【Campus Voice】「女子高校生のための大学説明会―リアル東大生や未来の東大生と交流しよう!― with 藤井総長」イベントレポート

去る2023年10月15日、男女共同参画室では「女子高校生のための東京大学説明会-リアル東大生や未来の東大生と交流しよう!―with藤井総長」を開催しました。 

この説明会は東大に関心のある女子中高生を対象に、2006年から毎年催されているものです。大学生活や在学中の支援制度の理解浸透、および現役の女性東大生や東大に関心を持つ女子中高生間の交流を図ることで、東大への進学に対する関心を高めることを目的としています。新型コロナ感染症の影響で2020年からはオンラインでの開催となりましたが、遠方からも参加しやすい、という声が多かったため、本年度も継続してオンライン開催となりました。 

今回は、全国各地から、当日参加・後日の動画視聴あわせて200名を超える申し込みがありました。中には海外から視聴する女子中高生もおり、関心の高さがうかがえます。 

深い学びと一生ものの仲間とのつながりを得られる場所


 
説明会は、林香里 理事・副学長による挨拶からスタートしました。 

「東大というと、男性が立身出世する場という印象がありませんか? しかしそれは、昭和のイメージです。今の世の中は、女性たちが得意な分野で男性と対等に活躍する時代です。それは今年のノーベル賞受賞者を見れば明らかでしょう。そして東大は、藤井総長をはじめ、女性のみなさんにぜひ門を叩いてほしいと考えています。活気のあるキャンパスをつくるには、今日集まってくださったみなさんのような方々の発想力やクリエイティビティ、エネルギーを発揮していただくことが必要なのです」 



「さまざまな学問研究が行われ、世界中の研究者が集うこの東大で、科学や思想を通じて社会を変える、好きなことに没頭するなど、自分らしく生きてください。そして一生もののネットワークを築くことができるのも、東大の強みです。東大は女性に配慮した環境を整えることにも力を入れています。東大を利用するような気持ちで、皆さんが将来やりたいことを実現していただければと思います」


続いて、薬学部教授で男女共同参画室 進学促進部会長の後藤由季子先生が、東大の学びや、学生生活の特徴を解説。ジェンダーによらず活躍できる大学づくりの姿勢や、女性学生に向けた独自の経済的支援、キャンパスライフ支援、就職・キャリア形成支援等を中心に説明されました。

「経済的支援として、多様な奨学金制度を設けています。特に東大OGによる支援団体『さつき会』の奨学金制度は、東大受験前の11月に申請し、受験時には採否がわかる仕組みが特徴です。住まいは学生寮のほか、2年間の家賃補助制度も完備。全国の東大OGやさつき会のネットワークによる就職・キャリア支援も充実しています。
東大では深い学びの実現と同時に、世界レベルで活躍する研究者や好奇心旺盛で優秀な友人らとの出会いなど、かけがえのない学生生活が待っています。」


次は、現役女性東大生による話題提供です。東大に進学を決めたきっかけや、入学後の学び、活動など三者三様の学生生活が紹介されました。加えて、本会の司会を務める植阪友理先生(教育学研究科准教授、進学促進部会員)とのミニトークの中で、発表者それぞれの大学進学時の迷いや入学後の様子もより具体的に伝わりました。


■佐藤海咲さん 理科一類 2年(工学部 機械工学科内定)
愛知県出身で中高一貫の女子高を卒業した佐藤さんは、当時から物理の勉強が大好き。特に電磁気に興味を持ち、ものが動く仕組みを学びたいと東大をめざします。

「高1のときに訪れたオープンキャンパスで、充実した学習環境と学生の多様さに圧倒されました。特に驚いたのは、工学部の学科の多さ! 2年次に学部や学科を決める進学選択の仕組みも魅力に感じました」



入学後は必修科目と並行して、気になっていた心理学の講義も受講。意外だったのは、高校では大好きだった電磁気に対し、あまり興味を持てなかったことだといいます。

「いざ学問となると、ずっとやりたいことなのかと疑問が湧いてきました。一方で高校では無縁だった、設計やプログラミングに対する関心が強くなりました。その流れで、進学選択では機械工学科を選びました」

プライベートでは、女子ラクロス部のマネージャーに。女子高生活から一転、男性学生に囲まれた理科一類で過ごす中で、部活は落ち着ける場所だそう。

「以前、部活で複数の企業と一緒にイベントを開催したのですが、そのときに企業の方から“東大・女性学生・運動部”なんて珍しい。貴重だよと言ってもらえて、社会的なバリューの側面に気づきました」


