【Campus Voice】高校生のための東京大学オープンキャンパス2021「看護学って理系?文系?―リケジョの力を活かす看護科学!―」イベントレポート

 

2021年7月10日(土)、オープンキャンパスに合わせ、女子中高生理系進路選択支援事業として「看護学って理系?文系?―リケジョの力を活かす看護科学!―」が開催されました。


2021.7.10
リポート/学生ライター
石渡麗依那(理学系研究科修士課程1年)
三年制の看護専門学校も数多くある中、東京大学でも看護学を学ぶことができるのをご存知ですか。東京大学で看護学を学ぶ意義・魅力はなんでしょうか。そんな疑問に答えてくれる本イベントでは、医学部健康総合科学科看護科学専修の先生方をお招きして看護学の魅力と行く先を伺いました。
新型コロナウイルスの感染拡大の状況を鑑み、今年度もオンラインでの開催となりました。
 
イベント内容:
・健康総合科学科 看護科学専修の紹介 (山本 則子 先生)
・認知症VRワークショップ (五十嵐 歩 先生)
 「認知症があっても暮らしやすいまちづくり」
・看護技術ワークショップ (武村 雪絵 先生)
 「自分より大きな人を動かす技とは?」

看護科学はどのような学問?

看護というと、病院における医師の助手をイメージする方がいらっしゃるかもしれませんが、実際はそれだけではありません。

看護科学とは、人が本来もつ力を引き出し、どのような状況であっても「健康で幸せな生活」を実現できるように支援する学問です。多様化した今日の社会において、「健康」も一元的には語れなくなってきています。患者さんにとっての最適な形をともに模索し、「well-being (よく生きる)」を追求していくことを看護科学は目指しています。さまざまな視点でヒトや集団健康問題を捉えるために薬理や栄養、疾病治療を始めとする理系知識に加え、心理学やコミュニケーション、文化、社会学などの文系知識も、包括的に身につける必要があります。また、病気ではない人に対しても、健康増進・維持のため健康習慣や予防行動の実践を目指します。

なぜ東大で看護を?

一般的に多くの大学の看護学科は看護師の育成を目的としていますが、東大では看護師資格の取得に留まらず、研究や行政など様々な場面で活躍する人材の育成を目指しています。看護科学専修を含む健康総合科学科の卒業生の約半数は、より専門的な知識の獲得を目指して大学院へ進学しています。また、就職した卒業生も医療施設で看護師として働くだけでなく、公務員やIT企業、製薬企業など多方面で活躍しています。
(詳細の進学情報についてはこちらからご確認ください。)

看護師が研究や開発の仕事に携わるイメージを持っていなかった方もいるかもしれません。また、医療系の研究を目指す方は、医学系研究科の他の専攻や薬学系研究科の方を身近な選択肢として想像していたかもしれませんが、看護学には他の学科にはない圧倒的な強みがあるのです。それは「看護師はほとんどの間患者さんの唯一の観察者である」ということ。医師や薬剤師が患者さんと接する何倍もの時間を患者さんと過ごしている看護師は、医療現場でのニーズを最もよく把握しているとも言えます。

生活面では、学生と教員間の距離が近いことが看護科学専修の最大の特徴です。学生数が少ないため、学科全体がアットホームな雰囲気で、学生と教員間のコミュニケーションも密に行われているようです。また、学部入学者のうち8割が男性である東京大学において、健康総合科学科はそのうち約半数を女性が占める比較的珍しい学科でもあります。

世界に発信する看護研究施設
「グローバルナーシングリサーチセンター」

東京大学は、看護学としては日本初の研究者育成施設を有しています。多角的な知識を学ぶだけでなく、それを実践・応用することを目指しています。センターでは看護学と、ロボティクスやイメージングなど他分野との融合領域における研究も盛んに行われています。
  • 認知機能障害を持つ高齢者のためのコミュニケーションロボット。一緒に体操したり、会話したりすることで、適度な刺激を与え、孤独感を緩和する効果が期待されます。

