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第52回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

創立以来、東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

マイノリティの学生が安心して過ごせる空間

/教育プロジェクト「駒場キャンパス・セイファー・スペース(KOSS)

国際連携部門
特任助教
井芹真紀子
井芹真紀子

――KOmaba Safer SpaceでKOSSですね。Safer Spaceは一般的な言葉ですか。

英語圏の大学では普及しています。女性や性的マイノリティなど、キャンパス内で周縁化されやすい人たちが差別や偏見、暴力に晒されることなくより安心して過ごせる場という意味ですが、日本の大学の先例はほとんどないと思います。私はICUから東大の大学院に来ましたが、性的マイノリティや女性に対する差別や暴力の現場を目の当たりにしたこともあり、東大にもSafer Spaceが必要だと思いました。清水晶子先生をはじめとする先生方が長い間設立に向けて動かれてきた経緯があり、2020年10月に着任しました

話を聞いて学術のアドバイスを

KOSSの特徴は相談施設ではないことです。私もカウンセラーではなくフェミニズム/クィア理論、ディスアビリティ・スタディーズの研究者です。学生が授業の前後などに集まり語らう場ですが、部屋を用意するだけでなく、大学院生アドバイザーや私が常駐し、過去にこういう運動があったとかこのテーマだったらこの本がいいとか、関連するアカデミックな情報を紹介しています。学生が感じたことを学術と繋げるのが重要な役目です

――発足から1年半はオンラインでの活動だけだったそうですね。

「シスターフッド」、「メイル・ゲイズ」、「ジェンダー・アイデンティティ」など、院生アドバイザーがキータームを解説してから話し合う形でZoomミーティングを続けました。ファッションからボーイズラブまで様々な話題を扱い、読書会、映画DVDの同時再生会、ダイバーシティ・イシューに関心のある教員のトーク会もやりましたが、知らない人同士のZoomだとどうしてもオンライン授業のような感じになりがち。意図した空間にはできず苦渋の日々でした

4月にこの部屋が開所となり、状況は一変しました。互いに話すわけではなくても、物理的な空間を共有していれば、別グループの人とつながる可能性が上がります。ふと立ち寄れば上級生や院生がいて話が聞ける。サークルでもクラスでもないですが、来て過ごすうち、部屋で話した人や掲示板を通して自分に合う仲間を見つけるという流れができました

誰でも歓迎というわけではなく

――多数派の人も来ていいんですか。

マイノリティだけが来る秘密の場所ではないです。ただ、誰でもウェルカムというわけでもありません。マジョリティ的な振る舞いをする人が来てマイノリティの学生が居づらくなってはいけません。学生たちが話すなかで差別的な発言が出た際には介入して注意を促しています

――飲食に使ってもいいんですよね。

はい。ただ後片付けをきちんとやるのが条件です。KOSSは基本的に教育プロジェクトであり、スタッフがもてなす場ではありません。利用者にはピア・コミュニティの一員として参加し、多様性の問題に取り組むための知識と実践経験を積んでほしいんです。UTokyo Compassにはダイバーシティ研究・教育を推進する機構の計画が記されましたが、その一部の活動はすでにここで始まっています。D&Iに関する駒場からのアウトリーチという役目も自負しており、昨年度は中国の同性愛運動、大学におけるジェンダー/セクシュアリティ研究、西洋主流フェミニズムにおけるトランスジェンダー排除と反セックスワークの問題の3テーマで一般公開の学術イベントを行いました。キャンパスの問題を指摘できるマイノリティが増えればマジョリティが違う意見に出会う機会も増える。長い目で見ればそれがD&Iを推進すると思います

❶書棚、ソファ、テーブル、椅子、パソコンなどがある部屋。壁にはレインボーフラッグやイラストが入った額縁が飾られている
ぬいぐるみたちも迎えてくれるKOSSの室内。壁のアートに見える白と水色とピンクはトランスジェンダー、黒と灰色と白と紫はアセクシュアル、ピンクと青と紫はバイセクシュアルを象徴する色だそう。
❷本が入っている書棚
書棚にはジェンダー/セクシュアリティについての入門書がたくさん。図書館では尋ねにくい人もここなら安心。
❸外観から見た窓。レインボーフラッグの旗が見える
102号館の外から見える6色レインボーフラッグ。興味がない人は気づかないが興味がある人ならすぐわかる絶妙なアピール具合。

開室月水木金の13~17時 www.utkoss.org

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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いちょうの部屋 学内マスコット放談第11回

ヘリウムくんとチッソちゃん
今回のゲスト ヘリウムくんチッソちゃん 低温科学研究センターマスコットキャラクター
口元の「ヘ」の字と青い安全靴&手袋が特徴。頭部には他キャンパスのヘリウム容器と一線を画すクラシカルタイプのゴム栓が。移動時は衝撃吸収用腹巻を着用。

いちょうくん ローソンのマークを彷彿とさせるボディだね。もしかして中に牛乳が入っているの?