■上笹のぞみさん 総合文化研究科 広域科学専攻 修士2年
後期教養学部を卒業し、大学院でネズミを使って自閉スペクトラム症について研究を行う上笹さん。ずっと理系だったのかと思いきや、東大進学の決め手はロシア語だったというから驚きです。

「高2のときに『カラマーゾフの兄弟』を読んで、ロシア語を本格的に学びたいと考えました。入学後はトライリンガルプログラムに参加。文法が中心の第二外国語の授業とはまた違い、文章を読んだり、ネイティブの先生と話したりと刺激的でした。ロシアに短期留学する同期もいましたね」

今につながる転機は、教養科目で受講した「認知脳科学」の講義。みるみるうちに脳科学に魅了され、進学選択ではロシア語を専攻するか、認知行動科学にするか、とても悩んだそうです。

「昔から研究者になるのが夢。自分が論文を書く姿を想像したとき、文献研究よりも実験に基づき考察するほうがしっくりきたんです。理系への転換には不安が募ったけど、実際に進学すると自分のコースは文系出身者も意外と多くて、取りこし苦労だった気がします」



4年になると研究中心の生活に。学びに対する主体性が、いっそう問われると自覚します。

「特に修士課程では、研究テーマにしても、実験計画を立てるにしても、自分から動き出さないと何も始まらないんです。でもすごくやりがいを感じています。給付奨学金や支援金を受けることで、生活費の心配なく研究に打ち込めるのもありがたいですね」

修士課程修了後は、大阪大学の博士課程へ進学予定の上笹さん。研究者としての道を着実に歩み始めています。


■金澤伶さん 後期教養学部 国際関係論コース 3年
高校時代は昆虫食資源の生産拡大や新エネルギー、紛争の原因となる鉱物と、科学を交えた国際社会研究にも熱を注いだ金澤さん。東大に進学した同じ高校の卒業生に憧れ、学校推薦型選抜で東大に入学します。

一般選抜と違って出願時に進みたい学部を申告し、入学後も早期に専門を学ぶこともできるこの制度は、“大学で学びたいこと”が明確な人にとっては理想的な仕組みです。

「大学では国際政治や国際法を学び、国際協力に携わりたかったので迷いはなかったですね。ただコロナ禍でしたし、塾や予備校に通わず自学で準備していたので、とても不安でした。学校推薦型選抜で入学した先輩がいたことで、モチベーションを保てた気がします」

入学後はアクティブに活動する金澤さん。授業では自主的に学び向上心の高い仲間と議論を交わす一方、空き時間にはアフリカの教育支援を行うNGOで働いたり、難民包摂の団体でインターンに参加したりしています。さらに複数のコミュニティやプロジェクトに参画し、自らイベントを立ち上げたり、展示会を催したり、難民問題解決のためのアクションアイデアコンペティションを企画したりと、まさに規格外の活躍ぶりです。



「東大なら『やりたい』と思ったことは大抵のことなら実現できる。忙しいけれど、すべて両立できているし、知的好奇心が満たされてとにかく楽しい! のひと言。特に学校推薦型選抜は、進学選択に影響されることなく、入学直後からチャレンジを謳歌できるし、個性的で行動的な仲間とつながれるよさがあります」

世界の誰もが来たくなる大学に

後半に入ると、藤井輝夫総長が登場。東大が女子高校生の入学を歓迎する背景や、女性はもちろん、誰もが活動しやすい環境づくりに力を入れる意図を説明しました。

「東京大学では2021年にUTokyo Compass「多様性の海へ:対話が創造する未来(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」 という基本方針を定めました。ここに込められたメッセージは、学内外に集う多様な人々と対話を重ねることで、世の中の課題や学問上の問いに対し新しい知を生み出していくことが大学の使命だという考えです。

東大では現状、学生の女性比率は約20%にとどまっています。しかし一歩大学の外に出れば、世の中の男性と女性の数はほぼ同じ。さらに言えば、ジェンダー自体が本来はもっと多様なものです。そして国籍、人種、信教、また障害や特性を問わず、いろんな人たちが安心してのびのび活躍できる大学、世界の誰もが来たくなる大学になるために、様々な取り組みを進めているところです」



「東大の学生の男女比が偏っている理由の1つに、東大を受験する女性が男性に比べて圧倒的に少ないことが挙げられます。選考の過程で差がつくというわけではないのです。すなわち女性のみなさんに、私たちの大学が魅力的に映っていないのではないか、女性の目線からもっと大学をよくしていける要素があるのではないかと考えています。

