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あふれるばかりの水と、愛

掲載日:2019年6月5日

このシリーズでは、未来社会協創推進本部(FSI)で「登録プロジェクト」として登録されている、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する学内の研究活動を紹介していきます。

FSIプロジェクト 002

バゴー川の氾濫で広範囲に浸水している、ミャンマー・バゴー市の住宅地。この地域は貧困層が数多く暮らしている。

2011年7月~11月、タイは度重なる台風襲来で未曾有の大洪水に見舞われました。ホンダやトヨタなどの現地工場も長期の操業停止に追い込まれ、国内で大きなニュースになったので、ご記憶の方も多いはず。あの洪水を現地で体験したのが、東京大学の海外拠点・アジア工科大学院(AIT)で講師を務めていた川崎昭如特任教授です。専門は地理情報システム(GIS)を活用した水災害リスクマネージメント。タイで洪水の悲惨さを目の当たりにしたものの、水害と貧困を結びつける発想は、当時の川崎先生にはなかったそうです。

「AITでミャンマー出身の学生が、地元では貧しい人々こそが洪水被害に遭うと力説するんです。他のアジア出身の学生たちも同意見だったので、2012年、当時の教え子らとミャンマーで現地の世帯調査を開始しました」。

調査地はミャンマー人学生の地元、バゴー市。調査チームはバゴー川沿いの家を一軒ずつ訪ね、世帯主の収入・学歴・被災状況を聞き、1軒ずつGISでマッピングしていきました。その結果、水深1m以上の深刻な浸水被害を受けた世帯の多くは、収入と学歴が他の世帯より明らかに低い傾向にあることがわかったのです。いままで多くの人が漠然とイメージしていた「貧しい人こそ災害に弱い」という図式が、これで定量的に実証されたことになります。それはまた、主に人文・社会科学分野で研究されてきた貧困問題に、工学的な視点から光を当てる作業にもなりました。

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(左)ミャンマー・バゴー市での聞き取り調査の様子
(右)浸水したバゴー市住宅地を歩く川崎先生の研究チーム。川崎先生自身は50回以上ミャンマーを訪れたとか。現地で協力してくれているのはヤンゴン工科大学の学生たち

その後、東京大学に戻った川崎先生は、東大チームを率いてミャンマーやタイ、スリランカ、ニカラグアで調査継続中。最新の研究テーマは、高解像度衛星画像とAIにこれまでの調査データを組み合わせ、貧困層の住む家を地図上で推定するシステムの構築。途上国で、貧しい人がどこにどれだけ住んでいるかを現地政府に把握してもらえれば、迅速な水害と貧困の対策を打つことが可能になります。

ちなみにバゴー市については、川崎先生らのまとめた水害対策が今年度中にも、現地政府に正式に提言される見込みだとか。自分たちの研究成果を、多くの地域の治水対策に活かしてほしい。そんな熱い願いを込めて、川崎先生は今日も水害被災地を訪ね歩いています。

このプロジェクトが貢献するSDGs

貧困をなくそう住み続けられるまちづくりを気候変動に具体的な対策を

川崎昭如 教授 | 工学系研究科

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