【Campus Voice】東大理学部で考える女子中高生の未来2020 online イベントレポート


東大理学部で考える女子中高生の未来2020 online イベントレポート

2020年11月28日(土)に理学部主催の「東大理学部で考える 女子中高生の未来2020 online」が開催されました。 

イベントレポーター
髙山佳乃子(教養学部文科三類2年)

1.イベントの概要説明

例年ならば本郷キャンパスで行われていた本イベントですが、今年はオンライン開催となりました。初めに理学部の概要説明があったのち、理学部卒業生と理学部教員による講演が行われました。その後10の学科のTA(ティーチングアシスタント)の紹介があり、参加した女子中高生は自分の興味のある学科のTAのミーティングルームに入室してそれぞれの研究紹介を聞いたり進路などに関する質問をしたりしました。
オープニングでは理学系研究科男女共同参画委員会委員長の河野孝太郎先生から、次の理学をつくるには多様性が重要である上、理学で培われた力は人生の幅を広げるのでぜひ女子中高生の皆さんには身の回りの自然界に興味を持ってもらい理学の道に進んでもらいたいというお話がありました。

2.理学部の概要説明

  • 理学部スライド01

そもそも理学とは、心の中から湧き上がる「なんでだろう?」という疑問を元に自然を理解し新たな知識を見出すための研究を行っている学問領域です。ですから自然のあらゆるものや現象が研究対象となります。

東京大学の場合、前期課程で幅広く学んだのちに後期課程の学部・学科を選び、専門的に学んでいきます。理学部は10学科あり1学年あたり300名ほどの学生が在籍しています。理学部の学科には数学科、情報科学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学科、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報科学科があります。代表的な卒業生にはノーベル物理学賞受賞者の江崎玲於奈先生や小柴昌俊先生、梶田隆章先生、数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞者の小平邦彦先生、「うま味」を発見した池田菊苗先生がいらっしゃいます。

理学部には他に様々な施設もあり、附属植物園(小石川、日光)、三崎臨海実験所、木曽観測所、アタカマ天文台(チリ)などが挙げられます。こういった様々な施設で理学部の学生や先生方が研究されています。充実した研究設備は東大の大きな魅力の一つですね!

そもそも理学部と工学部の違いの一つは、理学部は自然の本質に迫り人類の知の先端を切り拓いていくことを目的とし、森羅万象を対象としているのに対し、工学部は社会の中での科学技術を重視しており、社会のニーズに取り組む方法を考えます。しかし近年は理学部でも応用的なことに取り組む研究室や、工学部でも基礎的なことを扱ったりする研究室も増えているので両者の違いは一様には言えません。

大学での勉強と大学院への進学についてですが、学部で4年間学んだ後修士課程で2年、博士課程で3年学ぶシステム、あるいは学部4年ののち一貫制の博士課程で5年間学ぶというシステムもあります。東京大学では学部1・2年のうちは幅広く学び学部2年の後半から専門へ分かれます。3年から各専門の座学や基礎実験を行い、学科にもよりますが、4年になると各研究室に配属され本格的な研究をスタートさせます。大学院の修士課程になると先生からテーマをもらって研究します。博士課程になると自分で見つけたテーマで研究を進めていきます。

卒業と進学についてですが、理学部の学生の約8割が大学院に進学します。大学院では約半数の学生が外部から入学してきます。また博士課程への進学率も5割近くと高いのが特徴です。女子学生の場合でも男子学生の場合とほとんど同じ割合で大学院に進学しています。女子学生ものびのびと研究に励んでいるということですね!

卒業後の進路については、研究者になる人、企業に就職する人どちらも多いです。学部、修士、博士いずれの段階で卒業しても様々な企業に就職しているという実績があります。
東大の理学部に少し興味が湧いてきましたか?次に本学理学部の卒業生と現在理学部で研究を行っている先生の講演の模様をご紹介します。

3.講演

講演していただいたお二方の紹介です。

登壇者:
田代麻友里(たしろ まゆり)さん 株式会社資生堂 購買部 原香料室
2010年東京大学大学院理学系研究科化学専攻修士課程修了 、同年 株式会社資生堂入社 化粧品開発・原料開発業務を経て、現在は化粧品原料の購買業務を担当

馬場彩(ばんば あや)先生 東京大学理学系研究科 物理学専攻 准教授
京都大学理学研究科物理学第二教室修了 、理化学研究所基礎科学特別研究員、ダブリン高等研究所シュレディンガーフェロー(アイルランド)などを経て現職

