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第67回

教養教育の現場から リベラル・アーツの風

東京大学が全学をあげて推進してきたリベラル・アーツ教育。その実践を担う現場では、いま、次々に新しい取組みが始まっています。この隔月連載のコラムでは、本学の構成員に知っておいてほしい教養教育の最前線の姿を、現場にいる推進者の皆さんへの取材でお届けします。

1年生が大学の科学の技法と出会う必修科目

/初年次ゼミナール理科

EX部門
特任准教授
宮島 謙
宮島 謙

――初年次ゼミナール理科は2015年度から続いている授業シリーズですね。

私は2023年4月から運営を担当しています。少人数でのグループワークを通じて大学の研究の世界を体験する、理系1年生の必修科目です。大学生活や卒業後の人生につながるきっかけを、第一線の研究者と密に接する環境で得てほしいという思いで設計されました。授業数は全部で100。理系分野をほぼ満遍なく網羅する科目を、学内各部局から選出された先生方に担当していただいています

7年ぶりに教科書を刷新

この授業では、2017年に刊行した『科学の技法』を教科書として使ってきました。あればより授業がわかるという推奨図書で、科学的な技法について解説した基礎編と、代表的な授業を紹介する実践編が主なコンテンツです。この本を7年ぶりに改訂し、2024年3月に第2版を出しました。実践編では14の授業を紹介していましたが、うち9編を差し替えることに決め、私と同僚で分担して授業を取材。1授業4ページで紹介しています

学生は開講曜日別にグループ分けされた授業のなかから履修希望を複数選んで登録します。第3週開始前に抽選結果が出ますが、第一希望が通らないこともあります。教科書に収録した授業のほかにも多様な授業があります。巻末の授業一覧では講義題目と担当教員名に加えて、各授業のタイプ表示を加えました。問題発見・解決型、論文読解・演習型、データ解析型、ものづくり型、フィールドワーク型、現象シミュレーション型、原理解明・伝達型の7つから、該当するタイプを担当の先生に選んでもらいました

――どんな授業を紹介していますか。

たとえば、「工学×デザイン――ワークショップで学ぶ理系のためのデザイン」(村上存・泉聡志)です。直径1.8ミリのパスタ30本をホットボンドで自由に接着して橋を作り、一番重い荷重に耐えられたものが勝ち、という「パスタブリッジコンテスト」が名物で、人気を集めています。構造力学の知的遊戯として、以前『タモリ倶楽部』でも紹介されました。「駒場キャンパスやその周辺のまちを歩きその空間について考える」(中島直人・廣井悠)は、構内の体育館裏などのスペースや駒場の街をどうやったらもっと活性化できるかを議論する授業です。自身も授業を受けたことがあるというTAのサポートが的確で面白かったです

新しい物質をデザインしてみる

――宮島先生の授業も載っていますね。

私は物理化学、特に原子や分子が集まるクラスターが専門で、水素などのガスを当てるとクラスターにどのように付いたり離れたりするかを真空中で計測してナノサイズの物質の性質を調べています。授業では、好きな元素の原子を好きな数だけ用いて3次元シミュレーションを行うソフトウェアを使い、分子の形を組み立ててもらっています。気になる元素の性質やその元素が入った物質を調べた上で、実在できるか否かは気にせず新物質をデザインしてみる。この元素がこんな形で入っていたらこういう機能があると予測しながら、物質の本質に迫る物理化学の世界を知ってもらおうというわけです

学生のアンケートを見ると、第一希望ではない授業だったがおもしろかった、という声が少なからずあります。他の授業だと進学選択の点数を気にしてピリピリする部分もあるでしょうが、この授業では点数評価がなく、判定は合否のみ。のびのびと学問に触れるなかで今後につながる何かと出会えるよう願っています

❶P24O36(三十六酸化二十四リン?)のイメージ図
❶宮島先生の授業「分子の形を知り、物質をデザインする」で学生グループが作成した新分子。十酸化四リン(P4O10)という化合物を拡張したら……というアイデアでした。
❷シリコンはウエハの状態、その他はカプセルのような容器に入った元素試料の数々 ❸「EXラボ」において窓際で展示する様子 ❹冊子「科学の技法」の表紙
❷比重の違いを体感するために授業で使ったタングステンやタンタルなどの元素試料。❸初年次ゼミナール理科の成果物を展示する21 KOMCEE Eastの通称「EXラボ」❹『科学の技法 第2版』(東京大学出版会、2023年)

