10月1日、東京大学は、藤井輝夫総長の任期中における基本方針となる「UTokyo Compass」を公表しました。構成員間で対話を重ねながら、「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という3つの視点から、「世界の誰もが来たくなる大学」になるために行うべきことを明らかにしたものです。記者会見の場で展開された報道陣との質疑応答も含め、その中身をご確認ください。
「UTokyo Compass」の公表にあたって
ここに公表するUTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来 Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue」は、東京大学が目指すべき理念や方向性をめぐる基本方針です。この公表は総長任期の始まりにあたっての単なる慣行ではありません。東京大学が進むべき方位を共有し、構成員の全体や社会のさまざまなステークホルダーの理解を得ながら、この先数十年をみすえ、その歩みを確実に進めていくための、自分たち自身に向けた共同の問いかけです。
ふりかえれば、国立大学法人化という、わが国の大学制度の歴史的転換点において制定された「東京大学憲章」(2003年3月)は、国立大学の社会的な位置づけの大きな変化を前に、その拠って立つべき理念と目標を明らかにするものでした。憲章の理念を受けて、「アクション・プラン」(2005年7月)、「行動シナリオ」(2010年4月)、「東京大学ビジョン2020」(2015年10月)が、それぞれの総長の活動の始まりに出されます。それらは、いずれも東京大学が時代にふさわしい姿へと変わろうとする道筋を、具体的な目的と行動計画をもって示そうとするものでした。
いまあらためて検討すべきは、新たな時代における、大学という法人の自律性・創造性の在り方です。それは既存の手本(モデル)としてどこかに在るものではなく、いままさに向かい合う困難を克服しようとするなかでの課題であり、立ちあげるべき理想です。歴代の総長が「運営」「経営」ということばで指してきたのは、たんに財務・人事・制度等の改革にとどまるものではありませんでした。いま東京大学は、「知をきわめる」「人をはぐくむ」「場をつくる」という多元的な3つの視点(Perspective)から、目標を定め行動の計画を立て、それらに好循環を生みだすことを通じて、世界の公共性に奉仕する総合大学として、優れた多様な人材の輩出と、人類が直面するさまざまな地球規模の課題解決に取り組もうとしています。まさにこのように学問の裾野を広げていくために必要な方策を、大学という法人全体が自ら設計し、実現していくことこそが経営です。このUTokyo Compassが提示するのは、現代的で地球的な諸課題を前に大学の可能性を問いなおし、これまでの在り方を設計しなおすことをも厭わない、東京大学という組織ならではの創造的な挑戦の航路であり、また大学を取り巻く社会への問いかけでもあります。
私は、実現のプロセスにおいて、また創造の方法において、「対話」を重視します。対話とは、たんなる話し合いや情報の交換ではなく、知ろうとする実践です。知るためには、問う必要があります。大学が育てる「問いを立てる力」は、対話の始まりに不可欠です。ただ問うだけでなく、その問いかけが問いの共有、すなわち「ともに問う力」を生みださなければ、対話は深まってゆきません。問題にともに向かいあい、対話を通じて関わりあうことで、ともに見る、ともに感じる、ともに考えることを基盤とする理解が形成され、信頼が醸成されます。対話がもたらすのは、議することで推し進められる、多声の協奏です。そのように多様性が創造する未来を描くには、不公正や差別の理不尽、さまざまな社会的弱者の存在に対する鋭敏な感性をもち、課題と真摯に向きあう主体的な姿勢が要請されます。
