【Campus Voice】「東京大学教育学部講演・座談・ツアー」イベントレポート


「東京大学は女子学生の比率が低いけど、実際のキャンパスライフはどんなものなんだろう?」
「漠然と東大での研究には興味があるけど、具体的にはどんなことをするんだろう?」
「『教育』には興味があるけど、教育を勉強するとどんな進路に進めるんだろう?」
中高生の皆さんの中には、このような疑問を持たれている方も多いのではないでしょうか?

2022年11月27日に開催された「東京大学教育学部 講演・座談・ツアー」では、女子中高生の参加者に向けて、教育学部の先輩たちからキャンパスライフや研究生活、入試などについてご紹介がありました。本記事では、当日のイベントの様子をお伝えします!

2022.11.27
リポート/学生ライター
鈴木 詩織(公共政策大学院 修士課程2年)
 

1. ご挨拶(小玉 重夫研究科長・学部長)

まず、小玉研究科長・学部長から、教育学部における多様性に関して、ご挨拶がありました。
教育学部には教員を目指す学生が多いイメージがありますが、企業、公務員、大学院への進学など、実は多様な進路があるのが特徴です。入学方法に関しても、一般入試に限らず、学校推薦型選抜(旧推薦入試)も実施し、多様化を進めています。毎年5~6人が学校推薦型選抜で入学しています。

東京大学では現在、男女ともに平等に学べる総合大学を目指すべく、全学を挙げて様々な取り組みを実施しています。なかでも教育学部は、例年女性学生比率が40%を越しており、2023年度の教育学部進学予定人数は男性より女性が多くなるなど、学内でも高い女性学生比率を誇っています。

当イベントは「女子中高生のため」と銘打たれてはいますが、本学では「女性学生比率の拡大」という目標を掲げる中で、LGBTQIA+を含む多様な学生の受け入れを大切にしている旨も述べられました。
 

KYOSS(教育学部セーファースペース)」の紹介もありました。KYOSSは教育学部の多様な学生・院生・教職員がお互いのことを理解し合うための空間として利用されています。KYOSSの隣には、東京大学初の試みとして、オールジェンダートイレも設置されました。*KYOSS SNSアカウントはこちら

2. 講演(教育学部 教授 額賀 美紗子先生)

続いて、教育学部の額賀先生から、東大での学びから学生たちはどのようなことが得られるのか、先生ご自身の経験を交えてお話いただきました。

「教育」という現象を社会学の観点から研究する

額賀先生は「教育」という現象を社会学の観点から捉え、特に文化と教育の関係について国際比較をする、教育社会学などの分野を専門としています。

例えば、先生の研究テーマの一つとして、「国際移動する子どもたち」があります。文化・言語の壁、差別の中で、教育や社会が移民の子どもたちをどう受容できるか、多様性を社会の活力としてどう活かせるかを、日米比較を中心に研究しています。またご自身の出産をきっかけに、「子育てとジェンダー」を二つ目の研究テーマとし、日本の家事・子育ての負担が女性に偏っていることの理由を、国際比較に基づき検討しています。

なぜこの研究テーマに至った?

幼少期、サウジアラビアのアメリカンスクールに通い、インターナショナルなカリキュラムを経験した額賀先生。帰国後、日本の小学校で「皆が同じことをしなければいけない」という価値観に触れ、強いカルチャーショックを経験しました。

その後、東京大学の前期課程で学ぶ中、「人種」「ジェンダー」という概念に出会い、人種やジェンダーによる課題に長年対応してきたアメリカ社会に強い関心を持ちました。後期課程では、教養学部アメリカ地域文化研究学科に進学し、1年間カリフォルニア大学バークレー校に留学。幼い頃の経験やそれまでの勉強、気づきを活かし、「多様な生徒が包摂される公正な教育」を追求すべく、教育学研究科への進学を決めました。博士課程在学中には再びカリフォルニア大学ロサンゼルス校に留学して博士号を取得。現在、東大に着任して6年目になります。

「新しい知の創造者になる」ということ

額賀先生は「どうしてこうなっているんだろう?」という問いに導かれて、人生の道筋を作ってきました。「問いを立てる」ことは、大学の学びの中で最も重要なことです。これは、「問いに対して模範解答を導く」という大学入学までの勉強との最大の違いです。
 

*机が全て同じ方向を向いた日本の教室に対して、アメリカの教室では机を自由に組み合わせて生徒同士のディスカッションを促進したり、机を離して個別指導を行うことがあります。日本では一斉に同じ指導をする、アメリカでは議論や個別学習を重視するという両国の教育方針の違いが分かります。


「問いを立てること」の具体例として、日本の見慣れた小学校の教室が、アメリカの教室と比較すると「あたりまえ」ではない、というお話がありました。国際比較をすることにより、日本の教育の「あたりまえ」が「あたりまえ」ではないことに気づき、「より良い教育とは何か?」を考えることができるのです。

東京大学では、「新しい知の創造者になる」ことが学生に強く求められており、教育学部の授業も、学生自身が問いを立てて調査・分析し、報告するという機会を数多く取り入れています。

問いの生まれる源泉

では、問いはどこから生まれるのでしょうか?

