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藤井輝夫理事・副学長が次期総長予定者に決定 選出直後の記者会見の弁を収録

10月2日(金)、五神真総長の任期満了に伴う次期総長予定者選考のための総長選考会議は、次期総長予定者として藤井輝夫先生を選出しました。9月30日(水)に行われた学内の有資格者2375人による意向投票の結果を考慮したものです。ここでは、同日夜に伊藤国際学術研究センターで行われた記者会見で、選考会議議長と選出直後の総長予定者が語った言葉の数々を、誌面の許す限り掲載します。東大の舵取りを担う次期総長の思いを感じ取ってください。

◉意向投票結果

有資格者数
2375人
投票総数
2069 票
白票数
251票
有効投票数
1818票
(過半数
910 票)
藤井輝夫
951票
染谷隆夫
635票
永井良三
232票

9月7日の総長選考会議で絞られた3名の第2次総長候補者を対象に、9月30日に有資格者による意向投票をオンラインで実施。1回目の投票で藤井輝夫先生が過半数を獲得しました。

会見に臨んだ、右から藤井輝夫先生、総長選考会議議長の小宮山宏先生、総長選考会議議長代行の渡辺努先生。司会は広報室長の木下正高先生が務めました。新型コロナウイルス感染症を鑑みて、今回は時間を40分間に限定して行い、ぶらさがり取材もご遠慮いただきました。

記者会見より

司会 本日は、まず総長選考会議から報告を行い、その後に総長予定者の会見を行います。

小宮山 東京大学総長の選考は、国立大学法人法第12条に基づき、総長選考会議にて選考を行います。選考は配付した資料の選考プロセスの手順に従い、本日行った総長選考会議にて次期総長予定者を選出したところです。今回の選考では、4月28日の公示に際して「求められる総長像」を策定し、その趣旨に即して選考を進めてきました。9月30日には総長選考会議内規第10条に基づき、有資格者による意向投票を実施しました。その上で、内規第11条に基づき、これまでに行った面接を含めた調査と意向投票の結果を考慮し、慎重な審議の結果として総長予定者を決定しました。なお、第二次候補者を対象とした意向投票ですが、1 回目の投票において藤井輝夫氏が有効投票の過半数を得ました。選考会議はこの結果を考慮して審議を行い、同氏を総長予定者として選出し、本人の承諾を得られましたので、総長予定者として決定した次第です。選出理由は、「求められる総長像」に掲げた5つの資質・能力・実績と、それらに裏付けられた卓越する指導力を有し、東京大学憲章が掲げる理念の実現に向けて大学を運営・経営することが十分に期待できるということです。激しく変化する社会のなかで大学が果たす役割がますます重要となるなか、教学と経営の長として、学問の自由と大学の自治を守り、構成員の信頼を得つつ、日本と世界から寄せられる期待に応えることができる方だと確信し、同氏が次期総長にふさわしいと判断しました。総長選考会議は藤井先生のリーダーシップの下で東京大学がさらに発展することを期待します。

意向投票結果が構成員との信頼関係の基礎に

総長選考会議について2点補足します。まず一点は、選考会議での予定者の決定と意向投票の尊重の関係についてです。国立大学をめぐる社会情勢の変化を踏まえ、総長選考会議はより主体的に選考に関与するのが望ましいとされております。一方で、意向投票は総長と構成員の信頼関係の基礎となるものであり、意向投票を重要なものと位置付けてきました。その点で、総長選考会議と構成員の間に認識の相違はないと考えています。もう一点は、合議による決定ということについてです。第二次候補の選出に際し、どのような形で審議を進めるかを事前に決める必要があると考え、選考会議メンバーで議論して方針を決めました。その方針に基づいて審議を進めました。審議のやり方の決定と実際の審議において、議長は全員異存がないかを確認しながら議事進行を行い、合議によって決定がなされました。各候補者から文書で提出いただいた所見と面接でのやりとりを踏まえ、「求められる総長像」の要件と照らして適格かどうかという観点から慎重に選考を行いました。当然、候補者の一人一人に強みと弱みがあります。全員で否定的な意見と肯定的な意見を率直に出し合い、丁寧に議論しました。面接とは別に4時間程度の審議を行い、第二次候補者を選出した次第です。30日の意向投票を踏まえ、本日の選考会議において全会一致で次期総長予定者を決定しました。