このCompassの作成にあたっても、可能なかぎり対話を取り入れました。基本となる研究・教育・社会協創はもちろん、デジタルトランスフォーメーション(DX)、グリーントランスフォーメーション(GX)、多様性と国際性、広報・コミュニケーションや働き方、経営戦略等の主題領域において、教員だけでなく職員も加わったワーキンググループを組織し、総長ビジョンのタスクフォースと密接に連携して検討を進めました。また広報関連の組織の協力のもと、教職員・学生のみなさんとの「総長対話」の機会を日本語・英語で18回にわたって設けたのも、経営協議会等を通じて学外の意見をお聞きしたのも、引き続き重視していく対話の実践の第一歩だと考えています。ここで共有するUTokyo Compassも、すでに決めたのだから変えずに守るという運用ではなく、大学としてのより良い在り方を目指す各部局、各構成員の努力に開かれたものとして、活用し改善し充実させてゆきたいと思います。
現代の世界が直面している地球規模の複雑な課題への取り組みに際し、研究・教育や社会協創において東京大学が創成していく、対話と信頼の相互連環こそが、新たな未来をひらくと信じています。あるべき理想をともに問うなかで、新たなつながりが生まれます。東京大学が追求してきた「志ある卓越」や「産学協創」の理念の基本も、まさにそこにあると考えています。大学ならではの自律性の創造は、さまざまな課題が目の前に渦巻く、いわば荒海への船出であり、であればこそUTokyo Compassという指針のもとで、みなさんとの対話を進めてゆきたいと願っています。
基本理念
東京大学は、学知を生みだし、つなぎ、深める拠点として、問いを立てる基礎力をはぐくみ、卓越性と包摂性の実現を目指します。学術における卓越を実現するには、多種多様な人間が集まって議し、学び、課題の発見と共有と解決とに取り組むことが不可欠です。真理への探求心と学問の自由に根ざす研究と、地球的な視野と高い倫理と粘り強い実践力をそなえた人間をはぐくむ教育に取り組み、さまざまな学知を結び究める自律的な総合大学の新しいモデルを築きます。
東京大学は、学術的な価値創造の場としての大学に対する信頼をより一層確固たるものにすべく、不断の努力を続けます。国から負託された従来の役割だけにとどまらず、人類社会が直面する地球規模の課題への貢献をはじめ世界の公共を担う法人として活躍するためには、創造的に自らの実践をデザインする力が必要です。その力を大学の経営力として伸ばし、新たな「知」と「人」と「場」を生みだす営為を通じて学術のもつ価値を高め、自律的で創造的な活動を支える資源・財政の基盤を確立します。
東京大学は、世代をこえて受け継ぎ発展させてきたさまざまな特質をもつ諸学問の蓄積のうえに、包摂的で自由なより良い未来社会の創造を目指します。大学の存立基盤と社会的責任を自覚し、いま現実にある不公正や理不尽な格差を是正しうる真摯な対話の実践を通じて、分断や閉塞を乗り越え、より良い未来社会をともに実現すべく学知の創出に努め、幅広い社会との協創を生みだします。
3つの視点と20の目標
PERSPECTIVE 1
東京大学は、学問の自由と自律に基づいて事物の真理を究め、課題の設定や解決において信頼しうる、多様な学知を生みだします。新たな学知は、既存の政治・経済の枠組みに収まらないものを含む公共性への奉仕の責務を自覚し、批判や検証に開かれた透明性を確保する、そうした対話のなかで創造されるものです。
東京大学は、技術革新の背景にある基礎研究の奥行きと深みのある積み重ねを重視し、さまざまな知の接続機能をもつ拠点(ハブ)としての大切な役割を果たします。新しい技術が人間や社会に何をもたらすかを考える学問の支えなしに、その力を適切に活用することはできないのであり、文理の垣根を越えた連携によってこそ、その役割を果たし得ます。
東京大学における真理の探究と学知の創出は、学ぼうとする者の好奇心やひらめきを駆動力とし、公共心の核となる誠実さに支えられて、さまざまな声を受けとめながら進んでゆくものです。そうした対話は、関連する知や関わる人間をつないで、活性化させる力の基礎でもあります。
PERSPECTIVE 2
東京大学は、未来を築く卓越した人材を輩出します。社会のさまざまな場を支える、対話力に優れ、専門知と教養を備えた知識人を世に出すことは、この大学が果たしてきた使命です。同時に、次世代のリーダーとして聞こえにくい声にも耳を傾け、自らの声がどう響くかにも自覚的な共感形成の能力を身につける教育に力を注ぎます。