講演:田代さん
田代さんは理科二類に入学されました。学部4年時に理学部化学科の中の天然物化学研究室に行かれ、翌年分析化学研究室に移り、卒業後は資生堂に就職されました。
進学先に東大を選ばれたのは、小学生の時感じた理科実験の楽しさを忘れられなかったことと、入学後に学部を選べるシステムと東大の教授陣に魅力を感じたからだそうです。

大学入学後1・2年は理学に対する興味だけでなく美術関係にも関心が湧き、様々な授業を取られていました。ある授業で原始的な仕組みによる顕微鏡作りを学び、自然科学史への興味を持たれたとのこと。そこから進学先を理学部に決め、中でも自分の興味に最も近い化学科に選んだそうです。このように自分の興味に合わせてまずは幅広く学んだのちに学部を選ぶことができるのも、東大の大きな魅力の一つではないでしょうか。

学部3年生になり分析化学の授業で分析法を学び、「理学の研究対象である森羅万象をどの側面から見るかということ」により他の研究も進むということを知ってから、分析法で社会の役に立ちたいと思い分析化学研究室を志されたそうです。
しかしながら、学部4年の年には分析化学研究室が開講されていなかったため、天然物化学研究室へ所属されました。ここでは既存の論文などをもとに自身の実験結果を先輩達と共にディスカッションするなど、一つの現象をみんなで解き明かしていくという理学ならではの行為にとても楽しさを感じた有意義な一年だったそうです。またそのような経験を通して物事の本質を見極める力を鍛えられ、理学の良さを感じられたそうです。
実は田代さんは大学を4年で卒業し、就職することも考えたそうですが、理系学生の多くが大学院に進学することもあり大学院への進学を決心されたそうです。

修士1年から2年にかけては憧れの分析化学研究室に所属し研究をされました。そこではホタルやクラゲの発光タンパクに関する分析法の研究という、生物学よりの研究をされていました。ここでも、研究結果から考察を行い物事の真理を解き明かしていく力を養われました。

大学での経験で、勉強以外に人生に役立ったものとしてサークル活動をあげてくださいました。田代さんは「東大襖クラブ」という襖張りのサービスを行うサークルに所属しており、お客さまのニーズや家の雰囲気に合う襖張りのプランを作成したり、チーム作業のマネジメントを行うなど、企業さながらの活動をされていました。また、自分の作ったものが人に喜ばれることに楽しさを感じ、将来は研究よりも企業で商品を作り、人に喜んでもらえるような仕事をしたいと思うようになったそうです。サークルでの経験が、その後の人生に大きな影響を及ぼしたのですね。

また、写真に関するの授業に影響を受け、写真に興味が湧いたそうですが、そこで田代さんと資生堂との出会いがありました。なんと田代さんは資生堂の初代社長である福原信三氏のことを写真家として元々ご存知で、アートとサイエンスの融合を図る資生堂に就職したいという思いを持たれたそうです。なんとも素敵な出会いですね。
就職活動に関して田代さんは「学歴は関係がなく、本人が何をしてきたかが大事だ」というお話をし、社会貢献の理念に共感できる会社に対してはその会社への思いが伝わりやすいし、自分も楽しく仕事できるのではないかとおっしゃっていました。実際に田代さんが内定された企業は、田代さんが会社に対する自分の熱意を伝えられたところだったそうです。その一方で企業との縁による部分もあるとおっしゃっていました。就活は自分の力ではどうにもならない部分もあるので、大切なのは精一杯やることだそうです。これは大学受験に関しても言えることで、やるだけやった結果、たどり着いた道を大事にしたら良いのではないかというお話でした。筆者自身にも徐々に就活の時期が近づきつつあるので、非常にためになりました。
  • 理学部スライド02

資生堂でのお仕事についても詳しく教えていただきました。ご本人は就職後化粧品を作る研究職を志望していましたが、研究職にも様々あり田代さんは初めの8年間は日焼け止めの効果のある化粧品の商品レシピ作りに携わられました。その後より専門的な業務を希望したところ、商品の原料の物性評価などを行って原料を新たに探す部署で一年勤務されました。そして現在は原香料室で原料の買い付けの条件の検討に携わってらっしゃいます。

化粧品のレシピを生む研究所での仕事にも様々あり、研究所の運営をする人や技術管理をする人、原料を探す人や選ぶ人、現象の組み合わせを考える人、容器を考える人など、非常に多岐にわたります。たくさんの原料の中から商品に用いる原料を選ぶ作業では、人々の心に響くものを探すという意味ではアーティストに近いとおっしゃっていました。そのために必要な感性は日頃の勉強から培われるものだそうです。就職してもやはり日々勉強し続けることが大切なのですね。