教養教育高度化機構(内線:44247)KOMEX

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ぶらり構内ショップの旅第32回

カフェ・ フォレスタ@本郷キャンパスの巻

「カメリア」の味をカジュアルに

伊藤国際学術研究センター1階にあるフランス料理店「レストランカメリア」に併設されている「カフェ・フォレスタ」。カメリアのシェフが作る料理を、より気軽に楽しめる座数13席のカフェです。コロナ禍でしばらく休業していましたが、2023年7月に営業を再開しました。

バガレ・レクナートさん
マネージャーのバガレ・レクナートさん

ランチメニューは「デミグラスビーフのオムライス」(¥1400)、季節のパスタ(¥1300)、週替わりの「フォレスタプレート」(¥1400)の3品。全てにプチ・サラダと食後のコーヒーまたは紅茶が付きます。多くの人が注文するというのがオムライス。バターライスとトロトロの卵の上には、フォンドボーと赤ワインソースで煮込んだ牛すね肉のソースがかかっています。濃厚な味わいでファンも多いとか。現在の季節のパスタは「サーモンカルボナーラ いくら添え」(2月くらいに変更予定)。食物アレルギーにも対応しているので、注文時に相談してほしいと話すのはマネージャーのバガレ・レクナートさん。

お昼時はすぐに満席になりますが、開店直後の11時頃か13時以降だと比較的空いているとのこと。

13時以降は喫茶としての利用もできます。デザートは2種類。「ショコラテリーヌとイチゴ バニラアイス添え」(¥700)と「アイスクリーム2種盛り合わせ」(ピスタチオ、ほうじ茶、チェリー、バニラから2種選択。¥550)。ドリンクはコーヒーやカップチーノ、紅茶などの温かいもののほかに、生ビールやスパークリングワインなどのアルコールも提供しています。「時期は未定ですが、ベジタリアンやハラルに対応したメニューも提供したいと考えています。多くの人にお越しいただきたいです」

サーモンカルボナーラ いくら添え(上)とショコラテリーヌとイチゴ バニラアイス添え(下)
上:サーモンカルボナーラ いくら添え。
下:ショコラテリーヌとイチゴ バニラアイス添え。
営業時間
11時-17時(食事LO.14:30 ドリンクLO.16:30)日・祝休み
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#We Change Now

第11回
ジェンダー・エクイティ推進オフィス通信

女性幹部養成プログラムのネットワーキングイベントを開催

壇上のスクリーン前の長机に座る座談会の登壇者。うち1人がマイクを持って話している様子

多様性包摂共創センタージェンダー・エクイティ推進オフィスは、昨年度に引き続き、2024年12月9日、「#WeChange女性教員幹部養成プログラム ネットワーキングイベント」を開催しました。情報学環・福武ホール福武ラーニングシアターに、学内の様々な部局から、49名の女性教員が集まりました。イベントでは、開会挨拶として、田野井慶太朗オフィス長から、東京大学の女性教員数が伸びているものの、女性部局長が不在であるという現状についての説明があった後、林香里理事・副学長と、部局長経験者である物性研究所森初果教授、史料編纂所本郷恵子教授による座談会を行いました。座談会では、それぞれの先生方の部局長としてのご経験、女性が部局長として大学運営に関わることの困難ややりがいについてお話がありました(座談会の様子(動画)は後日公開予定です)。

座談会の後に、登壇者を交えて、ワールドカフェ形式で5人前後のグループでディスカッションを行いました。ディスカッションでは、東京大学を良くしていくためのアイディアを、紙や模造紙を用いて、可視化しながら話し合いました。途中メンバーを変えて3回話し合いを行い、様々な意見をグループ内で共有したのち、グループごとに、模造紙を示しながら、話し合われた内容を発表しました。そこでは、「ダイバーシティ委員会などは女性教員が担当することが多い。誰もが入る委員会にしていくといいのでは」「女子学生がなぜ増えないかといえば、居心地がよくないという問題がある」「ロールモデルを見せていく必要があるが、一度研究から離れてもまた戻れるなど、様々な人生があることをアピールできるといい」「日本語が母語ではない構成員向けの発信がもっと必要」など様々な提案が出ました。その後の懇親会でも議論は尽きず、充実したイベントになりました。