東京大学は、国内外から多彩な学生や教職員を迎え入れ、また有為な人材を送り出します。大きく循環する開かれたネットワークのなかで、研究・教育や社会連携の機能を果たします。海外修学の機会の拡大、海外拠点の活用やグローバルな就業体験、ローカルな現場での当事者の実践との交わりなど、さまざまな実体験をそれぞれに得られる枠組みを充実させ、しなやかな対話力をはぐくみます。
東京大学は、DXやサイバー空間の可能性を活かし、従来の枠組みを超えて学生との対話・学生の参加を促進する教育に、先駆けて取り組んでいきます。変化が速く、価値観や課題が複雑な現代だからこそ重要性を増している、特定の年齢や属性や経歴に固定されない包摂的な教育を推進します。
PERSPECTIVE 3
東京大学は、それぞれの学問が個性的で創造的であることを対話の実践によって包摂し、その多声性を活力とする場として、大学の意義をとらえ直します。社会のさまざまな人々とともに、大学という場を総合的に活用していく工夫を凝らしていきます。そうした対話の重ねあわせによってネットワークを拡げ、「世界の誰もが来たくなる大学」としての魅力を増大させ、世界に発信します。
東京大学が掲げる場の創成は、施設・設備の充実だけではありません。教員・職員・学生の多様性を重視し、DXを存分に活かした学び方・働き方の再点検を進め、若手の雇用の安定や多種多様なキャリアパスの整備、国籍・ジェンダー・障害等のさまざまな困難を抱えた構成員の受容や待遇の向上など、未来につながる魅力ある研究・教育や雇用のシステム整備などに総合的に取り組みます。
想定外の災厄においても災害弱者や緊急事態弱者を生みださないキャンパス空間を目指し、オンライン環境の整備拡充を踏まえた、教育及び研究方法の開発を進めます。
東京大学は、社会を自らの活動の場ととらえ、創造的な対話によって、自らが起点となって多様な人々や組織との間に信頼の架け橋を創ります。基金や大学債を含め、大学という場を充実させる財務基盤の拡充にも積極的に取り組みます。さまざまな場の創出を通じて、大学の公共的な存在意義や固有の機能に対する信頼と支持・支援の好循環を形成します。
発表記者会見(10月1日)の質疑応答より
記者 1000億円規模の法定基金を創出したいとのことだが、原資となるのは何か。また、これは任期中に限っての目標なのか。
総長 中長期的に10~15年ほどで考えています。産学協創で行う資金の間接経費、スポンサードリサーチ的な仕組み、知財やスタートアップなども含め、寄付金だけではない形で積み上げたいと思います。
記者 学生との対話を促進したいとのこと。コロナ禍のなか学生が大学に不信感を抱いている面もあるが、どう向き合うのか。
総長 学生とのオンライン対話を4回やって、しんどい状態にあることはよく理解できました。一番困っているのは学生同士のつながりが作れないことかと思います。学生たちが集まれる機会を増やす具体的なアクションにつなげるよう、学部・研究科の先生方とも話しているところです。
記者 教育プログラムにデータサイエンス教育を入れるとのこと。文系にも取り入れるということかと思うが、データサイエンス教育が重要と考える理由は何か。
総長 現在は仕組み上、文系と理系に分かれていますが、社会に出て向き合う課題にそんな仕切りはありません。文・理を問わず、データサイエンスの一定の知識や能力を備える必要があると考えています。
記者 1000億円の基金の財源として600億円のファンドを循環させていくのか。大学をめぐる変化の現状をどう見ているのか。
総長 大学が直接投資をするのではなく、学外の機関に進めてもらうことになります。資金を投入してリターンを得、スタートアップ支援を強化し、知財も含めて収益を重ねることで1000億円につなげます。ポイントは、大学自身が自ら考えて、今やるべきと考えたことにしっかり先行投資してリソースを投じられる仕組みを作ることです。社会の要請に応えながら、学術としてやるべきことを自由裁量で行うための資金を担保する必要があります。大学の自律性を支える経営力を項目に立てた所以です。
記者 スタートアップ支援の方針について伺いたい。UTEC※1やIPC※2との関係は?
総長 規模感として600億円を投資できるものを学外に作るという考え方で、大学自身が中でやるわけではありません。UTECやIPCとも協調しながらベンチャーエコシステムをビルドアップし、スタートアップをよりグローバルに多く育てたいと思います。投資対象などの検討はこれからです。
記者 10兆円規模の大学ファンドを目指すなら学外者を入れた合議体が要件だろう。新設の財務経営本部に学外者は入るのか。
総長 現在、制度設計についての検討が政府内で進められている最中です。東大としては、政府の方針が示されるのを待って本格的に検討を進めたいと思います。
記者 10兆円ファンドの活用には年間3%の成長が求められる。これは可能な数字か。
総長 現状は2%に満たないところですから相当がんばらないと難しいでしょう。学術に限らず大学全体の価値を高め、総合的な意味での経営力を高める必要があります。
記者 財務の質問が多いが、もう一つの柱は女性比率を高めることかと思う。女子学生比率30%が目標とのことだが、従来も同様の目標を達成できていないのでは?
総長 これも相当にがんばらないと達成できません。大事なのは大学全体がこの方向でいくぞとしっかり示すこと。東大を目指そうという皆さんにもわかってもらうことが重要です。推薦入試は女子をより多く推薦できる仕組みにしていますが、そうした入口の部分をしっかり議論していきます。
※1 東京大学エッジキャピタルパートナーズ
※2 東京大学協創プラットフォーム開発
UTokyo Compass 広報アイテム
UTokyo Compass に記された新しい取り組み事例(抜粋)
- ●脱炭素プラットフォーム・ETI-CGC の設置
- ●GX本部、DX本部の設置
- ●ダイバーシティ研究・教育推進機構の設置
- ●教育支援ツール・UTokyo One の構築・導入
- ●ダイバーシティ&インクルージョン宣言の制定
- ●インクルーシブキャンパス推進本部の設置
UTokyo Compass に記された具体的数値目標(抜粋)
- ●新規採用研究者の女性比率 30%
- ●教員(特定有期雇用含む)の女性比率 25%
- ●学生の国際総合力認定率 30%
- ●博士課程学生への経済的支援率 50%
- ●特定有期雇用でない40歳未満の教員数 1200名
- ●学生の女性比率 30%
- ●教職員の女性管理職比率 25%
- ●東京大学関連スタートアップ 700社
藤井輝夫総長がオンラインで「UTokyo Compass」の構想について説明し、学内構成員と意見交換を行う「総長対話」シリーズ。教職員との対話(本誌1549号で紹介)に続き、学生との対話も8月27日~9月8日に4回にわたって行われました。このシリーズを統括してきた広報戦略本部長の振り返りコメントと、対話の場で展開された意見交換の内容のダイジェストを掲載します。
総長が願った学生との対話
重要なステークホルダーである学生の意見が聞きたいというのは、総長が当初から強く願っていたことでした。年次や属性によって違う思いや悩みについて聞きたいということで、1・2年生、3年生以上、大学院生、留学生(英語話者)に対象を分けて計4回を設定しました。教職員との対話を重ねるなかで試して手応えを得た、Zoom WebinarのQ&A機能で質問を書きこんでもらって共有するやり方を採用しました。参加者が質問に「いいね」をつけ、その数も参考にしながら選んで総長が回答する形です。
私は教職員のシリーズから司会を務めてきましたが、学生は教職員に比べるとよりストレートに余計な遠慮をせず意見をぶつけてくれたように感じました。入構に使える門の制限、課外活動における会食や合宿の制限、学内施設の利用時間の制限に関することなど、学生生活に密接に関わる質問が多く寄せられました。一方で、大学の運営方針、産学連携と大学自治の関係、世界における評価、ジェンダーや環境の問題など、より大きな視点に立った質問も多く、さすがは本学の学生だと思わされました。また、まだ日本に入国できず海外から対話に参加してくれた留学生や、研究室の仲間と顔を合わせたことがない大学院生の肉声を直接聞き、あらためて抱えている問題の深刻さと切実さを感じる機会ともなりました。
対話を改革に繋げるために
今回の対話を受けて、総長、執行部はすでに動き出しています。対話の際にも言及がありましたが、授業に限らず学生の対面機会を増やすことは、総長から研究科長、学部長にお願いしており、講義の前後に学生が交流できる場を開放する工夫を行っている教員の事例も共有された、と聞いています。施設の利用時間については、本郷の総合図書館は実はすでに22時30分閉館(平日)となっており、駒場図書館も10月から21時閉館(平日)となっています。まだ入国できない留学生が多い件については、国立大学協会の会合などで総長が発言し文部科学省とも情報を共有して働きかけを進めています。
夏休みにかかる時期の開催ということもあってか、参加者数が期待したほどでなかったのは少々残念です。学生の指摘にもありましたが、周知が足りなかった面もあるかもしれません。それでも事前登録者の約7割は参加してくれました。学生を含めた構成員の声をより効果的に聞くための方策を総長補佐会でも議論する予定で、今後につなげられればと思います。UTokyo Compassに関連したテーマ別の対話も計画しています。構成員の要望が少しずつでも具体化されて、総長が掲げる「誰もが来たくなる大学」に近づければ、本企画の統括を担当した者としてもうれしい限りです。
学生との意見交換より
文系の対面授業はなぜ増えない?
学生Ⓐ 全体では対面授業が増えているとのことですが、文系の対面授業はまだまだ少ないです。改善していただけませんか。
総長 全体では対面が増えても、履修の取り方によってはオンラインばかりということはあるでしょう。きめこまかい対応をしながら対面を増やしてほしいということは学部長の皆さんに話したいと思います。
前期教養課程の専門性を高めては?
学生Ⓐ 前期教養課程はもっと専門的な内容を高めるようカリキュラムを改善すべきだと考えます。研究者育成という観点からすると、前期教養課程の存在はむしろマイナスだと思うのですが、いかがでしょうか。
総長 研究者になるにしても、世界が激しく変化するなかで自らが身につけた知識を駆使して対応する局面が多いはず。大事なのは身につけた知識を活用することです。机上で学ぶだけでなく、大学のネットワークを活かして実践の経験を積める機会を得て知識を活用する仕方を身につけてほしい。前期課程はいろいろな分野を見て研究の場に触れ、自分がどこに興味を向けるかを選ぶ大事な期間だと思っています。
コロナTFに学生も参加させては?
学生Ⓑ コロナタスクフォース(TF)の議事録公開を行ったり会議の傍聴を広く認めること、学生の意見を聞くために学生団体の代表もTFに参加させることを約束していただけないでしょうか。
総長 大学の重要な構成員である学生の意見は尊重すべきですが、コロナTFは危機管理や公衆衛生に関係するプロセスです。大学の管理責任を負う執行部として学生の意見を待たずに緊急の判断しないといけない場合もあることはどうかご理解いただきたいと思います。
ミスコンが容認される環境に責任は?
学生Ⓑ 毎年東大でミスコンが行われています。以前から問題視されてきたイベントができてしまう環境を作ってきた大学の責任をどのように認識していますか。
総長 駒場祭は学生が自主的に行うもので、基本的に学生の判断を尊重したいと思っています。私自身は東大を多様性が尊重されるキャンパスにしたい。学生にも良識ある判断を期待します。大学としていろいろと努力してきていますが、至らない部分もあるでしょう。いま大学としてD&Iを重要なテーマとして掲げているところです。至らない部分を教えてもらえればうれしいです。
東大は「稼げる大学」を目指す?
学生Ⓑ 総長が参加している内閣府の科学技術・イノベーション会議について質問します。「稼げる大学」を目指し、外部のステークホルダーが参画する合議体による経営を目指すとのことですが、東大はどんなスタンスで臨むつもりですか。
総長 東大は大学の機能を拡張して活動を広げるために自律的に成長するやりかたを模索しており、国立大学にかけられた規制緩和をお願いしたい、と会議で話しました。規制が緩和されれば大学は活動を活発化させることができるはずです。そのためのリソースを社会から支援をいただきながら獲得し、それを社会に還元していきたい。一方で、コロナ禍を経て世界の大学の経営モデルの見直しが進んでいます。日本の大学として、日本ならではの新しい大学モデルを実現する道筋を描きたいと思います。
発声が必要な授業はどこで?
学生Ⓑ キャンパスでオンライン授業を受ける場合、発声が求められるケースもありますが、図書館などのオープンな場では声を出しにくく困ります。オンライン授業のため、声を出してもプライバシーが守られる個別のブースが必要ではないでしょうか。
総長 なるほど、電話ボックスのようなものがあるといいわけですね。ニーズは理解しました。検討したいと思います。
通知の内容が不十分だったのでは?
学生Ⓒ この場はどんな意図で設定されたのでしょうか。通知文の文面ではどういう場にしたいか伝わりませんでした。
総長 案内の情報が少なかったかもしれません。意図としては、UTokyo Compassに対する意見を聞きたかったのが一つ。コロナで困っている学生の声を聞いて大学をよりよくするために何ができるかを探りたかったのが一つです。今後は、特定のテーマを決めて行う形も検討したいと思います。
施設の開館時間を伸ばせませんか?
学生Ⓒ 図書館も実習室も20時で閉まり、20時になると大学から追い出される形です。20時過ぎの電車がラッシュになっています。施設の開館時間を伸ばせないでしょうか。
総長 事情は理解しました。図書館や自習室の存在は文系の学生にとって特に重要ですね。延長の可能性を検討するよう関係者に伝えます。十分な距離をとって安心して話せる居場所も準備したいと思います。
大学ランキングはどう上げる?
学生Ⓒ 先日のTHE世界大学ランキングで東大は35位でした。どのように順位を上げていきますか。
総長 ランキングを上げること自体を目的にはしません。東大の研究者の多くは世界でもトップクラスですが、海外の研究者ネットワークにしっかり入り込めているわけではないかもしれません。世界の学術のなかでビジブルなポジションを確立しておくことが重要です。研究チームレベル、ラボ単位などでのつながり、顔が見える結びつきを強める取り組みを進めれば、結果的にサイテーションの評価が上がるはずです。
入国制限緩和を国に働きかけては?
学生Ⓒ 自分を含め、まだ日本に入国できていない留学生が多くいます。大学は国に働きかけてくれないのでしょうか。
総長 来日したいのにできない人がたくさんいることを心苦しく思っています。新規で日本に来る学生のうち、国費留学生の半分程度しかまだ入れていないと聞いています。東大としてできることを働きかけます。私が参加している政府の会議などを通じてお願いすることも行いたいと思います。
持続可能性に関する戦略は?
学生Ⓓ 大学は、サステイナビリティの問題、TSCP※チームの改革や環境哲学などに関する戦略を計画していますか?
総長 サステイナビリティに関する活動は強化します。エネルギーだけでなく食糧などの問題もあります。皆さんにも関わってもらって、いいプランにしたいと思います。
学生同士の会話の場はどこに?
学生Ⓓ 学生同士の会話はたいてい授業の前後に行われますが、授業のオンライン化によってそうした場が失われています。対面でもオンラインでも講義の後にそうした場を開放してもらえないでしょうか。
総長 先生方に伝えることはできます。チャットなどで交流することもできますね。そのような機会をどう作るのか、グッドプラクティスを共有していきたいと思います。
教員のジェンダーギャップは?
学生Ⓓ 日本におけるフェミニストの活動を研究しています。東大が女子学生を増やそうとしているのは知っていますが、女性教員の少なさについてはどう思いますか。
総長 ダイバーシティは重要で、いろいろなバックグラウンドの人と話すことが大事だと思います。これから全学を挙げてD&I推進に取り組んでいきます。
PEAK生との交流をどう増やす?
学生Ⓓ PEAKの学生がPEAK以外の日本人学生と話す機会が少ないように感じます。英語が話せて国際感覚が高い学生も少なくないのに、プログラムを超えた交流が少ないと思います。よい方法はないでしょうか。
総長 プログラムを超えた学生交流が少ないとしたらそれはとても残念なことです。キャンパスに来られるようになったら、そうした枠を超えて皆さんがおしゃべりできるような場所を用意したいと思っています。
※ 東京大学サステイナブルキャンパスプロジェクト
実施日 | 対象 | 参加 | 質問 | 司会者 |
---|---|---|---|---|
8月27日(金) | 学部1・2年生Ⓐ | 59 | 31 | 武田洋幸執行役・副学長(広報戦略本部長) |
8月27日(金) | 学部3年生以上Ⓑ | 22 | 26 | 武田執行役 |
9月6日(月) | 大学院生Ⓒ | 42 | 23 | 武田執行役 |
9月8日(水) | English Session Ⓓ | 36 | 17 | 矢口祐人教授(グローバルキャンパス推進本部) |
質問数には応答に選ばれなかったものも含む
2007年に検診部で始まった「東大病院の人間ドック」。2018年からは新たに設置された予防医学センターの事業として眺望の素晴らしい最上階のスペースで実施されており、教職員向けの割引制度も用意されています。諸分野の専門家が揃う東大病院のメリットを最大限生かして質の高い検診が受けられるこのサービスについて、センター長のインタビューをもとに紹介します。
予防医学センター人間ドックのメニュー一覧
●基本検診
1. 問診 2. 身体計測 3. 視力検査 4. 眼圧検査 5. 眼底検査 6. 聴力検査 7. 血液検査 8. 尿検査 9.便潜血(2回法) 10. 呼吸機能検査 11. 骨密度 12. 心電図13. 胸部X線 14. 腹部超音波 15. 上部消化管内視鏡(経鼻or経口内視鏡) 16. 内科診察
●オプション
心血管ドック、脳血管ドック、物忘れ検診、がん検診(肺がん、大腸がん、子宮がん、乳がん、膵がん、腫瘍マーカー検診、胃がんリスク検診)、上部消化管内視鏡検査(後日実施)
センター長に聞きました
受診者枠は検診部時代の倍に
――東大病院では2007年から行っているそうですが、大学の医学部附属病院の人間ドックというのは当時珍しかったんでしょうか。
「いまでも数は多くありませんね。東大病院に人間ドックをという声は1990年代からありましたが、反対意見もあったようです。予防医学のニーズの高まりを確信した当時の病院長が覚悟を決めて2007年に検診部を立ち上げました。ただ、検診部のスペースは狭く、常に満員の状態で、ひどいときは半年先まで予約が取れないこともありました。検診部で全部を検査できたわけでもなく、内視鏡検査のために別の階に移動する労がかかっていたんです。2018年4月に検診部が改組されて予防医学センターが発足したのを機に、山崎力先生(検診部長)から引き継ぐ形で私がセンター長に着任しました。入院棟Bの最上階の広いスペースに移ることができ、多くの検査機器を集約し、検診部時代から比べると2倍以上の数を受け入れられるようになりました」
――予防医学センターの役割とは?
