東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

青い表紙

書籍名

Beiträge zur neueren Literaturgeschichte [Dritte Folge], Volume No.: 426 (「近代独文学史への寄与」シリーズ) Anschauen und Benennen (直観と命名) Beiträge zu Goethes Sammlungen und Studien zur Naturwissenschaft (ゲーテの自然科学コレクションおよび自然研究に関する論文集)

著者名

Jutta Eckle, Aeka Ishihara (編)

判型など

230ページ、ハードカバー

言語

日本語、ドイツ語

発行年月日

2022年

ISBN コード

978-3-8253-4961-5

出版社

Universitätsverlag Winter

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

Anschauen und Benennen

その他

巻末に目次と要約の和訳付

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2020年春に日本学術振興会 (JSPS)・二国間交流事業 (共同セミナー) に採用されて喜んだのもつかの間、Covid-19感染拡大で学術活動に制限がかかり、同年度の対面セミナー開催など夢のまた夢になってしまった。セミナー開催趣旨が、昨今疎かにされがちな原点回帰、つまり「オンラインでは経験できない、ヴァイマルに現存する世界で唯一のゲーテの自然科学コレクションを前に、相互の意見交換を図る」ものだったため、対面以外の選択肢は日独双方の研究代表者兼編集者のふたりにはなかった。交渉と延長申請を繰り返した挙句、助成が打ち切られる寸前でドイツ研究財団 (DFG) からハイブリッド方式での開催許可が下り、2022年3月にヴァイマルのゲーテ・シラー文書館で日独ワークショップ開催の運びとなった。いざ渡航となった直前、今度はウクライナ情勢悪化で、直行便はロシア上空回避ルートをとるという。11時間以内だった飛行時間が南回りの15時間近くに延び、不思議な気持ちで、窓の外の馴染みのない景色を眺めていたのを思い出す。そしてフランクフルトに到着するや否や、復路の欠航が告げられるやら、予期せぬ事態の連続だったが、それでも行った甲斐は十分にあった。
 
日本人が連想するゲーテは〈文豪〉や〈詩人〉であり、彼が〈エリート官僚〉としてさまざまな〈自然科学〉分野の課題に取り組んだことを知る人はいまだ少ない。自然科学論文も執筆し、彼が生前収集した膨大な個人コレクションがヴァイマルに現存することも――。既存の偏ったイメージを崩し、究極の一次資料を使うゲーテ研究の楽しさ・豊かさをアピールすべく計画した本セミナーでは、ヴァイマルに現存するゲーテの手稿やコレクションを使って、博物学・音響学・色彩論・天文学・昆虫学などさまざまな分野との関連で興味深い研究発表と活発な討議が行われた。
 
だが、二国間交流事業からは出版助成費用が出ない。セミナー終了直後からドイツ側研究代表者のエックレと成果出版の可能性を探った。彼女が複数のドイツ国内学術出版社に打診する一方で、私はアレクサンダー・フォン・フンボルト財団に出版助成申請書を作成・提出した。コロナ禍とウクライナ情勢は学問の世界にも暗い影を落とし、「2022年以内刊行ならば助成可能だが、翌年以降は約束できない」との返信を11月に受けた。さすがに残り2か月を切った時点で「年内は無理」と交渉し、「年度内」に期限を延長してもらった。年末の校了まで、エックレと二人、お互い授業を含む本務があったが、交互に目を皿のようにして何十回もゲラを読み、分綴や誤字脱字をチェックし、必要なら出典も再確認し、表紙を決め、広告文を考え、毎日何度も出版社を含めてメールのやりとりをした。こうして出来上がった論文集が本書である。試練が続いたが、共同編集作業はやりがいがあり、よい経験になった。たとえば最終章のヴィダー論文要約を和訳する際、ある単語について定訳があるか問い合わせた目黒寄生虫館の倉持館長には、「ゲーテがハエカビを観察していたとは!」と驚かれた。おそらくこれからもずっとゲーテ研究に従事する私たちが編集した本書が、一次資料を扱うゲーテ研究の醍醐味を読者に届け、他分野との学術交流がさらに広がっていくことを期待したい。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 石原 あえか / 2023)

本の目次

[ドイツ語目次]
https://winter-verlag.de/en/assets/public/9783825349615/Inhalt.pdf


[和訳目次]
 
序文と謝辞 (エックレ & 石原)
 
論文
  1. エックレ、ユッタ:「〈誤り〉とは、まるで真実がそうでないかのような状態にあることで、自分や他人に誤謬を発見するのは、後戻りの発明である」 『箴言と省察』における一連のゲーテの視覚認識について
 
2.桑原 聡:「ゲーテのイタリア紀行と〈クンストカ[ン]マー〉構想
 
3. ヘップナー、シュテファン: 本棚の世界 ゲーテ自家所蔵文庫における自然科学系書籍の占有率について
 
4. カナール、エクトル:ラ・ロッシュ標本 ゲーテ所蔵コレクションにおける一鉱物リストの同定と年代判定
 
5. ゴチェフスキ、ヘルマン: ゲーテの音響学シェーマとオイラーの『新音楽理論の試み』 ふたりの〈門外漢〉による音楽研究アプローチの比較
 
6.エッセルボルン、ハンス: ゲーテは自然を、ジャン・パウルは学術議論を観察する 1800年前後の自然科学に対するふたりの作家の異なるアプローチ
 
7. 濱中 春:色彩の現前 ゲーテの『色彩論』とニュートンの『光学』における図像の物質性
 
8.シンマ、ザビーネ:武装する眼差し ゲーテの自然科学研究における目と光学機器
 
9.石原 あえか:ゲーテ時代の天文事象 1811年の大彗星と彗星ワイン (アイルファ―)
 
10.ヴィダー、マルグリット:「消滅を通して生に急ぐ」 ゲーテの昆虫研究
 
全集等略記号
 
図版一覧
 
付録・日本語による「目次と要約」 (石原 訳)

関連情報

書評:
Uwe Hentschel 評 (『Informationsmittel (IFB)』31.2 [#8564] 2023年
http://informationsmittel-fuer-bibliotheken.de/showfile.php?id=12078
 
ブックトーク:
東京大学総合図書館シリーズイベント「東大研究者の本棚」Part 3
石原あえか教授ブックトーク「言葉の海を泳ぐ」 (総合図書館主催・駒場図書館共催 2023年3月14日)
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/events/z1901_00014.html

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