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第66回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

ダイバーシティと言語

/D&I部門KOSS(駒場キャンパスSAFER SPACE)の取り組み

英語と「華語」に着目して活動

 KOSSの活動はジェンダー/セクシュアリティが中心ですが、D&Iのイシューではエスニシティや国籍の問題も切り離せません。そこで注目したのが言語で、私たちには二つの問題意識があります。一つは、蓄積されてきたフェミニズムやクィアといった学術的議論のほとんどが英語によるものだったこと。もう一つは、KOSSの活動が現実的に主に日本語話者が対象の前提となっていること。そこで、多様な学生に利用してもらうことを目指して多言語での活動を進め、切口として英語と「華語」に着目しました。

 「華語」とは、個別な国や民族、あるいは特定の集団を限定せず、差異がありながらも共通に使用できる中華系の言語を強調するために用いている表現です。

 KOSSでは2022年から英語と華語に対応した開室日も設けています。現在、約15人の院生スタッフが活動しています。その一部は多言語開室を担当しています。

 私は「華語主題茶話會」を担当しています。今年の4月に実施した回のテーマはSFの意の「科幻」。チラシには世界で大ヒットした小説の『三体』のアンテナをモチーフにデザインしました。過去には「第三人称」がテーマの回も開催しました。たとえば、男性に「他」、女性に「她」を用いる華語の三人称は欧米の文章を翻訳するために生じたもの。日本の「彼」「彼女」も同様です。三人称の代名詞についてジェンダー構造における権力のアンバランスの面から話しました。

 ちなみに繁体字では神を表す三人称の「祂」や動物を表す「牠」があります。

市川 私は学部生スタッフとして今年の新歓ティーパーティーの英語開室を担当しました。日本語はできますが、高校まで海外だったので国内事情に疎く、自分の居場所を探せませんでした。日本語ができない方ならなおさらなはず。大学でも通称名の使用法とか寮の性別の扱いとか言語の障壁があるとわからない点が多々あります。大学がD&Iを掲げるなら解決すべき部分だと思います。

非英語圏の地域の経験に学ぶ

 日本語圏・英語圏以外の運動や議論が見えづらく取り上げられる機会が少ないことに鑑みて、北京の同志運動、台湾の婚姻制度・性別変更をめぐるアクティヴィズムなど、英語圏以外の地域に注目したイベントも開催してきました。

 去年4月、台湾伴侶権益推動連盟の皆さんを招いてトークイベントを行いました。2019年にアジアで初めて同性婚を法制化した台湾で、その実現のために尽力した皆さんです。逐次通訳を自分たちで行いながら、婚姻平等法案起草から国際同性婚、性別変更登録訴訟に至るまでの実際の歩みを話していただきました。

 これらのKOSSの多言語でのイベントは留学生へのアウトリーチも兼ねていましたが、そこに見落としがあると分かりました。そのきっかけはKOSSが主催したポストイットアクションという活動です。会場に大きなボードを置き、自分のもやもやを付箋に書いて貼り、皆で話し合うもの。その書き込みで、日本人と留学生という分け方ではどちらにも当てはまらない人がいると気づきました。

 たとえば「留学生と日本人学生の交流会」というより「留学生と国内学生の交流会」のほうが望ましいわけです。

市川 私は名前を見ると日本人と思われがちですが、中華文化圏の影響を受けて育ちました。日本人と留学生、という二項対立だとこぼれる人がいるというのは、実感としてわかります。

 日本人がマジョリティの東大において、「日本人」という枠組みを当たり前の前提とすることを超えた、より包摂的な空間作りが、KOSSにとってもこれからの課題になると思います。言語以外の取り組みもこれから探っていきたいです。

❶院生アドバイザー魏 韻典,学部生スタッフ 市川友香,D&I部門特任研究員 于 寧,院生アドバイザー 張 洋宇
❶駒場102号館のKOSSにて。
❷「華語主題茶話會」と書かれたチラシ ❸「平等を求めて―婚姻制度、性別変更登録をめぐる台湾アクティヴィズム」と書かれたチラシ ❹「近代国家という呪縛:フェミニズムの分断と矛盾」と書かれたチラシ
❷「華語主題茶話會」のチラシ。❸台湾アクティヴィズムイベントのチラシ。❹中国のフェミニズムが専門の文可依さんが講師を務める6回連続のKOSSクィア理論入門公開講座「近代国家という呪縛:フェミニズムの分断と矛盾」。誰でも参加OK(事前申込制)。