ヘリウムくん 沸点が-269℃の優秀な冷却材、液体ヘリウムだよ。理学でも工学でも農学でも冷却が大事な実験には欠かせないから、いつも低温科学研究センターからトラックで学内各部局に運んでいるんだ。

 ヘリウムって声を変えるものだと思っていたよ!

 風船にも使うよね。世界的に非常に貴重なものだから、東大では実験に使ったヘリウムを回収してリサイクルしているよ。弥生と本郷のキャンパスの地下には回収用の配管ネットワークが広がっているんだ。

 すごいね! ところで隣にいるのはアイロン?

 窒素容器に化けた妖精のチッソちゃん。沸点は-196℃で液体ヘリウムよりは高いけど、液体窒素も冷却材として重宝されるんだ。ボクに心を授けたのはチッソちゃんらしいんだけど……よくわからないや。

 2人はいつからどんな活動をしてきたの?

 2013年、当時いた事務補佐員さんが原画を描いて提案したのが発端。オープンキャンパスの際、小さい子にも親しみを感じてもらおうと、スタッフTシャツやビジターパスや安全啓発資料にボクらがあしらわれたんだ。液体ヘリウムは取り扱いが難しくて、容器を倒したり逆さにするのは厳禁。素手で触ると凍傷になるし、蒸発すると体積が600倍以上に膨張して破裂しちゃうし、酸欠事故につながることもある。だから扱う人には安全講習が義務づけられているよ。

 ……キミたち、かわいいのに凶暴なのね。

 普通に使えば問題ないよ。ただ、ヒヤリハットという妖怪がいて、油断すると忍び寄って事故を起こそうとするから、ボクらはずっと注意を促してきたんだ。その甲斐もあって東大の事故件数は年々減っているよ。

 優秀だね! 今後の展望は何かある?

 昨今の国際情勢により貴重なヘリウムがより貴重になっているから現在95%の回収率をもっと上げたいんだ。学内の皆様のさらなるご協力をお願いします!

妖怪ヒヤリハット
←妖怪ヒヤリハットはシルクハットが目印
職員お手製のあみぐるみ→
ヘリウムくんとチッソちゃんのあみぐるみ
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第19回
工学系研究科修士修了横田莉子
工学系研究科修士1年山田拓実
理科二類2年毛防子璃奈

豪雪の長野県における雪の利活用

私たちは昨年度、長野県北信地域で「雪の利活用」に取り組みました。長野県北信地域は県の最北部に位置する6市町村の総称で、日本有数の豪雪地帯になっています。私たちにとって「雪」は銀世界を創り出してくれたり、スキーの時に見たり、というイメージがありますが、北信地域ではそのようなイメージの反面、雪が降るたびに除雪作業をしなければいけないなど、厄介者のイメージもあります。そこで、せっかく大量にある雪を何らかの形で活用できないかを考えることが私たちに課せられたミッションでした。

メンバー5人が集まったWebミーティングの画面
オンラインでの話し合いの様子

1年間の活動を経て、最終的には大きく二つの提案を行いました。一つ目は「除雪を楽しむ施策」で、これは北信地域において“雪=邪魔もの”というイメージを少しでもプラスに改善したい、という思いから生まれたアイデアです。除雪作業後にちょっとした交流の場を提供し、雪のイメージアップや除雪の精神的負担軽減に加え、地域コミュニティの創出をめざします。二つ目は「雪室の効果的なPR方法」です。北信地域には既に雪室という雪の貯蔵庫があり、名産のそばや農作物、日本酒等を貯蔵して販売したり、冷房として活用されていたりします。ただ、現時点では地元でもあまり知られていないため、私たち地域外の若者の視点を生かし、効果的なSNS活用法や、webサイトの構成案等を提案しました。