世界の誰もが来たくなる学問の場を作りたい

藤井 ただいまご紹介にあずかりました、現在、理事・副学長を務めている藤井輝夫と申します。総長予定者として選出いただき、大変な重責を担うことになり、身の引き締まる思いであります。少しご挨拶させていただきます。

今般のコロナ禍を含め、2011年の東日本大震災など、社会が困難な状況に遭遇するたび、私自身、大学として何をできるのかを考えてまいりました。たとえば現在ですと、学生の学びを止めないということとか、医療関係の対応など、大学が取るべき様々なアクションがあります。こうした目前の困難への対応ももちろん大学に期待されることですが、社会の前提が大きく変わろうとする今日、大学は長期的視野をしっかり持って新しい大学像を描いていくことも重要だと考えています。私はこれまで、世界の誰もが来たくなるような学問の場を作っていきたい、と言ってきました。こうした新しい学問の場を作っていくことを、学内外からの幅広い意見を伺いながら進めたいと思います。これまで以上に皆様と対話をしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

自己紹介ということで私自身のバックグラウンドについて言いますと、本学の工学部船舶工学科の出身です。大学院に進み、生産技術研究所で海中を調べるロボットの研究を進めました。その後、一度学外の理化学研究所に出まして、1999年に生研に戻って研究室を構えました。現在の専門は応用マイクロ流体システムです。理研時代に始めたテーマが進展したもので、一般にはマイクロフルイディクスと呼ばれます。高等教育や大学運営での経験については、法人化直後から文部科学省参与として高等教育関連の仕事に携わりました。大学運営の経験としては、総長補佐として関わり、2015年から3年間は生研の所長を務め、その後、全学の理事・副学長の任につきまして現在に至ります。私からは以上です。

「求められる総長像」が掲げた5つの資格・能力・実績

(令和2年4月28日 総長選考会議)

  1. 学内外からの敬意・信頼を得るに足る高潔な人格と高い倫理観及び優れた学識
  2. 開学以来の伝統を活かしながらも、現代社会の要請に応え、必要に応じて大胆な改革を行い、「世界の東京大学」にふさわしい卓越性・独創性・多様性をそなえた教育研究活動を導く国際的な視野と実行力
  3. 組織構成員の幅広い支持を受け、円滑かつ総合的な合意形成に配慮しつつ、 適切にリーダーシップを発揮し、効果的で機動的な組織運営を行う能力と実績
  4. 世界最高水準の学術研究・人材育成を推進するために、大学の財務基盤を強化し、社会の各界から幅広い理解・協力を得て、大学を経営していく能力
  5. 自由・自律及び多様性を重んじ、世界の学術の発展と協調的人類社会の実現に貢献しようとする強い使命感

報道陣との質疑応答より

日刊工業新聞 ご出身と、理事としての担当、これから重要だと思うことをお話しください。

藤井 出身は東京都です。詳しく言えば、生まれはスイス・チューリッヒで、育ちは東京です。理事としての現在の担当は財務と社会連携、産学官協創です。東大は、学外の様々な組織や企業との組織間連携を含め、社会と協力してよりよい未来社会を創造することに積極的に取り組んでいます。重要だと思うのは、そのために社会からのご支援をいただくと同時に、大学が支援に報いるよう明確な形で社会に貢献することです。そして、その貢献をしっかり社会に発信し、対話を通じてまた社会からのご支援をいただくという好循環を創ることが重要だと思っています。

NHK 日本学術会議で6人の研究者が任命されず、その中には東大の先生も含まれます。大学の構成員が生き生きと活躍できる場を提供するにあたり、所見をお伺いします。

構成員が生き生きと活動できる場を作りたい

藤井 報道は承知していますが、現時点では事実関係の詳細を把握できておらず、コメントする立場にはありません。この場で何か特別な意見は申し上げられませんが、もちろん構成員が生き生きと活動できる場は作っていきたいと思っています。

NHK 今回、部局長などからの要望書が出ました。こうした異例の事態を招いたことをどう受け止めていますか。二次候補者を3名にしたのは、多様性を広げるという狙いとは逆行するのではないでしょうか。