額賀先生は、たくさん読書をすることや、色々な場所に出かけて多様な人と出会うことが重要だといいます。このような経験・知識によって、自分の「あたりまえ」を相対化することができ、それが新しい知の創造や異なる他者との共生につながるのです。また、多様性は海外など遠くだけでなく、身近なところにもあります。自分から積極的に問いを見つけようとする姿勢も大事です。


質疑応答では、東大に女性の学生が少ない理由について質問が寄せられました。額賀先生は、特に理系学部の女性比率について、高校生の頃から女子が理系に進みづらい構造があることを指摘しました。具体的には、家族の期待や、男性の多い学部に進学することへの心理的障壁、高校の進路指導での文系進路への誘導などがあります。女子の能力を低く見つもる社会の圧力に屈せず、自信をもって自分の進みたい道をつき進んでほしいと思います。

東京大学は女性の学生が増えることで、大学全体の活力が増すと考えており、ダイバーシティ&インクルージョン宣言を掲げ、今後も様々な課題解決に取り組んでいきます。

3. 卒業生、在学生による講演

続いて、教育学部の卒業生1名、在学生2名による講演がありました。

卒業生:江良 水晶さん(教育学部教育実践・政策学コース 2019年度卒業)

江良さんは、県立岐阜高校を卒業後、東京大学文科三類に入学しました。教育学部教育実践・政策学コースへの進学後は、社会教育に関する授業に特に力を入れ、最終的には図書館情報学を専門としました。在学中に司書資格も取得し、現在は、株式会社図書館流通センターに勤務しています。

大学進学から就職

江良さんが東大を目指したのは、「ドラゴン桜」や東大生のノートに関する本を読んだのがきっかけだったといいます。本に描かれる東大受験生や東大生の考えが、それまでの自分の考えとあまり変わらなかったため、自分も東大を目指せるのではないかと思えたそうです。東大進学後は、部活動(運動会硬式庭球部)に打ち込みました。部活動の仲間が、テニス、勉強、アルバイトに加え、積極的に新しいことへ挑戦する姿に影響を受け、江良さんも挑戦を続けたと言います。
 

大学で勉強したことを活かせる仕事

大学卒業後は、「図書館総合支援企業」である現在の勤務先に就職しました。公共図書館の受託運営や図書館への本の卸しなども含め、図書館に関することならなんでも行う企業です。江良さんは「新しく図書館を建てる」ことに焦点を置いた部署に所属し、自治体が図書館を建てる際のさまざまな計画策定に関わっています。大学院への進学とも悩んだものの、現場の知識を得てから進学したい、学んだことを活かせる企業に行きたい、という二点を踏まえて就職を選んだといいます。

参加者に向けて、「大学進学はそれまでの人生で最も大きな決断なので、周囲の意見も参考にしつつ、単純な憧れを含めて、自分で納得できる理由をもって決めてほしい」と激励がありました。

在学生:西谷 香音さん(教育学部教育実践・政策学コース3年)

続いて登壇した西谷さんは、富山県立高岡高校卒業後、一年浪人したのち文科三類に入学しました。現在は、教育学部教育実践・政策コースで学んでいます。

受験について

西谷さんは一般入試で東京大学に入学しました。浪人中に教育学部への進学に関心が湧き、文科三類の受験を決めました。受験勉強中は、平日4時間、休日10時間勉強していました。予備校への往復2時間の移動時間も勉強に充て、効率的に勉強時間を確保していたと言います。受験勉強では、「受験当日を起点に考えて、いつまでに何ができるようになっていなければいけないか」を逆算して計画を立て、効率重視で勉強することを大切にしていました。

学生生活はどんな感じ?

西谷さんは1、2年生の間、駒場キャンパスから近い「三鷹寮」に住んでいました。家賃の安さはもちろん、管理人が常駐しているので困ったことがあってもすぐ相談できることから、家族も安心してくれたそうです。また、寮のある三鷹・吉祥寺エリアはお店が充実しているのも良かったと言います。本郷キャンパスに進学した後は、キャンパスから1時間ほどのところで一人暮らしをしています。
 

1~2年生の間、西谷さんは教育系のイベントサークルに複数所属し、高校生へのサマースクールを企画するなど、精力的に活動しました。学生同士で行う自主ゼミに参加したり、個別指導塾の塾講師、ライブスタッフ、接客業など、様々なアルバイトに挑戦したことも良い経験だったそうです。

教育学部については、文理両方から進学でき、多様なバックグラウンドの人が在籍すること、真面目だけど柔らかい雰囲気の人が多いことが魅力だと言います。西谷さんはこれからの進路として民間企業への就職を検討中です。在学中に学芸員の資格を取ろうと考えているため、現在は資格取得に必要な授業も受講中です。

参加者には、教育学部内のそれぞれのコースの内容や雰囲気についても、こういったイベントへの参加や先輩との交流でぜひ理解を深めてほしいとのことでした。
 

在学生:宮島 凜さん(教育学部基礎教育学コース3年)