(ジェンダー・エクイティ推進オフィス 特任研究員 久保京子)

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ワタシのオシゴト RELAY COLUMN第224回

情報学環・学際情報学府
総務チーム主任
杉田七海

図書館団地に潜む魅惑の情報学環

杉田七海
防災訓練グッズと(学環長は防災専門家です)

私のオシゴトバである大学院情報学環・学際情報学府は、2000年に創設された比較的新しい大学院で、「情報学環(研究)」と「学際情報学府(教育)」という二つの組織から構成されています。場所は「図書館団地」と呼ばれる大きな建物の一画にあります。

私の所属する総務チームでは、総務や人事に関する幅広~い業務を遂行しています。私の主な担当業務は、教職員の採用~退職に関する手続きの他、手当支給やネットワーク関連、電子投票等々です。内容が多岐にわたる上、ちょこちょこと予期せぬ事件(例:蛇の出没相談)も起きるので、全く飽きません。程よい緊張感に震えながらも、充実感たっぷりです。優しく温かい教職員の皆様に囲まれて、ドキドキ楽しく働いているうちに、あっという間に4年が経ってしまいました。

プライベートでは、アウトドアが趣味の人間に憧れて、7歳の娘とキャンプに奮闘中です。(やはり、屋根と壁がある生活は有り難いですね…!)

焚火のそばに女の子が椅子に座って夜空を見上げている様子
焚火で炙るマシュマロはカリトロで最高です
得意ワザ:
蚊のつかみ取り(空中捕獲。夏に暗躍中…)
自分の性格:
のんびり屋の外見とは裏腹にせっかちな脳内
次回執筆者のご指名:
斎藤愛さん
次回執筆者との関係:
元同僚(隣チーム)で高校の後輩
次回執筆者の紹介:
オシャレなバイリンガールです♪
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専門知と地域をつなぐ架け橋に FSレポート!

第35回
総合文化研究科修士課程1年宮下祐真

高校生とオリーブの島の地図づくり

海岸にあるヒビが入った大きな卵のオブジェの前に並ぶメンバー
瀬戸内芸術祭、「はじまりの刻」

読者の皆さんは「小豆島」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか?オリーブの産地であることや「からかい上手の高木さん」の舞台になったことなどを思い浮かべるかもしれません。私たち5人は香川県小豆島の土庄とのしょう町でのFSの活動を通して、小豆島の多様な魅力を知ることができました。瀬戸内国際芸術祭で世界中からアート作品が集まること、SUPとロッククライミングなど海と山の両方のアクティビティを楽しめること、日本三大そうめんの1つである「島の光」やごま油メーカーの国内最大手の「かどや」の発祥地といった食の名産地であること、県内で有数の進学実績を誇り毎年全国高校駅伝に香川代表として出場する高校が存在することなど、この瀬戸内海の離島には数えきれないほどの魅力が詰まっています。一方で宿泊施設や公共交通などのインフラ不足や雇用や教育機会の不足による若者の島外流出などの社会問題にも直面しています。

私たちは以上のような小豆島・土庄町の実情を知る中で、移住先として土庄町を選んでくれる人を増やすために、「小豆島中央高校の高校生と行うアートを中心とした新たな小豆島の観光マップの作成」を活動テーマとして設定し、地図の作成に取り組んでいます。小豆島には毎年約500人が移住しています。最も大きな移住のきっかけになっているのは、瀬戸内国際芸術祭を中心とした観光です。しかし、島には芸術祭後もアート作品が多く設置され、芸術家の移住も進む一方で、アート作品が一覧できる地図がなく、島民のみが知る観光情報が観光客に知られず、観光のリピート率が低いという課題があります。そこでアートなどの観光情報を掲載した地図を新たに作成し、より多くの人に小豆島の魅力を知ってもらい、移住の促進に繋げたいと考えています。また作成にあたっては9月の現地活動で2日間にわたってワークショップに意欲的に参加してくれた高校生の力を借りようと考えています。

モニター前の机に座って話をするメンバーと高校生
高校生とのワークショップ

2025年に開催される瀬戸内国際芸術祭に向けて、高校生と共に島の魅力を詰め込んだ地図を作成し、来島客にオリーブだけではない小豆島の良さを知ってもらうために今後も活動に尽力していこうと思います。

※メンバーはほかに竹内彩乃(文一2年)、盛田忍之(文一2年 )、猪原皐良(理二2年) 、前田誠磨(理二1年)