ジェンダー平等の観点でいうと、日本は世界に大きく後れをとっています。東大が社会をリードする人材を輩出する役割を担うという意味でも、みなさんのような進路に対して真摯に向き合う女子高校生のみなさんに多く受験していただいて、自分のやりたいことに打ち込む生活を東大で過ごしてほしいと願っています」


ここからは少人数のグループに分かれ、グループ交流を行いました。参加者を迎えるのは、およそ40名の東大生たち。さらに希望者が藤井総長に直接質問できる企画も用意され、東大のありのままを知る時間となりました。

ここではグループでのやりとりの一部をご紹介します。


高校生ア:海外の大学も含めて、進学先を検討しています。あえて東大を選ぶとしたら、利点はどこにあると思いますか?

藤井総長:ひとつは母国語を使って、自分の関心について深く考えられることではないでしょうか。海外の大学だと、英語のほか日本語ではない言葉で思考を深めたり、考えを述べたりする必要があります。その違いは大きいといえるでしょう。

ただ東大は、海外に広く開かれた大学でもあります。交換留学制度や学習プログラムだけでなく、共同研究なども含め、各国の大学や学術機関とのネットワークが備わっています。また、2023年には、学内にグローバル教育センター(GlobE) がオープンしました。センターでは「グローバル教養科目」として、交換留学生らとさまざまな社会課題について議論する授業を開講しています。このような英語“を”学ぶのではなく、英語“で”幅広く学んだり考えたりする機会やプログラムによって、日本にいながら国際的な感覚を培うことができます。これも、他の大学にはない東大の魅力といえます。



高校生イ:総長から見て、どういう人が東大と相性がいいと感じますか。

藤井総長:まず、大学での学びは、高校までのものとは性質が大きく変わってきます。「ここまで学んでください」と定められてはいないし、誰かから与えられるものでもありません。自分で関心を見つけ、深めていくというのが基本です。

このアプローチには正解がありません。一つのことをとことん探究するというのもいいですし、幅広く色々なことを吸収するのが得意な人もいるでしょう。ですから「こういう人が東大に向いている」というのではなく、誰もが自分に合ったやり方で取り組めばいいのだと思います。ただし、学びに対する主体的な姿勢や知りたいことに対する強い関心がなければ、大学での学びを充実させるのは難しいかもしれませんね。


高校生ウ:女子高に通っています。仮に理系に進んだとして、入学後にうまく友達をつくれるか心配です。

東大生A:私も女子高から理科一類に進学し、同じような不安を感じていました。でも大丈夫です。入学時は第二外国語の専攻別に、40人程度のクラスに振り分けられます。私のときは入学式前に合宿が行われ、新入生や先輩方と一緒に1泊2日で熱海に行きました。このときに親睦が深まって、安心して入学式に臨めましたね。またクラスには女性学生が5人ほどいて、授業後にそのまま一緒に学食でご飯を食べるなど仲よく過ごしています。女性が少ないからといって、居心地が悪いと感じたことはないですね。男性の友達もできて楽しいですよ。



グループ交流の時間はあっという間に過ぎ、説明会も終盤に。藤井総長に改めて東大の魅力を尋ねたところ、次のように語っておられたのが印象的でした。

「東大の魅力をあえてひとつ取り上げるなら、文系から理系まで本当に幅広く、世界最高のレベルまで関心を突き詰められることだと思います。どんな分野でも、世界のどんなところでも、青天井にアクセスできる。先生方に教わる、プログラムに参加する、調査をする、実験をする――知りたいことを何かしらの形でどこまでも追究することができる大学は、世界中を探してもそうそうないでしょう。

そうした環境で過ごすうえで大事なのは、興味に対して努力を惜しまないことではないでしょうか。スポーツでも音楽でも、何かの勉強でも、イベントを興すのでもいいでしょう。ワクワクすることに、とことんのめり込む。探究に対する自分なりのスタイルをつくり上げる時期が、まさに高校から大学にかけてなのだと思います」


藤井総長や現役東大生との交流を通じて、参加した女子中高生たちは、自身の疑問や不安が和らいだ様子でした。さらに、東大に興味を持つ同年代の女性が全国に多くいると知り、心強く感じられたというメッセージを残す参加者も。最後に大学主催の説明会等の案内を伝え、閉会となりました。