小宮山 一番重要なのは、総長選考会議が総長予定者を決定すると法律で決められていることです。もう一つ重要なのは、総長は学内の信頼を得て活動していくということ。私を含めて歴代総長が皆そのように申し上げてきましたが、大学ではこれが非常に重要だと認識しています。そのためにこそ、今回「求められる総長像」と選考するプロセスを学内で事前に合意し、それに従って選考を進めてきたのです。学内の合意の上で進めることを前提に、なすべきことをやってきました。学問の自由と大学の自治を守るためのベストな方法だったと思っています。候補者の数についてですが、今回の一次候補者の皆さんは間違いなく立派な方です。ですが、「求められる総長像」に合致した方がそのなかに5名いるという保証はないわけです。改正された国立大学法人法に則って求められる総長像に合致した人のみを推薦するというのが選考の基本方針でした。その結果として今回は3人の方を、選考会議の主体性を高めるという意味で選出したということです。

東大新聞 現総長の施策をどの程度受け継ぎますか。藤井先生は教育部局での経験がありませんが、学部の教養教育をどう考えていますか。

学生の学びと社会を結び直すことが重要

藤井 これまで五神総長とともに社会連携、産学官協創を進めてきました。大学が社会とともに様々な活動をできるようになってきましたから、そのなかのよいところを活かしながら、時代の要請に合わせた形で変化を加え、バランスを取っていきたいと思います。そうした活動を実りあるものにするには、大学の力を高めることが必要です。大学の組織や運営の在り方を再考し、デザインし直しながら、具体的な活動から実りが出るようにしたいと思います。教育については、確かに教育部局で務めたことはないですが、これまで様々な教育活動に携わってきました。例えばFLY Programや体験活動プログラムの立ち上げに携わりましたし、フィールドスタディ型政策協働プログラムも担当しています。学部教育についてもかなり関与してきたと自負しています。大学の運営は一人でやるものではないので、教育部局の経験のある方にもご協力いただきながら、多くの方の声を幅広く聞きながら学部教育を進めたいと思います。

朝日新聞 今回、4学部長や梶田先生から要望書が出ました。どのように受け止めていますか。

小宮山 報道された情報はそもそも出るはずがないもので、どういう経緯で流れているのか私にはわかりません。4学部長などからのコメントは、選考のプロセス、特に透明性に関してのことだと思います。しかしこれはすべて皆で相談して決めたことです。第一次候補者の公表については、辞退者も想定され、公表しないという条件で所見を書いていただいているという経緯もあります。総長選考会議での議論は、候補となった立派な方々について総長の要件に合致するかの率直な議論を行う繊細なものであり、これが開示できない理由にもなり得ると思います。透明性というのは必ずしも丸裸にすればよいということではありません。国立大学法人法や「骨太の方針」では意向投票によらず総長選考会議で決定すると書かれているなかで、我々は意向投票を重視することを決めました。この大枠に誤りがあるとは思っていません。ただ、様々な方からご質問をいただいており、検証と改善を行っていくという方向で議論を開始することを選考会議として決めました。大きな構造は維持しつつ、検証と改善を可及的速やかに行うつもりです。

藤井 私は候補者として選考プロセスに真摯に対応してきました。ご指摘の点があったことはもちろん承知しています。今後適切な形で検証や改善が行われることを期待します。

高校生新聞 学問の自由と大学の自治を守るために総長選考会議ではどんなことを心掛けてきたでしょうか。

小宮山 学問の自由と大学の自治を担保し実現するのは極めて重要です。一方で、国立大学法人法では総長は選考会議が決めることになっています。意向投票は、総長と構成員との間の信頼を担保する重要なものです。この信頼があるからこそ総長は思い切った改革や時代変革への対応が取れます。企業の社長と社員との関係とは違い、大学の総長は仲間の代表という面が強いと思います。意向投票の重要性は多くの構成員が認識しています。求められる総長像を明確にし、それに合致することを必要条件として第二次候補者を選出し、それに対する意向投票だから尊重する、という極めて合理的な立てつけになっております。それが総長選考のプロセスと学問の自由、大学の自治ということの関係です。