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

性的マイノリティの権利獲得運動

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ぶらり構内ショップの旅第30回

カフェテリア@柏キャンパスの巻

金曜限定、世界各国の絶品カレー

21年前から柏キャンパスで営業を続けている「カフェテリア」。炒め物、揚げ物、煮物など5種類のアラカルト(単品¥510)が日替わりで登場する食堂です。味噌汁とライスをつければ、ボリュームがある定食に(¥710)。約100席ある店内は常にほぼ満席状態です。

関口二三男さん
店長の関口二三男さん

一見すると普通の食堂ですが、知る人ぞ知る特別なテイクアウトメニューが。それが、不定期で金曜日に登場する世界各国のカレーです。店長の関口二三男さんが国際協力機構に務めていた時に、各国の在日大使館の専属シェフから直々に教わり、大使のお墨付きをもらった本場の味です。メニューは4種類。インドのムルギ―カレー(スパイシーチキンカレー)とバターチキンカレー(マイルドチキンカレー)、タイのグリーンカレー(ココナッツ風味のチキンカレー)の定番3種と、毎回変わる珍しいカレーが1種。食べやすいように辛みは抑えていて、お子さんでも食べられると関口さん。毎回、数百の玉ねぎを飴色になるまでじっくり炒め、そこにトマトピューレーや香辛料、ココナッツミルクなど色々な材料を入れてひたすら煮込んでいます。やみつきになる人が多く、販売日には長い行列ができ13時すぎには完売してしまうそうです。

カレー弁当を始めたのは約2年前。コロナ禍下でキャンパスに来る人が激減するなか考えた策でした。北インドのエッグカレーやスーダン共和国のレンコン炒めなど珍しいカレーが登場することもあります。販売する週は、店内にお知らせが貼り出されますが、直接確認できない人は、その週の火曜日以降に電話で問い合わせしてみてください。(tel: 04-7134-5722)

黒いお皿に入ったカレー(グリーンカレー,ムルギ―カレー,アルカレー,バターチキン)とご飯
左下から時計回り:グリーンカレー(¥750)ムルギ―カレー(¥780)アルカレー(¥780)バターチキン(¥750)。弁当支払いは現金のみ。
営業時間
11時半-13時半。土日祝休み。
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#We Change Now

第10回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

日仏女性研究者のネットワーク形成イベント
「Women in Science」開催

「Women in Science, The University of Tokyo and CNRS event」と書かれたバナー画像

10月25日、ジェンダー・エクイティ推進オフィスでは、フランス国立科学研究センター(以下、「CNRS」と記す)Gender Equality Unitとの共催により、ジェンダーをテーマとしたシリーズの1回目のイベント「Women in Science」をオンラインにて開催しました(使用言語:英語)。イベントでは、女性研究者が直面しているさまざまな課題に光を当て、キャリア形成とワークライフバランスの両立等への認識を共有し、理解を深めました。CNRS、東大のジェンダー・エクイティ推進に関する取組を紹介し、それぞれに所属する若手からシニアの女性研究者が対話形式で話題提供をしました。日仏の女性研究者からは、キャリア形成とライフイベントについて、研究時間と家事・育児時間の確保の難しさにジレンマを感じている状況や、職場における女性研究者の少なさがもたらす影響、ジェンダー・バイアス等の経験が語られました。他方、ライフイベント等に関する職場の同僚の理解やロールモデルの存在、また、家族の協力等が研究を継続する後押しとなったこと、就職や昇任、研究資金獲得に関して先輩や仲間からの助言に勇気づけられ、研究へのモチベーションを維持できたことなど、率直かつ活発な意見交換が行われました。

参加者はCNRS、東大の研究者を中心に約150名でした。CNRSと本学研究者の対話を通して、日本とフランスの女性研究者の置かれた立場や課題に多くの共通点があることが明らかになりました。このような状況を打開していくための方策として、個人的な問題として捉えるのではなく、組織として共通の認識を持ち課題に対応していくこと、マジョリティ側に気づきを促していくこと等の意見が挙げられました。パネリストの貴重な経験が参加者に共有され、ディスカッションを通してお互いにエンパワーされるというポジティブな影響もみられました。本イベントは、日仏両国のジェンダー・エクイティの状況を理解し、お互いの経験を共有することの重要性をあらためて認識する貴重な機会になりました。

(副オフィス長 小川真理子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第222回

定量生命科学研究所
財務会計チーム 係長
長谷川滋大

生命科学の海で国際化の波に乗る

長谷川滋大
改修工事で建物も綺麗になりました

弥生キャンパスの一角に居を構える定量生命科学研究所では、その名の通り、定量性と再現性を最重要視した生命科学研究が展開されています。

そんな定量研でのワタシのオシゴトは、先生方の研究費の獲得・受入・管理・執行・報告に係る一連の手続きです。最前線で繰り広げられる生命科学の基礎研究に刺激を受けながら、今日もデスクに向かい、会議に参加し、書類を作り、ミスに気づいて泡を吹いています。

また10月29日付で、定量研が中心となり、スウェーデン・カロリンスカ研究所との間に設置したUTokyo-KI LINK Labが、東京大学の国際協創海外研究拠点の第一号に認定されました。私の仕事でも、海外の研究機関や民間企業とのやり取りが飛躍的に増加しており、国際共同研究の流れに乗り遅れないよう、勉強と実践の日々です。

バーテンダーの服装で氷が入ったカクテルを差し出す長谷川さん
たまにカクテルメイクもします

そんなワタシのプライベートは、飲んだり飲んだり作ったり飲んだり。勉強と称して肝臓修行に繰り出す日々です。

得意ワザ:
起きたい時刻を意識して寝ると大体成功する
自分の性格:
石橋を叩いている間に日が暮れて焦る
次回執筆者のご指名:
福代美樹さん
次回執筆者との関係:
先日久々に再会した同期入職仲間
次回執筆者の紹介:
:優しくバッサリしごでき姉さん
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第34回
農学部3年松原彩愛

美しい阿蘇の草原を後世に残すため

雲のかかった青空と草原が広がる様子
大観峰から見た草原

私たちは、「熊本の草原維持に向けて」というテーマで活動しています! 対象地の阿蘇地域には阿蘇カルデラがあり、日本最大の草原が広がっています。しかし、野焼きや放牧など人の手で維持されている草原は、ライフスタイルの変化や高齢化によって年々減少しており、消滅の危機に晒されています。そこで私たちは阿蘇地域の草原の維持の力になれるよう日々活動しています!

具体的な活動はオンラインでのミーティングと現地活動です。

ミーティングでは、自治体の方にいただいた資料やインターネットを使って阿蘇地域に関する調査を行い班員と共有したほか、調査を踏まえて大学生の立場から草原維持のためのアイデア出しをさせていただき、自治体の方に共有しました。

夏休みに行われた現地活動では、地元の方のお話を聞く機会や、阿蘇を視察する機会を自治体の方に設けていただき、阿蘇の草原への理解を深めることができました。具体的には、草刈講習への参加、熊本県・牧野組合・阿蘇グリーンストックの方々の講義への参加、世界文化遺産登録に関連する景観の視察、熊本地震の災害遺構の視察などを行いました。現地活動を通して、阿蘇の自然の美しさに感動すると同時に、改めて草原維持の難しさを実感しました。現状、ライフスタイルの変化により、草原の収益化が難しくなっており、草原の維持が大きな負担になっています。新たなライフスタイルに適応しながら伝統を守っていくところに阿蘇の草原維持の難しさがあると思います。

現地活動を終えて、今後の活動として草原維持のための募金箱の設置に取り組むことが決まりました。

杉林の手前にある草原に放たれている茶色の牛
草原に放牧された赤牛

今後活動していく上で、募金箱がその場しのぎの対策にならないように、募金をしてくれた方に阿蘇のサポーターになってもらえるような工夫を心がけていきたいです。あと半年弱ですが、美しい阿蘇の草原の維持に貢献できるような結果を出すために頑張っていきたいと思います!

※メンバーはほかに松尾莉彩子(文二2年)、西野清花(文学部4年)、中山泰地(経済学部4年)

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インタープリターズ・バイブル第207回

総合文化研究科 特任准教授
科学技術コミュニケーション部門
内田麻理香

二段構えの科学コミュニケーション

いま、NHK総合でアニメ番組「チ。 ―地球の運動について―」が放映中である。このアニメの原作は人気を博し、第26回手塚治虫文化賞のマンガ大賞をはじめ数々の賞を受賞した。この作品は、禁断の地動説の研究に命をかける人々の生き様を描く異世界フィクションあるいはSFである。舞台は、C教という宗教が支配している15世紀のヨーロッパ。C教のもとでは天動説が正しいとされているため、地動説を研究する者は異端として拷問され、火刑に処されてしまうという世界なのだ。しかし、歴史上では地動説がこのような苛烈な迫害を受けた記録はなく、頑迷な宗教と闘う科学という単純化した構図は、熱い展開が魅力の「チ。」のストーリー上、必要なしかけだろうが、史実とは異なるのだ。

大人気のエンターテインメント作品だが、学術的に正しくない内容が含まれる問題は、科学コミュニケーションとしてどう考えたら良いか。「チ。」に限らず、「ポケットモンスター」シリーズでの「しんか」は、現実世界での「進化」と異なり生物学的には誤りである、などその事例は枚挙に暇がない。エンタメ作品の力は大きく、多くの人に届くため、誤解が広まったら困ると頭を抱える研究者も多いだろう。「チ。」に関しても、科学史家の方々の苦言やぼやきをSNS上で少なからず目にした。しかし、日本科学史学会は、この悩ましい「チ。」という作品に2023年度の日本科学史学会の特別賞を授与した。学会としてこの作品を退けるのではなく、協働する道を選んだことはわかる。

科学コミュニケーションには、科学の興味・関心が内輪で止まってしまうという永遠の課題がある。科学への興味・関心が高くない人たちに科学の内容を届けようと、科学コミュニケーション側は四苦八苦しているのだが、これがなかなか難しいのだ。科学コミュニケーションの内側からエンタメ作品を作り、巷で大ヒットしたという事例はめったにない。これは、科学側からエンタメ作品を作ろうとしても、どうしても科学的な正しさを重視することになるため、エンタメとしての質の向上に限界が生じてしまうためであろうか。

そこで、科学コミュニケーション側は人気エンタメ作品と協働する路線をとることがある。国立科学博物館と「ポケモン」、「もやしもん」、日本科学未来館と「ドラえもん」といった具合に。エンタメ作品に「便乗」し、興味・関心の予備軍に向けて、学術への回路を開く。エンタメ作品に含まれる誤りを問題視して退けるのではなく協働するという、二段構えの科学コミュニケーションは、興味・関心が低い人にリーチできないという永遠の課題の解決法のひとつなのではないか。

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第61回

ディベロップメントオフィス
シニア・ディレクター
平野尚也

七大学×学士会で発信!
遺贈で創る未来

遺言によって財産を寄付して社会に貢献する「遺贈寄付」をご存知でしょうか。

近年、相続人がいない等の事情や社会貢献意識の高まり等により遺贈寄付は増加傾向にあり、本学へのお問い合わせや実際のご寄付も増えています。一方で、遺贈寄付についてまだ知らない、難しそうという方も多いのが実情です。そこで9月13日の「国際遺贈寄付の日」に合わせて、国立七大学と学士会が合同で遺贈寄付セミナー「「あなたの想いが未来をつくる」~大学への遺贈寄付~」を開催しました。

七大学が寄付に関して行事を共催するのは初の試みです。これには、学士会会員の方に関心を持っていただきたいという理由以外に、大きな目的がありました。それは、七大学が一丸となることで「人生の最期に自身の想いのこもった財産を未来のために託す行為である遺贈寄付は、将来を担う人材の育成や新しい知の開拓によって未来を創っている大学という場所との親和性がとても高いのではないか」というメッセージをより強く発信するという目的です。セミナーでは、一般社団法人日本承継寄付協会の代表理事であり司法書士でもある三浦美樹氏を講師にお迎えし、遺贈寄付の意義や手続きについて、分かりやすく解説していただいたほか、大学ごとの個別相談会も実施しました。

当日は七大学卒業生以外の方にもご参加いただき、また卒業生も母校だけでなく大学が力を合わせて日本の教育・研究を発展させていくことに期待を寄せて下さったのではないかと思います。今回初めて実現したこの貴重な枠組みをできれば今後も維持し、大学への遺贈寄付の促進を通じたより良い未来の実現のために努めてまいりたいと思っています。

尚、東京大学基金では遺贈寄付に関する専門的な知見を備えた担当者が複数名体制でご相談にお応えしております。また12月末まで寄付遺言書作成費用の助成を受けられるキャンペーンも実施していますので、ご所属の部局に遺贈寄付のご相談がございましたらぜひお気軽にご連絡ください。

「「あなたの思いが未来をつくる」~大学への遺贈寄付~」と表示されたスクリーン左の壇上に立つ講師
参加者からの質問に丁寧に回答する三浦講師(左)
遺贈寄付の詳細はこちら↓
遺贈寄付キャンペーン2024のQRコード

東京大学基金事務局(本部渉外課)