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第63回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

東京大学が目指す教養教育の質的転換とは?

/KOMEXシンポジウム2024「東京大学のEducational Transformation」

EX部門 岡田晃枝,中村長史
特任准教授 岡田晃枝 特任講師 中村長史

EX部門が企画したシンポジウム

――お題は教養教育の質的転換でした。

岡田 従来の3部門を統合して発足したEX部門の活動を発信するため、部門名を前面に出しました。3部門で担ってきた仕事を継続しつつ、1+1+1を3以上にするにはどうすべきかを考えようと思いました。以前は教養学部を中から支え、現在は外から見る立場の先生方を登壇者の候補に考えました。目指す教養を堅持しつつ新しいものを取り入れたらどうなるのかという問題設定です。石井先生は教養学部長時代もその後も大学の教養教育に関して重要な発言を続けていらっしゃいます。齋藤先生はKALSの立ち上げ時から運営委員を務め、板津先生はいま情報学環ですが駒場の英語部会でALESAを主導しました。アクティブラーニング(AL)などの新手法を意識しつつも教養学部が目指すものは何かを忘れない形が必要と考えました。

中村 これからを考えるためにこれまでを知る、温故知新です。パネルは概念の部分を話す第1部と実際に何をやっているかを話す第2部という構成にしました。

――第1部は中村先生が司会でしたね。

中村 石井先生は基調講演の際、何をいつどこで教えるかという話をし、Whyには触れませんでした。これを宿題と受け止め、そこを意識した展開を心しました。

岡田 何のためにやるのか、授業後に何が変わるのか、教育と社会はどうつながるのかという点まで話が転がりましたね。

中村 それがWhyの話にもつながりました。議論で出た「身体性」の話、「型」を学ぶという話は、問いへの答えだったと思います。議論を通じて感じたのは、皆さんの表現の上手さ。齋藤先生は生成AIを「剽窃の宝庫」と言い、若杉先生は好奇心が研究を動かす様を「宝探し」と表しました。イメージしやすい言葉を散りばめていて、教養があるとはこういうことだなと司会をしながら納得しました。

生成AIにはできないことがある

――岡田先生は第2部に登壇しました。

岡田 生成AIにできないこと、現場に身を置く意義を伝えたいと思いました。国際研修でカザフスタンに行った際、体調を崩した学生が、現地の人に助けてもらって通常とは違うルートで治療を受けることができました。現地で自分が困って初めて見える世界があります。現地の医療制度をChatGPTに聞けばすぐ教えてくれますが、当事者として身を置いて初めて、システムの悪い部分や自分が助かる方法まで切実に考えられます。困難な環境を経験したからこそ、生成AIが示す情報をより立体的に解釈し、自分から問い直すこともできるでしょう。

――さて、教養教育の質的転換とは?

中村 手段を目的化しないことが重要だと思います。AL部門時代、ALはあくまで手段だと言ってきましたが、生成AIも同じです。何のために教育するのかが大事だということは変わらないと思います。

岡田 転換しないものもあるというのが全体を通してのメッセージでした。授業がZoomになっても教養教育の目的は変わりません。教養学部が狙う教養ある市民エリート育成の意義を再確認しました。

――部門発足から1年。その手応えは?

岡田 KALSの運営、初年次ゼミナールの運営など、前部門から続く業務をこなすだけでも手一杯で、新しい試みは難しいと感じます。ただ、部門の教員が日常的に顔を合わせる仕組みが整い、互いの活動が見えてきました。まだ3.5程度ですが、1+1+1=10を目指して歩みを続けます。

❶スクリーンの下で名前の紙が貼り付けられたテーブルに座っているパネル1の7人の登壇者 ❷スクリーンの下で名前の紙が貼り付けられたテーブルに座っているパネル2の5人の登壇者
❸基調講演に登壇している石井氏 ❹基調講演に登壇している増田氏
シンポジウムのポスターのイメージ
↑シンポジウムのポスター。
EX部門のロゴマーク
↑EX部門のロゴ。
KOMEXシンポジウム2024プログラム(3月15日/18号館ホール&オンライン)
開会挨拶 太田邦史(ビデオ出演)
学部長挨拶 真船文隆
教養教育高度化機構の取り組み 原 和之
基調講演❸ 石井洋二郎(中部大学特任教授)
基調講演❹ 増田 建
パネル1:
これからの教養教育とEX❶
石井洋二郎、板津木綿子、齋藤希史、増田 建、真船文隆、若杉桂輔 +中村長史
パネル2:
EXと実践の接続❷
岡田晃枝、 鹿島勲、中澤明子、宮島 謙 +松本 悠
閉会挨拶 網野徹哉
総合司会 堀まゆみ

