10名。今回の企画について「オンライン開催ということで、女子であることがネックになりやすい地方の女子高生が参加しやすくなると思った」「コロナ禍のなか、進学先に悩む女子高生の力になりたい」と積極的な姿勢が見受けられました。
 
 ブレイクアウトセッションではまず、女子在学生から3~5分程度のプレゼンテーションが行われました。内容は、興味関心や専攻、進路、所属サークルについてなど、自己紹介に加え「どういった疑問に答えられるかな」を示すものでした。
 「東大に通う女子学生がどのような大学生活を送っているか」をイメージし、同じ「東大生・法学部・女子」という肩書きを持っていても、法曹を目指す人、政治学を専門にする人、国際的な活動に関心がある人、法や政治以外の分野にも関心を持つ人と様々であることを感じることのできる貴重な機会になったと思います。
  • イベント当日の模様 (写真左)沖野教授(写真右)宍戸教授

~質疑応答~
 その後に、質疑応答タイムが設定されていました。
 受験生ということで勉強法関連の質問が多くなると予想していましたが、そこで飛び出した質問の大半は「東大法学部を志望した動機」「東大法学部でしか得られないことはありますか」など、回答する学生も深く考えさせられるものでした。
 志望動機に関しては、「難易度も入学後に学ぶ内容のレベルも日本最高だと思ったから」「進路がはっきりとは決まっていなかったので、前期教養学部があるという点に惹かれて」といった応答がされました。
 「東大法学部でしか得られないこと」については、「自由度の高い学部であり、学問と並行してサークル、インターン、資格の勉強など様々な活動に取り組むことができる」という点が挙げられた一方で、「講義の内容をしっかり勉強していれば、そのまま司法試験の対策になる」という意見もありました。また、「法学部に限定されることではないが、東大生とディスカッションできる環境は得難いものだと思う」といった声もありました。
 
 一方で、プライバシーへの配慮から「参加する高校生のビデオはオフ」としていたためか、なかなか質問があがらないグループもありました。こうしたグループでも、事前に寄せられた質問(「アルバイトについて」「弁護士以外の進路には何があるか」)に答えつつ質問を待つうちに、チャット機能を通じてテンポよく質問が寄せられるようになりました。
 とはいえやはり、女子在学生に実施した企画後アンケートでは、「質問しない高校生がどんな顔で話を聞いているかわからず心配だった」「顔を見られないので、親近感を感じにくい」など、交流の不足を実感する声も寄せられました。この点は、今後の課題になると思います。
 
 「女子学生の目線から、東大法学部の良いところを教えてください」という問いかけがなされたグループもありました。そこでは、「学部内で女子が珍しいために、名前を覚えてもらいやすく、発言の機会を得やすい」「男女平等やジェンダーの問題を自分ごととして考えられるようになったこと」などの回答が出ました。これらは、大学の友人からも日頃よく耳にすることだと感じます。
 
 ブレイクアウトセッションの終わりには、参加した高校生から「たくさんの経験談を聞くことができた」「とても参考になり、(東大法学部に)興味を持つことができました」「パンフレットには載っていない、学生生活の様子を知ることができて良かった」といった感想に加え、「コロナ禍でキャンパスを訪問できないなか、このような機会を設けてくださって本当にありがとうございます」といった言葉を聞くことができました。
 35分と短い時間でしたが、参加者の疑問が一つひとつ解消され、実り多いひとときになったと思います。
 
 その後、参加者全員が再度一つのルームに戻り、参加したブレイクアウトルームで十分に答えることができなかった疑問に答える時間が設けられました。FLYプログラム(*)について質問したかった女子高生が、参加したグループを超えて、実際にプログラムを利用した学生に詳細を聞くことができていたことが印象的でした。
 *FLY Programについて、詳しくはこちら https://www.fly.c.u-tokyo.ac.jp
 
 最後に、宍戸教授と沖野教授から参加者へのメッセージがあり、企画は終了となりました。

インタビュー2 ―本企画を実施して―

 本企画の感想・今後の展望について、本企画に尽力された神吉知郁子准教授に意見を伺いました。
 
 お話を伺った方
・ 神吉知郁子准教授(研究分野:労働法)
 
— 企画後の所感をお聞かせください。
 
(神吉准教授)今回の個別相談会では3セッションを設定しました。そのうち女子限定の枠が一番早く埋まったんですね。そこで潜在的なニーズを感じました。
ただ当日の質疑内容は女子特有のものではなく、参加者を限定しない他のセッションと変わらないものでした。「女子をターゲットにしている」というメッセージを伝えられたとは思うのですが、今回の企画趣旨が性別で時間帯を区切るという方法できちんと届けられたかは、今後の検証課題だと捉えています。

— 本企画に際して工夫された点や困難に感じた点がございましたら、お聞かせください。
 
(神吉准教授)これまで女子にアプローチする企画は、「リケジョブーム」のためか理系学部で行われることが大半でした。法学部としては初の試みでして、本当に手探りでした。
事前に教員と女子学生さんを対象にヒアリングをしまして、そこで「地方出身」という課題が上げられました。進学校は別としても、地方だと「わざわざ東大に行くことはないんじゃないか」という風潮、ある種の壁があります。今回の企画はオンライン開催ということで、この壁は超えやすいだろうと思いましたが、物理的なアクセスだけでなく情報伝達の距離もあって、難しさを感じました。出身高校でしか把握できませんが、やはり首都圏からの参加者が多かったんですね。初開催で参加枠も小さく、それゆえ大々的に打ち出せなかったという広報の問題もあるのですが、今後の課題であると受け止めています。
 
— 最後に、この記事をご覧になっている高校生に向けてメッセージをお願いいたします。
 
(神吉准教授)現在の東京大学において女子学生はマイノリティではありますが、男性の方が受かりやすいというわけではありません。女子にとっていい場所として思われていない、目指してもらえていないから、マイノリティになっているんですね。法学部に関して言えば、女性教員が少ないということもあって「法曹・法学部の専門家は女子にとって進路にならない」という認識を与えてしまっているのではないかとも思います。
入ってしまえば、男女関係なく様々な挑戦の機会に恵まれる環境です。法学部はもちろん、東京大学全体として多様性を確保しようという動きの中にありますので、ぜひ選択肢に加えていただければと思います。
 
— ありがとうございました。

ライターの感想 ―東京大学の多様性のあり方を考える学びの機会に―

 私が高校生のとき、東京大学ではちょうど推薦制度が始まった頃でした。私自身も法学部推薦2期生として入学しています。見渡して「女子が少ない」と感じることもありますが、入学当時から今日まで東大全体の「多様性に向けて」といった姿勢を感じることばかりです。
 今回のライターの活動は、実際に東京大学の多様性推進に携わる方々のお考えや取り組みをお聞きし、それを伝えるという貴重な経験となりました。企画の学生スタッフとしても、現在東大に通っている学生だけではなく「未来の東大生」が疑問や不安に思っていることに耳を傾けて東京大学の多様性のあり方について考えるという学びの機会に恵まれました。
 お読みくださった方々にとって、思慮を深めるきっかけになったり、新たな意見や視点を得る、あるいは励ましになるような記事になっていれば幸いに思います。
 最後になりますが、執筆についてご協力くださった皆さまに心より感謝を申し上げます。ありがとうございました。