「スノーパル」と「雪まくら」の看板が掲げられた雪室の外観
雪室の外観

「雪の利活用」というテーマは自由度が高い一方で、雪という素材には意外と都会の「理想」と地域の「現実」のギャップがあります。加えて、昨年度は現地の状況を知る機会が限られており、本当に現地の方に受け入れてもらえる企画なのか?とかなり悩みました。しかし、様々な世代、専門分野のメンバー全員でオンラインながらも密に議論を重ね、現地の方々にも何度もインタビューにご協力いただき、なんとか1 年間で形にすることができたように思います。今後、北信地域で雪の利活用が進められていく際、私たちの成果が少しでも役に立つ場面があれば嬉しいです。

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第194回

本部国際交流課
特任専門職員
紫村次宏

多趣味も活きる国際学生交流業務

紫村次宏
オフィス横の広場でたまにミット打ちもやります

子供の頃から東大的な存在に反発し、横浜出身なのに敢えて関西の大学に進学。映画制作にハマり三留してから就いた仕事はFM放送ディレクター。バブルがはじけ給料が激減したのでJICAに転職。バングラデシュ2年、インドネシア2年、タイに3年専門家として赴任し、AUN/SEED-Netプロジェクトでカラオケ友達になった先生に誘われ東工大で9年国際連携コーディネーターとして従事。SGU祭りで各大学の公募に応募、東工大は落ちて東大に特任専門職員として拾われた2015年には、すっかり人が丸くなりました。

本部国際交流課では学生交流覚書や有料短期プログラムの広報・LMSを担当、最近は動画撮影・編集マンとして、学内から発注を受けることも。一番楽しかったのは東南アジアに引率した学生達が途上国ショックを受けるのをニヤニヤしながらケアする仕事でした。

プライベートで一番時間を割いているのが、昼休みに開講したウクレレ教室のメンバーと結成したバンド。他にも趣味は、全楽器、珈琲、タイ/インドネシア語、格闘技、タップダンス、予備自衛官、MENSA、ルービックキューブ等。どれでも引っかかるものがあればTeamsでお気軽に連絡ください!

「シム兄とマハロ楽団」のバンドのメンバーが演奏している様子
「シム兄とマハロ楽団」が毎年主催する対バンイベント(6月19日)より。演奏者とダンサーも常時募集中♪
得意ワザ:
明日できそうなことは今日やらない
自分の性格:
負けず嫌い。極力「できない」と言わない
次回執筆者のご指名:
川合ゆり華さん
次回執筆者との関係:
交流課の元学生スタッフ&バンド仲間
次回執筆者の紹介:
ひたすら爪を隠し続ける能ある鷹
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ぶらり構内ショップの旅第5回

お魚倶楽部はま@柏キャンパスの巻

珍しい魚を使った絶品お寿司

濱さんご夫婦の2ショット
濱さんご夫婦

柏キャンパスの大気海洋研究所一階にお店を構える「お魚倶楽部はま」。新鮮なネタを使った寿司を握るのは、この道60年の濱弘泰さんです。もともとは中野区にあった海洋研究所の近くで営業していましたが、海洋研が柏に移転する時に常連客だった教員たちから話を聞き、入札を経て、2010年に現在のお店をオープンしました。

人気の日替わりランチ丼は550円。お手頃価格で提供するために、何日も前からメニューを考え、全国の人脈を駆使して鮮度のよい魚を安く仕入れる努力を続けてきたそうです。例えば、足が一部欠けている毛ガニや、通常サイズより小さいのどぐろなど、市場には出回らず漁師が食べている魚は、見た目は違っても下ろせば同じだと濱さんは話します。他にも海鮮丼とにぎり5貫がセットになった「はまスペシャル」(890円)や、にぎり8貫に巻き寿司3個がついた「にぎり」(1000円)などがあります。そして、はまに行ったらぜひ試してもらいたいのが、日替わりの「地魚5貫にぎり」(870円)。マトウダイ、ハマフエフキ、オオカミウオ、ニュウドウカジカなどの、珍しい魚を食べられます。

「私が扱っているのは、普通の寿司屋じゃなかなか使わない魚なんですよ。原点はみんなに喜んでもらいたいということ。知らない魚をたくさん食べてもらいたい。美味しいんです」と濱さん。

主な仕入れ先は京都。濱さんが「最高の目利き」だと絶賛する卸売が、さまざまな珍しい魚を送ってくれるそうです。美味しい寿司を提供するために、全国の漁港などを訪れ、漁師さんと人脈を築くことも大切にしてきました。魚だけでなく日本酒にもこだわっているそうです。入手困難な十四代は一合780円という驚きの低価格で味わうことができます。他にも鍋島、菊姫にごり酒など、日本酒好きにはたまらない品揃えです。仕事後の一杯や味わったことがない魚と出会いに、はまに行ってみてはいかがでしょうか。

