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海と希望の学校 in 三陸第6回

岩手県大槌町にある大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターを舞台に、大気海洋研究所と社会科学研究所がタッグを組む地域連携プロジェクトがスタートしました。海をベースに三陸各地の地域アイデンティティを再構築し、地域に希望を育む人材を育成するという文理融合型の試みです。本学の皆様が羨むような取り組みの様子をお伝えします。

盛岡でサケの連続講座を行いました

吉村健司大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センター
特任研究員
第2回目の関連資料

三陸沿岸地域で展開してきた「海と希望の学校 in 三陸」。2019年度からは盛岡でも、その活動を展開しています。盛岡の有志の方々が中心となり、「海と希望の学校 in 三陸 盛岡分校」を立ち上げ、活動してきました。2019年11月から2020年3月までの月1回、岩手県立図書館にて盛岡市民の方々を対象にサケをテーマにした連続講座「鮭から見えるいわての海~食べるだけじゃもったいない!~」を開催しています。

第1回目(2019年11月9日)には、北川准教授(沿岸海洋社会学分野)が「岩手に帰るサケの生態」と題して、盛岡市内を流れる北上川や中津川に遡上するサケの生態について講演を行いました。講演では、北上川と三陸沿岸の河川を遡上するサケの生態学的な差異のほか、中津川の橋の下で見られるサケは産卵前の休憩であることをお話しました。特に後者については参加者も驚かれ、中津川のサケについて「見方が変わった」、「これから温かく見守りたい」などの感想が寄せられました。

第2回目(12月7日)と第3回目(2020年1月18日)は、私が担当し、「三陸沿岸地域で獲られたサケの行方」、「又兵衛祭りをめぐる民俗」というテーマのもと、岩手におけるサケをめぐる歴史や民俗、文化について講演しました。第2回目の講座では、江戸時代から明治時代におけるサケをめぐる制度や流通について、歴史資料などを用い、また、第3回目では、岩手県宮古市津軽石で行われているサケの儀礼「又兵衛祭」を例に、サケをめぐる儀礼や伝承などについて講演しました。サケは現在、我々にとって非常に馴染み深い食料といえます。しかし、歴史的にはサケは庶民が滅多に食べることすらできない高級魚だったり、様々な伝承や伝説を持つ魚だったりと、日常ではあまり意識することのない、人とサケの関係について実感を持っていただくことができました。参加者からは、「人間の生活に関わり深く、身近なサケがこんなにも奥深いものがあり、知らないナゾだらけの事柄でした」という感想もいただきました。また、これらの講演では、岩手県立図書館所蔵の関連書籍を挙げたところ、早速、借りてお帰りになった参加者もいらっしゃいました。講座を通して、サケに対して興味を持っていただけたのではないかと思います。

中津川に遡上するサケについては、秋になるとテレビなどでも報道される風物詩であり、市民の関心は高いものです。参加者は盛岡市民のみならず近隣の市町村、さらには沿岸の宮古市や山田町からも参加していただき、サケに対する関心の高さを肌で感じることができました。我々は普段、沿岸地域で研究活動を行っており、盛岡をはじめとした内陸の方々と交流を持つ機会は多くはありません。しかし、一連の講座を通じて、盛岡の方々にも改めて岩手県の県魚であるサケに対する関心を寄せていただいたことは、我々にとっても新たな研究のモチベーションに繋がりました。

参加者に紹介したサケ関連資料(一部)
第1回目の講座の様子
第3回目の講座の様子

「海と希望の学校 in 三陸」動画を続々公開 → YouTube サイトで 海と希望 と検索!

制作:大気海洋研究所広報室(内線:66430)

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部局長だより ~UTokyo 3.0 を導くリーダーたちの横顔~第6回

新領域創成科学研究科・数理科学研究科

地域や人や犬にも広がる「学融合」

新領域創成科学研究科長 大崎博之 趣味: 自転車

「学融合」の理念の下、産や学との連携のほか、地域と連携した研究も進めてきました。たとえばUDCK柏の葉アーバンデザインセンターでは、本研究科の教員が中心となって柏の葉キャンパス駅周辺の開発に関わり、柏の葉エリアのあるべき姿を13年にもわたって探っています。構想は全国に広がり、昨年11月には福島県新地町にUDCしんちが発足。学生が現地で演習を行うなど、教育と研究の両面で活発に活動しています。