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インタープリターズ・バイブル第209回

生産技術研究所/情報学環 准教授
科学技術コミュニケーション部門
川越至桜

ミステリーと科学技術

小学生の時にエラリー・クイーンの国名シリーズに出会い、ミステリー小説や探偵小説を読むのが好きになった。最近は積読(未読のまま積まれた状態)になりがちだが、気になる小説があるとつい購入してしまう。緻密なプロットを味わいながら意外な真相を突き止めるべく、様々なパーツを組み立てながら読み進めていくのはとても楽しい時間である。そういった意味で、リアル謎解きゲームや脱出ゲームも好きである。

こういった小説において、科学は重要な役割を果たしてきた。例えば、19世紀のシャーロック・ホームズシリーズでは当時の新しい科学技術が多く取り入れられ、20世紀半ばのアガサ・クリスティの作品では毒物の知識が頻繁に用いられた。21世紀に入ると、DNA解析やAI、サイバーセキュリティといった最先端の科学技術がトリックの鍵となることが増えている。このように、ミステリー小説における科学技術の活用は、科学技術の進歩を反映しているとも言える。

科学技術コミュニケーションにおいては、常に進化し続ける科学技術をどのように伝え、社会が科学技術をどのように捉えていくか、科学技術と社会とのつながりを考えていく必要がある。そういう意味では、最新の科学技術を取り入れた小説を通して、科学技術が日常生活にどう影響するのかを伝えることができるかもしれない。一方で、小説では現実の科学技術や社会とは異なる形で提示されることもある。従って、科学技術コミュニケーションの文脈では、科学的事実と物語の境界を理解し、正確性を保ちながらも、科学技術と社会との関係を親しみやすい形で伝えていくことが求められる。

科学技術は時代と共に変化し続けるため、それを題材にした小説や謎解きゲームのトリックもまた変化を続けるだろう。小説やゲームを楽しみながら、科学技術と社会との適切なつながりについても考えていきたいと思う。

ブックカバーがかけられた複数の本、紙袋、レターセットのようなもの
積読とリアル謎解きゲームのキット(一部)

科学技術インタープリター養成プログラム

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ききんの「き」 寄附でつくる東大の未来第63回

本部渉外課副課長藤田明子

目指すは寄付率10%超え!

東京大学も賛同パートナーとして参加している「12月は寄付月間~Giving December~」を受け、今年も教職員への「ひとり1,000円寄付キャンペーン」を展開しました。

しかし、全学会議やメールで「寄付に協力してください」と呼びかけたぐらいでは、おいそれとはいきません。ちなみに、昨年(2023年度)における教職員の寄付率は5%台でした(^_-)-☆。

今年(2024年度)こそは、せめて寄付率を二桁にしたい!という思いから、〈寄付〉をもっと身近に感じてもらうべく、本郷、駒場、柏の各キャンパスで「寄付キャンパスキャラバン」を12月に開催し、実際に目で見て直接説明を聞いて寄付を体験してもらえる機会を設けました。役員、幹部教職員を筆頭にピンクの法被を着ての活動が功を奏し、計100名以上の方に足を運んでいただけました(ピンク色は寄付のシンボルカラーです)。この活動を通じて2025年3月までに10%を超えられるよう、更に学内構成員の寄付文化醸成に力を入れていきたいと思います。

ところで、そもそも皆さんは「寄付」に対してどんなイメージを持っていますか?

かくいう私は、困っている人を助けるために裕福な人がお金をあげる行為だと思っていました。ところが実際に寄付をしてみると、寄付=困窮者への援助、だけではありませんでした。寄付後に寄付先から届いた活動報告を読むや否や、実際に活動しているのは自分ではないにもかかわらず、なにやら気持ちが盛り上がったのです。私は経験がありませんが、〈推し活〉をする楽しみとはこういうものなのでしょうか?

まだ寄付をしたことのない方、また、寄付を迷っている方、折しも2027年は東京大学創立150周年です。この機会に〈寄付活〉を始めて、東大を応援してみませんか?(寄付率10%超えにもご協力お願いします☆)また、すでに寄付をしている推し活ならぬ〈寄付活〉仲間の皆さま、これからも一緒に東京大学を応援してまいりましょう!

役員、幹部教職員を筆頭にピンクの法被を着ての活動の様子
寄付キャラバンの様子
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