ちなみに理系の研究職は男女分け隔てなく取り組みやすい職業だとおっしゃっていました。なぜなら、研究という共通言語を通してディスカッションする場には男女は関係なく論理性が大事となるからだそうです。中でも化粧品業界は人を美しくすることを大事にしているので、ライフイベントへの配慮がされており女性も働きやすく、実際に資生堂の男女比は1:1に近く、他社もそれくらいだそうです。

最後に、理学部で身につけた物事の考え方は社会に出たときに様々な分野で役に立つので、ぜひ理学部に来てほしいということでした。
  • 理学部スライド03

講演:馬場先生
馬場先生は宇宙線物理学奨励賞や日本天文学会の研究奨励賞、代表的な若手研究者に贈られる文部科学大臣表彰の若手科学者賞、女性の著名な研究者に贈られる米沢富美子賞などの受賞経験をお持ちの、宇宙物理学がご専門の先生です。
アイルランドでの研究員など様々なご経験をされています。宇宙物理学者になるきっかけは小学校の頃に見た宇宙に関するテレビだったそうです。

研究者は常に一番の成績を取る人しかなることが出来ないのではないかという不安を抱えたこともあったそうですが、誰かに「無理だ」と言われないうちはと思いながら研究を続けてきた結果、今に至るそうです。先生曰く、研究者は決して常に一番の成績でなくともなれるというお話でした。ご自身の経験に基づく非常に心強いお言葉でした。

先生のご専門であるX線天文学の研究内容について、この後詳しく説明がありました。その中でも文系学生の筆者が興味深く感じたところをピックアップしてご紹介します。
人間の目に見える宇宙は実は宇宙の一部でしかなく、人間の目に見えない電磁波を計測すれば見たこともないような宇宙の姿が見られるそうです。電磁波にはX線や紫外線などがあり馬場先生はその中でもX線に注目して研究なさっています。X線は波長の短い光でありエネルギーが高く、高温のものはX線で光っていることになるそうです。そのような場所は、星の赤ちゃんが爆発的に生まれている「星のゆりかご」だそうです。





X線を通して宇宙の真理に迫る馬場先生の研究はとても興味深かったです。女子中高生のみなさんも少し宇宙物理学に興味を持ってきましたか?もっと宇宙物理学のことを学びたいと思った人はぜひ物理学科へ!

次は各学科のTAによる学科紹介です。

4.学科紹介

前述した通り理学部には10の学科があり、各学科のTAがそれぞれの研究内容を紹介しました。その中でも数学科、地球惑星環境学科、生物情報科学科の3学科を紹介します。
数学科の奥田堯子さんは代数と幾何、解析という数学のそれぞれの分野を橋渡しする表現論を研究しているそうです。中でも、新しい関数方程式を解き自然現象の理解に寄与できる可能性のある“良い”関数を見つけるという方向性だそうです。数学を使って自然現象を解き明かすなんて面白そうですね!



一方地球惑星環境学科では地球に関するものを幅広く扱っているそうですが、広瀬凛さんは地球のメカニズムを研究対象にしています。この学科はフィールドワークも多いほか、授業で試料採取などの時間もあるそうです。



学科ごとのブレークアウトセッションでは参加者からの質問にTAが答えました。「何年生頃から進路を決めたか?」という質問に対し広瀬さんは、東大に行きたいと思い始めたのは高校生時代だが、東大入学後にまず幅広く学んだのちに自分の興味や得意科目を考慮した結果地球惑星環境学科に辿り着いたそうです。

生物情報科学科の鈴木ゆりあさんは、生物と情報という二つを掛け合わせた研究をしており、従来治療するのが困難だった難病も治療可能な新薬の開発に向けて取り組んでいるそうです。
参加者からの勉強に関する質問に対し鈴木さんは、東大を目指すなら得意科目だけを伸ばしたり複数科目でよくできることよりも、苦手な科目をなくしていく方がよいと答えました。様々な科目での力が受験の時点で求められているのですね。



最後に今回の登壇者の方々から女子中高生の皆さんに向けて、中高生時代を楽しみながらぜひ自分の興味のあることに飛び込んでみてほしいというメッセージが送られてイベントは閉幕しました。
 

筆者より

今回のイベントはオンラインということもあり、遠方の女子中高生も参加しやすかったのではないかと思います。オンラインで東大のことを知れるイベントは他にもありますし、東大を目指す学生向けのサイトもあるので、女子中高生の皆さんにはネットをうまく利用して情報を集め理学部を始めとして東大に興味を持ってくれたら嬉しいです。
一方で参加者のアンケートでは、受験や勉強に関する話を取り上げてほしいと言った声や各学科から複数の学生の話を聞きたかったという声が寄せられました。ぜひ今後のイベントはより良いものになってほしいですね。