第1196回
データを「守る」ことから始まる協働
ChatGPTなどの生成AIの登場によって、表や数値だけでなく、画像も音声も、そして論文のようなテキストまでもが「データ」として扱われる時代になった。画像を読み込ませれば簡単な指示で必要な加工をしてくれ、論文を全て読まなくても、AIに尋ねれば要点を抽出してくれる。便利な世界だが、その裏では、手順や中身を自ら吟味することなく「とりあえずデータを読ませる」ことが常態化してしまう危うさも孕んでいる。データは本来、個人情報や契約、研究倫理といった複雑な権利関係の上に成り立っている。適切に管理されなければ、守られるべき権利や信頼は容易に損なわれてしまう。
研究データ管理とは、研究で使い、生み出した情報をどう整理し、保管し、次世代へ渡していくかを考える営みである。研究不正への対応を契機に、研究データは論文発表後10年間保存することが原則とされた。さらに近年では、科学を中心とした知識をより社会に開いていくオープンサイエンス政策の潮流を受け、データの保存のみならず利活用を見据えた管理方針を定めることが国の政策にも明記された。研究者は、研究資金を獲得する際にデータ管理計画(DMP)の策定が求められるようになり、データ管理に取り組む機関はこの数年で着実に増えている。
データ管理体制の構築が進む一方で、データ利活用に関する課題も浮き彫りになりつつある。生成AIとの関わりで言えば、デジタル化されたコンテンツの言語格差の問題がある。デジタル化されたテキストの多くは英語で書かれており、デジタル化の遅れた言語では生成AIの力を十分に引き出せない。最近、私の研究グループでは東南アジア諸国の研究者が集まる国際会議で簡単なアンケート調査を実施し、研究機関によるデジタル化のモチベーションを尋ねた。タイやベトナム、台湾などではデータの「長期保存」に重きが置かれている実態が見えてきた。まずはデータを確実に「守る」という意識を共有したうえで、それをいかに未来へ生かすかという視点を重ね合わせることで、新たな協働の道が拓けるはずだ。急速に普及する生成AIへの対応を一つの契機として、日本とアジアの知が互いに行き交う基盤づくりを進めていきたい。
南山泰之
(社会科学研究所)