高校生新聞 これからの東大生に求める力、伸ばしたい力はどんなものでしょうか。

藤井 学びと社会を結び直すことが重要だと思っています。専門的な知識があっても、それを使うための力は別途必要です。社会の変化が速くなってきているので、例えば特定の専門知識を持っていたとしても、有効に使える場面が変わってしまう可能性もあります。新しく必要な知識を学び直した上で、学び直したその知識をさらに使いこなすという、自分が問われている問いや課題に対して必要な知を使う力をつけていってもらいたい。基礎的な学問に加え、その面を強めてほしいと思います。

共同通信 6年後の総長選考でも意向投票を続けるべきと考えますか。

小宮山 個人としては、続けるべきと考えます。繰り返しますが、企業の社長と従業員との関係とは違い、大学の総長は管理者というより仲間の代表という面が非常に強い。仲間との信頼に基づいて職についていることが大きな心のよりどころになります。私を含め、総長経験者は皆この意識を共有しています。

東京新聞 意向投票後、学内者から得票数の公表がありましたが、今回、意向投票と違う結果が出される可能性はあったのでしょうか。

小宮山 選考会議が情報の公表の有無や時期を決めるわけですが、正直、今回これだけ様々な形で情報が出回ったことには戸惑いを感じます。流れているすべての情報を把握しているわけではないし、どういうソースで正確性を担保しているのか知りませんが、飛び交った情報に我々が惑わされたことはありません。見識のある16名の委員が選ばれていることが前提にありますが、会議ではスムーズに全会一致で決まりました。

読売新聞 選考会議は具体的に藤井先生のどの点を評価したのでしょうか。藤井先生は社会連携などの取組について具体的に教えてください。

小宮山 我々は、候補者所見について議論し、面接を30分行って、これまでの取組みや大学への貢献もできる限り調べた上で、委員の皆さんがそれぞれの見識に基づいて総合的に判断しました。その際のよりどころは「求められる総長像」でした。

企業との大型連携からしっかりとした成果を

藤井 具体的にどのようなことに取り組むかはこれからの検討になります。一つには、いろいろ立ち上がっている企業との大型連携を具体的に進めることになるでしょう。例えば産学協創でいうと、東大では日立製作所、ダイキン工業、ソフトバンク、IBMとの連携を始めています。これらの連携からしっかりと成果を出し、世の中に打ち出していきます。もう一つの観点としては、東京大学の組織としてのポテンシャルを高めたい。例えばオペレーションのデジタル化の導入です。限られたマンパワーで活動するためにそこを上手にデザインしなければなりません。活動を動かすための事務プロセスはもちろん、教育・研究の支援作業も当然効率化できるはずです。教員に限らず事務職員も有効に時間を使えるようにしたい。これは大学全体の大きな柱として取り組みたいと思います。

アエラ 今回は白票が多く、選択肢があまりなかったとの声があります。学内に分断や不信が起こっているのではないでしょうか。構成員から出た不信についてどうお考えですか。

小宮山 白票が多かったのは事実です。ただ、投票率は過去最高でした。様々な意見が出た中で、過去最高の投票率で選ばれたというのは、いろいろご意見はあったものの、構成員の信頼を得たものと考えています。白票をどう捉えるかの検討も含めて制度の検証と改善は必要ですが、第三者の意見を十分に取り入れて問題点を議論していくことは選考会議で確認しています。

朝日新聞 日本学術会議の問題に関連し、学問の自由の侵害や政治介入が話題となっています。東大総長はこのようなことにも意見を求められるものです。見解をお願いします。

藤井 次期総長として発言すべきということであれば、しかるべき時点でそうします。学問の自由と大学の自治はもちろん重要です。東大憲章が謳うように、世界の平和と人類社会の繁栄に貢献するために、大学の自立性を大切にしていきます。

今回の投票率は87%でした(前回は73%)

壇上にいる藤井輝夫先生 雑誌生研ニュース 藤井輝夫先生の顔写真 式典に参列する藤井輝夫先生
❶「FLY Program」1期生の報告会で推進委員会委員長として挨拶(2014年5月)
❷2015年4月に生研所長に就任し「生研ニュース」vol.153の表紙に。中面の記事では、学生時代にダイビングサークルに所属していたことや、同僚の新野俊樹先生の結婚式2次会でウクレレを弾きながら加山雄三を歌ったことなど、「海の男」らしいエピソードが紹介されていました
❸2019年4月に理事・副学長に就任し、肖像写真を撮影
❹理事・副学長として2019年度秋季学位記授与式に参列