第1131回淡青評論

七徳堂鬼瓦

『One Earth Guardians育成プログラム』が目指すもの

人類の活動が引き起こした異常気象、生物多様性の喪失、そして資源枯渇やパンデミックなど、人類の生存を脅かす地球上の課題が日々積み重なっている。多くの科学者が、人類存亡はこれらの課題解決にかかっており、今後10年間で正しい方向へ舵を切らなければ致命的となると指摘している。

『農学』という学問領域はその解決策の多くのシーズを抱えているが、私たちは、それらを活かせない硬直した状況に陥っている。なぜか? 歴史的経緯、現在の領域構成や帰属意識が、幅広い学問領域を跨いだ総合的視野からの問題解決を困難にしており、持続可能な人類社会の構築という現在の社会ニーズにあった人材供給や研究貢献が十分にできていないためと私は考えている。

私たちは4年前に、「100年後の地球に何ができるか?」を考える農学部発の教育・研究プログラム『One Earth Guardians育成プログラム(OEGs:地球医)』を立ち上げた。このプログラムでは、研究領域の壁を越えて、ヒトを含めた地球上の生物の共存共生のため、①これまでヒトが地球上の資源を利用することで起こしてきた課題を現場で俯瞰的に洗い出す。②課題についてヒトの生活活動を続けながら実施できる科学的解決法を研究する。③社会を巻き込みながら解決法を実践していく科学者の集団(ネットワーク) =OEGsを育成する。この活動を通じて「経済価値偏重主義」から「自然(地球)資本主義」へのパラダイムシフトを目指す。URAの献身的な努力のもと、学生、教職員、そして社会人が対話に基づくactive learningを展開してきた成果として、企業との新しい共同研究が開始され、産業界を含め社会全体で学生を育てる気運が高まっている。

現在本学に提案している第II期のOEGs育成プログラムでは、これまでの経験と成果をベースに、その対象を本学の他部局、他大学、学外のあらゆる世代に拡大する。日々の衣食住などを支え、当たり前で貢献が目立たないが、人類の生活に必須な「実学」の重要性を社会全体に訴え、基礎的な「学術」研究と生活を支える「生術」研究の相互依存を実現する。自然(地球)を資本と考える新しい産業と社会システムの創出が必要な今こそ、「農学」ひいては教育・研究の本来の役割があらためて問われている。

大量生産・大量消費で利ざやを稼ぐ仕組みから、生活の『質』を大切にする個人行動・社会構造への変容のために、私たちは人類の存亡を懸けて、トップダウン的な施策だけではなく教育からボトムアップ的に推進する本活動に邁進したい。このような活動に賛同してくださる皆様のご参加・応援をお待ちしている。

QRコード
OEGs育成プログラム
www.one-earth-g.a.u-tokyo.ac.jp

高橋伸一郎
(農学生命科学研究科)