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書籍名

理科好きの子どもを育てる小学校理科 理科の見方・考え方を働かせて学びを深める理科の授業づくり

著者名

日置 光久、 星野 昌治、船尾 聖、関根 正弘 (編著)

判型など

160ページ、B5判

言語

日本語

発行年月日

2020年2月

ISBN コード

978-4-477-03180-4

出版社

大日本図書

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カリキュラムは、一般にその志向性からみて「過去型」、「現在型」、「未来型」に分けて考えることができる。そもそも「文化の伝達・伝承」を本質とする伝統的なカリキュラム観の下では、人が持つ必要がある技芸の基本として自由七科に代表されるような「過去形」のカリキュラムが一般的であった。我が国では、戦後のアメリカ型教育への移行に伴い、昭和20年代の「現在型」のカリキュラムから、昭和30年代の高度経済成長の時代に入って「未来型」のカリキュラムに移行してきたという経緯がある。爾来、現在に至るまで、我が国のカリキュラムは「未来型」である。しかしながら、そこでいう「未来」は、決して一様・同質なものではない。日々豊かに便利になっていく生活を実感しながら、その延長線上に設定した「バラ色」の「未来」、大震災を経験し豊かさを問い直そうとした「未来」、そしてグローバルの時代において世界との関係性において再定義される「未来」というように、「未来」観は揺れ動き、更新されてきた。
 
本年(令和2年)度から、初等教育において新学習指導要領が全面実施された。そこでは、どのような「未来」が考えられているのだろうか。今回の教育課程改訂の理念及び方向性を示した平成28年12月に出された中央教育審議会答申を見てみると、「人間の予想を超えて加速度的に進展」、「社会の変化は加速度を増し、複雑で予想困難」、「予測できない変化」というような「時代」認識を見ることができる。章のサブテーマには、「予測困難な時代に、一人一人が未来の創り手となる」という文言が踊っている。「未来」はもはや予測困難であり、現在の延長線上に想定することはできない。そして「未来」は時間の流れとともに自動的にやってくるものではなく「創り出す」ものであるというのである。このような「未来」観のもとでは、バックキャスト的なアプローチが有効である。そこでのキーワードは、AIであり、IoTであり、第4次産業革命であり、Socoiety5.0ということになる。
 
このような「未来」認識の時代に必要となる学力は、「創り出す」学力となる。アプリオリに用意されたコンテンツなど存在しない。それでは、ここで「創り出す」ものは何なのか。それはどのようにして我々の生活そのものである社会や人生をよりよいものにしていくのかという「目的」である。多様な文脈が複雑に入り交じった環境の中で、場面や状況の分析を行い理解を深め自ら目的を創り出すのである。そのことによってはじめて、必要な情報を見いだしたり、自分の考えをまとめたりして創造的に自分らしく生きる本当の問題解決が可能になる。なお、今回の改訂のキーワードの一つである「探究」は、理科教育の世界では昔から「問題解決」として大切にしてきたものである。考えてみると「目的」を創り出す能力は、AIやIoTにはなじまない。それらがどのように進化しようとも、それらが行っている「処理」は与えられた目的の中でのものだからである。
 
本書は、理科の見方・考え方を働かせて、自然を対象として子どもが「創り出す」資質・能力について論述するとともに新しい理科の目標について分析的に考え、さらに理科の授業づくりの取組をモデルとして示したものである。その際、プロセスとしての問題解決、方法としてのアクティブ・ラーニング、子どもが働かせる見方・考え方などを第3学年から第6学年までの全ての単元でなるべく具体的に示すように努めた。

 

(紹介文執筆者: 教育学研究科・教育学部 特任教授 日置 光久 / 2020)

本の目次

第1章 これからの教育
第2章 新しい小学校理科のねらい
第3章 理科の見方・考え方を働かせた指導
第4章 理科の見方・考え方を働かせた理科授業の実際(各学年・単元における指導・板書例付き)

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