  • 寝たきりの患者さんの褥瘡(床ずれ)発生を抑制するエアマットレス。マットレスに埋め込まれたセンサーが体圧をモニタリングし、エアマットレスの内圧を自動制御します。

グローバルナーシングリサーチセンターでは他にも多くの研究が行われています。興味のある方はこちらもご覧ください。

患者さんを取り巻く環境も含めたサポート

認知症は、脳の傷害や老化により認知機能が低下し、日常生活に支障をきたしてしまう病態です。そのため患者さんの生活のサポートが重要となってきます。「認知症があっても暮らしやすいまちづくり」をテーマとした五十嵐先生による認知症VRワークショップでは、二つのVR映像を観て、認知症の患者さんへの適切な対応について考えていただきました。

最初の動画では、主人公の認知症の患者さんは、同じものを繰り返し購入してしまったり、外出先で急に道がわからなくなったりすることを、家族や友人に咎められてしまいます。周囲の厳しい対応に不安や戸惑いを覚える患者さんの様子を体験できたと思います。この動画を視聴した中高生からは、「本人が悪いわけではないのに患者さんが可哀想」、「周囲の人はもう少し思いやりをもって対応できたのではないか」との感想が多く寄せられました。周囲の方の何気ない言葉や行動が、たとえ悪意はなかったとしても、患者さんの心を深く傷つけてしまうことがあります。そして患者さんと周囲の方のすれ違いが、両者にとって負担となりかねません。

次の動画では、同じ場面で周囲の方が優しい対応を心掛けた場合を観ていただきました。自身の行動に不安を抱えた患者さんの気持ちを思いやる対応は、安心感を与え、信頼関係の構築にもつながります。VR動画をご覧になった中高生の皆さんも、認知症の対策には、患者さん本人だけでなく、家族をはじめ周囲の環境や地域が一丸となったサポートが必要であることを改めて実感されたのではないでしょうか。
  • 地域包括ケアシステム

看護科学専修では、地域と一体となった包括ケアシステムの構築を支援し、高齢者や障害をもった方も安心して暮らせる社会の実現にも貢献しています。病院に留まらず、地域全体の仕組みを作っていけるのも、東大ならではかもしれません。

人の力を活かす看護学

米国の大規模調査で、看護師配置数が多いほど、また、大卒看護師の割合が多いほど、術後患者の死亡率が低いことが示されました。専門的知識を持つ看護師は患者の些細な兆候を捉えることができ、未然にあるいは早期に対処できます。また、重症な患者に対して、寝返りなど日常の行動を援助することは、肺炎や褥瘡などの合併症を予防し、身体の回復を促す働きがあります。体を動かすことも大切な看護技術なのです。小柄な看護師さんが、自分よりもずっと体格の大きな方を動かしているのをご覧になったことはありますか。実はそこには様々なテクニックが隠れているのです。武村先生による看護技術ワークショップでは、椅子に座っている人の立ち上がりの援助を重心の位置と基底面に着目しながら、実際に参加者に体験していただきました。
  • 座位の支持基底面、重心、圧中心点

  • 相手の筋力が弱い時

看護で必要になるのは強い力ではなく、人体の仕組みに関する知識とそれを巧く活用する技術なのです。

進学を目指す方へ

医学部健康総合科学科は東大入学時の全科類から進学が可能です。理科類だけでなく、文科類からの進学者も多いです。また、一般入試(前期日程)とは別に、推薦入試も実施しています。
詳細はこちらのページからもご確認ください。

東京大学は女子学生の進学を応援しています。奨学金や学生寮から進路選択支援まで、幅広いサポートシステムを用意しております。進学に際して不安や疑問のある方はぜひご活用ください。(未来の形:女子のちから


最後に

個人的な意見ですが、4年間で国家資格の取得を目指しつつ、研究も体験できる環境は貴重だと感じます。特に医療系の研究者を目指す方にとってはよい選択肢ではないでしょうか。勉強しなければいけないことが多い分大変と思われるかもしれませんが、充実した大学生活となるに違いありません。もちろん、看護師を目指す方にとっても、学生時代に研究活動も経験することは決して無駄にはならないでしょう。