富士見高等学校を卒業し、推薦入試で入学された宮島さんは、推薦入試の経験を紹介しました。

教育学部学校推薦型選抜について

宮島さんは中学・高校と生徒会に所属し、高校2年生で生徒会長に就任してからは、生徒全員が主体的に行える学校づくりを推進すべく、学校の改革に取り組みました。この活動が宮島さんにとって、教育に興味を持つきっかけになったそうです。生徒会では、生徒の主体性の育成、生徒会活動の有効活用を目標に活動をしました。例えば、「アイディアペーパー」として目安箱を公開にし、スーパーの「お客さまの声」のように返事を書いて掲示を行うという活動をしました。
 

当初、進学先として東大は考えていませんでしたが、高校の先生から東大の学校推薦型選抜を勧められ、挑戦を決めました。自分の受験によって「誰かの背中を後押ししたい」と思ったことが決め手でした。高校3年生の5月に受験を決め、6月までは生徒会活動を頑張り、夏から11月の書類提出まで準備を行いました。その後センター試験の勉強と2次試験の勉強をし、最終の結果は2月なかばに受け取りました。

教育学部の学校推薦型選抜では「卓越した探究能力をしめす」ことが求められます。宮島さんは自身の生徒会活動についてレポートを作成し、提出しました。これによって、自分がなぜ教育学を勉強したいのか、具体的に何に興味があるかといった問いに、自分なりの答えを出すことができたといいます。

学生生活はどんな感じ?

授業も忙しい宮島さんですが、高校での学習支援などを行うインターンにも取り組んでいます。課外活動では、教育学部の大塚先生による「相馬プロジェクト」に参加し、福島県相馬市の中学校で学習支援を行っています。さらに、コロナ禍で難しかった海外留学が2022年にふたたび可能になったことから、短期留学プログラムでニュージーランドに渡航しました。

短期留学プログラムでの経験を踏まえ、北欧の教育制度や生徒会活動への関心をさらに深めるべく、現在は北欧への長期の交換留学に出願中です。卒業後の進路は未定ですが、教育プログラムの開発実践を通じて、学校教育の現場に関わり続けたいと考えています。


参加者からは、学校推薦型選抜の受験で不安だったことについて質問がありました。宮島さんは学校推薦型選抜の5期生で、まだ情報が少なかったため悩みました。また、周りに同様の入試を受ける人がいなかったことや、一般入試の準備が万全ではなかったことについても不安はあったそうです。そんな中でも、宮島さんは推薦入試で合格された方にアドバイスをもらいながら準備を進めていきました。

また、学校推薦型選抜で提出するレポートや論文の分量についても質問がありました。こちらについては、今年度の募集要項をご覧ください!
 

4. 座談会、Q&A

講演の後は、対面での参加者はグループに分かれ、オンライン参加者はブレイクアウトルームを使用する形で、参加者の質問に対して学生が答える座談会が実施されました。ここでは質問をいくつか紹介するので、ぜひ参考にしてください!

教育学部のコース分けについて教えてください!

教育の思想を中心に学ぶ基礎教育学コース、教育の実践や政策に着目した進路を志望する学生の多い教育実践政策学コース、教育格差やジェンダーと教育などのテーマを扱える比較教育社会学コース、さらに教育心理学コース、身体教育学コースの5つがあります。教育学部に興味がある方は、この中でどのコースに特に関心があるかを調べ考えてみることで、夢ややりたいことが広がるかもしれません!

学校推薦型選抜の対策とセンター試験をどのように両立しましたか?

学校推薦型選抜の面接が12月なかば、センター試験が1月なかばだったため、その1ヶ月はセンター試験の過去問を解くことにあてました。面接後に過去問をすぐ始められるよう、面接までに基礎的な学習を終えていると良いかもしれません!

学校推薦型選抜には学校の先生の協力が必要ですか?

学校の先生に推薦書を書いてもらう必要があるので、その点での協力は必要です。ですが、それ以外の部分、例えば志望理由書についてアドバイスを求める相手などは、必ずしも学校の先生である必要はありません。周りの大人、こういったイベントで出会う先輩たちを頼ることや、自分自身で考え抜くことも一つの手です。いろいろな方法を探りながら、ぜひ前向きに受験を検討していただけると嬉しいです!

5. キャンパスツアー

最後に、教育学部棟と図書館を案内するキャンパスツアーを行いました。対面参加の方はもちろん、オンライン参加者も、カメラを通じて教育学部棟のツアーに参加することができました。実際に紹介のあったKYOSSなどの教室を見ることで、より具体的に東大でのキャンパスライフのイメージが持てたのではないでしょうか?

最後に

いかがでしたか?
卒業後は教員になるというイメージが強い教育学部ですが、実際にはいろいろな進路があること、さまざまな興味を追求できる土壌があることが分かりましたね!また、女性学生比率の高さだけでなく、多様な学生に配慮された設備が整っていることや、入学方法も多様化していることが印象的でした。

読んでくださった皆さんが、東京大学や、教育学部での学びにさらに関心を持ってくださればうれしいです。いつか皆さんと、東京大学のキャンパスで出会えることを楽しみにしています!