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

駒場アクティブラーニングスタジオ

文科1年生に向けた英語ライティングの必修科目

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ぶらり構内ショップの旅第24回

カッフェヴィゴーレ@本郷キャンパスの巻

毎月登場する「季節のパスタ」

駒場キャンパスにあるカフェチェーン店「カッフェヴィゴーレ」が、4月1日、本郷キャンパスにもオープンしました。

石川和久さん
店長の石川和久さん

中央食堂内にあるヴィゴーレでは、駒場と同様、イタリアの老舗ロースターブランド「illy」の豆を使用したドリップコーヒー(M¥380)やエスプレッソ(ソロ¥360)をはじめ、パスタやドリア、ケーキなどを提供しています。ランチに頼む人が多いのは、パスタメニュー。特に人気があるのが、毎月第二木曜日に登場する季節のパスタです。5月に新しくメニューに加わったのは「7種野菜のサラダパスタ」(¥930)。温かいペペロンチーノにたっぷりと野菜がのったヘルシーなパスタです。お店の一押しは、ほうれん草をたっぷり使った「ベーコンのほうれん草クリーム」(¥810)です。パスタに絡めたクリームソースにもほうれん草が使われていて、「他ではあまり食べられない味」だと話すのは東大駒場店から移動してきた店長の石川和久さん。他にも「博多明太子と小柱の和風」(¥870)や「茄子とベーコンのトマトソース」(¥840)など、7~8種類のパスタメニューがあり、麺はお好みで、乾麺と生パスタの2種類から選ぶことができます。

ティータイムには、illyのコーヒーと一緒にケーキをオーダーする人が多いとか。カウンターにあるショーケースにはチーズケーキやチョコレートケーキなど常時6~8種類のケーキが並んでいます。これから暑くなる季節におすすめなのが「珈琲ゼリー」(¥390)。さっぱりとした珈琲ゼリーの上にはイタリアンジェラートがのっています。「デザートも毎月新商品が出るので、楽しみにしてください」と石川さん。朝は8時から開店していて、お得なモーニングセットは12時までオーダーすることができます。

※価格は税込

白いお皿の上に乗っているパスタに、ベーコン、トマト、インゲン、レタスなどの具材が入っている様子
5月に新登場した、サラダ感覚で食べられる「7種野菜のサラダパスタ」。
営業時間:
平日8時-21時 土日祝11時-19時
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#We Change Now

第7回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

「#言葉の逆風」プロジェクトが始動

「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」と書かれたポスター画像

2024年5月1日、ジェンダー・エクイティ推進オフィスは#WeChangeの枠組みの中で新たなプロジェクトを始動しました。その名も、#WeChange「#言葉の逆風」プロジェクト。このプロジェクトは、女性の意欲を削ぎ、未来の可能性にまで影響を与える恐れのある言葉を「#言葉の逆風」と名づけ可視化することで、ジェンダーバイアスの是正に取り組むことを目的としています。

「女の子なんだから、地元の大学でいいでしょ」といった何気ない発言や、「男社会だけど大丈夫?」など、ときには思いやりに聞こえる言葉にもジェンダーバイアスは潜んでいます。こうした言葉は、幼少期から、進路選択、キャリアの選択など女性の人生のあらゆる局面に影響を与えかねません。このような言葉を、残念ながら学内構成員から言われたことがあるという声も届いています。

「なぜ東京大学には女性研究員が少ないのか?」と書かれたポスター画像

この現状や問題について学内構成員全員に考えていただくためにも、学内の女性が実際に受けた言葉を「#言葉の逆風」のポスターにも入れ込んでいます。また、半透明の「問いポスター」を1枚目とすることでフラッシュバックへの注意喚起を行なっております。学内でアンケートを行った際、「思い出すだけでトラウマになる」といった声があったため、このような対応を取ることにしました。当事者にとってはそれほどにつらい言葉であるということを心に留めて、めくっていただけたらと思います。

このプロジェクトが一人でも多くの構成員の方に届き、この問題について一緒に考えていただき、学内に「追い風」が吹くことを願っています。

(特任研究員 安東明珠花)

※男女共同参画室は、2024年4月1日より、多様性包摂共創センター(IncluDE)ジェンダー・エクイティ推進オフィスに生まれ変わり、活動しています。

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第216回

医学部・医学系研究科
財務・研究支援チーム外部資金担当
鈴木 耀

皆さんに感謝、根拠を大切に

鈴木 耀
係長ではありません、一般職員です。

令和4年4月1日、現部署に異動してきた初日に私は自席で青い顔をしていました。(当時は)正体不明の書類、引継資料に囲まれ、頭が爆発寸前。その後、チームの皆様のたくさんのお時間をいただきつつ、何とか今日までやってこられました。

私が所属する外部資金担当は、政府系外部資金の受入~執行(調達)~報告、所謂入り口から出口までを担当します。外部資金は執行における制約が多いため、根拠を大切にしながら仕事に邁進しております。近年、国立大学法人は経営を求められる時代ですので、外部資金を獲得することの重要性をより実感しているところです。

家の壁に立てかけた赤いテニスラケット
数年ぶりにラケットを買いました!

話は変わりますが、最近お昼休みに医学部のテニスコートで気分転換にテニスしています。定期的に身体を動かすようになってから、仕事の能率が上がったかも!? 奇しくもこの文章を執筆している令和6年4月1日、私は青い顔ではなく充実した顔をしているように思います。

得意ワザ:
絶対音感で生活音をドレミで認識出来る
自分の性格:
喉元過ぎれば熱さを忘れる
次回執筆者のご指名:
小林未佳さん
次回執筆者との関係:
現部署の元同僚
次回執筆者の紹介:
前向きかつ自身の世界感が素敵
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第31回
2023年度体験型活動ワーキンググループ座長
数理科学研究科教授
石毛和弘

2023年度活動報告会を振り返って

壇上のスクリーンの手前に並んだ報告会の参加者
報告会にて、自治体関係者や参加学生、教員と。

2024年3月15日、本郷キャンパスの鉄門記念講堂でフィールドスタディ型政策協働プログラム(FS)活動報告会が開催されました。この報告会では、藤井輝夫総長や津田敦理事の挨拶に続き、各グループが一年間のそれぞれの課題に対して行った活動や提案について発表しました。すべてのグループの発表が、2月のFS最終ワークショップでの活動報告と比べても、さらに磨きのかかった魅力的で説得力のあるものでした。美しい景色や美味しそうな食べ物、地域の関係者との和やかな写真など、現地活動の楽しさを伝えるスライドも多くありました。全ての発表が終わった後、体験型活動WGの座長であった私が講評を行い、江頭正人社会連携本部副本部長が受入関係者への謝辞を述べ、FS活動報告会は幕を閉じました。その後、コロナ禍後初のポスターセッションが開催され、より詳細な活動報告が行われました。FS活動報告会とポスターセッションは、学生たちの情熱にあふれ、終了時にはまだ話し足りないという雰囲気が漂っていたように思います。

FSで取り組む課題は、日本の地域行政が抱える問題の縮図とも言え、人口減少や過疎化等が多くの課題の背景に見え隠れします。それぞれの課題には個々の問題の特殊性が加わり、どれも解決困難な社会的課題ばかりです。FS参加学生には自由で柔軟な発想力と積極的な参加が求められます。一年間、参加学生は現地活動やFSワークショップを経つつ、グループ間で議論を続け、それぞれの課題に対する解決への道筋を提案します。私にとっては、学生たちが学業等の合間に時間を作ってまで地域行政が抱える課題解決に挑戦しようとする姿勢と真摯な取り組みの様子を見るにつけ、ただ感心するばかりの一年間でした。また、FS活動は東京大学はもちろん、地方自治体や地域住民から多大な支援を受けており、その支援に感謝の意を表します。

現在の日本は数々の課題に直面していますが、FSプログラムに参加する学生たちの姿や成長には、日本の未来への希望を感じます。今後も、多くの方々の支援を受けながら、FS活動が持続的に発展していくことを心から願っています。

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インタープリターズ・バイブル第201回

総合文化研究科客員教授
科学技術コミュニケーション部門
青野由利

コラムの「禁止事項」

長年、新聞社でコラムを書いてきた。今でも外部ライターとして、デジタルと紙の紙面に科学コラムを掲載している。

大昔、最初にコラムを書けと言われた時には途方に暮れた。どのように、何を書けばいいのか、見当がつかなかったからだ。

そこで他の人が書いたコラムや、エッセイ集などを手当たり次第に読んだ。それで書き方がすぐに会得できるわけはないが、「この書き手はうまい」「この人はヘタクソ」という区別はつくようになった(もちろん、普段はヘタクソな人が素晴らしいものを書くことはあるし、その逆もあり)。

その後、さまざまな形式・行数のコラムを書くようになった。時には朝刊一面下段のコラムを月1程度書いていたこともある。

コラムの性格によって書き方も変わる。だが、いずれの場合も念頭においておいた自分なりの「禁止事項」があった。

「身辺雑感を書くな」「社説を書くな」である。

商品である新聞で、個人的な身辺雑感を読まされたら読者は怒るだろう。そこには、なにか新しい発見や新しい視点がなくては価値がない。

コラムとともに社説も書くようになってからは、コラムに社説を書かないように気を付けた。社説とコラムの違いを一言で表現するのはむずかしいが、明らかに別物だ。そもそも社説は社論で、個人の主張ではない。まず主張があり、それに説得力を持たせるための肉付けがいる。

もちろん、コラムにも主張はあるし、それをサポートするデータも必要だが、書き方が違う。だが、うっかりすると社説じみたコラムを書いてしまうことがあり、心の中で「ごめんなさい」と読者に謝ることもあった。

さて、このエッセイもまた、コラムの一種だ。「禁止事項」を念頭において書かねばならないはずだが、果たして……。「これは商業誌じゃないし」なんていう言い訳を自分にしているところだ。

最新著書
『脳を開けても心はなかった
 正統派科学者が意識研究に
走るわけ』
(築地書館、2024年2月)
『脳を開けても心はなかった 正統派科学者が意識研究に走るわけ』の表紙

科学技術インタープリター養成プログラム

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第55回

社会連携本部渉外部門
シニア・ディレクター
白石郁江

「東大出身起業家」と東大をつなぐ

3月26日、「東大出身起業家の集い」を東大創業者の会と初共催しました。当日は大雨にもかかわらず、東大出身のスタートアップ創業者の方を中心に約100名の方にお集まりいただき、大変盛会となりました。

第1部のトークセッションは法文2号館で行われ、セッション1のマネックスグループ・松本大様と藤井輝夫総長(モデレータ:相原博昭理事)の対談では、松本様の東大への10億円の寄付の背景と取り組み、起業家が大学に寄付をすることの重要性などを踏まえたうえで、東大の起業家を増やす取り組み、起業の意義やリスクについてのお話がありました。セッション2ではユーグレナ・出雲充様、ミツモア・石川彩子様、まん福ホールディングス・加藤智治様(モデレータ:UT創業者の会ファンドGP伊藤豊様)により、IPOを目指すことの意義や、そのための心構えについての議論がありました。

第2部の懇親会は山上会館へ会場を移し、ホットリンク・内山幸樹様からの海外進出に関するスピーチと藤井総長の乾杯のご発声を皮切りに、会場のあちこちで盛んに情報交換やネットワーキングが行われました。懇親会で皆様とお話しして印象的だったのは、久しぶりに東大に足を踏み入れて当時の想いが蘇った、同窓の活躍は良い刺激になる、東大ともっと繋がりたい、とほころんだ彼らの顔。母校愛がないと言われがちな東大出身者の、心の奥に潜んだ愛を垣間見ることができました。

起業家の皆様が社会貢献を考えた時、東大を思い出して寄付先に選んでいただけるよう、適切な支援や情報の提供を通して、彼らとの関係を温め、強化していくことが重要だと感じました。

壇上のスクリーンの手前に座った笑顔を見せる3人の参加者
第1部セッション1でトークを広げる(左から)相原博昭理事、松本大様、藤井輝夫総長

東京大学基金事務局(本部渉外課)

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