「簡単に言えば、病気になる前やなりかけの段階でがんや成人病の予兆を発見し、早期治療や受診者の健康増進に寄与することです。もう一つは予防医学を進展させるエビデンスを提供すること。医学の研究には、病気の人と健康な人のデータ比較が重要な意味を持ちます。人間ドック受診者の多くは健康ですから、健康な人のデータを診療科に提供して研究に役立てることができます。大学病院のセンターならではの使命と言えるかもしれません」
――東大病院の人間ドックの特長というとどんなことが挙げられるでしょうか。
「一番大きいのは、検査で異常が見つかった際には紹介状がすぐに用意され、院内各診療科で診察・診療が受けられることです。当院にはトップクラスの診療科が揃っていますから、受診者の安心度は高いと言えるでしょう。二つ目は、医師からきめ細かな説明があることです。検診部時代からの伝統ですが、お一人につき平均15分はかけて担当医師が詳しく説明しています。検査結果が出るのが早いのも特長です。9時から検査を始めたとして、早い人だと11時には結果説明を聞けています。受診者には、入院棟Aの15階にある展望レストランで食事ができるという特典もあり、好評を博しています※1。午前中に検診を受けて説明を聞き、昼に眺望のよい席でゆったり食事をし、検査で異常があった場合は紹介状を手に午後に診察予約を取って帰る、というのが定番の過ごし方となっています」
※1 洋食の名店、上野精養軒の「ブルークレール」。午後に検査がある場合は予約席が利用可能です。緊急事態宣言中は臨時休業だったため、代わりにクオカードが贈られました。
リピーターの多さが示す高品質
「食生活の問題点について専門の管理栄養士からアドバイスを聞く栄養相談を無料で受けることもできます※2。16項目の基本検診※3に加えて充実したオプション検査も特長で、受けられない検査はほぼありません。受診者の要望が高かった膵がんドック※4も昨年から始め、好評を得ています。担当医師が詳しく書き込む検査結果表、ホームページの情報提供量も日本の人間ドックではトップクラスと自負しています。そして、地上15階から広がる眺望です。不忍池がここまできれいに一望できる場所は構内でもなかなかないと思います」
――利用者にはどんな人が多いんでしょう。
「一般的なドックに比べると比較的高齢のリピーターさんが多いですね。80代後半の方や2007年から毎年受けてくれている方もいらっしゃいます。教職員※5や卒業生の利用も多いですね。元教職員や卒業生の皆さんにとっては、久々に大学に来るよい機会となり、受診前後に構内を散策して思い出の地を訪ねたり建物の改築を見つけたりされているようです。あと、東大病院に入院した患者さんのご家族も多いです。病院の施設などに慣れていらっしゃるのでこちらも説明がしやすいですね」
――ただ、料金はお安くはないですよね。
「確かに、格安を売りにした人間ドックと比べると安くはないですが、優れた臨床施設と連動した同レベルのサービスと比べると決して高くはなく、平均的な価格となっています。格安のドックでは、ABCの判定だけ渡されてあとは自分で病院を探さないといけなかったりしますが、どの病院に行けばいいかさえもわからない場合もあると思います。利用者さんの考え方次第ですね。11月からは教職員向けの割引サービスを始めます※6。詳細は東大ポータルで確認してぜひご利用ください。センターの教職員一同、お待ちしております」
※2 栄養相談は人間ドック受診後3ヶ月まで予約OK。相談用の部屋には食材サンプルも。
※3 通常の健康診断の血液検査では行わない腫瘍マーカーや甲状腺の検査や、骨密度の検査なども、東大の人間ドックの基本検診には含まれています。
※4 腹部超音波検査だけでは観察が難しい膵臓がんや胆道(胆嚢や胆管)のがんを医科学研究所附属病院のMRIによる画像診断で発見します。
※5 学内の人間ドック受診者数を部局別に見ると、理学系研究科、工学系研究科、医学系研究科、地震研究所、法学政治学研究科、教育学研究科、情報理工学系研究科、新領域創成科学研究科、経済学研究科、情報学環が十傑でした(2019年度)。ちなみに、歴代執行部の皆さんも利用してきたそうです。
※6 割引には文部科学省共済組合に加入していることが条件となります。