マグロやアナゴなどが乗った海鮮丼と、マグロやエビなど5貫の握り寿司
ランチ
11:30-14:00(LO 13:30)
ディナー
17:00-21:30 (LO 20:30)
海鮮丼に握り5貫がついて「はまスペシャル」
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インタープリターズ・バイブル第179回

情報学環 教授
科学技術インタープリター養成部門
佐倉 統

ツイッター! 万才

SNSといえば、まあ、あんまり評判はよくない。度を越した誹謗中傷が有名人を自殺に追い詰めた。デマやフェイクニュースの温床になっている。世間の意見の分断を煽る……。

これらいずれもまったくその通りなのだが、しかしその一方で、ツイッターが科学の進歩に貢献したという楽しいニュースもある。

アマチュア写真家がツイッターに投稿した一枚の写真を、ダニの分類の専門家・島野智之教授(法政大学)が目にした。そこに写っているのは、どうも今までに見たことない新種のようだ。で、実際に採集して調べた。やっぱり新種だった。命名・Ameronothrus twitter(チョウシハマベダニ、俗名ツイッターハマベダニ)。「発見者」にちなんでtwitterと学名に入っている。

そのニュースを聞いた鳥取大の大学院生・大生唯統おおばえゆいとさんが、ツイッターにダニの写真を投稿した。今話題のハマベダニってこれか、と。それを見たのがまたも島野教授。鳥取でハマベダニは珍しい。いや、こいつは、なんかちょっと違うんじゃない……?

そして調べてみたら、ビンゴ! 別の新しい種だった。きっかけがリツイートだったので学名はAmeronothrus retweet(イワドハマベダニ)。

この話題はもちろんツイッター上でバズった。「次の学名はiineかな」という声もある。ツイッターとハサミは使いようである。

だけど、最初にも書いたように、SNSはしばしばとても評判が悪い。諸悪の根源のように言う人さえいる。さて、ではどうすればツイッターを誰もが安心して使えて、最新の情報が入手できる、楽しいコミュニケーションツールにできるのかといえば、見通しは立たない。

ダニの写真を見ながら、このような使い方を真似していくしかないのだろうな、などと思うのだった。

岩場にイワドハマベダニが群れている写真が表示されているツイート画面 岩場でうつ伏せの格好で観察している大生唯統さんの写真が表示されているツイート画面
大生さんのTwitter投稿より
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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第33回

渉外部門
シニア・ディレクター
石岡吉泰

スポーツが大学をもっと元気に

大学スポーツと聞くと学生アスリート集団である運動部の活動、スポーツは体を動かすのが好きな人がすることってイメージが強く、運動にあまり興味のない人など、自分には関係ないって思われている方も少なくないのではないでしょうか。

確かにそういった側面もあるかもしれませんが、スポーツは決して一部の人のものではありません。日本におけるスポーツに関する施策の基本事項を定めた法律であるスポーツ基本法には「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利」で「全国民がスポーツに親しみ、スポーツを楽しみ、又はスポーツを支える活動に参画することのできる機会が確保されなければならない」と定められています。

コロナ渦で在宅勤務と出勤とのハイブリッド生活が続き、体重増加や心身の不調を感じてウォーキングやジョギングを始める方も多く、運動の大切さがより注目されるようになりました。心と体を最適な状態に維持するにはどうすればよいのか、学内の運動施設をスマート化し、利用者の様々な情報を自動的に取得・解析・フィードバックし、コンディショニングを管理するシステムを開発する研究プロジェクトがスポーツ先端科学連携研究機構を中心に始まっています。まずは、本学の運動部などのアスリートを対象として進め、全ての人に還元することを目指しています。

運動が得意な人もそうでない人も、障害のある人もない人も、世代を問わず、自分に合った方法で体を動かし、心身ともに健康になれる運動施設。 毎日のように練習に取り組んでいる運動部がお手本となることでみんなにとってより近い存在になる。多様な人たちが同じ場所(オンラインとリアルのハイブリッド空間かもしれません)で、スポーツを通じて交流し、ゆるやかなつながりが生まれる。

そんな大学スポーツの新しいカタチを東京大学が実現する日を夢見て、社会連携本部渉外部門スポーツチームは、学内外とスポーツをつなぎ続けます。

「UTokyo Sports for All」と書かれた文字と、車椅子に座っている人など老若男女が様々な人がスポーツをしているイラスト

東京大学基金事務局(本部渉外課)
kikin.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp