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「知」「人」「場」を提供するキャンパスライフの案内人 UTONE(UTokyo One)の現在地

学生の多様な学びを支え、大学生活をよりよいものにする新システムの開発が進んでいます。その名はUTONE(ユートーン)。教養学部PEAKでの試用と学生の要望を聞くワークショップを経て、次の段階に踏み出そうとしている開発チームの皆さんに、これまでの経緯と現状、展望について紹介してもらいました。在学生だけでなく高校生や卒業生も見据える期待のシステムとは?

コロナ禍の2020年に検討開始

真鍋 2020年に検討が始まった当初、Campus Management Systemの頭文字をとってUTokyo CMSと呼ばれていたのが、UTONEです。

松田 当時はコロナ禍の最中で、学務の手続きがオンラインだったり対面だったりでバラバラ。学生の手続きが一つの窓口ですむようにしたいという思いがありました。通常、学生は履修登録にUTASを使い、講義資料入手や宿題提出にUTOLを使っています。部活動やボランティア活動など、授業以外の課外活動も学生生活には重要ですが、在学中に何をやったかを学生が一覧できる手立てはありません。一方で大学側からすると、学生のデータを蓄積し分析できればカリキュラムに活かすことが期待できます。こういう傾向の学生は成績が落ちやすいからこの時期にサポートしよう、といった対応も考えられます。オープンキャンパスなどを通じて入学前に大学との接点がある人もいます。入学前の活動がわかれば、高校時代に理学部のイベントに参加した学生に物理関連の授業を紹介する、といった働きかけもできます。さらに、卒業後、履修した授業に関連する社会人講座の案内をすることもできます。入学前から卒業後まで、大学との関わりを深められるシステムを、という構想でした。

真鍋 当時、米国のトップ大学がCMSの導入を始めつつありました。特に、入学前の若者の目をどう大学に向けるかというマーケティングの文脈です。

学生の満足度を高めるために

松田 米国では授業料が高く、大学は商品と同様に厳しく選択されます。中退を防ぐために、学生生活をモニターして個々に応じたケアを提案することもされています。東大はそこまでシビアではないですが、学生の満足度を高めたいという思いは同じ。学生時代の満足度が高ければ、卒業後に寄付してくれるかもしれないし、就職した企業で東大と共同研究を始めてくれるかもしれません。

真鍋 学生満足度と大学経営力の向上を目的に、2022年度からPEAKで運用を始めました。UTASとUTOLのデータをUTONEで利用することができますが、UTONEで入力した情報をUTASとUTOLに同期する機能は未実装です。

松田 課外活動の情報は本人が入力する必要があります。入力の仕組みはすでにありますが、使われていないのが現状です。

ワークショップで学生の声を

真鍋 UTONEを使う学生にとってどういう機能があったらよいかを探るため、2024年の8月と9月に学生や教職員の皆さんとワークショップを3回行いました。東大はシステムがバラバラなので統合をという声が大きかったのは確かです。UTONEが目指す方向が間違いではないとわかりました。その後の検討を経て、24年度中に駒場、26年度中に全学に範囲を広げるという当初の予定を見直し、25年度末に全学展開することにしました。範囲を段階的に広げると複数のシステムを並行して使う期間が生じるので、機能を絞って全学展開できるシステムを作り、それを拡充していくことにしたのです。

まず実装したいのは、掲示板機能。たとえば留学に関心がある工学部生には、留学と工学部に関する情報が表示されます。希望に応じて内容を設定できる掲示板です。もう一つは学修ポートフォリオ機能。入学時等に記した大学生活の目標をどこまで達成したかがわかるものです。目標のためにどの講義が必要かを考えて選び、学期ごとに達成度を記録します。

全学の授業からくまなく検索

松田 所属学部の時間割に限らず、大学で身につけたい力に合った授業を全学から履修してほしいのです。現行のUTASのシラバス検索は、最初に学部を選んでから絞るので、ざっくりした興味しかない状態では使い勝手がよくありません。UTONEでは数千に及ぶ全学の講義から検索できる機能を実装していきます。

真鍋 アメリカでは学修ポートフォリオを携えて就活に臨む文化があります。日本もその方向に進むかもしれません。

松田 企業にエントリーシートを出す際には大学で何を学んだかを書きます。習慣的に活動を蓄積していけば、就活時に一から書き起こさなくてすむでしょう。

真鍋 ゆくゆくはポートフォリオを進学選択でも活用するという可能性もあり得ます。

松田 ワークショップでは、進学選択の情報入手の難しさが学生から多く指摘されました。学生は高校時代に模試で大学の合格可能性判定を見て決めるのに慣れていますが、進学選択ではそうはいかず、希望学科に進めるかどうかわからないのが不安なようです。たとえば、学生のポートフォリオを学部側が参照できれば、成績以外の要素も考慮できるでしょう。

真鍋 ワークショップでは研究室検索の充実を求める声も多くあがりました。ある分野を専門的に研究していて他分野には興味がない学生が、UTONEから別の分野をリコメンドされて、それが研究上のすばらしい出会いにつながるという可能性に期待しています。

松田 いままでも、単位が取りやすいと聞いて履修したら面白くてその分野に目覚めたという学生はいました。システムから推薦されて奏功する例もあるはず。

お節介でも手をかける

真鍋 単位の取りやすさを学生たちがまとめた表で授業を決める学生もいますが、それ以外にも授業の情報があれば参考にするでしょう。先輩とのつながりが持てるコミュニテイ機能や研究室検索の機能などは、ワークショップで要望を聞いてあらためて重要さを認識しました。思うに、積極的にお節介をするのがUTONEかもしれません。東大生に余計なお節介は不要だとの声もありますが、お節介が新しい世界の扉を開くきっかけになることもあります。

松田 コミュニティとして大学が運営するSNSを望む声もありましたが、既存のUTokyo Slackを有効に使ってもらうことを考えたほうがよさそうです。

真鍋 2027年秋開講予定のCollege of Design(CoD)の自由度が高いカリキュラムを支えるのもUTONEの重要な役目と考えています。

松田 CoDでは課題を解決するためのデザインを学ぶわけですが、その対象は多種多様です。関連する科目を選んで履修する際、目標をしっかりたてないとカリキュラムが組めませんから、シラバス検索と学修ポートフォリオの充実は必須です。UTONEがCoDを支える基盤とならないといけないでしょう。

真鍋 新しいUTONEが動き出すと教職員の業務にも当然影響します。学生と接する現場の教職員の皆さんにもご協力いただきながら有用なUTONEを作りあげていきます。引き続きよろしくお願いいたします。

UTONE 開発チームの皆さん

真鍋陸太郎 大学総合教育研究センター教授 教育DX推進部門長,松田恭幸 総合文化研究科教授,末次 泉 大学総合教育研究センター 教育DX推進部門,石戸谷由美 大学総合教育研究センター 教育DX推進部門,芳賀 瑛 大学総合教育研究センター 助教,毛利 忠 大学総合教育研究センター 教育DX推進部門

学務のUTASと学習管理のUTOL

「UTAS」と表示されたWebサイトのキャプチャー画面 「UTOL」と表示されたWebサイトのキャプチャー画面
学務システムのUTAS(UTokyo Academic affairs System)では、学生がシラバス閲覧・履修登録・成績確認などを行い、教員はシラバス登録・履修者名簿確認・成績登録などを行います。学習管理システムのUTOL(UTokyo LMS)では、教職員がお知らせや教材等を掲示できるほか、学生が課題を提出したりテストを受けたりすることができます。

UTONE(現行版)の画面

❶
❷ ❸ ❹
❶ログイン画面。❷ホーム画面。大学側からのお知らせが表示されます。❸シラバス検索の画面。過去の履修履歴やキーワードから調べることもできます。❹カレンダー画面。自分専用の予定表でスケジュールを確認できます。

UTONE構想ガイドブック

「「知」「人」「場」」や「UTONE」と書かれた本の表紙
2025年度末の全学展開に向け、共通理解構築を目的に作成されたガイドブック。「学びを案内する」では、学修ポートフォリオ、学びのAIコンシェルジュ、履修リコメンド、シラバス検索、単位チェックが、「つながりを案内する」では学生コミュニティ、ロールモデルマッチング、教員・研究室検索、卒業生ネットワークが、「学生生活を案内する」では事務提出書類アップロード、メンタルヘルスサポート、キャンパス貢献ポイントといった機能が検討されています。ガイドブックは大学総合教育研究センターのウェブサイトhttps://www.he.u-tokyo.ac.jp/ でご覧ください。問い合わせは utone@he.u-tokyo.ac.jp まで。
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令和6年能登半島地震から1年 白鳳丸緊急調査航海報告 能登の海底で何が起こったのか?

2024年元日に発生した能登半島地震を受け、全国の研究者が協力して行われてきた、調査船・白鳳丸による緊急調査。1月16日からの第一次航海を皮切りに第三次まで行われた調査の内容を紹介する報告会が12月21日に渋谷キューズにて行われました。調査でわかったこととまだわかっていないことについて研究者たちが語ったパネルディスカッションの模様をダイジェストで紹介します。

濵﨑恒二 大気海洋研究所教授
兵藤 晋 大気海洋研究所所長
尾鼻浩一郎 海洋研究開発機構
篠原雅尚 地震研究所教授
朴 進午 大気海洋研究所准教授
山口飛鳥 大気海洋研究所准教授
佐川拓也 金沢大学理工研究域准教授
鹿児島渉悟 富山大学学術研究部理学系助教
沖野郷子 大気海洋研究所教授
小平秀一 海洋研究開発機構理事
石川県能登地方を震源とする地震に関する本学の取り組みについて→
「石川県能登地方を震源とする地震に関する本学の取り組みについて」のWebページのQRコード

地震学にとって未経験の現象

沖野 報告では2020年頃から群発地震が続いていたとの話がありました。群発地震に伴う大地震の事例は多いのですか。

篠原 有名なのは長野県の松代群発地震です。24年前には三宅島付近で大きな群発活動があり、その期間に三宅島が噴火しました。伊豆半島東部では1980年頃から群発地震が数年ごとに起きていますが、2012年以降はありません。海外で有名なのはイタリアのラクイラ。2009年に約3ヶ月続いた後に大地震が発生した例があります。ただ、能登のように4年近くも続くのは珍しく、マグニチュードが7.6という大きなものは聞いたことがないです。100年ほどの歴史を持つ地震学にとって未経験の現象だといえます。

沖野 11月26日にはマグニチュード6.4の地震が能登半島の西側で起きました。関連はあるのでしょうか。

尾鼻 タイプとしては逆断層というものです。余震分布を見ると、1月の地震は北東-南西方向でしたが、11月のものは南北方向でした。1月の地震の滑り量から計算すると、羽咋沖西断層付近では地震発生を促進する方向に力がかかっています。1月の地震の影響で地震活動が活発化する場所で発生したとはいえるでしょう。

沖野 先ほどの報告で、群発地震の際に流体が深部から上がってきていたという話がありました。流体とはどんなものでしょう。

鹿児島 断層が水の通り道になると、地下深くにある元素が表層で観測されることがあります。この水には、海水の成分も、地下の泥に圧力がかかって出てきた成分も、さらに深いところからくる成分も含まれます。3月の航海で輪島沖の海底堆積物を調べると、海水でなく、泥由来でもなく、もっと深い場所から来たものが含まれました。能登の地下深部にたまった高圧の流体が断層に入って地震の引き金になったとの説があります。水の起源と地震の関係を調査中です。

沖野 本震後の経過や生態系への影響などを金沢大学でも調査していますね。

5ヶ月で海に生物が戻った?

佐川 金沢大学の環日本海環境研究センターは、能登町の九十九湾に臨海実験施設を持ち、小型船を使って海洋研究を進めています。元日の地震で被災しましたが、船は無事だったので、12日から調査を開始しました。22日に珠洲市の様子を船から撮った写真では、陸の土砂崩れが海に入り海水が濁っています。水深32m地点で2月に採取した堆積物の画像を見ると、最下層に生物活動で混ざった痕跡があり、その上に縞模様の層、さらに縞のない細かい泥の層があります。陸の土砂崩れの堆積物です。同地点で7月にも堆積物を採取すると、元あった縞模様が半分ほど崩れていました。底生生物が戻って泥をかき乱したと考えられます。

沖野 5ヶ月で生物が戻ったとは、早いですね。東日本大震災のときはもっとかかったと思います。会場にいる生物の研究者といえば……兵藤先生、一言どうぞ。

兵藤 はい。生態系の回復は人間が思う以上に早いのだと思います。東日本大震災の際は、非常に高い防潮壁という人工物が陸と海を隔て、生態系の回復に影響を与えたのかもしれません。

沖野 元日に起きた地震で、直後の調査は非常に大変だったと思います。どうして1月16日から調査ができたのでしょう。

地震直後に調査の準備を開始

篠原 海底地震観測のグループには、大地震が起こったらすぐ観測しようという意識が以前からあります。大地震直後に起こる余震は本震の性質を反映するので、すぐに観測することが重要なんです。1日16時10分に地震が発生した後、報道で事の甚大さが伝わり、17時30分頃から研究者間でやりとりを始めました。地震計が何台準備できるか、船が何隻出せるかといった照会を全国の研究機関に行い、5日には情報が揃って、14日に船に機材を積み込むことができました。

沖野 第三次調査は全国公募でしたね。

 海底の断層が動いて津波を起こしているので断層を調べないといけない、と関係者で話しました。AORIの持つシステムが断層調査に向いていたので、これを使おうということになりました。ただ船がないと調査はできません。AORIは共同利用・共同研究拠点ですから、共同研究でないと船が出せません。そこで緊急公募をかけたんです。調査計画を審査して、スケジュールを調整し、なんとか3月に調査を行うことができました。

沖野 山口さんが使った水中ドローンはAORIの機材ではなかったですね。

山口 レンタル品を2週間借りました。操作は自分が習いに行って覚えました。空のドローンの操作経験があり、スティック操作が同じだったのでできました。

沖野 現地近くにいた佐川さんは、揺れたとき群発地震の続きだと思いましたか。

佐川 2023年5月の大きい地震から余震が収まりつつありましたが、金沢大学の地震研究者が地震はまだ終わっていないという情報を出していたので、一連の地震なのかなという感じは持ちました。

沖野 能登の実験施設は人が常駐ですか。

実験施設の車が動けないまま

佐川 飼育する魚を毎日世話をする必要があり、毎日研究者が来ていました。現地で撮った写真には、魚の世話で元日16時5分に来た研究者の車が写っています。地震で崖が崩れて車が動けなくなり、いまもそのままです。車のドライブレコーダーには前面の岸壁が崩れる様子が記録されていました。人的被害は免れましたが、施設の被害は大きかったんです。

沖野 鹿児島さんは地震の日に白鳳丸に乗って沖縄トラフの調査中だったとか。

鹿児島 はい。船上でニュースを見て地震を知りましたが、最新情報が入手できず、どれくらい逼迫した状況なのかわかりませんでした。大学からは学生の安否を確認せよと通達があり、受け持ちの学生の安否はすぐに確認できました。情報が集まるにつれ、思ったよりひどい状況だとわかり、ほかの乗船者に申し訳ありませんでしたが、途中下船させてもらい、富山に戻って能登に入りました。

沖野 来場の皆様は興味があって来て聞いてくれていますが、興味のない人に情報を伝えるのは難しいですよね。篠原さんは地震学会の広報担当理事ですが。

篠原 地震学会も悩んでいます。やはりマスコミの伝達力は強いのでその力を借りるべきでしょう。学会ではSNSの活用も探っていますが、まだまだですね。

水辺にある白い建物を映したスライド
佐川先生が投影した実験施設のスライドには2台の車の姿も
段差がある海底を映したスライド
山口先生が水中ドローンで撮影した能登水深73m地点の海底段差
スライドの前に座った参加者とAORIのグッズ(左上)
会場の参加者にはAORI特製グッズのお土産が渡されました
ポスターが並んでいる様子
会場のポスター展示

プログラム@渋谷キューズスクランブルホール

11:30 ~開会挨拶(兵藤晋)
11:45 ~第一次・第二次緊急調査航海報告(尾鼻浩一郎、篠原雅尚)
12:15 ~第三次緊急調査航海報告(朴進午、山口飛鳥、佐川拓也)
12:45 ~ポスター展示見学、コーヒーブレイク
13:15 ~パネルディスカッション(尾鼻浩一郎、篠原雅尚、佐川拓也、朴進午、山口飛鳥、鹿児島渉悟 司会:沖野郷子)
14:00閉会挨拶(小平秀一)
総合司会:濵﨑恒二

主催:SHIBUYA QWS Innovation協議会/大気海洋研究所 共催:海洋研究開発機構

会場の参加者との質疑応答より

会場1 調査で一番大変だったことは何ですか。

山口 一番効率よく調べられる場所を決めることですね。普段は地元の皆さんに聞くプロセスを踏みますが、今回は時間が全然ありませんでした。

尾鼻 地震観測でもどこに装置を設置するかが肝でした。海底の谷に装置を置くと回収が困難になるので、適した場所を選ぶことに気を遣いました。

会場2 大きな装置を海底に置く際、海底の生態系への影響を考慮しているのでしょうか。

尾鼻 装置を浮上させて回収する際に海底に錘が残ります。金属の塊ですが、負荷を与えるのは事実。現実的な解は見つかっていないのが現状です。

会場3 今回の調査でお金はどれくらいかかっていますか。出どころはどこですか。こういう調査をしろなど、何か指図は受けているのですか。

沖野 ざっくりですが、白鳳丸を動かすだけでも一日200万円程度はかかってしまいます。

篠原 地震計については、消耗品だけで数百万円かかります。お金は文科省から受けていますが、指図は特になく、研究者が自分で考えて一番成果が出るように進めるよう促されています。

会場3 自由に使えるなんて羨ましいですね。

会場4 私は石川県出身です。能登に人が戻るには、次の地震がいつなのか知ることが必要です。この地震は2000年に1回だと言われれば戻れますが、100年に1回なら戻りにくい。予測の展望は?

篠原 たとえば南海トラフの予測ができるのは、過去の履歴がある程度わかるから。能登の場合は過去の履歴が残っておらず、現在の地震学の知見ではわからないというのが正直なところです。

山口 地質学的に見ると、今回の地震の特徴は、能登の北部沿岸で広範囲な隆起があったことです。地形変化の履歴から能登北部沿岸の段丘の一部のなりたちはわかりますが、段丘ができた年代の決定は進んでいません。たとえば佐川先生の堆積物の研究はそこにつながると期待しています。