その他の特徴的な活動としては、研究科が擁する国内有数の次世代シークエンサーを活用した生命データサイエンス人材育成教育プログラム、MITとの連携による社会人教育プログラム、学生の提案を募集して実施する学生創成プロジェクト支援プログラムなどがあります。新しい試みとしては、盲導犬歩行学分野の社会連携講座を7月に始めました。日本盲導犬協会と一昨年行ったシンポジウムを契機に、ゲノム解析の学術活動と視覚障害者の支援活動を融合するもの。たとえば、ゲノム解析で適性を調べ、盲導犬に向いた犬を選んで訓練すれば、人にも犬にも有益です。公益財団法人との連携講座はおそらく初。学術のシーズを社会貢献に繋げる一例と捉えています。課題は多様な研究・教育活動の成果に発信が追いつかないこと。広報体制を拡充していきたいと思います。

数学と社会を架橋する人材育成を

数理科学研究科長 河野俊丈 趣味: クラリネット

数学は抽象的ですが、それは普遍性があるということ。多分野で使える枠組みを提供できる学問でもあります。先端的な数学を社会に浸透させ、生命科学も含めた諸科学に越境することを目指しています。

教育面では昨年10月から卓越大学院「変革を駆動する先端物理・数学プログラム」(FoPM)を始めました。数学のコアを身につけた学生がグループワークを通して産業界の課題に挑む「産学パートナー教育プログラム」がベース。ダンス映像の自動採点アプリ、カーレースのタイム短縮の研究など、成果を挙げている事例も多く生じています。数理と社会を橋渡しする人材の育成を推進することはアカデミアにも社会にも有効だと思います。

次代を担う才能の開拓として、玉原セミナーハウスの高校生キャンプでは、折紙、タイル張り、円と球の幾何学といった課題に取り組んでもらっています。「数理女子」のシリーズでは、数学の魅力を伝えるイベントや、小中学生の娘と母が対象のワークショップも続けています。親の不安を除くには社会的にニーズの高い分野だと伝えるのが重要。数学の導入でOCRの精度を上げた当研究科発のベンチャーArithmerなどはよいモデルです。女性教員が4年前から倍増した一方、学生の方はまだ結果が出ていません。今後の重要課題です。

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UTokyo バリアフリー最前線!第18回

熊谷晋一郎熊谷晋一郎室長が
取材原稿で伝える
障害研究の現場⑤
ことだまくん

ダイバーシティを実現する社会モデルの考え方

教育学研究科 星加良司 准教授の巻

幼少期から視覚に障害のある星加氏は、高校まで統合教育を受けてきたが、教育委員会から毎年「来年度は盲学校へ」と説得されるなど差別的な扱いも経験してきた。やがてそうした社会の成り立ちに興味を持ち始めたが、高校までは社会は法と金で動いているのだろうと想像していたという。大学入学後、直接的な人間関係を深く取り持つ中で、法と金以外の機微で社会が動いている側面に気づかされる。卒論で社会学の面白さに気づき大学院への進学を決めたが、当時は、障害者として扱われてきたことへの反発もあり、障害を研究対象にするつもりはなかった。

だが深く学ぶにつれ社会学における障害問題の重要性に気づいていった。星加氏によれば社会学は、フランス革命以降、封建制や宗教が力を失い、新たな秩序を模索する中で生まれた学問だ。近代的秩序の原理として、能力を基準に財と機会を配分する能力主義が重視され、裏面で、能力の低さとして規定される障害問題が生み出された。星加氏には、障害問題を通して社会全体が見えてくるという直観があった。

星加氏が専門とする障害学には「社会モデル」という考え方がある。個人の特質には差があるが、すべての差異が等価値に扱われるわけではない。有利に扱われる特質を持ち、差異の扱い方自体を決められるマジョリティと、不利に扱われる特質を割り当てられるマイノリティとの間に非対称性が生まれる。社会モデルとは、マジョリティ-マイノリティ関係として障害問題を捉える視角である。現在、社会モデルを人々に定着させる教育プログラムを開発している星加氏は、社会モデルにはマジョリティの特権を掘り崩す面があるため、マジョリティ側の反発を抑えつつ本質を伝えるための工夫がポイントだと言う。

星加氏も強調するように、障害学など人類史的課題に取り組む研究は、短期的効果が見えにくい。しかし、分断に抗して発展する社会を実現するためには、細分化された課題への短期的成果の集積とは異なる、こうした研究が評価されるシステムが必要だ。星加氏の社会モデルの理論・実装研究は障害のみならず広くダイバーシティとインクルージョンを実現する上で欠かせない基盤を与えると言える。

バリアフリー支援室 ds.adm.u-tokyo.ac.jp

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第165回

教養学部等事務部教務課
国際交流支援チーム 特任専門職員
坪山彰子

時には厳しく、時には優しく。

職場にてまじめにオシゴト

2006年7月に採用以来、留学生係⇒国際交流支援係⇒国際交流支援チームと名称が変わっても「学生の不利益にならないように」をモットーに、時には優しく、時には厳しく学生と向き合っています。当チームは留学してくる学生の宿舎・奨学金・在留資格と、留学する学生の奨学金・プログラムの申請・手続きとバラエティ豊かな仕事を扱う部署です。

その中で「ワタシのオシゴト」は新規に渡日する学生の在留資格の申請と留学する学生の各種プログラム、奨学金の申請・手続きです。ここ数年は全学交換留学、サマープログラムなどの申請者も100名を超え留学熱が高まっているのを感じます。その反面、在留資格の審査が厳しくなるなどで、出入国在留管理局へ出向くことも多くなり、まさに「なんでも屋さん」の毎日です。

それでも学生が海外大学へ嬉しそうに留学するのを見送り、希望や不安でいっぱい!の様子で留学してくる学生を迎えたりするのは、「なんでも屋さん」だからこそ味わえる一コマです。

趣味の旅行で得意ワザ発揮中!
得意ワザ:
お酒が強い・胃腸が強い
自分の性格:
超絶明るい・おしゃべり
次回執筆者のご指名:
藤本順子さん
次回執筆者との関係:
派遣留学プログラムの師匠
次回執筆者の紹介:
「世界平和」が今年の願い!
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デジタル万華鏡 東大の多様な「学術資産」を再確認しよう

第9回 経済学研究科講師
経済学部資料室室長代理
小島浩之

経済学図書館の歴史とデジタルアーカイブ

経済学図書館は、図書館と資料室の二つの組織から成り立っています。図書館は、1900年にエンゲル係数で有名なエンゲルの旧蔵書を購入し、法科大学内に経済統計研究室を置いたことに始ります。一方の資料室は、企業資料の収集を目的に1913年に開設された商業資料文庫を淵源としています。以後、幾多の名称の変遷を経て、図書館と資料室は、1919年に日本初の経済学部が誕生してからも、一貫して社会経済の実証研究をサポートする両輪として機能してきました。

さて、蔵書のうち企業資料類については、企業体を取り巻く諸情報をも含めて蒐集するという、他機関にはない特徴があります。一般に企業資料というと、企業活動に伴って内部で蓄積・蒐集した資料のことを指します。代表的なものが意思決定過程の記録である経営資料であり、これを蒐集している大学や研究機関は他にも多くあります。一方、こちらの図書館と資料室では、国家の経済政策や産業政策に関わる資料や、労働関係の資料も同時に蒐集してきました。企業内部の経営資料に加えて、企業を統制する国家、企業を支える労働者、いわば「企業-国家-労働」の各資料を三位一体として扱ってきたのです。国家の資料は審議会等の会議資料や議事録、労働の資料とは労働組合活動の記録や、労使交渉・争議等の資料です。長年にわたり、これらの一次資料や原資料は資料室が、内外の研究書籍は図書館が体系的に保存してきました。

「石炭増産特別対策(案)」(有沢資料『「傾斜生産」関係資料』3所収)

現在、デジタル化によりこれらの資料の保存と利活用を推進しています。2018年度からは、戦後日本の経済発展の根幹にかかわる資料(有沢広巳資料、経済安定本部資料等)をデータベースEngelを通じて公開しています。デジタルアーカイブは、少なくとも文字による内容情報を残すことができ、これを不特定多数で同時に共有できます。デジタルにより複製が拡散されることで、仮に原本が消滅したとしても、内容情報が残る確率も上がります。このように、経済学図書館では、利便性だけでなく、資料保存の一手段としてのデジタル化の可能性と必要性を念頭に置いて日々活動しています。

www.lib.e.u-tokyo.ac.jp

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インタープリターズ・バイブル第150回

科学技術インタープリター養成部門
特任准教授
定松 淳

大学(院)で身に付く「問いを立てる力」

先日、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の一校で教鞭を取っておられる教員の方とお話をする機会があった。理系大学院で博士号も取得されているその先生は、主に「課題研究」のご担当をされているとのことだった。受験に向けた「いかに試験で得点を取るか」という勉強を離れて、より本来的な“探究”を行うというその理念は素晴らしいものだ。SSHではより力を入れて推進されているのだろう。

実際、教員の期待以上に「課題研究」に面白さを見出して、その探究能力を伸ばしてくれる学生もいるという。一方で、「課題探究」に対して生徒たちのやる気を喚起するのはなかなか大変であるともおっしゃっていた。つまり、受験の得点に直結しない勉強に学生たちはエネルギーを割きたがらないというのだ。これは、日本の教育の潜在的機能として、学歴という(ある種の)能力による学生のランク付けを行っている側面が強いことを考えれば、容易に納得のいくことである。

そしてもうひとつ教えていただいたのは、高校生たちは「問い」を立てるのが非常に苦手、ということだ。SSHの先生方の間でもそのことは認識されており、ある学校では高校1年次に「与えられた言葉について問いを考える授業」を設けることすら行ったそうだ。そして1年の最後の方には「ドラえもん」などと、問題のなさそうなお題に対しても生徒たちは「問題」を考案できるようになってきたという。しかし、それにもかかわらず、2年次の「課題研究」では、やはり問いを立てるのはそれほどうまく行かなかった、とのこと。その先生は「自分が大学院でトレーニングされていたのは、意外と簡単に身に付く能力ではなかったと知りました」と笑っておられた。私もインタープリタープログラムで大学院生たちと付き合っていて感じるのは、理系の大学院生は非常によくトレーニングされているということだ(これは文系大学院で身に付く能力は本人の思考過程により密着した文章作成能力であり、身に着けるのがより難しい、ということでもある)。

しかし昨今の大学改革で求められているのは何より「コミュニケーション能力」や「問題解決力」であり、この種の「問いを立てる力」ではないことは非常に残念である。ただ、このような認識が得られること自体は、教育改革の成果のひとつでもあるはずだ。大学であれ高校であれ、今さまざまに行われている教育改革が、少しずつでもそのように意義ある認識の積み重ねにつながっていくことを願わずにはおられない。

科学技術インタープリター養成プログラム
science-interpreter.c.u-tokyo.ac.jp

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蔵出し!文書館 The University of Tokyo Archives第24回

収蔵する貴重な学内資料から
140年を超える東大の歴史の一部をご紹介

100年前の鉄道マナー

以前「デジタル化された公文書綴」として『文部省往復』をご紹介しました。今回は文部省以外の各省庁と本学との往復文書『官庁往復』についてご紹介します。

『官庁往復』は、各省庁からの様々な鑑定依頼や施設などの借用依頼、大学からの出火届や紛失届、海外出張に伴う旅券交付願、書籍や端艇等の貸し借りなど、多種多様な内容の文書が綴られており、『文部省往復』同様2013(平成25)年に重要文化財の指定を受けました。

「鐵道から家庭へ」と書かれた冊子

この『官庁往復』には文書とともに添付資料として冊子等が綴じられていることがあります。例えば報告書(鑑定結果や天体観測などの報告書)や刊行物などです。『官庁往復 大正八年』(資料ID:S0003/35)の中に配付依頼の文書とともに綴じられている添付資料『鐵道から家庭へ』は、1919(大正8)年12月に鉄道院が作成した鉄道利用案内です。この冊子から100年前の日本の姿を垣間見ることができるので少し紹介したいと思います。

105ページからなる挿絵のない冊子には、電車の乗降マナー(降りる人が先)や「老幼婦女病客等」に席を譲ることなど、今でも呼びかけられているものがある一方、「列車に瓦や礫を投げぬやう」、動いている汽車から「飛乗り飛降りをなさらぬやう」、「火薬や爆発性の危険品を御持込みにならぬやう」、など時代を感じさせる見出しと実例が挙げられており、これらのことが行われていたことに驚きます。実際に、ある一人の乗客が職業用のダイナマイトを荷物の中に入れ網棚に置いたところ、ふとした拍子に床に落ち、爆発して電車を破壊、本人はもちろん乗客数名の死傷者を出したとあります。また、車内において弁当の殻や果物の皮、煙草の吸殻などが手当り次第に投げ散らかされている様や、そうしたゴミを車内だけでなく窓からも投げ捨てているとあります。ひどいことに、窓から投げ捨てられたものが線路見回りの作業員に当たり、重傷を受けて気絶したことがあったそうです。

ここではちょっと紹介できない内容も書かれている『鐡道から家庭へ』。こうして当館では所蔵対象としないような刊行物に出会うのも資料整理の面白さです。

(事務員・村上こずえ)

東京大学文書館
www.u-tokyo.ac.jp/adm/history/